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ルーキー

「…皐月。キミ、能力は…?」

ヒヨリさんは目を丸くしこちらを見つめてきた。

また出たよ、“能力”…。

もう耳にタコができるほど聞かされた。

結局それってなんなの?

「ヒヨリちゃん、それどういうこと?」

楓さんが不思議そうにヒヨリさんに対して質問する。

「何も効果が現れないんだよ。ボクの能力で“複製”しようと…」

「複製?」

複製って、何を?

「いやそれはおかしいでしょ…だってそうなると皐月ちゃんは本当に能力を持ってないことにならん?」

「でも実際に能力はこうして現れていない。つまり、これは“能力”が何も無いことを示している」

「じゃあなんで今皐月ちゃんは生きてるん…?今生き残ってるやつはみんな能力を持ってるはずやろ?」

「何で生きてるって何…?」

この通り生きてるんですけど、私…。

「そのはずだが…皐月は実際に能力を持ってはいない…。ここから考えられるのは」

「ちょっ…ちょ、ちょっと待ってよ!」

二人は同時にこちらに目を向けた。

自分でも思った以上に大きな声が出てしまったのは少し恥ずかしい。

でも、さっきから全然納得がいかない。

二人だけで話を進められて、当の本人は置いてけぼりなのは非常に、非常に意味が分からない。

というか、話に着いていけてない。

なんの説明もなしでこんなことを聞かされても一体私にどうしろと。

「と、とりあえずさ…何のことなのかしっかり説明してよ…。結局、私は今どうなってるの?」

多少の不安は抱きながらも、二人に事情を聞いた。

私にとって“何も知らないこと”以上に怖いものはない。

知って後悔するより、知らないで後悔する方がよっぽど嫌だし。

「…そうだね。ごめん、キミのこと置いてけぼりだったね」

ヒヨリさんは私の主張を聞くと、すぐに申し訳なさそうに頭を下げた。

「…でも大丈夫?皐月ちゃん。この話、多分結構難しいことだと思うけど」

「それどういう意味…私じゃ理解が追いつかないってこと?」

怒るほどじゃないけど、その言い方になんかちょっとカチンと来た。

「そうなあ…まあアンタはそもそも現時点でも何も知らない一般人なわけだし、現状を実際に多く見てきたわけじゃないし…。つまりは経験不足?なわけだから、話をすぐに全部インプットするのは難しいんじゃないかなってこと」

「…まあそれは」

一理ある。多分、今私が分かってることは全体の1割にも満たないんだろうなというのは何となく理解できる。

そこから残りの9割を一気に教えられたところで、頭が容量不足でパンクすることは火を見るより明らかだろうし。

「でも、全部とは言わないからさ…とりあえず今話してたことについてはちゃんと教えてよ。他の話はおいおいしてくれればいいからさ…」

「…分かった。遅かれ早かれ、いつか知ることになるものだ。ボクたちも一旦情報を整理しておきたかったし、いい機会だと思う」

ヒヨリさんはそう言うと私の横を通り過ぎていく。

「え、どこいくの?」

「ただの話しやすい場所さ。少しでも資料を使って説明した方が、キミも分かりやすいでしょ?」


そう言って来たのは、ちょっとした会議室の様なところ。

「さ、座って座って」

ヒヨリさんに案内されて適当な位置に座る。

部屋はあまり広くもないけど、狭くもない。

少人数で使うにはちょうどいい広さ。

でも、なんでここにこんな部屋まであるの?

ここってなんのための施設?

そう疑問に思っていると、ヒヨリさんはプロジェクターを映す用の大きな白い布を天井から引き出してきた。

そしてどこからともなく出してきたノートパソコンの画面をプロジェクターで映した。

一方で楓さんは、部屋の電気を一部落として画面が見やすいようにセッティングしてくれていた。

「ちょっと?え、そんな本格的にやるの?」

「え?分かりやすい方がいいでしょ?」

「いやそれはそうだけど…」

画面に映されたのは“PowerPoint”の文字。

まさかのプレゼン式?

「今まで得た情報を毎日パワポでちょっとずつまとめてたんだ、いいでしょ」

…もしかしてヒヨリさんって結構な天然?

