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クロスフォードの公爵様。

さていきなりだがピアツェンツェア王国には「農業貴族」と呼ばれる超党派閥がある。

少し田舎臭がする呼び名だが国の食糧を担う彼らが持っている権威は決して侮れない程に大きい。

クロスフォード公爵家がその農業貴族の筆頭的な立場の家になる。


クロスフォード公爵家と仲が良いカターニア公爵家のセリスが公爵邸で農園を作って市場に出荷しても大して文句が出なかった理由でもある。

だがしかし邸内の敷地を使っての酪農はやり過ぎなのは言うまでも無い。


話しを戻して伯爵令嬢にエスコートされてEクラスに到着すると結構昔から知ってる顔が見えて安心したセリス。

無用な諍いを避ける為に貴族子弟はある程度は派閥によってクラス分けをされている。


Eクラスがカターニア派閥、Fクラスがアスティ派閥、GクラスとHクラスがクロスフォード派閥と言った感じだ。


今日は教室で主任講師の先生の紹介と簡単な自己紹介で終わった。

ちなみに魔力測定で「私強え」でのトラブル発生などのテンプレイベントは特に無かった。


「いや勉強しに学校に来てるのにそうそう変な問題があってたまるかい!」

セリスがド正論な事を言うが今まで結構なトラブルが有ったりしたのだ。


「今年の生徒さんはとても良い子ばかりで先生もビックリです!

それでですね?少し前の事になりますが・・・」


詳しい内容は省略するが主任先生から聞いた今まで起こったトラブルの説明(愚痴)を聞いたセリスの率直な感想が「お前ら何しに学校に来てんの?」だった・・・



さて又々いきなりだがピアツェンツア王国には3つの公爵家がある。



一つはセリスの生家のカターニア公爵家。

もう一つはカターニア公爵家の次に公爵位を得たアスティ公爵家。

次が件のクロスフォード公爵家である。


時折、その時代の王弟や王位を譲った先王などが一代限りの大公爵位に封じられたりするが基本的な公爵位の家門はこの御三家だ。


カターニア公爵家が林業、鉱業や施設(不動産)を司り、アスティ公爵家が衣類などの商売を司り、クロスフォード公爵家が農業、漁業の食を司っている。

それぞれが衣食住の長な訳だね。


本来ならピアツェンツア王国の全身であるヴィアール共和国の旧領を支配しているヴィアール辺境伯家がピアツェンツア王国が立国された際に公爵位を受けるのが当然の事だったのだが、当時のヴィアール王兄が異常なくらいに公爵位になるのを嫌がって初代ピアツェンツア国王の苦肉の策で辺境伯家に落ち着きそれから建国以来500年近くも辺境伯のままなのだ。


何で公爵になるのを嫌がったのか理由は良く分からないが「公爵なんざマジ面倒臭え。そうなったら一族郎党引き連れて引っ越さないとダメじゃん?ピアツェンツア地方まで距離が遠いし名前も長えし。侯爵とかもマジ勘弁。やりたい奴がやれば良いんじゃね?」と、当時のヴィアール王兄が書いたと思われる日記帳が発見されている。


要するに中央大陸の東部地方から中部地方に引っ越すのが凄く面倒臭かったんだね。


それから500年の間に幾度となく隙あればヴィアール辺境伯家を公爵家にしようとする動きがあったものの、何れの時代のヴィアール辺境伯も全力で逃げ回って悉く頓挫している。


180年前にもヴィアール辺境伯に公爵位が叙爵されたのだが、右から左へと流れ作業の如く華麗に当時の筆頭侯爵家だったクロスフォード侯爵に公爵位を押し付けたのだ。

どんだけ公爵になりたくないのか・・・


そんな理由で新公爵家となったクロスフォード家なので古参のアスティ公爵家からは良い目で見られず何かと言うと目の敵されるのだ。


そして現在、9代目クロスフォード公爵となっているのが、エスティマブル・フォン・クロスフォード女公爵である。


8代目のクロスフォード公爵に男子が恵まれず長女だったエスティマブルが西部のフィジー地方を支配しているブリタニア辺境伯家の次男を婿養子に迎えて父から公爵位を受け継いだのだ。


