英雄王の幽霊。
ちなみに王都在住の同年代の公爵家と侯爵家と伯爵家との令嬢と子息は強制的に夜会もどきに参加である。
参加を希望する子爵家と男爵家に凖男爵家と騎士爵家もウェルカムなので、ほとんどの家門の10歳~14歳の令嬢と令息が集まった。
「公爵家は強制参加だなんて酷い!」とか思っていたら新しい友人が出来て楽しかった。
「セリス様はこちらへ」「・・・はい」「お姉様!頑張って下さいまし!」
王宮の侍女達に妹達と引き離さられて客室(実行委員会)へとドナドナされるセリス。
何か知らんが実行委員会イインチョにされたからだ。
王城に入ると缶詰状態は缶詰状態だったが用意された部屋で貴族女子同士キャイキャイとパジャマパーティーが出来て同室だった令嬢達とも友人になれたのだった。
案外と社交性がある自走セリスなのだ。
「・・・ところで霊視さん?エルフって夜会とかはしないの?」
夜中になり半分寝ている状態で気になっていた事を霊視さんβに聞いて見る。
明日の夜会が始まる前から遊び過ぎて疲れているセリスの周りにも同じくノックダウンした令嬢達がスヤスヤと寝息を立てている。
あんまり同世代の友達とは遊ばない印象があるセリスだが実際には年相応に無我夢中になって遊び倒す普通の女の子なのだ。
《そりゃもう酷い時は毎日毎日あっちこっちに駆り出されて・・・霊視は夜会はしません。そして私はエルフではありません》カリカリカリカリカリ
どうやら霊視さんβは残業中の様子で筆を滑らす音も聞こえて来る。
「あんなにモロにエルフっぽい服を贈って来てそう言われてもねぇ。
でもそっか・・・霊視さんも公務が大変なんだね」
《霊視は公務も夜会もしてません》カリカリカリカリカリ
「はいはい仲間仲間。霊視さんも早く寝てね?」
「んー。分かった」カリカリカリカリカリカリカリカリ
そう言えば何で霊視さんβが自分の正体を隠しているか(全くもって隠れてないが)と言うと800年ぶりの感動の再会を演出したいからだ。
本来ならもっと早く再会しているはずだったのだが、天敵の元老院に悉くピアツェンツア王国行きを阻止されてしまって「謎の霊視さん」の設定が続いている。
もうその設定も破綻しているが・・・
でもまだセリスはギリギリ霊視さんβがエルフの女王イリスだと思っていない。
と言うかセリスの記憶には段階的に解除される封印(記憶を封印したのはセリスの前世であるシルフェリア自身)が施されているのでイリスの事を考えるとモヤが掛かっている。
封印した理由はその内お話しします。
次の日の朝、セリスは迎えに来た母バーバラと共に会場の外宮広間に入る。
今日の夜会は正午から始まると聞き準備の為に早めに入ったのだ。
夜会なのに開始が正午とはこれ如何に?
王室からの説明では「あくまで模擬の夜会なので昼にやります」との事。
まともに夜にやると参加者の多くが子供なので開始早々に眠くてグテングテンになる子が多くて訓練にならなかった事が過去にあったからだ。
「セリス。準備の手伝いをなさい」
「ふあい」まだ寝足りないセリスだが遊び倒していたのが母バーバラにバレると怒られるので真面目にやる事にする。
とりあえずセリスの仕事は夜会用の食器選びからだ。
今日は舞踏会形式でなく立食形式の夜会だ。食事のついでにダンスもやりますよって奴ね。
食器類は参加者が使用する上でなるべく悩む外国製の特別な種類のカトラリーが好ましい。これは意地悪でなく予想外の時の対処力を養う為だ。
「んー?もうちょっと悩む種類が欲しいですわね。
・・・厨房に有る他の食器も見せて頂いてもよろしいですか?」
「かしこまりましたセリス様。こちらへどうぞ」
偉そうに王宮の侍女に注文をする。今日のセリスは腐った公爵令嬢モードなので言葉使いが違うのだ!
