迫る!ワイトキングの影と神々の陰謀(隠蔽)
セリスが蓮沼に華麗なダイブを魅せてから1週間後の事。
今日はセリスが待ち望んでいる即金収入が入る日だ。
そうなのです。冒険者ギルドマスター、イノセントの執務室の書類整理のバイトの日です。
本当なら毎日でも行きたいのだが国策での外出禁止令の最中に派手にやってバイト自体が禁止なると余計に困るので3日に一回ペースでコッソリとやっている。
「あんまり人に見られない様にお願いしますよ・・・セリス様の御髪は遠目にも目立ちますから」
「はーい」
今日のセリスはフェナと一緒に官侍女さんのコスプレをして後宮を警備している衛兵さんの横をスニーキングをしながら通り過ぎる。
潜入用コスプレには商人モードやお掃除メイドさんモードなんかもある。
国から貴族の夫人や令嬢全員に対して不要不急の外出禁止令が出ているのでセリスが後宮に居るのを知らん人に見られるのはあんまり宜しくない。
変装で伊達メガネをかけて長い金髪は団子にしてプリム(メイドさんが被っているヒラヒラしたカチューシャ見たいなヤツ)の中に隠しているがプリムの隙間から王家の色でもあるハニーブロンドの金髪がチラチラと見えている。
いっそ茶色にでも染めてやろうかと思ったがミミリーに頭を叩かれた。
当然ながらセリスが冒険者ギルドに行く事に対して正式な許可は出ておらず国王ヤニックから黙認(バレて他の家から文句を言われても俺知らないよ?)しかされていない状態なのでフェナバリアー(背の高いフェナに密着する)を駆使して後宮の回廊を進む。
この回廊は通常なら王妃や側妃達(現在は3名の側妃が居る)が主催するお茶会に参加する為に訪れる御婦人や御令嬢と従者達が大勢歩いていて華やかな回廊なのだが今は閑散として静まりかえっている。
優雅にティーセットを運ぶ執事や侍女達、御婦人や御令嬢のドレスを整えるスタイリスト達もおらず代わりに完全武装の近衛兵が等間隔で配置されているのを見ると今が戦時中だと思い知らされる。
「今の戦況ってどうなっているんです?」
「陸軍はまだ上陸作戦とかしていなくって海軍が戦艦が沿岸部の軍事施設をゲリラ砲撃をしたり駆逐艦隊同士で通商破壊戦をやり合っているらしい」
戦況に関しては情報封鎖が行われているが司令官クラスを出征させている公爵家と侯爵家と辺境伯家には割と詳細な戦況が入って来ている。
カターニア公爵家からはセリスの叔父のバルトリト伯爵が、海軍准将としてトリスタン伯爵が軍令部付きの作戦参謀の大佐として今回の戦争に出征している。
本当は当主のコーバ公爵も出る気マンマンだったのだが国内を守る者が居なくなるのでストップが掛かった。・・・おや?コーバ公爵って結構好戦的?
「じゃあこちらが優勢ですね」
「そだねー」
海軍ではピアツェンツア王国の方が圧倒的に強いので今の所は心配する戦況ではない。
しかしそうなると劣勢な戦況打破を目論み王都近郊でゴルド特殊部隊による要人の家族を誘拐したりする事が予想されるので外出禁止令が解除される見込みも無くなる。
「やっぱり公爵邸の外をあんまり出歩かない方が良いのでは?」
おそらく公爵令嬢のセリスは敵からの優先目標になっていると思われる。
「霊視さんが常に索敵してくれてるから大丈夫」
《そうですねー。周囲2km圏内に敵影無しですね》
実際に今までセリスは5回ほど不審者に狙われている。
しかし襲撃の全てが霊視さんαの索敵に引っかかり襲撃者全員が王家直属の特殊部隊に捕らえられているのだ。
その後、襲撃者達がどうなったのかは怖くて聞いていない。
一見不用心にチョロチョロと動き回っている様に見えるセリスだが実は王家の特殊部隊と連携し自らが囮になって敵の特殊部隊を捕らえているのだ。
「それって国の作戦なんですか?」
その作戦に凄く不快そうなフェナ。そりゃ自分の主を囮に使われていては良い感情は持てないだろう。
「違うよ?結果的にそうなっているだけ。
それに私が狙われている分にはクリスとステラが安全だからね」
自分が鴨ネギになる事で敵の目が妹達に向く事を防いでいる姉ちゃんセリス。
一見すると危険極まりない行為だが万が一に袋小路とかに追い込まれても霊視さんβの強制転移魔法が発動するのでセリスが曲者に捕まる事は無いだろう。
それにセリスに何か起こると間違いなくどっかのエルフが怒り狂ってヒャッハーして来るので国王ヤニックを始め王家特殊部隊も必死になってセリスを守っている
《いよいよどうにもならなかったら私が吹き飛ばすので大丈夫ですよー》
・・・・・・それって戦いの女神アテネの神罰が現世に下るって事なのでは?
