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断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~  作者: 古堂素央
第七章 いざ、最終決戦

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勝敗の行方

 その間にも砂時計はサラサラ落ちて。


 飛ばす順番を間違えたらそれでアウトだ。

 ボールの位置を目で確認しながら、頭の中で最後のシミュレーションをした。


 芝生に隠れて見えづらいけど、配置は完璧。やれることはやってきたんだし、ここまできたら女は度胸よ。


(よし、行ける!)


 まずは一発目。

 山田の後方、目に入らない死角でティッシュ玉をひとつ宙に浮かせた。


「シュン様」

「なんだ、ハナコ?」


 にっこりと呼びかけて、注意をこちらに向けさせる。

 そ知らぬ顔で魔力を込め続けた。

 いま振り返ったりしないでよ。ここで気づかれたら、何もかもが台無しだもの。


「わたくしの魔法なんて、どうってことないとお思いでしょう?」


 見つめ合ったまま、山田の肩目がけて渾身の一撃を叩きこんだ。


「うおっ」


 衝撃で山田がつんのめる。

 よっしゃ! 出だしは順調。まさか山田も背後からいきなり来るとは思ってなかったみたい。


 畳みかけるようにひざ裏にもう一発。

 たたらを踏んだ足首に、すかさず三発目を当てにかかった。


(あとひと息!)


 崩れかけた背中に、とどめのもう一発……!

 山田のひざは今にも地面につきそうになって。

 勝利を確信して手を緩めかける。だけど山田はすれすれでなんとか踏みとどまった。


 ちぃっ、しぶといヤツめっ。

 山田の後ろに回り、予備で置いてあった球を手当たり次第にぶつけていった。

 こうなったら勢いで押すしかない。


 右肩、腰、くるぶし、左肩。

 隠し持っていたボールも総動員して、とにかく投げて投げて投げつけまくった。


 不安定な体勢から立ち上がれないまま、それなのに山田は一向にひざを付いてくれなくて。

 いい加減、倒れなさいよっ。これ以上はこっちがもたなくなりそう!


 それでも根性で魔法を繰り出し続けた。

 大丈夫。わたしの魔力はまだ残ってる。自分を信じ抜きなさい、華子!


「わふんっ」


 ビスキュイの声が聞こえたその瞬間。

 手足にぬるりと何かが巻き付いた。


「えっ、なにっ」


 まるで見えない触手のように、巻き付くソレはわたしをふわりと高く持ち上げた。

 空中でからめ取られたまま身動きひとつ取れなくなる。

 はっと見やると、時計の砂はとっくに落ち切って。


 かがみこんでいた山田が、ゆらりとその場で立ち上がった。

 瓶底眼鏡の真ん中を指で押し上げ、無慈悲な言葉をわたしに告げる。


「時間だ、ハナコ」


 山田の人差し指が、ゆっくり下に向けられて。

 それと同時にわたしの体も、地面に向かって降ろされていく。


 じたばたと動いても、触手にやんわりと足を曲げられしまう。わたしのひざはどんどん芝生に近づいていった。


(え、うそ、やだ、やだ、やだっ)


 パニくって、死にもの狂いでティッシュ玉を投げ続けた。

 どこにボールが当たろうと、山田は避けようともしてこない。

 すでに魔力は尽きかけてたけど、散乱するボールをコントロールもへったくれもなく、投げて投げて投げて。


 運よく当たったそのひとつが、山田の眼鏡を半分ずらした。

 はっとして、一点に集中し狙いを定める。

 真っすぐ飛んだティッシュ玉が、見事瓶底眼鏡を跳ね飛ばした。


(当たった!)


 山田の視力はものすごく悪いはず。これで巻き返しができるかも……!


 触手の束縛が一瞬ゆるむ。

 振りほどこうとしたその瞬間、ふたたび触手がからみついてきた。


「あきらめるんだ、ハナコ」


 裸眼の山田は、明後日(あさって)の方向を極道顔でにらみつけている。

 それでも触手は外れない。その間にも地面はますます近づいて。


(山田のバカバカバカっ)


 半泣きでティッシュ玉をぶつけまくる。やけくそで顔面に集中砲火。このまま敗北するだなんて、あんまりにも悔しすぎるっ。


 芝生の先がひざ小僧をくすぐって、折れかけた心が玉を飛ばす手を止めてしまった。


 ふいに山田がつんのめった。足元にはたくさんのボール。眼鏡がなくて誤って踏んだんじゃ……?


 気づいたときにはもう、もつれ気味の足首めがけて最後の魔法を繰り出していた。

 真っすぐ飛んだティッシュ玉は、山田の足をきれいにすくい上げて。


 ここから先は、何もかもがスローモーションに見えた。


 前のめりに倒れる山田。さらに降ろされるわたしの体。

 手をついた山田のひざが勢いよく地面に沈む。

 時を同じくしてわたしのひざも、芝生の上にふんわりと着地した。


 しん……と静まり返った庭園で。


 山田とわたしの視線が同時にリュシアン様へと向けられた。

 そのリュシアン様は手にしたオーブを覗き込んでいる。


「肉眼ではまったくの互角。いま記憶オーブで確認しておるゆえ、双方しばし待たれよ」


 かたずを飲んで見守る中、映像を見終えたリュシアン様がひとつ大きく頷いて。

 そしてゆっくり片手を上げた。



「勝者、ハナコ嬢――!」


NEXT ▶ 第八章 真実はいつもひとつとは限らない


次回から最終フェーズに入ります。

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