食器選びの為に侍女と共に厨房に入ったセリスは・・・「うわー!思いっきし厨房に幽霊居るじゃん」と、やはり令嬢モードが長く続かないセリスだった。
厨房に入ったセリスが見た物とは・・・
ドカリと厨房にある作業台に座りウイスキーをラッパ飲みしてる短い金髪で大男な幽霊だった。
「いや!幽霊のクセに態度デケエな!」
「おっ?なんだ嬢ちゃんよ、俺の事が見えるってか?」
セリスに気が付いた大男の幽霊が話しかけて来た?
「はい、バッチリ見えてますよ。・・・それで?貴方は誰ですか?」
その大男になんか妙な親近感を覚えるセリスは何故か自然に幽霊と会話が出来てしまう。
「ん?名前か?俺の名前はライモンドだ」
「ライ?・・・んー?すみません持病の耳鳴りが・・・もう一回お願いしてよろしいですか?」
「ライモンドだ」
「そうですか・・・ライモンドさんですか・・・」
なんとビックリ!幽霊さんの正体はピアツェンツア王国5代目国王だった英雄王ライモンドだった。
普通ならそうは思わないのだがライモンド王の母系での直系子孫のセリスは何故か幽霊が英雄王ライモンドだと言う事が分かってしまう。
「それで5代目国王さんが何でこんな厨房でお酒飲んでるのですか?ってか幽霊でもお酒飲めたんですね?飲んだお酒はどこに消えているんですか?」
うん、それは確かに疑問だ。
セリスはもう半ばヤケクソ気味にライモンドに矢継ぎ早に質問をする。
例え相手が御先祖様だろうが歴史に名を馳せる英雄王だろうがここで幽霊から引けば「幽霊退治屋セリス」の名が廃るのだ!・・・・・・廃るほどの名があったかどうかは別だ。
「おお何か知らんが最近目が覚めてなぁ・・・しっかしまあ俺が死んでから400年も経っちまったんだな。
まぁ・・・酒は気分だ。幽霊じゃ酔えもせんしなぁ。
酒がどこに消えてるかは俺も知らん」
「でしょうね?・・・ん?それで最近、目が覚めたとは?どう言う事ですか?」
「どうも毒殺されて死んだ後に何者かが俺が転生出来ない様に魂に呪いを施してここに封印した見たいだな。まあ多分・・・俺の次に国王になった奴が犯人なんだろうな。
おかげで死んだ当時のままの記憶が残ってるんだがな。
つーかよ?封印先が厨房って酷くね?」
「次の国王って・・・それって犯人さんはライモンドさんの弟さんじゃないですか?
これ私が聞いちゃいけないヤバい話しだと思います。
封印先が厨房なのは「炉」が有るからだと思います」
呪術的な話しをすると何かに封印を施す場所は「火が絶え間なくある場所が好ましい」のだ。
真言密教の悪縁封じを祈祷する護摩業でも火を使うからね。
女神ヘスティアが「炉の女神」だと言う観点からも有効性が高いと思われる。
「ふーん?詳しいな。
でもアイツが犯人だったとはなぁ・・・兄ちゃんは悲しいぜ」
「せ・・・セリス様???」
ライモンドの声は子孫のセリスにしか聞こえてないので侍女から見ると突然セリスが空に向かって独り言を話し始めた様にしか見えていない。
古の英雄と普通に喋っている自分もヤバい奴だなぁと思いつつあるセリス。
そしてセリスの事を空に向かって独り言を喋っているヤバい令嬢だと思っている侍女。
どっちにしてもセリスはヤバい奴なのだ。
「そんなどうでも良い事より嬢ちゃんの名前は?」
歴史書に記載がある通りライモンド王は細かい事を一切気にしない性格の様子だ。
例え弟に暗殺されていようが全然気にしてないのだ。
ライモンドの興味は既に自分の死因や犯人よりもセリスに向いている。
「あっ、私はセリスです。よろしくお願いします」
そう言って虚空に向かい頭を下げるセリスを見て侍女はお医者さんを呼びに走った!
ちなみにセリスはこう言う変人扱いは「妖精タン」の時で慣れているので別に気にしないのだ。
「おい侍女が慌てて走って行ったぞセリス?お前さん大丈夫か?」
「基本的に頭は大丈夫だと思ってます。そして変人扱いには慣れてます。いつもの事です」
「美少女なのに勿体ねえなぁ」
「美少女ありがとうございます。変人だと思われる事は悪い男達からの良い虫除けになっているので丁度良いのですよ」
これはセリスの心からの本心なのだ「結婚なんぞ30歳近くで良くね?」と、平成日本人丸出しの物の考え方をしている。
親御さんは泣くだろう・・・
そもそも男性に対して今は特段興味を持っていない・・・ある一人を除いては・・・
「ああ!そう言えばワイトキングさんに会って小説の件とか聞きましたよ?
