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断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~  作者: 古堂素央
第八章 真実はいつもひとつとは限らない

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後には引けなくて

 すぐにやってきた冬休み。

 ここ数日はメイドたちが旅行の準備してるのを、ソファに座ってぼんやり眺めてる。

 なんだかたのしそうだな。きゃいきゃい荷造りしてて、まるで自分が行くみたいにはしゃいでるし。


 わたしの留学の話は、王家主導で怖いくらいトントン拍子に進んでる。

 で、その前に冬休みを利用して、一度リュシアン様とイタリーノ観光に行くことになったんだ。

 これまでの努力の結果だし、わたしも大よろこびしてるとこ。


(本当なら……なんだけど)


 はぁ、とため息をつくと、そばにいたメイドがびくっと体をすくませた。


「すみませんっ、うるさかったですよね! いますぐに片づけますのでっ」

「ああ、いいのよゆっくりで。むしろわたくしがここにいたらみんなの邪魔ね」

「お、お嬢様が邪魔だなんて、とんでもございません!」


 最近のわたしの言動にメイドたちも戸惑ってるみたい。

 以前のハナコなら、いちいち使用人に声かけることもなかったからね。仕方ないっちゃあ仕方ないんだけど。


「あなたたち、手を止めないで作業を進めなさい!」


 メイド長がてきぱきと指示を出してくる。

 入れ替わりの激しいメイドの中でも、彼女はいちばんの古株で。ずっと身の回りの世話してもらってるけど、そういや名前も知らないや。


「お嬢様、騒々しくして申し訳ございません」

「大丈夫よ。みんなわたくしのためにやってくれてるんだもの」


 言葉にはされなかったけど、メイド長もちょっと驚いた顔して手を止めた。


「ねえ、今のわたくしってそんなにおかしいかしら?」

「おかしくはございませんが……」


 口ごもって目をそらされる。

 ハナコってば、気に入らないとすぐメイドをクビにしてたからなぁ。もうそんなことしないから安心してほしいんですけど。


「怒らないから思っていることを言ってみて」

「はい、最近のお嬢様はお変わりになった……と言うより、むしろ子供の時分のお嬢様に戻られたように感じております」

「子供のころのわたくしに?」


 はて、思ったのと違う回答が出てきたぞ?

 戻ったって言われても、ハナコってばどんな子供だったっけか。

 ダメだ、ことあるごとに高笑いしてる場面しか思い浮かばないっ。


「幼い頃のハナコお嬢様は、使用人や動植物にも分け隔てなくやさしく接する天使を体現したかのようなお子様でした」

「まぁ、そうだったかしら……?」

「それが淑女教育を学ばれるにつれ、貴族としての誇りを抱かれるようになりまして……」


 ああ、なるほど。貴族たるもの目下の人間に舐められちゃアカンって感じか。

 そういや「威厳(いげん)ある笑い方」とか言って、あの高笑いを毎日鏡の前で練習してたような?

 ってか、まわりの大人、そういう子供の奇行は全力で止めようよっ。


「今のお嬢様はあの頃の天使に戻ったよう思います。まぁ、わたしとしたことがおしゃべりが過ぎました」

「いいのよ。話してくれてありがとう」


 にしても天使のハナコか……。

 言われてみれば、ちっちゃいときは庭で花摘んだり、小鳥に餌をあげたり虫の観察なんかもよくしてたっけ。


(ぬをっ。天使って言われて、山田のことを思い出しちゃったよっ)


 決闘の日以来、山田の顔がずっと頭から離れてくれなくて。

 極道顔の山田は、視力が悪すぎて怖い目つきになってただけなんだよね。

 間近で見たあのイケメン天使が、本当の山田の素顔だったんだ。それが分かったところで、今さら後に引けるわけもなく。


 わたしの留学は国家間で話が進んでるし、とてもじゃないけどやっぱりやめますなんて言い出せる雰囲気じゃない。

 理想のイケメンを探すため、ようやく手にした留学だったけど。

 それなのに理想の天使はとっくの昔にそこにいて。


(卒業式の婚約者指名イベント、山田は誰を選ぶのかな……)


 ゲームでは王子がヒロインを指名してエンディングを迎えるけど、今の世界線じゃユイナは完全に候補から外れてるはず。

 決闘なんてせずにあのまま山田の手を取ってたら、わたしが結婚相手に選ばれてたんだろうな。

 そんなこと思っても、時間を巻き戻すことなんてできないし。


 堂々巡りの思いを抱えたまま、翌日旅行の件でお城までリュシアン様に会いに行った。

 何度も素直な気持ちを打ち明けようと思ったけど、最後まで言い出せず仕舞い。

 留学の詳しい計画なんかも話題に出て、途中イタリーノ国の大使に挨拶したりして。警備の兵はたくさんいるし、個人的な相談なんてする余裕もなくあっという間に帰る時間になっちゃった。


「次に会うのは旅行の当日じゃな。かっかっか、わしも今から楽しみで仕方ないわい」


 リュシアン様とお城の廊下を歩いてたら、遠目にイタリーノ大使といる山田が見えた。

 一瞬目が合って、お城だからと公爵令嬢として礼を取ったんだけど。

 いつもみたいにわたしに駆け寄ってくると思ったのに、山田はそのまま大使を連れて行ってしまった。


(今は外交中だもんね。学園にいるときみたいには振る舞えないか)


 ちくっと痛んだ心を、そんな言葉で慰めた。

 でも決闘の日以来、山田は「適切な距離」を保つようになっていて。学園でも軽くあいさつをするだけで、ほかの生徒に対する対応とまったく変わらなくなってしまった。


(「なってしまった」ってなんなん?)


 早くそうなってくれって、ずっと望んでたはずなのに。

 そっけない山田の態度に傷ついてるなんて、一体どういうコトよ?


 結局リュシアン様に何も話せないまま、膨れ上がったモヤモヤと一緒に帰路についたわたしだった。


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