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プロローグ・そして私は途方に暮れる

「はあ……」

自分の意思とは関係無く溜め息が溢れる。

まあ、それもそうだろう。

目の前に広がってる世界は、まるで世紀末のそれだ。

空は霞んでいて、風は常に砂が混じってるかのような不快感。

妙に湿度が高く、その割に気温が低く凍えそうだ。

建物は窓が粉々に割れているのもあれば、建物自体が傾いているものもある。

まだ形がしっかり残ってるだけマシだろうか。

人もいなければ、植物も動物もいない。

世界に私一人しか存在しないみたいだ。

そう思ってしまうほど、今の世界は静かで寂しい。

「ていうか、お母さんどこ行ったんだし……」

こんな世界に変貌してから、私の母親は突如として失踪した。

世界が変わる前まで一緒にいたわけだし、遺体も無かったから多分生きてるだろうけど。

私唯一の家族だし、どうも年甲斐も無く心配になってしまう。

そんなことを思いながらも、箸を進める手は抑えられない。

こんな世界になろうと、食欲は何も変わらないらしい。

缶の底を箸でカンカンと突く音だけが辺りに響く。

見てみると、もうそこに食べれるものは無かった。

当然、全部私が食べたからだ。

「…」

だが、まだまだお腹は満たされていない。

仕方なく、鞄の中から乾パンの缶をひとつ出してきた。

蓋を力任せに開け、その中の乾パンを一個齧る。

「…意外と美味い」

人生で初めて食べたが、中々いける味であることに少し驚いた。

どうやら最近の非常食はレベルが高いらしい。

ただひとつ、欠点があるとすれば───。

「喉が渇く…」

体内の水分を極端に奪っていくことだ。

500mlの水で口の中を潤しながら食べ進めていく。

勿体無いとは思うが、この際仕方がない。

こんな所で水分の無い干物になるよりかはマシだ。


人のいない静かな街を、私は一人で歩く。

足音は広く反響し、ビルの間を通っていく。

私はその音を聞きながら、一人寂しく歩く。

なんとなく、辺りを見渡してみる。

そこには、力無く倒れている人間の遺体。

それも一つじゃなく、たくさん。

その辺の草や石ころの様に。

なんでもない物の様に。

まるで日常の風景のように、そこに転がっていた。

その遺体の状態はどの様に死んでいったかのかはっきりと、よく分かるほどに鮮明だった。

酷く痩せ細った身体で倒れているもの。

身体に無数の小さな穴が空き横たわっているもの。

子供を抱き抱えながら壁に寄りかかっているもの。

血痕を残し二つ以上積み重なってるもの。

…自分の意思とは関係なく身体の中から上がってくるものを抑える。

こんな悲惨な光景を私は数週間、毎日のように見ていた。

だが、一向に慣れはしない。

目に焼き付き離れない。

匂いは鼻に染み付き思わずえずく。

心は痛み、今にも張り裂けそうだ。

そんな最悪の気分を必死に抑える。

私は、そんな世界の中でも生きていたいだけ。

だから歩いている。

落ちているものからは目を逸らして。

ただ歩いていく。


しばらく歩いたあと。

「お、ラッキー」

私は未開封の1L飲料水を2本も見つけた。

消費期限もまだまだ問題ない様だ。

鞄の中の荷物を端に寄せ、2本のペットボトルを詰め込む。

するとだいぶ鞄はずしっと重量感のある見た目となった。

試しに背負ってみると、ベルトが強く肩に食い込んだ。

かなり重くはなっているが、これは大収穫だ。

帰ってしっかり保存しておこう。

そう思ったその時。

ドカンと後ろで大きな音が鳴った。

その突然の音に心臓は酷く衝撃を受けた。

私はその音がした方向に顔を向けた。

「───っ」

声が出ない。

私は“それ”を目にした瞬間、思考より先に身体を動かしていた。


「はあっ…はぁっ…」

走る。必死に走る。

「────ッッ!!!!!!!」

