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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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第七話「旅芸人と長い一週間~鋪:中編~」

投稿遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

ここ、最近――いや、毎回投稿日を守ることが出来ていないので第八話以降、投稿日の予定日を書くのを控えるか考えています。もし、そうなったら改めてお知らせします……。

~三日目~


「おいおい。お前、夜明け前に起きているのかよ?若いクセに不健康だな」


聞いたことのある声が檻の外から聞こえた。寝起きで少しぼんやりとしている状態で声のする方向に顔を向けると、そこには顔面に包帯を巻いているアウルスらしき男が居た。

表情は見えないが、声の雰囲気からして顔を(しか)めているに違いない。


「いつも、この時間に起きているので……」

「ふん、そうかよ。そんなに余裕で居られるのも今の内だぞ~?今日からお前だけ大変だからな。ざまぁないな!」

「ところで、何で顔面を包帯で巻いているんで――」


「う、うるせー!!お前が俺様を倒したせいだからな!!人質の嬢ちゃんもすぐ解放して逃げて、無かった事にするつもりだったのに、お前のせいでフェレスの姉御にバレてシバかれ――」


アスィミが来るまでの間、俺は長々とアウルスの文句を聞かされたのであった……。



「遅いでヤンス!早く磨けでヤンス!」

「そうだぞ、ニゲラ」


アウルスの愚痴から数時間後、強引に盗賊二人によって外へ連れ出された。

後ろを振り向けば、まるで絵に描いたような老夫婦が住んで居る可愛らしい家だった。とても盗賊が住んでいるとか、地下があるように見えなかった。


俺の腕には赤紫色の石で出来た腕輪をつけられてしまった。

この石はネガロ石だっけ?

魔力をある程度封じる石で、着けることによって魔法を使えなくする。

ワティラス連邦国が刑務所などで良く愛用しているらしい。

何処で知ったのか覚えて居ないけど。


そんな物騒な物を着けながら、アジトから少し離れた場所にある川で俺は渋々食器洗いをさせられていた。

フェレスがこの二人に命じたようで、俺の根性を叩き直す為に雑用をさせるらしい。


はっきり言って、この人達が楽したいだけなのでは……?


「おーい、次があるんだ。早くしろよ~」

「そうでヤンス~」


絶対に楽したいだけだ。

このままだと、永遠に彼らの雑用係になってしまう。かと言って今の状態で抵抗しても反撃されて終わるだけかもしれない……。この二人から逃げるのも難しそう――となると、フェレスに俺自身が生きる理由を分かっている所を見せなければならない。


――そもそも、自分自身の生きる理由なんて誰も真剣に考えた事ないだろうに……。


「……お二人は生きる理由を持っているんですか?」


俺みたいに頭の良くない人間が出来る事――それは他人の答えを参考にすることだ。

そして、フェレスが納得出来るような答えを出せば良い。


すると、俺をいびっていた二人の雰囲気が一変した。


「そりゃ、あるだろう。今の時代、一部の人を除けば誰にでもな。なぁ?」

「そうでヤンス!のんびり何も考えずに過ごせるような時代では無いでヤンス。だから、良く考えて自分のするべき事を見つけるんでヤンス」


二人の雰囲気は(さなが)ら講義をしている教師ような真剣な空気感だ。だけど、直ぐに元の雰囲気に戻った。


「あぁ……!もしかして、フェレスの姉御がした質問の答えを俺達の答えで丸々真似しようとしただろ!!(ずる)いぞ!?」

「あ、い、いや、そんなつもりは!!」

「その動揺は図星でヤンス!アウルスの兄貴!もっと洗い物増やそうでヤンス!」


こうして、俺の作戦は洗い物を増やすという素晴らしい功績を残して幕が降りた――。



洗い物や掃除などをやらされて、いつの間にか夕方になっていた。

実は昼食の料理を少しだけやらされていたが、味見をしたアウルスに「オマエハ、ニドト、リョウリヲスルナ……」と言われてしまった。それ以降アウルスを見かけて居ない。一生懸命作ったのに酷くないか……?あんなに美味しいのに。