女神アテネはアンポンタンには容赦なく神罰を下すタイプの神である。
それに対して女神ハルモニアは本当の意味で愚者に対しても慈愛の神と言える。
アンポンタンを見た時、女神アテネは「悪い者は一度完全に消滅させて次に期待しましょう」と考えて、女神ハルモニアは「何とか更生させましょう」と考える。
どちらが正しいのかは分からないが不幸になる者か少なく即効性が有るのは女神アテネの考え方だろう。
そして長い間苦労はするだろうが最終的に世界が繁栄するのが女神ハルモニアの考え方だ。
ただ一つ言える事は霊視さんαは「やると言ったら間違いなく殺る」だろう。
つーか、どいつもこいつも恐ろしすぎである。
そんな会話をしながら冒険者ギルドの勝手口に到着するセリスとフェナ。
ドアを少し開けて中をチラ見するとドアの側に立っているギルドの職員(Aランク冒険者の守衛)がセリスを見て「セリスちゃんお疲れ様~」とニカリと笑う。
「私はここの職員じゃ無いんですけど?!」
そうツッコミをいれても「そうなのか?」と返されるだけなので「お疲れさまです」と返す。
「セリス様、お疲れ様でーす」
事務室に入ると書類を見たままセリスに挨拶する男性職員達・・・とうとう顔を見て挨拶すらしてくれなくなった?!
対するセリスもセリスで「はーい、お疲れ様です」と返して勝手に廊下へのドアを開けてイノセントの所へ向かう。
「兄さんの部屋は、また散らかっているんでしょうね」
「妹として兄を叱ってやって下さい」
「本来の兄さんはそんなにだらしない事は無いんですけどね」
単に処理能力のキャパオーバーを起こしているだけで本来のイノセントは割と几帳面に掃除するらしい。
「イノセントさんの血液型ってA型?」
やる時はやるがやらない時はとことんやらんのがA型である。
「何ですかそれ?」
「何となく・・・」
めっちゃどうでも良い話しだがセリスの血液型はA型でイノセントの血液型もA型でフェナの血液型もA型である。
B型っぽいミミリーもA型だったりする・・・・・・A型多くね?
「ふう・・・」セリスはイノセントの部屋のドアの前で一度深呼吸をして・・・ガチャッ!一気にドアを開けて「どうだ?!」と気勢を上げる!
イノセントの部屋の片付けアルバイトは5日と空けずに欠かさずやっている!・・・はず!
つい3日前にも片付けた!・・・はず!それなのに!
「何で過去最大クラスに酷くなってんだ!クソ親父!」
順調に身長が145cmにまで成長したセリスの目線より高く書類に埋まっていた。
「おーセリスかぁ?いや~問題児が活発に行動を始めてな~、このザマなんだよ」
姿は見えないがイノセントの声は聞こえる。
「マスター!商業ギルドから追加の苦情でーす!」
セリスの後ろから来た職員が良い感じの場所にオーバースローで書類をぶん投げる。
書類の山からイノセントの手だけ見えてそれをキャッチしてそのままゴミ箱近辺にぶん投げる。
「いやゴミ箱に捨てんな!市民からの苦情を無視すんな!」
「こんなん全部目を通してたらキリがなくてよ~」
「等閑は良く無い!努力しろ!・・・それよりも問題児?私の他にも問題児なんていんの??」
「自分が問題児って自覚してんのかよ・・・」
そうは言うがセリスはそこまで深刻な問題は起こしていない。
単に金にがめつくて行動力があって口が悪いだけだ。
「まぁセリスには関係ない話しだけどな」
しかしセリスは後日この問題児とガッツリと関わる事になる。
気合いと根性で2時間で書類の片付けを終わらせて金貨をぶん取って茶をしばいていたらイノセントが「特別公務が有るんだが、やるか?」と質問して来た。
「無理よ?家から出れる訳ないじゃん?私はめっちゃ仕事したいけど」
現在は大絶賛、外出禁止・・・以下略。
「俺が陛下に直接話してやるよ。稼げるぜ?」
「詳しく!」
ギルドマスターが上のモンに話しを通してくれるなら話しは別だ!身を乗り出すセリス。
「実はな?・・・・・・・」説明を始めるイノセント。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ワイトキング?」セリスの記憶だと確か死者達の王様と言われている魔物?だ。
「そうだ」
イノセント曰く、ワイトキングの復活の可能性が有る!・・・あるらしい。
「えー?そんなモン実際に本当にいるの?御伽話しじゃないの?」
色々な神様が跋扈している魔法世界だがワイトキングに関しては空想の存在だと言われている。
『え?ワイトキング?・・・うーん?私にも何の情報もありませんね?』
と、大昔にエルフの女王がワイトキングについて女神ハルモニアに尋ねて見たらワイトキングの事はオリュンポス神族であり魔法世界の主神の女神ハルモニアですら良く分からない存在らしい。
じゃあ、その上司の女神アテネの分身体の霊視さんαは・・・ん?そっぽ向いてる?神様の中でもワイトキングって何かあんの?
