表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~  作者: 古堂素央
第四章 その王子、瓶底眼鏡につき

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/78

山田の眼鏡

 山田の素顔を確認すること。

 そんなイミフな指令を未希から受けたけど。


(雪山から帰って以来、山田から一度も接触ないんだよね……)


 ハナコの迷惑っぷりに、さすがに嫌気いやけがさしたとか?

 でもその割に見舞いの花束は届けられてるし。

 この前みたいに会いに来る気配がないのはちょっぴり不気味。嵐の前触れとかじゃないこと祈ってる。


 なんて言ってるうちに、体調が戻らないままあっという間に夏休み。

 新学期まで山田に会う口実なくなっちゃった。

 未希も無理してまで会えとは言わないだろうから、とりま平穏な日々を満喫しようっと。


 って思ったのはいいんだけど、長期休暇なんて今までどうしてたっけ?


 我が家は何といっても公爵家だからね。学園がなければわたしも深窓の令嬢って感じの生活でさ。

 買い物するにしても屋敷に外商呼んで、自分からお店に行くことも滅多にないし。


 あとは知り合いの令嬢たちを呼びつけたりかな。

 取り巻きたちもハナコのお誘いじゃ断りづらかったろうに。ブラック企業は廃業したから、これからは無理強いしないよう気をつけなくちゃ。


「それにしても暇だわ。未希も遊びに来てくんないし……」


 夏休みの間は忙しいって冷たく言われちゃって。なんでも会員制の秘密の会合があるんだとか。

 参加者はみんな仮面着用必須で、仮面舞踏会ならぬ仮面マーケットって呼ばれているらしい。

 略してカメケ。ってか、要するに薄い本の即売会で、集まるのも貴腐人ばかりって話。


(思えばジュリエッタは招集かけても、いろいろと理由つけて来ないことが多かったっけ)


 未希のヤツ、相当昔からオタ活して地道に仲間を増やしてたんだな。この世界を満喫しててうらやましいとか思っちゃう。

 わたしも好きなこと探さなきゃなぁ。やっぱ前世でできなかった夢、叶えたいしね。


 せっかく公爵家の令嬢に生まれ変わったんだもん。好みのイケメンゲットして面白おかしく生きてくのが理想かな?

 学園を卒業したらまず何をしよう。十九歳になったら社交界デビューできるし、舞踏会でいろんな出会いが待ってるかも。


 できれば男らしい系よりも、中性的でさわやかな笑顔のイケメン希望。ぶっちゃけ昔から顔さえよければ性格とかは二の次なんだよね。

 好きな顔をずっと眺めてたい。そんな感じでさ。


 なんて妄想しながら屋敷でおとなしく過ごしてたら、体調も元通り回復してきて。

 さて、せっかくだからこれから夏を楽しむか。


 って矢先に、山田からお茶会の招待状が届いた。

 一気に現実に引き戻されちゃったよ。イケメンを見つける前に、まずはギロチンエンドを回避しなきゃだった。


 トホホってなりつつも、いま王家から馬車が迎えに来たところ。

 正直言ってめんどくさっ、ってなったけど。王子からの正式な招待だからね。今日は公爵家の名に恥じない振る舞いをしてこないと。


 お城に着いて豪華な馬車を降りた。

 そんですぐに山田の元へ……とはいかなかったりするんだな、これが。


 まずは別室で身体検査。

 王族に会うっていうんで、大人数に囲まれて危険物とか所持してないかをくまなく調べられる。

 服を脱がされたり体を触られたりはないんだけど、魔法を使って全身スキャン。結い上げた髪の中から靴の先まで徹底的にって感じでさ。安全確認ができるまで小一時間はかかるんだ。


