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霊視さんα&βの誤算と祓い屋セリス。

クソ親父こと冒険者ギルドマスター、イノセント・クーガーと初めて会ってから3日後の事、またフェナが怪文書を持って来ました。


「お嬢様、兄さんからお手紙が届きました」


「おっ?来たね、どれどれ」

早速、依頼書の中身を確認すると・・・「多くね?」15種類の特別公務の依頼内容が書かれていた。


別に送付された説明書には《これがギルドにある依頼の一覧と金額だ。嬢ちゃんに合わせるから好きな所から攻めてくれ》と書かれていた。


「そうは言われてもねー」セリスはそう言いながら詳しい内容を確認する。


1番報酬料が高いのは・・・ボタノ炭鉱に沸いたアークゾンビ(超強えゾンビ)の群れの退治で8000万円(相当)だった・・・

「却下!無理!絶対に死ねる自信がある!」


次に高いのは王都郊外の古戦場後の禁足地で確認された忌み神の退治で5000万円(相当)


「はい!却下!つーか、あのクソ親父は9歳児になにさせるつもりよ!」


こう言う時は必ず出て来て何かしらのアドバイスをくれる霊視さんαなのだがこの数日間は何でか知らんがシャッターを閉めたまま行方不明なのだ。


そして霊視さんβも最近は忙しいのか全然出て来ないので寂しいセリス。


霊視さんαの遠隔操作なのか霊視自体は問題なく出来る様なのであまり仕事に関しては心配はしてないが過去にも霊視さんαが行方不明になる事が数回あって気がついたらシレッと戻って来てるのだ。


そんな事を考えていたら《セリスただいま帰りました》と霊視さんαが帰って来た。


「お帰りなさい!どこに行ってたの?」

やっぱり寂しかったのか弾んだ声でお帰りなさいをするセリス。


《定例会合です》


「定例会合?・・・霊視さんって何人もいるの?」


《そんな所です》


女神アテネクラスともなると300を超える自立型分身体が宇宙各地?で活動しているので頻繁に集まって会合をしないと訳が分からなくなるのだ。


まして女神アテネは「各自の判断で行動して下さい。報告は後で」との放任タイプの神様なので定期的な会合が必須なのだ。


「・・・因みに、どこで会合を?」


《ペルセウスのアルゴルです》

当然の様に答える霊視さんαだが、いきなり話しが「宇宙の彼方」に飛びましたよ?


「ペルセウスってアンドロメダ銀河の隣の二重星雲?」

まだGPSなんぞ無い昭和初期頃の漁師さんだったので方位と位置を調べる為に天体に関してはめっちゃ詳しい。


《そうですね。あそこは牧歌的で長閑で良い所ですよ》

ほう?ペルセウス二重星雲って長閑な地方?なんだ・・・へえ?そうなんですね?


「・・・長閑って・・・どう反応して良いか分かりません」そりゃ誰にも分からんわ。

とりあえずセリスは深く考えるのを止めた。


《心配しなくてもこの世界は地球と同じ「天の川銀河」にありますよ?》

セリスはそう言う事を言ってる訳じゃない。


「地球から近い事は何となく分かる」頻繁に地球の話しが出るからね。


《そうですね。この世界は地球から銀河ハロー9万光年くらいの場所にありますね》

太陽系も銀河ハロー(天の川銀河の外円星雲、わかり易く言うと超ド田舎)に属している。


要するに地球も魔法世界も銀河系の両端に有る超ド田舎天体なのだ。

天界で魔法世界の発見が遅れた理由でもある。


でも霊視さんα的には高次元を移動をすれば3日で到着する距離なのでそこまで遠くは感じていない。

ちなみにペルセウス二重星雲までは魔法世界から約7000光年なので3時間で到達する。


「9万光年ってほとんど銀河の端から端じゃねえか!!」

そうだよね?!下界のモンにはビックリするレベルで近くはないよね?!