困って楓さんの方を向くと、慣れたような顔で画面を見つめていた。

…これってもしかして初めてじゃないの?

ていうかなんでさっきから楓さん喋らないの?

さっきまでもっと喋ってたよね?

「えっと、能力に関してのページは…ここだ」

そうして画面に映し出されたのはどこかで見たことあるようなゆるいイラストの画像で構成されたページ。

なんかもう既に内容が頭に入ってこなさそうな気がした。

「じゃあ、早速話していこう。そもそも、“能力”というものは何か?それは、あの爆発をきっかけに身体に起きた不思議な現象及び変化。常識離れした力のことを言う」

この辺の話は楓さんからもチラッと聞いたことがある。

「その能力は人によってそれぞれで、例えば色々なフィクション作品でもある様な火を操れる者もいれば、水を操れる者もいる。そうイメージしてくれた方がわかりやすいと思う。実際はこんな単純なものではなくもっと複雑な能力もあるわけだけど、ここでは話を難しくさせるだけだから省略しよう」

ヒヨリさんはページを進めながら話す。

「能力というのは、大きく分けて3つの系列に分けることができる。物質系・概念系・特殊系、この3つが今のところ存在している」

早速新しい情報が出て来た。物質…特殊…概ね…なんて?

「まず物質系について。これは物質を扱う、もしくは生成する能力のことを指す。さっき例で出したような火や水を操る能力。火や水というのは物質であるから、分類されるのはこの物質系だ」

これは一番分かりやすいかも。

とりあえず物を使えたり作り出せたら物質系と覚えればいいかな。

「ここにはいないけど、椿の刃物を生成できる能力もこの物質系に分類されるね。物質を“作り出してる”からね」

…なんかよく知らないけど。

ここにいない人の能力勝手に紹介しちゃっていいの?

「次に概念系。これはちょっと説明が難しいんだけど、まず概念がなんなのか説明した方がいいかな?概念というのはある特定の物に対して共通の認識をすることを指す言葉だ。例えば、犬を見せられた時にボクたちは『これは犬』ということを認識するでしょ?もちろん犬種や大きさとか些細な違いはあるわけだけど、そういうのを全部含めて頭の中で『犬』という認識がある。これを“概念”というんだ」

まあ、なんとなく分かった。

そりゃ、犬を猫だと認識する人はいないだろうし。

そういう物への共通認識が“概念”…。

いよいよ難しい話になってきた。

「じゃあ概念系の能力はなんだというと、こういった“概念”を操作できる能力のことを指すんだ。例えば、時間というのは一般的に“前にしか進まないもの”という共通認識…“概念”が存在する。しかしそれを捻じ曲げることができる能力があるとすれば?時間を進めたり、戻したり、止めたり…そんなことができる能力があるとするならば、それは概念系の能力と言える」

…そんな能力がもしあるとするなら、とてもヤバいんじゃないか?

もう自分の思い通りに物事を進めることもできそうだし…。

“概念”ごと操れる人がいるなら、とてもじゃないけど関わりたくない。

「ちなみに楓の能力は概念系だね。『重力は常に一定である』という概念を捻じ曲げて操作ができるからね」

近くにいたわ。

「結構やばい能力だよねえ俺、まあ別に良いんだけど」

いやこっちが良くないんだけど。

あの人を怒らせたらプチッと潰されるのでは…。

「そして最後は“特殊系”…これはかなり基準が曖昧な系列でね。他二つに該当しない能力のことを指すんだけど…」

ヒヨリさんは急に言いづらそうに説明を止めた。

「ここはボクの能力を例に出した方がいいかな…。ボクの能力は“複製”で…あらゆる物質を一時的に複製できる能力なんだよ」

「…じゃあ、物質系の能力なんじゃ?」

「と、ボクも最初は思ったんだけど…そう分類できない理由が他にあってね。複製できるのは“物質”だけじゃなくて人の“能力”も複製できるんだ」

「能力を複製?」

「そう。さっき、キミと握手したでしょ?能力の複製は“相手の身体に触れる”ことが条件なんだ。そうすることで相手の能力を一時的に使えるんだけど…」

それを聞いて、さっき握手したときのことを思い出す。

“複製しようと”…“能力が無い”…。

あれはきっと、私の能力を複製して確認しようとしたんだ。

…“仲良しの印”とか言ってたくせに、それが本当の目的か。

「知っての通り、“能力”は“物質”じゃない。複製できるのが物質だけじゃないのなら、物質系には分類できない。だからこそ、どこにも属さない“特殊系”が存在しているんだ。ボクのような能力を持つ人が一定数いるだろうからね」

