湖に佇むパツキン少女と激オコのパツキン少女。その1
季節は晩秋を迎え、そろそろ初雪が降るかなー?と朝晩が冷えて来た11月のある日。
成人を迎え社交界デビューが近いセリス(セリスは4月2日で15歳の誕生日)
魔法世界の暦は誤差は少しありますが地球とほぼ同じ暦です。
正確に言うと1日が24時間12分で1年が374日でございます。
デビュータントが半年を切った普通の令嬢はドレスの準備やら何やらと忙しいものなのですがセリスはデビュータントどころでは無い様子。
「イノセント様・・・私に高額報酬のお仕事下さい」プルプルプルプル
お手製の家計簿を見ながら小鹿の様に震えている貧乏令嬢。
どうやらこのままでは年越しが出来無さそうだ。
「・・・・・・・・また肉屋ツケがやばいのか?」
「ベン精肉店と言わずに全体的にやばいです」プルプルプルプル
「他の貴族を見習ってもう銀行から生活費を借りたら?」
「言えば多分、幾らでも借してくれるけど借り倒れの怖さを知ってるから嫌です。
と言うかこの世界の借金返済の仕組みってほとんど「リボ払い方式」だから嫌なのよね・・・」
リボ払い・・・確かにヤツは便利だが扱いを間違えるとやばいね。
月上限3万円の範囲くらいでチマチマと小物を買う分にはポイントを多く貰えてお得で便利なんだけど3万円を超えると一気にヤバくなるよね。
前に娘と共謀して5万円のドローンをリボ買いをしたら「普通にローン組まんかい!」と、奥様にバチクソに怒られた事があります。
セリスは日本人だった時に漁師だったので高額借金(漁船購入で1億円程度の借金はザラ)は身近な存在で幾人もの破産者を見て来たのだ。
ちなみにセリスも一度、3年連続の不漁続きのせいで銀行と弁護士に促され個人で所有していた土地などを債務整理をして破産(計画破産)した事が有る。
分かり易く言うと借金と資産の一本化だね。
その時に破産した事実の不快感が有るので今世でも金にはめちゃくちゃ煩いのだ。
「りぼばらいって何だ?
まあ、セリスも来年から事業を起こせるから今は耐えるしかねえな」
来年成人したら晴れて自分で事業を起こせるのだ。
既に幾つか事業の目星も立てて開業の準備を進めている。
「ん?そう言えばお前、ワイトキングの時の報酬はどうした?」
あの時は一応セリスにも3000万円(相当)の報酬が出ている。
「公爵家はお金が掛かります。ワイトキングの報酬は主に従業員のお給料の不足分の補充として一瞬で綺麗さっぱり消えて無くなりました」
「何?お前が使用人の給料払ってんの?!」
「はい。親に任せると不払いを発生させそうで怖いので8歳の頃から私が管理してます」
父と母の事が大好きなセリスだが、こと金に関しては昔ながらの貴族的な金銭感覚な両親を一切信用していない。
「そ・・・そうか、大変だな・・・」
「不払いは人類の敵です」
「そこまで?・・・さすがは噂の革命児。そこまで言うかぁ~」
「革命と言うかさ?今までが酷すぎたのよ?何なのあれ?」
明確な支払い日が決まっていないとか割と大雑把な給料事情だったピアツェンツェア王国に「何があろうとも1か月毎の決まった日に必ず従業員の給料を払う」とのセリスの姿勢は庶民から絶大な支持を受けて財務省や労働省からも強く推されている。
その余りの影響力の強さに国全体での雇用体制の改革が進んでいる状況だ。
セリスが家人を呼ぶ時に「使用人」との言葉を嫌い「従業員」と呼ぶ理由でもある。
セリスの感覚では使用人では貴族個人が私的に人を無給かつ時間無制限に自由に使える意味合いが強いからである。
「なんつうか・・・セリスって完全に経営者だよな」
「まあ、実際に前世では人を雇っていた経営者でしたからね」
セリスは信頼出来る人間には前世の記憶が有る事を告げている。
ただ不思議なのはセリスの「私、前世の記憶があるの~」との告白に「ふーん?やっぱりねー」と、皆んなの反応が想像より薄かったのだ。
「ふーん?だから皆んなから女公爵に推挙されんじゃね?」
「うぐ?!」
この度、財務省と労働省から全面的な後押しを受けて遂に王家からでなく貴族院からセリスをカターニア公爵家の後継者に推挙する旨を伝えられて泣いたセリスである。
貴族院としても有能な人材を逃す訳には行かないのだ。
しかし何はともあれセリスにとって今大事なのは今月分の生活費である。
戦争のせいで丸々一年以上も無職だったのは痛い!