ちなみにピアツェンツア王国には男尊女卑の傾向は無い。

過酷な魔法世界で優秀な女性を卑下する事なんかをしてたら直ぐに他国に滅ぼされてしまうからだ。

歴代国王も10代目、11代目は女王の時代だったりする。



セリスが王立学校から冒険者ギルドへとダッシュをした同時刻、王都中央を南北に走る大通りをクロスフォード公爵家の馬車が走っていた。


「はあ・・・」

馬車に乗るエスティマブル・フォン・クロスフォード女公爵は憂鬱だった・・・


何ゆえ憂鬱だったかと言うと自分の結婚までの話しが、なんか知らんが王都市民達に大フィーバーしているからだ。


エスティマブルは7年に渡る遠距離での大恋愛の末に1ヶ月前に無事結婚したのだったが、これが王都市民の琴線に触れて王都の劇場で大人気の題目となっている。

自分の恋話を弄り回されるのは今年35歳のアラサーにはマジでしんどいのだ。


しかも題目が・・・「30歳の恋に生きる乙女」である・・・痛い・・・痛すぎる・・・お願い・・・コロ・・・シテ・・・状態なのだ。


「何で演劇の許可なんて出すんですのですか?!陛下ぁあああ?!

と言うより、わたくしですら忘れていた事を何でそんなに詳細に演出家の方が知っておられるのですかぁ?!?!」

自分の恋バナをより正確に、より盛大に衆目に晒されて涙目になりながら国王ヤニックに猛抗議するエスティマブル女公爵。


彼女は国王ヤニックより8歳年下なのだが「ヤニック王太子が怒涛の10回も留年しやがりましたよ事件」もあって王立学校では1年間だったがクラスメイトだったりするので2人は割と気安い関係なのだ。


ん?いや待て1年間?つーことは?この年にもう一回留年したのか?と聞かれると「はい、そうですね」としか答えられない。

だってアイツって10回留年しているからね。何ならエスティマブルの方が早く卒業しているね。


出席日数が足りない者に対しては王族にでもなかなか情け容赦のない攻撃をかます学校なのである。


当然ながら当時は王太子だったヤニックも仙人校長先生に「俺!海外に出征してたんですよ?!」と猛烈に抗議したのだが「ほっほっほっ、どんな理由でも足りてない物は仕方ありませんなぁ」と軽くあしらわれたのだった。



「ガルルルルルル!!!!」

久しぶりに激オコの状態のエスティマブルが国王を威圧する!

完璧な淑女と謳われるエスティマブルだが性格は割と凶暴なのだ!


元同級生からの涙目での猛烈抗議に「違う!俺じゃない!俺じゃないってぇ?!叔父上に聞いて下さいよ!」とタジタジの国王ヤニック。


ンバ!!っとエスティマブル女公爵がエヴァリスト宰相を見ると・・・


「エスティマも子供じゃあるまいし騒ぎ過ぎじゃ。

庶民達のクロスフォード公爵家への人気が上がればアスティ公爵家への牽制になるからのう。

エスティマも公爵になったのじゃからこの程度の事など顔色一つ変えずに許容せねばならぬ。

庶民からの人気を上手く利用して己の権威を高めよ」

ズバッとエスティマブルからの涙の抗議を斬り捨てるエヴァリスト宰相。


「うー・・・しゅん・・・」そう言われると何も言えんエスティマブル女公爵。


ちなみに後になって劇場への情報提供は親友の王妃ファニーがノリノリでやっていたと知り再度膝から崩れ落ちたのだった。

このオッサンとオバハン達は何やってんすかねぇ~。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ガタコトガタコトと揺れる馬車・・・



そんな揺れる馬車の音を聞きながらわたくしの心は沈んでおります。



申し遅れました。

わたくしの名前はエスティマブル・・・

体力の限界を感じて勇退した父よりクロスフォード公爵家を受け継いだばかりの35歳のおばさんで御座います。


若い頃より結婚願望が無かった故に結婚のお話を断り続けて仕事に明け暮れておりましたら、この様な年齢になってしまいました。


ですが最近やっと伴侶を得る幸運に恵まれました。

しかし盛大に嫁ぎ遅れた35歳の女が盛大な披露宴など烏滸がましく極まりないので小さな教会で両親と新郎新婦だけでコッソリと挙式を行ったのです・・・


しかしですね?わたくし共の結婚式の当日から大劇場にて突然開演された「30歳の恋に生きる乙女」・・・アレってそのまま、わたくしの事を題材にされておりますよね?