随分と“特殊系”は複雑な位置付けにされているようだった。

「とりあえず前提として、この3つの系列が存在することは知ってもらえたかな?それじゃあ、次は能力を扱う上で大事なことを伝えよう」

ヒヨリさんはページを次に進めた。

「この現実離れした能力…効果によっては便利なものだけど、使用する上で必ず自身の体に負担がかかることは知っておいてほしい」

「負担?」

「そう、“デメリット”とも言うかな?この能力は使えば使うほど“代償”が後になって体に現れる。その負担の大きさは能力を使用した時間や強さに比例する…つまり簡単にまとめると、『使いすぎには注意』ということさ」

「えっと、その負担を無視して使い続けると…どうなるの?」

ヒヨリさんは一瞬言葉を詰まらせた。

「…実例があるわけじゃないからなんとも言えないのだけど…当然その負担は体に大きな悪影響を及ぼすわけだ。だから…確証を持って言えることではないけど、恐らくは死に至るんじゃないかとボクは考えている」

“死に至る”、私はその言葉を聞いて茫然とした。

「…えっと、その心は」

「例えば、またここにいない人を例に出すのだけど…椿は刃物を生成する能力を持っている。だけど、無から物を生成するというのはあまりに物理法則を無視しすぎている。だから刃物を作り出すときに代わりとなる物質がどうしても必要になるのだけど、それが彼女の場合自らの体液…つまり血液を大量に消費して生成するんだ。血液が人の体の中から一気に抜けたとするとどうなるか…誰にでも想像は付くよね?」

そんなの、想像するだけでゾッとする。

なのにあの人は自分の身を削りながらあのバケモノと…?

「現実離れした能力を発現させるのにはそれ相応の“代償”が必要になる。ボクたちはこれを“デメリット”と呼んでいるんだ」

無償で能力を使わせてくれる…という美味しい話はどうやら無いらしい。

もし能力を与えた者がいるとするなら、相当良い性格してるんだろうな。

私は自分が能力を持ってないことに少しだけほっとしてしまった。

能力を持っている人たちに失礼なのは分かっているのだけど…。

「とりあえずは能力に関する基本知識はこれで全部かな?一気に話しても疲れるだけだし…あとはおいおい(、、、、)、ゆっくり話しておくことにしよう」

ヒヨリさんはそう言うとノートパソコンの電源を素早く落とし、折りたたんでバッグへしまった。

久々に集中力を使ったためか、私の体はいつになく疲労感が大きかった。

「さ、頭使って疲れたでしょ?時間も時間だし、ご飯にしようか」

話を聞くことに集中していてすっかり忘れてたけど、私のお腹の中はとっくに限界を迎えそうなのだった。

それを認識した途端、突如腹の虫が大きく鳴った。

思ったよりも大きな音だったため、恥ずかしさもその分大きかった。

「皐月ちゃんも限界そうだし、さっさと食堂向かおうか〜」

「そうだね、ご飯はまたボクが作るから2人とも休んでて?」

そう言ってヒヨリさんは会議室の外へと出ていった。

「ほら、俺らも食堂いこ?」

楓さんが私に向かって手招きをする。

私はその仕草に吸い込まれるように後を着いて行った。

というか、お腹が空きすぎて自然と流してたけど。

ここ食堂もあるの?

「…そういえば、椿ちゃん遅いな?」

楓さんはそんな独り言を小さく呟いた。

…私も、あの人とはしたい話がたくさんあるし。

早く帰ってきて欲しいのだけど。

【若葉椿】

能力:刃物生成

射程距離:無し

代償:血液の消費


【ヒヨリ】

能力:複製

射程距離:手の届く範囲

代償:不明


【常磐楓】

能力:重力操作

射程距離:半径15m圏内

代償:不明


【緑川皐月】

能力:無し

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