英雄王たる人が何をしょうもない事をやってたんですか?」
スムーズに英雄王をディスるセリス。
「ワイトキングだと?・・・・・・へえ?・・・セリスは何者なんだ?
普通の人間にはワイトキングは、その存在すら感知出来ないんだぜ?
それなのにセリスはワイトキングと話しも出来たってか?」
「へーそうなんですかぁ?それは知らなかったです」
「んー?それに何か変わった気配がするぜ?・・・んー?これは?・・・へえ?そう言う事か。セリスは自分が何者か分かってんのか?」
「何者かと聞かれると腐った公爵令嬢ですよ」
「腐ってんのか?」
「はい、それはもう親が泣いてしまうくらいには腐っております」
「・・・・・・・・・・BLってヤツか・・・」
「BLって何ですか?」
「腐っている」の意味を盛大に勘違いしている腐令嬢セリス。
そもそもBLと言うジャンルが世に出た頃には完全無欠な婆ちゃんだったので本物のBLの存在そのものを知らない。
この後、「イリス教」なる得体の知れない組織から「薄い本」を見せられたセリスの反応は・・・「ふえええ?!?!」だった。
見た後は否定も肯定もしなかったのでこの時どんな心境だったのかはセリスにしか分からない。
「そうか親御さんも気の毒になぁ」
「幽霊に気の毒がられた?!」
「まあいいや、そんなモンはあのエルフが考える事だしな。
さてと、ピアツェンツェアの元国王たる俺がいつまでも幽霊やってる場合じゃねえな。
そろそろ「魂の選別の扉」へ行って転生しないとな」
「アッサリしてますね!手間がかからず助かります」
どうやってコイツを成仏させるか?を地味に悩んでいたセリス。
そもそも成仏する気あんのか?とも思っていたが自分から成仏してくれるなら御の字である。
「何でセリスの手間がかかるんだ?」
「私は幽霊退治屋なので幽霊が成仏する様に説得するのが任務なのです」
「ほんと変わってんな?セリスは」
「本音を言うと無償では働きたくないだけなんですけどね。
ただ、ご先祖様の幽霊はほっとけないので」
「ははははは!ほんとに面白いなあセリスは・・・気に入ったぜ!
よし!それなら転生先は縁が出来たセリスの所の子供にしてもらおうかな?
国王とかはもう御免だしな。公爵家くらいで丁度良い」
自分のこの言葉が後に始まるとんでもない苦労の始まりだと今のライモンドに知る由しもなかった。
「そうですか?お待ちしております」
この時のセリスは子供を作る気が皆無だったので完全に世辞で言ったのだが数年後に息子が産まれた時に、《ええ~??この子は英雄王ライモンドちゃんの産まれ変わりね》と、霊視さんβに言われて「マジで何考えてんのあの人!」とセリスが言う未来が来るのだ。
「おっしゃ!当面の目標も出来たし俺は行くわ。近いうちにまた会おうぜセリス」
そう言って英雄王ライモンドはアッサリと「魂の選別の扉」へ旅立って行った。
「行っちゃった・・・豪快な人ねぇ」
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「セリスーーー?!気をしっかり!」
バーバラ夫人にガックンガックンされるセリス。
「お嬢様?!人前で妖精タンはダメだとあれほど言ってたのに!」
「バーバラ夫人!頭がおかしい人を揺さぶってはいけません!」
「何だーーーーー?!?!・・・・・・・おお?!」
今になってようやく先程侍女が人を呼びに走った事を思い出す。
お医者さんと母バーバラとミミリーとフェナが駆けつけて来たので、ここは慌てないで「また妖精タンとお話ししてたのー」と伝家の宝刀を抜くセリス。
「久しぶりにマジで気色悪いですよお嬢様」とミミリーに言われてイラッとしてたらマジで頭の病院に1週間もぶち込まれる事となったセリス。
しかし夜会の訓練からバックれられるのは美味しい!と思い、黙って連行されたのだった。
「やっぱり夜会の話しは書かないのかい!!」