これ以上、高位次元存在の霊視さんαと宇宙の話題で話したら夜寝れなくなりそうなので話しを仕事の方に戻す事にしたセリス。


「それでね?仕事の話しなんだけど・・・」


《ほうほう?色々ありますね》今日は霊視さんβも来ましたよ。


「ん?あれ?」


最近になってようやくセリスも霊視さんαと霊視さんβが違う人物?だと分かった。


何で霊視さんが2人も居るのかは全然分からないが霊視さんαは霊的存在で霊視さんβには本体が居る事は会話内容や気配から分かっている。

意外に鋭い幼児なのだ。


「久しぶりね。お仕事?」


《そうねぇ、最近ゴルド王国と魔族が妙に活性化して来てね。

その対策を真魔族と協議・・・・・・・・・霊視は仕事なんてしません》


「へー?お仕事大変ね?真魔族ってヴァンパイア族よね?」


《仕事なんてしてませーん》


「嘘つけ。ふーん?真魔族の最大の拠点って「南の大陸」よね?・・・・・・

南の大陸の真魔族と協議する種族と言うと霊視さんって亜人・・・エルフさんかな?」


真魔族とエルフ族(亜人)が同盟関係にあるのは世界の共通認識だ。

こんな感じに少しずつ探りを入れているセリス。


この同盟関係は強力で人間族全ての国が結集しても亜人同盟には勝ち目が無く、この300年で人間族による亜人排斥主義が完全に下火なって共存路線に変わった原因である。

人間族の勢力など魔法世界ではせいぜい5番手程度の勢力に過ぎない。


だんだんと霊視さんβの正体がバレて行く。そもそも隠す気あんのかも疑問だ。


《私はエルフさんではありません》とか言いながら霊視設定をまだ続ける様子の霊視さんβだが、もうとっくに破綻してんじゃね?


余談になるがセリスにも微量のエルフの血が流れているので何となくエルフの気配を察知出来ます。


そしてセリスの高祖母にあたる100年ほど前にピアツェンツア王国の王族に嫁いで来たウッドエルフのお姫様は霊視さんβの母方の親戚筋なので氏族感知の意味でも同じ氏族のセリスには何となくバレています。


ちなみにこのウッドエルフのお姫様は元気バリバリに存命しており(ウッドエルフ的にはまだ30代前半)ピアツェンツア王城の離宮に住んでいてエルフ達の国、ラーデンブルク公国との外交交渉を担当しております。


玄孫のセリスをめっちゃ可愛がっておりエルフの女王イリスの話しも良くしてくれてます。

これでよくバレねぇな?と思えるくらい情報統制もガバガバな霊視さんβです。


つーかウッドエルフのお姫様の輿入れの仲人をしたのは霊視さんβじゃねぇか・・・


話しを依頼内容に戻して、《うーん?金額が高いのはどれもセリスには合いませんね・・・何もかも私が消し飛ばして良いなら話しは別ですが》とか物騒な事を言う霊視さんαの提案で次は安い順に見て行く。


1・王都西の霊園の見廻り「夜間限定」1日15000円(相当)


「夜間か・・・無理ね、寝てるし、それ以前に夜間の外出許可が出る訳ないし」

9歳児セリスはまだまだグッスリと寝て成長するのが仕事だ。


それに夕方6時が門限厳守で事前の許可無く1分でもそれを破ると暫くの間(最低一ヶ月)は外出禁止になる。

一見放任主義にも見えるが夜遊びを許すとか、コーバ公爵もそこまでセリスの暴走を見逃してはいない。


基本的な所はガッチガチに〆てはいるのだ。

そして基本的には真面目で良い子のセリスも守っている。


と言うよりはコーバ公爵の寄付癖が無くてカターニア公爵家の財政が安定していたら間違いなくセリスは普通の公爵令嬢として育っていただろう。


2・ゴースト・メナスへの対処、1日20000円(相当)


