表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~  作者: 古堂素央
第六章 初恋は時空を超えて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/78

理事長のお呼び出し

「ハナコ・モッリです。お呼び出しを受けてまいりましたわ」


 覚悟を決めて、重厚な理事長室のドアをノックした。

 理事長のリュシアン様には初めて会うから緊張しちゃう。

 王子である山田のおじい様ってことは、それはすなわち前国王ってことで。現役時代は威厳ある王様だったって、そんな話をよく大人たちがしてたっけ。


「待っていたぞ」


 ひとりでに開いたドアの奥から、落ち着いた声がした。


 何このイケボ!

 めちゃくちゃ好みの声なんですけど。


 どんなイケオジが待っているのかと、期待しながら部屋に入った。


(ん? 誰もいない?)


 見回しても人影はなくて。

 その代わり、書斎机の横に飾られたオナガドリみたいな置物が目についた。

 高いスタンド式の止まり木にいて、綺麗な尾羽根が長く床まで伸びている。


「まるで本物みたいね。剥製なのかしら……?」

「ひとを勝手に殺すな、失敬な娘だな」


 と、鳥がしゃべった!

 しかも魅惑のバリトンボイス!


「ご、ごめんなさい。わたくし、置物かと勘違いしてしまって」

「まぁ、いい。我が名はアーサー、リュシアンの使い魔だ。以後忘れるな」

「アーサー……様ですわね」


 一応敬語にしてみたけど、対応は間違ってなかったみたい。アーサー、うむってうなずいてるし。

 使い魔って気位が高くって、従う相手を選ぶらしい。魔力が強くても誰彼なく使役できるものじゃないんだ。理事長、さすがは元国王って感じだな。


「リュシアンならその転移サークルの向こうにいる。さっさと行くがいい」


 広げた片翼の先の床に、魔法陣が描かれていた。

 これは転移サークルって言って、決まった場所を行き来する個人用の転移門。


「こちらはどこに通じているのでしょう?」

「何、行けば分かる」


 そっけないアーサーの言葉に押されて、サークルの真ん中に立った。

 魔法陣の文字が輝いて、眩しさに目をつむる。光の柱が立ち昇るのと同時に、特有の浮遊感に包まれた。


 次に目を開けたときは、転移先の魔法陣の上にいて。

 さわやかな風が花の香りを運んでくる。見回すと、色とりどりの薔薇の花が揺れていた。


(あれ、ここって……?)


 まさかって思ったけど、やっぱり見覚えのある庭園で。

 とりあえず理事長を探すしかないか。


「わふん!」

「ビスキュイ!」


 茂みから飛び出してきた大きなモップ犬を、とっさに全身で受け止めた。

 ビスキュイがいるってことは、やっぱりここってお城なんだな。

 ってかビスキュイ、メイク崩れるからあんま顔舐めまわさないでっ。


「なに? ついて来いって言うの?」


 スカートのすそをひっぱってくるビスキュイに連れられて、庭の小路を進んだ。

 しばらく行くと、夏に招かれたときにお茶したテーブルが見えたんだけど。

 その椅子のひとつで、身なりのいい男の人が本を読んでいる。理事長かと思ったら、それはなんと保健医のヨボじいで。

 ビスキュイがヨボじい目がけて走って行って、わふんっと大きくひと鳴きした。顔を上げたヨボじいが、わたしに気づいて手招きをしてくる。


「ハナコ嬢、良く来られましたな」

「先生も理事長にお呼ばれになったのですか?」


 首をかしげると、ヨボじいは意地悪い感じでふっと笑った。なんだからしくないんですけど。

 いつもの白衣じゃないから、そんなふうに感じるのかも?

 まぁ、お城に招かれたんじゃ、ちゃんとした格好してないとマズいよね。


「それにしても、理事長はまだいらしてないのですね」


 きょろきょろと見回していると、メイドがわたしの分のお茶を運んできた。


「どうぞおかけくださいませ。ハナコ・モッリ公爵令嬢様」

「ありがとう」


 お礼を言うとちょっと驚いた顔をされちゃった。

 ここは公爵令嬢として、当然とばかりにふんぞり返って座るべきだった?


「ではリュシアン様、ご用がございましたらすぐに参ります」

「うむ、しばらく下がっていなさい」

「仰せのままに」


 ヨボじいに礼を取ったメイドを見送って。

 ってか、メイドっ。

 いまヨボじいに向かってなんつった!?


「先生、もしかしてあなたは……」

「そろそろネタばらしをしても良い頃合いかと思うてな」


 イタズラが成功した子供みたいな顔で、ヨボじいはウィンクを飛ばしてくる。

 驚きで固まったあと、じわじわと事情がのみ込めてきて。


「もう、先生が理事長でいらしただなんて! リュシアン様も人がお悪いですわ」


 いまさら態度を変えるのもおかしい気がして、大きく頬をふくらませた。

 リュシアン様もかっかっかと大きな笑い声を立ててくる。

 ひとしきり拗ねて見せたあと、わたしは一度立ち上がった。貴族としての所作で礼を取る。


「リュシアン様、改めてご挨拶申し上げます。モッリ公爵家長女、ハナコと申します。知らなかったこととは言え、これまでの無礼の数々をお許しください」

「なに、かしこまらずともよい。騙しておったのはこちらの方ゆえな」


 促されてまた椅子に座った。

 どっしりと構えているリュシアン様、貫録が全身からあふれ出しててさすが元国王って感じ。

 これまでヨボヨボっぷりは全部演技だったんだろうな。


「でもどうして校医をされているのですか……?」


 理事長が保健医やってるなんてさ。まして元国王が就くような職ではないんじゃない?

 理由が孫の山田が気になってとかだったら、じじバカにもほどがあるんですけど。


「前にも言ったがの、頭と体が働くうちはこの老いぼれも人様の役に立とうと思うてな。それに若者の青春をのぞき見するのは、なかなかに楽しいものよ」


 かーっかっかって笑うと、リュシアン様は一転、真面目な顔でじっと見つめてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