一年間ずっと淑女教育しか受けていなかったのだ!
しかし公爵令嬢にとって淑女教育も仕事だがな!何ならそれが本職だからな!
「そう言う訳なので早く仕事を下さい。今すぐに下さいお願いします」
「・・・いやお前・・・淑女の再教育の再教育はどうした?」
「なんでそれを知ってるクソ親父!吐け!どこまで知っている?!」
半べそセリスがイノセントに襲い掛かる!飼い主の手に飛び掛かって来る子猫の如く!
3ヶ月程度の淑女の再教育ではセリスに淑女効果は無い様子だ。
「きいいい!!」と、猛然とイノセントに食って襲い掛かるが逆に頭ナデナデされてしまう。
「何で知ってるかって?そりゃバーバラ夫人に聞いてるからだ。
セリスの問題行動や言動を逐一報告してくれって頼まれてんだよ」
「何とぉ?!クソ親父!私とお母様のどっちの味方なの?!」
「どっちの味方かと聞かれると今回に関してはバーバラ夫人の味方に決まってんだろ?
お世辞にもセリスの言葉使いは貴族令嬢として良いと言えんからな。
・・・・・・・・そこは改めんとダメだろ?」
大雑把な権化に見えるイノセントだが根っこの所は超真面目なのだ。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!!!!」
「さて、それよりも結構高額な仕事が溜まっているぜ」
セリスを撫でながらニヤリと笑うイノセント。
「ううう~!!!!!」ガブウ!!
分かっていたが実力行使では全然イノセントに敵わないわ、ツッコミはスルーされるわでイラッとしたセリス。
腹いせに首に齧り付いたが「鉄でも噛んだ?!」と思うくらいにイノセントの首は固かった。
セリスの噛みつきにもノーダメージのイノセントは何も無かった様に「現在の仕事の一覧表だぜ」と書類を出して来たのでその書類をひったくるセリス。
「むー?」その書類を読んだ第一声が「んー?んげっ?!ボタノ炭鉱のゾンビ退治まだあるじゃん」である。
「おっ!ゾンビ討伐やるか?前回より報酬が倍だぜ?」と笑いながら聞くイノセント。
「やりません!勘弁して下さい。絶対に死にます。
・・・・・・・・ん?あれ?見た事のない新しい仕事?「湖の少女?」何これ?」
「そいつが本当にセリスに頼みたい仕事の筆頭だ」
「伺いましょう」
仕事の話しになったのでちゃんと椅子に座り直して交渉を始める経営者令嬢セリス。
そしてイノセントが「湖の少女」の詳細を話し始める。
何でも5年前に湖で入水自殺した男爵令嬢の幽霊が出るのだそうだ。
何回か天龍教教会の聖女が浄化しに行っても無理だったらしい。
理由としては令嬢の幽霊に感情が無いせいで浄化魔法が通用しないらしい。
魂が無に等しいので聖属性の魔法でも魂に干渉する事も無く通過するだけで効果が無いそうな。
しかし幽霊は存在している。そこでセリスの口八丁手八丁に賭けたいのだそうな。
「口八丁手八丁って言うな」
「依頼主は令嬢のご両親からだ。
5年前の令嬢の自殺の原因は恋仲になった使用人との仲を認めない男爵がその使用人を家から追放してしまったらしい」
「酷いなぁ・・・ウチ(公爵家)なら多分お付き合いOKじゃないかな?」
「自由な家風のカターニアならそうかも知れんが貴族ってのはそう言うものだ。
何なら追放で済んだだけ男爵は優しいかもな。
そしてその使用人は追放先の辺境の街で気落ちしながら生活していた所を土地特有の流行り病が追い討ちになり死亡。
恋人が死んだ事を知った令嬢が絶望の果てに湖に入り後を追ってしまったらしいな
男爵はどうにかして令嬢を成仏させてやりたいのだが両名が死んでしまったので何もどうにもならず冒険者ギルドに依頼をしたらしい」