「ゴースト・メナス?って何じゃい?」


《分かり易く言うと「幽霊被害への事前対処」ね。

例えば重要施設へ幽霊専用の退魔結界を張るとかかな?》


「だってさ。フェナGO!ここに適任者おった」


「何の話しですか?」当然フェナには霊視さん達との会話は聞こえていない。


依頼内容をフェナに質問をすると・・・「私のやり方だと赤字になりますね?」との事。


フェナの退魔結界は札を大量に使用するので施設の大きさにもよるが紙代だけで50000円(相当)分の紙代は必要になる。

魔法陣を使用するより物質(札)がある分、耐久力が増すらしい。


「そもそもこれってクレリック(聖職者)限定依頼ですね」

この依頼は手が空いてる牧師さんとかが交代でやっている慈善事業らしい。

とても商売としては成立しないとの事。


「あのギルドマスターは、そんな仕事を何で私に振ってんの?」


「多分、お嬢様に聖職者の適正があると思っているんじゃないですか?

一応、お嬢様に聖属性の適正があるか調べて見ますか?」


簡単に調べれるらしいので元聖女のフェナにセリスの聖属性適正を調べて貰った。


チュウウウウウウウウ

「んぐう?!?!」思い切りフェナにキスされるセリス。

口から魔力を吸い上げてどれだけ聖力が含まれているのか調べているのだ。


ポン!「ふう・・・お嬢様は大地と風の魔力が強いですね」


「で?どうなの?」キスされた事は気にしてない様子のセリス。

赤ん坊の頃から家族や王妃ファニーやウッドエルフのお姫様にチュッチュッされているからね。


さて検査の結果は?


「うーん?聖力の適正はDですね」


「またなんちゅう微妙な・・・」

一般人よりは才能があるが聖職者になるには10年単位での修行が必要なレベルだった。


「今から修行をすれば20歳前には聖職者になれますけど・・・修行します?」


「その前に追徴課税で破産します」

今必要なのは2ヶ月後の240万円(相当)のお金で10年の修行をしている場合ではない。


3・冒険者に憑いた動物霊のお祓い、1回30000円(相当)


「何じゃいこれ?」


《あー・・・冒険者アリアリね。

冒険者って採取の仕事で毛皮とか牙を取るでしょ?その時に狩った動物霊に憑かれるのよ。

憑かれると倦怠感や精神不安定症になるから定期的にお祓いをするんだけど祓い師って数が少ないから予約待ちになるの。

その間は仕事に支障が有るから冒険者には死活問題になっているって訳よ》

だから一回30000円と言う比較的高額報酬になってる訳だね。


「でも私にお祓いなんて出来ないわよ?」


《そこは私の出番ですね。

セリスには霊を体内に取り込む特異体質が有るから一旦動物霊を取り込んで貰ってから私が浄化すれば良いわ》

セリスの体内には女神アテネの神力が巡っているので動物霊程度の異物は即座に霧散するだろう。


「取り込む?それって私が危なくない?!」

狐憑きとかの怖さを知っている元日本人なのでビビるセリス。

かつての妹ちゃんの時とは訳が違う。


《私の加護が有るから大丈夫よ?動物霊程度で精神不調や体調不良になるほど私の加護は弱くないわ》


何せ霊界への送り人であるハイエルフの加護だからね。

それに体外魔法不器用のデバフが有るセリスでも、この取り込む内向方法なら確実に祓う事が出来そうだ。


「もし不味くなったら私のエクサホーリーもありますよ?」


「あ・・・そか」


もし万が一にセリスが憑かれて「ウッヒョー状態」になってもフェナのエクサホーリーで一発だろう。


とりあえずやって見ない事には何も始まらないので「動物霊祓い」の特別依頼を受ける事にしたセリス。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なぁにこれぇ?」


「まぁ・・・何事も雰囲気って事じゃね?」

霊祓い師の世界はイノセントには良く分からん世界なのでえらく雑な説明をされる。


お祓い開始の日に冒険者ギルドへ来て見たら何か変な部屋に連れて来られたセリス。

冒険者ギルドの空き部屋に「セリスの間」が作られて部屋には適当にこしらえた怪しげな装飾とかされており中央には祓い師のコスプレをしたセリスが鎮座している。


《うーん?この衣装はイマイチね。普通にシスターの格好で良かったのに・・・》

今のセリスが着ている服はエクソシストで出て来た髭ダンディーの親父さんの服装に似ている。

セリス的には琴線に触れるコスプレではない様子だ。


「じゃあ、お祓いを始まりますよ~」担当女性職員の気の抜けた合図で除霊がスタートする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「先生・・・お願いします・・・」