背後から猛獣の様な叫び声が聞こえる。

振り向く暇もない。

前を向き、ひたすらに走る。

「あッ──」

地面の小さなくぼみに爪先を引っ掛けてしまい、転倒してしまった。

今ので軽く足を痛めて、すぐには立ち上がれなかった。

思わず後ろを振り返ると、“それ“は私のすぐ目の前にいた。

私たちよりずっと大きな、人型のバケモノが──。

「────ッッ!!!!!!!」

バケモノは大きな叫び声を上げ、動けない私に丸太の様な右腕を振り下ろしてきた。

これは死────。

「ッ……!」

───来ない。

来たのはただの静けさだけ。

衝撃も無ければ、痛みも無い。

私はそんな状況を不思議に思い、ゆっくりと目を開けた。

すると、そこには背の高く明るい黄緑色の髪をした女性が立っていた。

髪は腰の辺りまで届くほど長く、さらさらと風の流れに合わせて流水のように綺麗に靡いていた。

身長は180近くありそうなくらい大きく見える。

不思議なことに彼女は、手に刀とも違う形の長身の刃物を握っていた。

その刀身は深紅に染まっており、光が当たると赤く染まって反射する。

そして、その人の目の前には大きな肉塊が落ちていた。

バケモノの方に目を向けると、振り下ろしてきた方の腕が根元から真っ直ぐに斬られていた。

それを見て、やっとあの落ちている肉塊が腕であることに気付いた。

「───ッ!!!!!」

バケモノは残った片方の腕を彼女目がけて振り下ろす。

「危な───」

私が声を出し切る前に、彼女はその大振りな腕を難なく避けた。

腕は勢いよくそのまま地面へと落ちた。

その衝撃は身体にビリビリと伝わってくるほど強いものだった。

バケモノは勢いをつけ腕を振り上げようとするが──。

その大きな腕は持ち上がらず、地面に落ちている。

見るともう片方の腕も、根本から綺麗に斬り落とされていた。

「───」

そんな状況下で声が出せないバケモノを横目に、彼女はその長身の刃物で斜め横から一刀両断した。

バケモノはゆっくりと上半身と下半身でずれ込む。

下半身を残したまま、上半身がどしんと重量を感じさせる大きな音を出し地面にごろんと落ちた。

その落ちた上半身は、しばらく痙攣したのちにいずれ動かなくなった。

私は訳も分からず彼女の方を向いた。

彼女の手に持っていた長身の刃物はいつのまにかどこかへ消えていた。

「……」

今起きた状況を頭の中でどうにか整理しようとしていると、

「大丈夫?」

彼女は私の方を振り向いてそう言った。

「…えっと」

思考が追いつかず、思ったように言葉が出ない。

「…あなた、能力は?」

彼女はそんな様子の私をじっと見てそう言った。

「え?」

私は意味が読み取れない言葉に困惑した。

「えっと、能力…って何?」

私のそんな疑問を聞いた彼女はぽかんとした顔で私のことを見つめた。

しばらく見つめたのちに彼女は私から目線を逸らして、

「…能力が無い人はいないはず、なら気付いていないだけ…?」

こっちにも聞こえてくるくらいの声量でそんなことを呟いた。

少なくとも私の疑問に答えてくれる様子ではなさそうだった。

「ちょ、ちょっと?聞いてる?」

私の声に反応して彼女は一瞬こっちを見るが、

「…ごめん、今のことは忘れてほしいな…」

急にそう言い捨て急ぎ足で歩き始めた。

「ちょっ…ちょっと待ってよ!そもそもアンタ何者なの!?」

当然私は彼女を止めようとした。

「えっと…と、とにかく忘れて!」

が、私の必死の制止を振り切り彼女は急ぐように走り出した。

「ちょっまって…あ、足速いな…!」

そして、一瞬のうちにどこかへ見えなくなっていった。

「……お礼くらいは言いたかったのに…」

そんな状況に、私は思わず言い溢す。

私はバケモノの亡骸と一緒に取り残された。

あまりの情報量の多さから、私はその場で途方に暮れていた。

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