そんな俺は夕食を手伝わない代わりにフェレスの肩を揉むように命じられた。


「あぁ……、そこなんだよなぁ……」


フェレスはまるで年寄りが肩を揉まれるような気持ち良さそうな声を部屋に響かせている。俺は揉む度に手が疲労で痛みながらも只黙々と揉んでいた。


「テメェ、アスィミから聞いたが答えを聞こうとしたんだってな?狡いねぇ……?」


思わず、手を止めてしまった。アスィミが告げ口する事まで考えて無かった俺は冷や汗が段々と涌き出ていた。

また、説教してくるのか、と俺が身構えていると、フェレスは予想外の淡白な質問をして来た。


「テメェさぁ、このワティラス連邦国の最近の若者が兵士になる理由ってどんな物が多いか分かるかぁ?」


何故、そんなことを聞くんだろう?俺は意図が分からず黙っていると、フェレスは察したように溜め息をしながら自ら答えた。


「死にたいからだってさぁ……。自ら死ねない――そんな若い奴らが武器を持ちながら愛国心が胸にあるからではなく、絶望が胸に覆われているから戦場に行くんだってさぁ」


あまりにも重い真実に俺は固まってしまった。

そして、フェレスの言う若者が俺自身に気持ち悪くなる位に重なり、何とも言えない吐き気に似た憎悪感が襲いかかっていた。


フェレスは言い終えると振り向いた。そして、何処か哀れな物を見るような眼差しで俺を見ていた。


「……生きる理由が無いから命をお粗末にして、運が良ければ人の為になる――そんなの馬鹿らしいだろぉ……?コインの表裏で命を決めるのが人生じゃねぇだろ?本気で生きるなら、命をどう扱うか考えているならそんな事はしねぇよ。簡単に死ぬなよなぁ……」



牢獄に戻されてから俺は生きる理由を考える事しか頭に無かった。


生きる理由、島流しされる前なら有った。

ただ、カルミアに一人前の大人として見て貰いたかった。カルミアに好きになってくれる事によって、俺も幸せになる――そんな事を考えていた時期が有った。


でも、今はただ傷つけられずに生きたい。傷つけないように生きたい。

それしか無い。それが、当たり前だと思っていた。

そう、思うようにしていた。

でも、フェレスの話を聞いて違うと感じたし、俺自身の胆力の無さに危機感を覚えた。


どうすれば良いんだろう?そもそも、生きていて本当に楽しかったと、思った事が無い俺に思い付くのだろうか?


「ニゲラさーん、眉間に(しわ)を寄せてますけど、大丈夫ですかー?」


レナの声にハッとして、俺は大丈夫と会釈した。それでも、レナは緩い表情をしながらも訝げに見てきた。


「ん~?」

「……」

俺はただただ黙っていようとしたが、振り向く度にレナはこちらを見ながら徐々に近付いてくる。まるで、あの子どもの遊びみたいに。


「……命の扱い方――いや、俺の生きる理由……というか、人生の目標が無い事が無いのが……気になって」


根気負けして白状すると、レナは暗い洞窟を明るくするような笑顔で答えた。


「そんなの気にすること無いですよー!今は人生の目標無くたって見つけて行けば良いだけですから!」


見つける……?そんな事が今更出来るのだろうか?

レナは続けて話した。


「わたし――わたひ達三人はね?孤児院出身なの。フォン君――団長が『そのままだと工場に送られて工場の労働者として人生終わってしまう!そんなのつまらんから三人で旅芸人しようぜ~』って誘ってくれたの。そして、人生の目標を全員で見つけるまでこの世界を歩き回ろうって!だから、ニゲラさんも団員になったならいつか見つかりますよ!きっと!」


そんな考え方があるのか。

そういえば、昔、カルミアも似た事言ってたな――


『世界は広い。狭い島より冒険して楽しんでみるのも選択肢じゃないか?』


もし、世界を歩く勇気を振り絞れば、俺が生きる理由を見つけられるのだろうか?

でも、レナやフォンが与えてくれた選択肢は不思議と希望を感じた。


「ありがとう……」

「いえいえ、どう――」



その時!


巨大な爆発音が地上から聞こえた。爆発音が鳴ると、洞窟が一瞬揺れて、檻が倒れた。


「い、今のは?ニゲラさん、盗賊の方大丈夫ですかね……?」

「分からないけど、これ逃げるチャンスかもしれない……!」

レナの手を繋ぐと、俺は洞窟の出口へ向かった。


洞窟の出口にたどり着くと、そこには異様な光景が広がっていた。


部屋が半分破壊されていた。明らかに外の爆風が原因だろう。瓦礫だらけの周りを見回すと、アウルスとアスィミが目を回すように倒れていた。血が出るような怪我はしていないが、意識が朦朧(もうろう)としていた。


「て、手加減しろ……」

「もう、嫌でヤン……ス」


大丈夫ですか、と声を掛けようとしたその時――。


「心配するな、手加減してやったんだ」


三年間、聞いた事のある声。

声がする方向を向くと、そこに居たのは――


「数日ぶりだな、ニゲラ?」


フレンチさんだった。いつもの服装よりも小綺麗なローブを着ていた。

状況を掴めずに居ると、後ろからフェレスの声がした。


「なんだい、雑な歓迎じゃないかぁ?なぁ、アルストロメリア?いつもの予言かぁ?」

「本名言うな、フェレス。後、俺が予言者なのもな」


フレンチさんがアルストロメリアという本名で、予言者……?


俺は頭が追い付か無いまま、旅芸人になって三日目の夜を向かえる事になった――。

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