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ラスボスが、やって来た  作者: 金子ふみよ
第一章
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家に帰って来た

 浜からさほど遠くない、こじんまりした小屋、もとい一軒家。そこがウエルの家だった。一人暮らしである。隣近所とはいえ、何十軒の家が建てられるだろうかというほど離れている。そこに同年代の女性を連れ込む。傍から見れば年頃の青年が友人の結婚式帰りにお持ち帰りをしたの図であるが、見る傍もなければ、そんな悠長な冗談に構っている場合でもない。

「お湯、急いで沸かすから少し待っていて」

 扉を開けてすぐの居間の木製のダイニングセット。椅子に遭難者を座らせ、奥の方の炉に火を入れたり、甕から水を容器へすくって火にかけたり。タオルを女性に渡してから、ドタバタとそこからは見えない一室で動き出す。水音がする。浴室だ。

「湯船にお湯をためているから、ちょっと待てください。こんな家だけど、お風呂だけはこだわっていてね。僕、湯船につからないと、って、いやいや、決して覗かないから、安心して。と言って安心してもらえるかどうかは……。あ、着替え」

 浴室の前から女子に距離を取ってああだこうだと言うと、別の部屋に入った。またしてもガサゴソと音がする。

「こんなのしかないけれど、濡れてるよりかは良いと思って。あ、ちゃんと洗って天日干ししてあるから臭くないと思うよ」

 衣類である。装いも色調も大人しめなものを選んで抱えて出てきた。ゆっくりと、というか恐る恐る女子に近づこうとして、

「浴室に置いておくね」

 作った笑顔で体を反転させた。女子はさっきからじっとウエルの言動を見やっていた。

「お風呂、いいみたい。少し少ないかもしれないから、調節して」

 浴室の扉の前から手招きをした。近づいて立ち止まった女子にお湯の出る蛇口の扱い方をジェスチャーで見せた。家の暖房をするなら炉に火を入れなければならないそんな質素な家で、お湯が出る蛇口があるなどという浴室のシステムがしっかりしているのは安月給をどうにかこうにかやりくりをして値の張る装置を特注したからである。

「じゃあ、ごゆっくり」

浴室に入った女子がうなづくのを見て、ウエルは扉を閉めた。まだ水音、お湯を出している音が聞こえる。ウエルは心臓に手をやった。荒々しい拍動を実感した。ふうっと息を一つ吐くと、ウエルは顔を引き締めて一歩出した。


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