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エンカウント

 公爵令嬢としてなんの疑問もなくわたしはフランク学園に通っていた。あの日、ヒロイン・ユイナが現れるまでは。


 取り巻きのひとり伯爵令嬢ジュリエッタを連れ、さっそうと廊下を進んでいたわたし。周りの生徒が次々に道をあけて行く。


 それはそうだ。公爵令嬢の立場はこの学園でヒエラルキーの上に位置する。ハナコ・モッリが道を譲るのは、それこそ王族を前にしたときくらいのものだ。


 そんな状況で階下からまっすぐ上って来る女生徒がいた。制服のリボンの色からして一学年下のようだ。


 わたしを見ても()けようともしない。

 周囲がハラハラとした視線を送っているが、その女生徒は堂々と階段を上り切った。


(このわたくしを知らないなんて……。よほど田舎出身の者なのね)


 そんな相手をいちいち注意する意味もない。気にも留めず階段へと歩を進めると、すれ違いざまにぼそりと耳元で声がした。


「なんでわたしを突き落とさないのよ」


 驚いて足を止める。目の前でにらみつけているのは先ほどの女生徒だった。


 近くで見てもやはり知らない顔だ。確認のため横にいたジュリエッタを見やる。だが彼女も戸惑った様子で首を横に振ってきた。


「あなた、どこかで会いまして?」

「ふざけないで! 悪役令嬢がちゃんと仕事してくれなきゃ王子とのイベントが起きないじゃない!」


 何を言っているのか意味が分からない。あっけにとられて女生徒の顔を見た。


(それなりに可愛い顔をしているのに。おつむの方は残念なことになっているようね)


 あわれみの視線を送ると、女生徒は苛立ったように舌打ちをした。田舎育ちのせいでマナーもなっていないとは、この学園も品が落ちたものだ。


「もういいわよ!」


 上ってきた階段の間際に立っていた女生徒が、言うなり一歩足をずらした。バランスを崩して後ろに倒れそうになる。


「きゃあっ、ハナコさま、何をなさるのぉ!」

「え、ちょっとあなた……!」


 棒読みで叫んだ女生徒の腕をとっさに掴む。助けようとか助けなくちゃとか、そんなこと考える暇もなく気づけば体が勝手に動いていた。


 転げ落ちそうな女生徒を力の限り引っ張り上げる。反動で彼女との位置がぐるっと正反対に入れ替わった。


 遠心力で投げ出される。体は背中から落下した。


 段上で見下ろす女生徒。何かを叫んでいるジュリエッタ。騒然となった生徒たち。


 そんな光景がやけにスローモーションで遠ざかる。


(あれ? なんかこのシーン、前にもどこかで見たことない?)


 視界に入る者たちすべての輪郭が、不自然にぶれた気がした。みんな同じ立ち位置にいるのに、服装だけが違う物のように二重に見える。


 そのとき頭の中で何かがフラッシュバックした。


 ――そう、あの日、華子わたしが死んだときの出来事が


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