 それが終わってようやく奥に通された。お城の中はいたるところに近衛兵が立っていて、一挙手一投足を監視されてて一時も気が抜けない。


 庭でお茶会するらしく、木陰に置かれたテーブルに案内される。ここでも小一時間は待たされた。

 呼んどいて客を待たせるのもどうかと思うけど、山田もいろいろと忙しいみたい。王子として帝王学とか学ばなきゃいけないことも多いんだろうな。


 頭上には真夏の太陽が照りつけてる。でも涼しい風が吹いてて、木陰はとっても気持ちいい。

 ここは王妃様自慢の庭園。子供のころにも一回来たことを思い出した。あのときは父親に連れられて来たんだったっけか。

 初めてのお城でものすごく意気込んでたのを覚えてる。けどあんま詳しい記憶は残ってないや。


 薔薇が咲き乱れる庭を眺めていると、ようやく山田が現れた。何人も近衛兵を引き連れて、場が物々しい雰囲気に変化する。

 控えていた給仕のメイドたちが一斉に頭を下げた。こっちにまで張り詰めた空気が伝わってくる。王子を前にみんな緊張しているんだろうな。


 学園ではみんなに気さくに接してる山田だけど。やっぱり一国の王子なんだって改めて思ってみたり。


 わたしも立ち上がって令嬢の所作で礼を取った。


「王子殿下、本日はお招きいただきありがとうございます」

「そんなに堅苦しくしないでくれ、いつも通りシュンでいい。ハナコ、元気そうでよかった。やはり手紙だけでは安心できないからな」


 近衛兵を遠くに追いやると、山田はわたしの真横にわざわざ椅子をずらしてきた。しかもすかさず手を握ってくるし。

 使用人が綿密に準備した席なんだから、その努力をあっさり踏みにじるんじゃないっつうの。


 王子として周りにかしずかれても、行動は学園にいるときと変わんない。

 久しぶりのお城でちょっと気が張ってたけど、山田がいつも通りでなんだか気が抜けちゃった。


 とは言え、山田のウザ攻撃を撃退するのも普段以上に気を使わなくちゃなんなくて。近衛兵に不敬だとか言われたりしたらマズいからね。


「シュン様、これではせっかくのお紅茶がいただけませんわ」

「すまない。久しぶりにハナコに会えたものだからつい……」


 言い訳は分かったから早くこの手を離せ。

 そう口に出して振りほどけないのがもどかしい。


 っていうか、そこのメイドたち。

 生温かい目でこっち見るのは今すぐにおやめなさい。

 その間にも山田の指が、わたしの手を楽しむように撫でまくってる。


「ああ、ハナコの匂いだ」


 鼻を近づけて思いっきり吸い込むな。


「しゅ、シュン様、みなが見ておりますわ」

「もう少し堪能たんのうさせてくれ。ハナコが足りなさすぎてもう限界だったのだ」


 わたしはお前の栄養源ではないっ。

 ってか、なんだか近衛兵たちまでニヤついてるように見えるんですけどっ。


 ここはもう世間話にシフトして、一秒でも早くお茶会を終わらせるしかない。


「今日はほんと良いお天気ですわね」

「きちんとこの日を占わせたからな」

「この日を占わせた……?」

「ああ、ハナコを呼ぶのだ。最もふさわしい吉日を、神官総出で占わせるのは当然のことだろう」


 当然ってなに!? わたしのためだけに国のお抱え神官動かすなんて、むしろ職権乱用でしかないんですけどっ。


「そ、それはそうと、シュン様がご健勝で何よりですわ」

「うむ。この夏は体力づくりと魔力制御の向上を目指そうと思ってな」

「さすがはシュン様。長期休暇の間も勉学に励まれるなんて王子のかがみですわね」

「わたしはこの前の雪山で思い知ったのだ。もっと切磋琢磨せっさたくましなければ、ハナコを守ることなど到底できないと……」


 いや、そこはわたしのためでなく国のためにはげめ。それにメイドたちがざわつくような発言をするんじゃないっ。


 うわ、どうしよ。あのメイドたちの表情、王子妃候補はこのわたしだって思ってそうなんだけど。

 やだっ、みんな誤解しないでっ。山田には魔力優秀なヒロインが別にちゃんといるんだからねっ。