30歳の恋に生きるのは良いのです・・・女性は何歳になっても女性ですから・・・

ですが「乙女」って・・・これは一体何事でございましょうか???

領地にて部下のお尻を蹴り上げながら農業改革に邁進していた、わたくしのどこら辺が乙女なのでしょうか?


しかも「星の光りが湖面に映る夜に恋人同士の刹那の時間」・・・て・・・

いえ確かにありましたよ?そんな事も・・・わたくしにとっても素敵な思い出です。

ですが何故・・・何故その出来事が演目の中に入っているんですか?


一体誰が・・・と、言うまでもなく情報の出所はファニー様ですね。

だってファニー様と恋バナした時にしか、この出来事は人にお話ししておりませんから。


「はあああああああ・・・・・・・・・」口止めするべきでしたわ。

おそらくファニー様は結婚祝いのサプライズのおつもりでしょう・・・

長年の親友からの好意なので怒る訳にもいきませんわ。


そんな事を考えておりましたら・・・・・


ヒュン!と馬車の窓を横切る金色の何か?


「え?」今のは何でしょうか???


御者の方の窓を覗きますと金髪の女の子が走っています?


「ええ?」

この馬車、街中なので比較的ゆっくりと走っておりますが時速20kmほどは出ておりますわよ?それを走って抜いた?!


ドンドンとスピードを上げる女の子?!何キロ出てますの?!

そして緩やかなカーブを曲がり切れずに生垣に飛び込みましたわ?!


慌てて馬車を止めて女の子の元へ駆け寄るわたくし!


「貴女!大丈夫ですの?!」


「え・・・えへへへ・・・やっちゃったぁ」


逆さまになりながら生垣の中で笑っている女の子。怪我は・・・無い様ですわね?


「うう~、久しぶりの全力疾走だったからコーナリングが甘くなってたか・・・」

ゴソゴソと生垣から這いずり出る女の子・・・


あら?この子・・・どこかで?

随分と可愛いらしい女の子ですわね?


ハニーブロンドの金髪に・・・・・・・・・ハニーブロンド?王家の色?


「あの?貴女はもしや・・・セリス様ですか?」


「えへへへ・・・はい、そうです。クロスフォード公爵閣下」

セリス様とはファニー様の誕生祭で一度ご挨拶してますね。


「ええええええええええええ~????」


頭に大量の葉っぱを乗せた快速少女の正体はカターニア公爵家のセリス様でしたわ・・・


色々と気になる所は有りますが・・・「セリス様は何故馬車に乗らずに、お一人で走っておられますの?」これでも政府の要職に就く身なので安全確認の為にこれは聞かなければいけません。

もしやセリス様は暴漢から逃げてる可能性も有りますからね。


するとセリスは難しい顔をなさりながら暫し考えて・・・

「そこに・・・道が有るから・・・ですかね?」と、お答えになられました。


「そうですか・・・」ごめんなさい意味が分かりませんわ。


「あ!そう言えば閣下!我が家からの農作物の市場への出荷許可ありがとうございました!」

パン!両手を合わせてセリス様がお礼を言ってくれます。


「いえ、王都内の食糧自給向上は政府の目標でもありましたから」

わたくしは一体何故こんな場所でセリス様とこんなお話しをしているのでしょうか?


「えへへへへへ・・・・・・・ああ?!そうでした!

私、急いで冒険者ギルドへ行かないといけませんでした!」

ぴょんと飛び上がりパンパンと身体に付いた葉っぱを落とすセリス様。


「ぼ・・・冒険者ギルド???」公爵令嬢が何故、冒険者ギルドに???


「それでは改めてお礼に参ります!クロスフォード閣下!

不肖セリス!これにて失礼致します!」


「あ・・・」そう言うや否やまた走り出したセリス様。


「・・・・・・・・・」

そしてあっという間にセリス様は街中に消えてしまいましたわ。








この事はバーバラ公爵夫人にご報告しなければいけませんわね・・・

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