女性が海からやって来た
たいして時間が経ってないとはいえ、国立の中等教育機関の非常勤たる青年がいつまでもお祝いの正装で一人浜で膝を抱えている光景を誰かが見たとしたら、心配というか懸念を持たれかねない。
「帰るか」
地下水がしみ出てきて濡れ重くなってしまったかのような体を起こそうとした。
「ん?」
ウエルは波を睨みつけた。穏やかな波。波打ち際の方へ一部が隆起し迫っていた。ウエルは思わず腰に手をやった。(あ、剣ねえんだ)。身構えた。それから落ち着かせるため一つ深呼吸した。巨大魚が打ちあがったのかもしれない。それならば近所に声をかければ済む、荒事にはならない。けれど。ウエルは一層眉を顰めることになった。魚ではない、確実に。(いや、あれは)。ウエルは波打ち際まで走り出した。
「大丈夫ですか? しっかり!」
ウエルは海から上がって来た人に寄り添った。
「遭難ですか? それともどこから、か……?」
自分と同じくらいの女性のずぶ濡れの姿を視認した。震えや体温や負傷なんかを確認しようとしたのである。
「あ、の……」
ウエルは女性の顔を、目を見た。女の人もうつむいていた顔を上げウエルの方を見てきた。
「ど、……」
思わず問おうとした職の慣れを蹴った。彼女の装いはどこの国のものではないと、ウエルの知識が反応したからである。
(どこの国からとか、そんなのは後でもいいだろ、それよりもだ)
「僕の家が近くにあります。まずは休みましょう」
ウエルは震えだした女性の背中に手を添えて案内し出した。