「天龍教だとワイトキングって何て言われているの?」
「教会でもワイトキングは否定も肯定もされてませんね?
ただネクロマンサーの様に害悪とは定義されてませんからね~。
どうなのでしょうか?」
「悪か善かを確定させる為にセリスの霊視で調べて欲しい」
「嫌よ、本当にワイトキングなんて居たら私が死んじゃうでしょ?」
「ジャックを付けるからよ頼むよ」
「・・・報酬次第かな?」ジャックと一緒なら・・・まあ。
「1人につき2000万円(相当)」
「・・・・・もう一声!」
「1人3000万円(相当)」
「よし!分かった」
最近のセリスの霊視さんαは王家にも高く評価されて引く手数多だ。
報酬を吊り上げる交渉は出来る様に信頼されて来たのだ。
つーか、オリュンポス12大神たる女神アテネ様を金で売るんじゃねえ!そして女神アテネも売られてんじゃねえ!
「それで場所はどこなの?
分かっていると思うけど外出禁止令があるから遠い場所への移動はお父様が許可を出すと思えないから多分無理よ?」
「ああ、それは大丈夫だ。王都の地下だから」イノセントが床を指差して笑う。
「・・・・・・・・・・・・・・おいこら??」
「なんだ?」
「そんな物騒なモンが自分ん家の下に居てどこが大丈夫なんだ?!」
「まぁ聞けって」古い本を1冊取り出してセリスに渡して詳細を話し始めるイノセント。
それは1冊の古文書だった。
腐った公爵令嬢のセリスだが学問はかなりの優秀で古代語も余裕で読めるのだ。
「口さえ開かなければ素晴らしい公爵令嬢なのに」と、ミミリーに不敬極まりない事を毎回言われている。
「んー?なになに?・・・・」
『我は王都の地下に迷宮を作った。
その迷宮に「死者」の王を封印する。
しかし400年後に封印は力を失い王都は死者で溢れる事になるだろう。
我の子孫達が死者の王に再度の封印を施せる様にこの本を残す。
ライモンド・フォン・ヴィアール』
と最初のページに書いてあった。
ライモンド王・・・ピアツェンツア王国の第8代国王にして英雄王と呼ばれる古代の英霊である。
「おい?だからどこがどう大丈夫なんだ?ドンドン悪化してるじゃないの!」
「そうなんだが・・・ただなぁ英雄ライモンド王にはもう一つの言い伝えがあってなぁ」
そう言うとイノセントはもう1冊の書籍を取り出した。
荒く装丁された古い本の表紙には「俺様の考えた最強小説の設定集」とか書いてある。
「え??何これ?」
「英雄ライモンド王の趣味は小説を書く事だったんだよ。かなりの数のフィクション本も出版したらしくてな」
「ああー・・・これも小説の可能性が有るのかぁ」
「そう言う事だな、当のライモンド王の末裔である陛下はコイツを「小説」と見ているな。
王都の地下の迷宮は俺達も訓練を兼ねて散々っぱら探索しているが、その本に書いてある封印の場所とやらには確かに魔法陣が描かれた部屋が有るんだがそこは英雄ライモンドの隠れ書斎なんだよな。
そんでその魔法陣にはもう力が残っていない」
「何よ?もう探索済みなの?!私、必要ねぇじゃん?!」
「当たり前だろ?こんな物騒な話しを放置する様な鈍臭い陛下じゃ無いからな」
「えーと?つまり?大体の調査が終わったから最後に私の霊視さんでそれの確証を得たいと?」
「正確には嬢ちゃんを含めた多数の鑑定スキル持ちで多角的に検証したいらしいな。
報酬の3000万円には「口止め料」なんかも当然含まれている」
「そう言う話しならやります!でもジャックさんは護衛に付けて下さい!」
危険度が爆下がりしてテンションマックスのセリス。
「口止め?うんうん黙ってるだけでお金貰えちゃうの?喋らない喋らない」
「本当にちゃっかりしてんなぁ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ああーーーー!!」
そもそも王都地下の迷宮の話しが聞いちゃいけない話しだった事に気づいたセリス。
「クソ親父にドンドンと危ない世界に引き込まれている?!」
その事に夜寝てて気がついてガバッと飛び起きたのだった。
良く考えたら王都に秘密の地下迷宮なんぞある事自体が国家の重要機密だと言う事に気が付いたセリスのテンションは駄々下がりだ。
「くっ・・・・しかし3000万円(相当)は棒にふれない!」
セリスは考えるのを止めてお金の為にワイトキングの鑑定に全力を尽くす事を決意するのだった。