「弱り目に祟り目か・・・うーん?霊視さんはどう思う?」
《かなり難しいわね・・・その子、感情が無いのに忌み地の水場で霊体として留まってるんでしょ?多分・・・その令嬢このままだと忌神になりそうだわ》
霊視さんβの説明では水場は幽霊が呼び寄せられて溜まりやすい地形との事。
そして男爵令嬢は無感情でその場に留まっていると言う事はモロに集まって来る幽霊に干渉を受けていると予想される。
何なら男爵令嬢が周囲の幽霊を呼び寄せる収集機の役割になっている可能性も有る。
《つまりね?呼び寄せられた良いモノも悪いモノも男爵令嬢の中に入ってごった煮状態なのよ。魔導的観点から言うとその状態を「混沌」と呼ぶわ。
その混沌の濃度が高まり限界点を突破すると・・・》
「晴れて忌み神の誕生って訳か・・・」
「うえ?!急がないとダメじゃん?!」
《そうね急がないとダメね。
そして件の湖ね?セリスはアソコが何で国立公園になってるか分かる?》
「えっ?・・・えーと?いや何でだろう?景観が綺麗だから?」
王都から北西15km地点に有るピアツェンツア湖・・・ここではとある公爵家令嬢が国立公園内で「投げ縄漁」を敢行して環境省をマジギレさせて本気で怒られた事が有ったのだ!
《アソコってね?かつて何度も戦場になっている禁足地なのよ。
要するに因果の面からも非常に良ろしくない土地なのよ》
現在の日本でも古戦場や大規模災害や事故で多くの人が亡くなった土地が国立公園になっているケースが多々有るね。
《特に酷かったのは第二次ピアツェンツア内戦の時ね。
湖畔の街で王家派と反王家派とで激突して王家派が勝利して戦後処理の名目で大規模な粛清が行われた過去が有るのよ》
「えーと?確か300年前だっけ?あんまり資料が残って無くて良く知らないわ」
《戦後処理と言う名の虐殺行為だったからね。
王家としては、この虐殺を広く知られるのは都合が悪いのよ。
なので当時の記録は王家の禁書庫に保管されていて公にされて無いわね》
「昔の人ってろくな事しないわね!」
「今もあんまり変わってなくね?」
最近、ピアツェンツア王国ではアスティの内乱が起こったばかりである。
当時と違うのは戦後に弁護士を入れた裁判が行われて実質的な死刑は無かった(自ら服毒による自死を選んだ者は別)事だがアスティ城塞の戦いでは数千人規模の死者を出している。
《話しを令嬢の状態に戻すわよ?
ピアツェンツアの今の王侯貴族は大なり小なり過去の内乱に関係している。
当然、その令嬢も系譜的にその何かの因果を背負って産まれているの。
あの湖は特にその辺りの因果が強い場所だから・・・》
「忌み神になるのも早いって訳か?」
《そう言う事ね》
「大変じゃない!」
メッチャ自然にイノセントが霊視さんβとセリスの念話に紛れこんでるのでセリスは気が付いていないが良く考えると変な話しである。
これはセリスの記憶封印に関係無く単にセリスが鈍感なだけである。
《と、言う訳で・・・イノセントの予想より難易度が高いからイノセントがセリスの護衛に付きなさい》
師匠から「お前も行け」の命令が下る。
「・・・俺、結構忙しいんですけど?」
《君にはセリスに仕事を振った責任が有るんだから文句を言わない》
「へいへい」
「ええ?!イノセントさんが?!」イノセントの同伴は少し予想外だったセリス。
《ん?イノセントじゃ嫌?》
「・・・いえ~?そう言う訳じゃ無いんですけど・・・」
お?これはもしやセリスとイノセント君との初デートじゃね?
完全に無意識だが、その点に少し照れてるセリスなのだ。
こうしてセリスとイノセントの初の共同任務が始まるのだった。