祓い師セリスの前には真っ青な顔色をしてげっそりした中年冒険者が項垂れている。


《うわあ?!これ思ってた以上にヤバくない?!》


動物霊を舐めていた訳でもないが思ってた以上に重症な冒険者の様子にマジビビるセリス。

しかし2ヶ月後の追徴課税240万円(相当)の方が怖いので祓って見る事にする。


「気を静かに・・・はい!」

掛け声と共にヒュルン!とセリスの体内に何かが入り込む!


「おっ?!」と、セリスは異物感を感じたが女神アテネの神力とハイエルフの加護により一瞬で浄化される動物霊。


「・・・・!!!・・・治った・・・怠さが無くなりました先生!」

あっという間にスッキリした顔の中年冒険者が手をグーパーさせる。

「ありがとう!ありがとうございます先生!」よほどきつかったのか満面の笑顔でお礼をする冒険者。


「お・・・お役に立てて何よりです」

セリス自身は何もしていないが見事にお祓いを成功させてしまう。


余談になるが、この除霊方法は「イビルスピリット」クラスの悪魔由来の悪霊でも除霊が出来てしまうのだ。


オリュンポス12神の女神アテネの神力とハイエルフのイリスの魔力に溢れるセリスの体内は言わば「エクサホーリー」の塊と言っても過言ではないからだ。


おそらく知恵有る悪霊ならセリスのヤバさを感じて取り込まれない様に全力で逃げるだろう。


「何か行けそう!次行きましょう!」


「おお!行けますね!ドンドン行きましょう!」

散々苦情が来ていたのか担当女性職員も嬉しそうだ。


「あ・・・お嬢様?・・・まあ・・・」

元聖女のフェナにはこの除霊方法の問題点が分かった様子だが周囲の雰囲気から止められなそうなので黙っていた。


こうして祓い師セリスの除霊は有名になり1日5名以上が「セリスの間」に訪れる程に大人気となり一ヶ月も掛からずに追徴課税分240万円を稼いでしまったのだ。


「これは・・・これからも大儲け?!」と、目論んだセリスだったが世の中そうは甘くは無い・・・



約一ヶ月後・・・



「ぶへぇ・・・苦しいよ~フェナ助けて~」


「そりゃ霊を取り込むのは「毒を摂取」するのと一緒ですからね。

1体や2体ならともかく一ヶ月で100体近い霊を取り込んだらそうなります」


霊を除霊した際に微量の毒が発生するらしい。

一応はセリスの体内に残った毒はフェナが法力でその都度浄化はしていたのだが数をこなすと後遺症が出るのだ。


毒は即座に浄化されて霊的、精神的に問題なくても体力的には徐々に衰弱して行ったセリスはそれから一ヶ月ほど寝込み「セリスの間」は惜しまれつつも封鎖されたのだった。


《いや~、まさかこうなるとは。この除霊方法は封印ですね》テヘペロ状態の霊視さんβ。


《そうですねぇ。人間の身体とは脆いんですね》

霊樹さんαも霊視さんβも自分の体力を基準にモノを考えていたらしい。

いや・・・神様のお前らと一緒にすんなよ。


「アンタ達!大丈夫だって言ってたじゃんか!!・・・うええ??

フェナ~?吐きそうだよ~助けて~」


「それだけ元気なら大丈夫ですよ」物理的な不調なので聖女にもどうにもならん。

胃薬を飲んで寝てればこの内に治るらしい。

この辺りが霊的な回復魔法の限界点で物理的な薬師やお医者さんが絶対に必要なのだね。


実際に9歳児がこれだけの無理しても吐き気が止まらん程度で済んだので霊視さん達の言う事は安全面で間違いでは無かったのだが、「二度とこの除霊はやらん!」と、固く誓ったセリスでした。


祓い屋セリスの廃業だった。でも計画通りに追徴課税分は稼げたから良かったね!

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