 断罪コースも嫌だけど山田に選ばれるのもマジ勘弁してほしい。この怪しい雲行き、なんとか軌道修正しなくっちゃ。


「雪山では本当にご迷惑をおかけしました。わたくし、シュン様にどう謝罪すれば良いのかと、いまだに悩んでおりまして……」


 手紙でも散々謝ったけど、王子妃には向いてないってしっかりアピっとかないと。


「良いのだ、ハナコ。お前は何ひとつ悪くない」

「そのようなわけには……」


 手を握られたまま、瓶底眼鏡と見つめ合うこと数十秒。

 おふたりの世界を邪魔しちゃダメよ。って目くばせし合うの、マジで止めてっ。


 おかしいな。世間話ってふつう話が膨らまないんだよ。

 天気の話題に体調のご機嫌伺い。ましてや過去の粗相の謝罪から、なぜこうも雰囲気が甘くなる?


 華子、がんばってほかに話題を探すんだ。会話が続かないような、とにかくそんなクソつまんないヤツ。

 世間話の代表格って言ったら、共通の知人? 趣味の話? 休日の過ごし方?

 ダメだっ。テンパり過ぎて、良い案が見つからないっ。


 そのときてんとう虫が一匹、瓶底眼鏡にピタッと止まった。

 そうだ! 山田の素顔、確認しなきゃだった!


「シュン様、眼鏡に虫が……」


 これを口実にして眼鏡をはずしてもらえれば……。

 って思ったのに、てんとう虫はすぐに飛び立ってしまった。


「ん? わたしの眼鏡がどうかしたか?」

「いえ、少々レンズが汚れているようですから、わたくしが」


 拭いてさしあげますわ。と言うつもりだったのに。


「おお、そうか」


 うなずくと、山田は眼鏡に向かって浄化魔法をぺろっとかけた。おかげで瓶底の表面がピッカピカに輝いてるし。


「ハナコは気が利くな」

「そういったわけでは……」

「いや、そこまできちんと見ていてくれているのだな。わたしもうれしいぞ」


 なんでそうなるっ。お前の頭ん中はお花畑かっ。


 まだるっこしい手段取るよりも、ここはストレートに山田の素顔が見たいって言った方が早いな。

 でもなんて言う?

 そんなことお願いしたら、ますます山田が増長しそう。


 もうめんどいなっ。未希が怖いから、なんとしても素顔を拝まないとなんないけどっ。


 ひとりでうんうん唸ってたら、山田が顔を覗き込んできた。


「それでだ、ハナコ。わたしはこの前の約束を果たそうと思う」


 この前の約束……?

 はて、山田と約束なんかしたっけか?


 いや待て、なに急に握る手に力を入れてるんだ?

 その上やけに鼻息荒くなってないか?

 っていうか、瓶底眼鏡が怪し気に光ってるように見えるんですけどっ。


「雪山で約束しただろう? いつか必ず、真正面から抱き合ってハナコの体を芯まで温めてやると……」

「な、内容に少々逸脱いつだつがございませんのこと?」

「そんなことはない。今こそハナコの可愛い願いを叶えるときだ。遠慮などいらないぞ」

「い、今はまったく寒くはございませんし、無理に守るような約束だとは思えませんわっ」

「なんだ、照れているのか? ハナコは奥ゆかしいな」


 誰も照れてなどおらんわっ。


 どうして山田はこんなにもわたしに執着するんだ?

 未希に言われてからずっと考えてるんだけど、ハナコが好かれる要素なんて何ひとつ思い当たらない。


「ですがシュン様はあのときおっしゃいました。わたくしを傷つけるようなことは絶対になさらないと……」

「ふっ、案ずるな。これだけの人目があればわたしもある程度の自制はできる」


 ある程度の自制ってなんなん!?


 ってか、自制なんてまったくできてないじゃないっ。

 今は真夏なんだよ、暑苦しいからそれ以上近寄んなっ。


 椅子から転げ落ちる勢いで身を引くも、周りの人間は誰も助けちゃくれそうにない。


 そこの近衛兵! ニマニマ見守ってないで、今すぐ山田の愚行を止めろっ。

 それが忠臣の役目ってもんでしょうがっ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