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断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~  作者: 古堂素央
第八章 真実はいつもひとつとは限らない

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わたしだけの距離

 ん? これってば年を取った山田かも?

 その山田がベッドに横たわったわたしの手を握ってる。


 山田の手はしわしわで、握られてるわたしもやせ細った感じのしわしわだった。

 BGMみたいに、無機質な電子音がわたしの鼓動を伝えてて。

 ここ、病院なのかな? 点滴の管が腕につながってるし。


 おじいちゃんになった山田を見上げながら、わたしの口がひとりでに開いていく。


『わたし、先に()くけれど……』

『いやだ、華子さん、俺を置いて逝かないで』


 瓶底眼鏡の下から、透明なしずくがしたたり落ちてくる。

 昔からそう。

 山田ってば、ずっと泣き方変わらないね。


『この不思議な世界に来て、あなたと会えて……わたし本当にしあわせだったわ』

『そんなこと言わないで。これからもっともっとしあわせにするから』

『だったら、生まれ変わってもわたしを見つけて。わたし、あなたを待ってるから……』


 ああ、そっか。

 これは華子(わたし)になったハナコの記憶なんだ。


 階段から落ちて、入れ替わって、山田と恋に落ちて、ずっと人生を共にして。

 日本で過ごしたハナコの記憶が、どんどん頭の中に流れ込んでくる。


 どうして忘れていたんだろう。

 そう思えるくらい山田との思い出は鮮明で。


(これはハナコの記憶? それともわたしの記憶?)


 もうどっちでもいいか。

 わたしはハナコで、ハナコはわたしで。


 あの日の約束通りに、生まれ変わったこの世界で山田はわたしを見つけてくれたんだ。

 あ、うれしくて、なんか涙出てきた。


 ふっと意識が浮上して。


(ゆめ……?)


 なのに実際に涙は流れてて。

 いまだ見慣れない天井がぼやけて見えた。


 薄暗い病室はちょっと不安だ。

 さっき見ていた山田とのしあわせな記憶も、(かすみ)がかかったみたいに思い出せなくなっていく。

 そのとき、あったかい何かがこの手をきゅっと握り返してきた。


「シュン様……」


 椅子に座った山田が、わたしの手を握ったままベッドに突っ伏して眠ってる。

 疲れてるのかな。

 起き上がったわたしにも気づかず寝入ってるし。


 ずれた眼鏡をそっと顔から抜き取った。

 すると天使の寝顔が現れて。


(ああ、やっぱり世界一のイケメンだわ)


 うっとりと、頬にかかる髪を指先で整えた。

 それでも山田は目覚めなくって。これは相当疲れているんだな。

 そんな中でも会いに来てくれたんだ。そう思うと、どうしようもなくうれしさがこみ上げてきた。


(そういや山田、おじいちゃんになっても瓶底眼鏡だったな)


 ということは前世の日本でも、山田の素顔を知るのはハナコ(わたし)だけだったってことだよね?


「ハナコ……?」


 あ、ごめん、起こしちゃった?

 やだっ、眠そうに目をこする顔も大天使級でマジ最高なんですけどっ。


「む、ハナコ。こんなに頬が冷たくなって」

「シュン様、そちらは花瓶ですわ」


 花の生けられた花瓶に話しかけてるし。

 わたくしの顔、そんなに大きくありませんのことよ?


「もう、ハナコはこちらです」


 両手で顔を挟んで、ぐいとこちらに向けさせた。

 ぎゃっ、一瞬でしかめっ(つら)の極道顔に!


「そんな怖いお顔をしないでくださいませ」

「なに? そんなに怖いか?」

「ええ、とっても。さ、こうして眉間のおシワをのばして、視線はもっとこう、ぼんやりと遠くを見つめる感じになさって? ほら、とっても素敵なシュン様になりましたわ」

「しかしこれではハナコがよく見えないんだが」

「いいんです。わたくしはシュン様がよく見えますから」


 うっとりと微笑むと、山田は不服そうに目を凝らしてきた。


「ですからそんなに(にら)みつけてはダメですわ。もっと力をお抜きなって。そうそう、わたくしシュン様のそのお顔がとっても気に入っておりますのよ」

「その顔と言われてもだな。わたしもハナコの顔をしっかりと見たいんだ」


 眼鏡を探る手を制して、わたしは山田に顔を近づけた。


「ほら、これだけ近ければわたくしがよく見えますでしょう?」


 鼻先すれすれまで近寄って。

 寄り目気味の山田は、わたしの理想の天使のまま見つめ返してくる。


 ずっとこの顔でいてほしいと思うけど。

 本当の山田の素顔を知ってるのは、今も昔もわたしだけなわけで。


「確かに見えることには見えるが……」

「何かご不満でも?」

「いや、こんなに近いとだな。その、わたしも我慢がきかなくなるというかなんというか……」


 しどろもどろで目を泳がせてる山田。

 困り顔もまた理想のイケメンで。


 わたしだけが会える、わたしだけの天使。

 そう考えれば、普段はむしろ瓶底眼鏡でいてくれって感じかも?


 わお、オドロキ。

 わたしってば、こんなに独占欲強かったんだ。


「あら、なぜ我慢なさいますの?」


 たまらなく愛しくなって、気づいたら山田にキスしてた。

 初めてじゃないけど、急に恥ずかしさが込み上げてきて。

 あわてて顔を離したら、山田がばっと自分の鼻を両手で覆い隠した。


「きゃーっ、シュン様ぁ……!」


 ボタボタとしたたる鮮血に、とっさに二枚ティッシュを魔法で飛ばす。

 ズボッとはまった鼻ティッシュがなんとか鼻血をせき止めた。


「もう、仕方のない方」

「す、すまないハナコ。いま浄化の魔法をかけよう」


 血濡れたベッドが真っ白さを取り戻すのと同時に、探し当てた眼鏡を山田はすちゃっとかけた。


「ハナコ、いまはまだ我慢するが……ハナコがきちんと回復したら、もっとちゃんと仕切りなおさせてほしい」


 し、仕切りなおすって、キスをっ!?

 そんな改められると、めちゃくちゃ恥ずかしんですけどっ。


「ダメだ、これ以上いたら歯止めが利かなくなりそうだ。また見舞いに来る。夜中に起こしてすまなかった。今度は明るいうちに来る。もし来られなかったら夜に来るが、ハナコが眠っていたら寝顔だけで我慢する。絶対に触れたりしない。寝顔だけだ。寝顔を見るだけだっ。ああ、ここにいては危険だっ。ハナコがっ、ハナコが可愛すぎるっ。お休みハナコ、また明日(あす)に会おう」


 早口でまくし立て、鼻ティッシュのまま山田はぱっとかき消えた。

 しばらくこみ上げる笑いが止まらなくって。


 ってか、可愛すぎるのは山田の方でしょ。

 なんてことを思ったわたし、相当痛いってなったけど。

 前世からの約束じゃあ、反故(ほご)にするのも可哀そ過ぎるし?


 責任取って、ちゃんとしあわせにしてもらおっと。


NEXT ▶ 終章 桜散る散る卒業イベント


 次回、最終話です!

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