答え合わせはベッドの上で
ベッドの中、体を起こしてしゃくしゃくとリンゴをかじっていたら。
「またそんな身にならないもんばっかり食べて。血が足りてないんだから、肉を食べなさい、肉を」
「そうだよ、姉ちゃん。もっと力が出るもの口にしないと」
「そんなこと言われても……」
まだ微熱が続いてるし、あんま重たいもん口にする気分じゃないんですけど。
今いる場所は王族専用の療養施設。
あのあとここに担ぎ込まれて集中治療を受けてるんだ。
銃弾が肩を貫通したものの、幸い命に別状はなくて。
これも未希の回復魔法が適切だったおかげなんだよね。
もう一生頭が上がらないよ。いや、これまでもずっとだったけど。
「にしてもあの土壇場で、姉ちゃんよく転移魔法が使えたよな」
「ほんと、ソレ。華子ってば昔から悪運だけは強いんだから」
うん、自分でもそう思ってる。
心臓直撃コースだった銃弾は、わたしが転移魔法を発動したおかげで致命傷にはならなくて。
まさに火事場の馬鹿力ってヤツ?
もっと華麗によけられたらよかったんだけど、わたしの実力じゃおしり半分分の移動が限界でさ。魔法が発動しただけでも奇跡って感じ。
あと数センチずれてたら即死だったよって。魔法医の先生にニッコリ笑顔で聞かされて、ガクブルしちゃったのはここだけの話ね。
「そもそもどうして健太にシュン王子のそばまで運んでもらわなかったのよ。そうすればもっと早く大使を止められたのに」
「イヤだって、あのときは会場の混乱がすごくって……」
「俺もちょっとテンパってたし。姉ちゃんをステージに運んでたとしても、すぐにゆいなを探しにあの場を離れてたと思う」
「ま、結果は変わらなかったかもね。大使が失敗したときの保険で、護衛の男まで刺客として紛れ込んでたんだし」
「本来なら戦争勃発の騒ぎだよな。なにしろ王子の命が狙われたんだから」
実は今回のこの騒ぎ、ある程度何かが起こるだろうってことは山田もリュシアン様も事前に分かってたみたいなんだ。
ここ数年、ヤーマダ国のあちこちで不穏分子の犯罪が頻発してて。フランク学園内に部外者が入り込んだりしてたのもその一端だったらしい。
で、イタリーノにはびこるマフィアが裏で糸を引いているのが判明してさ。イタリーノ国の協力も得て地道に捜査を進めてたって話。
協力者にはロレンツォも入ってて、わたしをイタリーノに連れ出そうとしたのはその方が安全だと思ったからなんだって。
「しかしまさか大使が裏切ってたなんてね。協力するふりしてこっちの寝首をかこうとしてたんでしょう?」
「うんでも未希姉ぇ、俺が聞いた話だと、大使の凶行は家族の命を盾に脅されてのことだったみたい」
「うわ、イタリーノマフィア、闇がふかっ」
ホント未希の言う通りだよ。
百年かけて築いてきた平和を、自分たちの欲望を満たすためだけに簡単に乱そうなんてさ。
「ねぇ健太、今回の騒ぎの首謀者ってまだ捕まってないの?」
「それが捕まったのは末端ばかりで、上層部の尻尾が上手く掴めないんだってさ」
「そうなんだ……」
「ヤーマダ国としては、この騒ぎで一気にカタをつけたかったみたいだけどね」
「わたしがしたことって余計なことだったのかなぁ」
暴動が起こるのを知ってたなら、山田だって十分警戒してたはず。わたしが飛び出したおかげで余計に騒ぎを大きくしちゃったんじゃ。
「それはないよ、姉ちゃん。大使がスパイだって誰も気づいてなかったって話だし」
「そうよ華子。あんたがいなかったら王子は確実に撃たれてたって」
「姉ちゃんだったからよかったってわけじゃないけどさ、もしもシュン王子が撃たれてたらマジで戦争になってたかもよ?」
「言えるわね。いくらイタリーノ国も捜査に協力してたからって、大使がやらかしたんじゃ宣戦布告に等しいもの」
「そう言ってもらえると、わたしも撃たれた甲斐があったよ。あたた……」
痛み止めが切れてきたかな?
なんだかまた熱が上がってきた感じ。
「ほら、バカ言ってないでおとなしく横になってなさい。回復魔法にも限界があるんだから」
「うん、分かってる」
魔法はあくまで初期治療のサポートだから、残りは自分の生命力で回復するしかないんだよね。
ふたりが帰って静かになった病室で。
薬を飲んだせいか、うつらうつらと眠くなってくる。
山田とはあれ以来顔を合わせてないんだ。あっちもテロ騒ぎの後処理でいろいろと忙しいらしくって。
時々見舞いには来てくれてるみたい。だけどわたしが寝ちゃってる時間ばっかりで。
寝顔とか見られてるの、なんか恥ずかしいな。
(わたしだって山田の顔、見たいのに……)
なにコレ、恋する乙女みたいな思考回路じゃない?
自分でも笑っちゃうし。
そんなことを思いながら、ウトウトとまどろんで。
『……こさん……はなこさん……お願い……いて……かないで……』
だぁれ? わたしを呼ぶひとは。
心地いい声。聞き慣れてるのに、もっとずっと聞いていたい。
薄く目を開けると、そこには瓶底眼鏡のおじいちゃんが座ってた。




