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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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第六話「旅芸人と長い一週間~鋪:前編~」

~鋪~の次が~転~の予定でしたが、起承鋪転決では収まり切らないので鋪を「前編、中編、後編」で分けます。

~二日目~


俺が目を覚ましてからどれくらい経ったのだろう?

時計の無い空間だからか、時間の感覚が麻痺していた。

洞窟内の何処かから聞こえて来る規則的な水滴の音に、何処かで吹いているような風の音が聞こえる。

賢い人間なら、これらの音で何分経ったか分かる……らしい。だけど、俺は賢く無いから無理だ。

密閉された空間で、しかも時間の感覚が無いとなると段々可笑しくなりそうに感じてくる。

正気を保つ為にも、俺は脱出方法を考えていた。


だけど、何一つ良い案が思い付かない。


・壁を壊す

此処が地上に近ければ良いけど、地下深くにある洞窟なら意味が無い。それにこの空間が崩れて生き埋めになるかもしれない……。だから、無理だ。


・檻を壊す

風の魔術で壊せない。腕力に関しては言わずもがな……。やっぱり無理。


・地面を掘る

掘る物が無い。無理。


全部、無理。


――よって、俺は何もかも考えるのを止めた。

そもそも、力が弱い癖に人質を助けようとした事自体が間違いだったのかもしれない。

何時だって、裏目に出る俺なんかがやるべきでは無かったんだ。


「ふぅん、ふぅん、ふ、ふ、ふん♪」

後悔をしている俺とは裏腹に、レナという女性は呑気に鼻歌を歌いながら両足でリズムを取っていた。


頼むから静かにしてほしい……。



「おい、そこの男!出て、ワイと共に来るでヤンス!」

放心していた俺は声のする方向に目をやると、俺とレナを閉じ込めた背の小さい強盗犯が檻の外に居た。

小さい強盗犯は鍵を開けて、扉を開けると此方に来い、とジェスチャーでしつこく示した。


もしかして、俺を処刑……みたいな事をするのか……!?

思わず、牢獄の奥へと足を二、三歩引いてしまった。

だけど、ここで抵抗した所で死への恐怖の時間が長引くだけではないのか?

そう、考えていく内に諦めの気持ちが強くなってしまった。そして、小さい強盗犯へ歩み出す。


「ノロノロするなでヤンス!姉御が待って居るんだから早く行くでヤンス!」

小さい強盗犯は扉に近づくや否や俺の腕を掴むと強引に引っ張り出した。扉を閉めると目にも留まらぬ早さで鍵を閉めた。

そして、再び俺の腕を引っ張りながら通路を歩き始める。


暫くの間、薄暗い通路を歩いていると、度々蝋燭の灯りが目に入った。その火は今にも消えそうで、まるで俺の命の灯火のようだ。

そんな事を思うと歩きたく無くなるから、出来るだけ考えないようにしよう……。


また、暫く歩くと、湿度が低くなって来るのを感じた。そして、前方から光と鉄格子のような扉が見えて来た。

小さな強盗犯が開けると、そこの先には洞窟では無い空間が広がっていた。

そこは何処かの建物の中らしい。大きめのテーブルと三つの椅子、片付けて無い食器など置かれていた。

この部屋はどうやら強盗犯の食堂らしい。

部屋の左右には扉が有り、右側の扉からは木の揺れる音や猫や鳥の鳴き声が聞こえる。恐らく出口なのかもしれない。

小さい強盗犯に引っ張られながら左側の扉へ進む。

台所や、武器などの倉庫、洗濯物を放置している部屋……等々様々な部屋を進むと、最後になるであろう扉の前で小さい強盗犯は足を止めた。


「さて、ここから先はお前だけが行けでヤンス」

「どうしてで――うわっ!?」

俺が理由を聞き終える前に小さな強盗犯は扉を開けて、俺を放り投げるように入れた。



「姉御、ごゆっくり話をしてヤンス!失礼しますでヤンス!」

扉を閉まる音が消えると、俺に緊張が走った。


扉の先に待って居たのはベッドで寝ている女性だった。

肌は褐色で髪は燃えるように赤い。

そして、病気で痩せ細っている。

これだけで言えば貧弱な女性だと思うかもしれない。

だが、この女性の雰囲気はまるで猛獣のような威圧感で、部屋を今にも凍りつかせるように感じる。

そして、その女性の俺を見る目付き。獲物を狙うように俺の全身を視ている。


「すまねぇな、アタシ達『フェレス組』の活動に巻き込んでなぁ?」

その名前を聞いた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。


この数十年間、ワティラス連邦国で猛威を振っていた盗賊団――それが、フェレス組だ。

彼女らの活動は貴族や政府関係者から高値の骨董品や金を盗み、貧困層にばら蒔いていたらしい。

だけど、この数年で人員不足になり、活動は音沙汰も無くなっていた。


そんな、盗賊団が今目の前に居るってことは……。

この女性は盗賊団のリーダー、フェレス・トニトルスか!?

何十人の警備隊を一網打尽にしたり、雷を掴み投げたり――等々、様々な逸話を持っているらしい。


そんな大物がしかも睨み付けているから益々俺は緊張している……。


「テメェが、アウルスを風の魔術で倒したのかぁ……?」


フェレスの問いはあの事だろう。ここで嘘付いても無駄な雰囲気をこの人が醸し出している以上、俺は素直に答えたほうが良いかも知れない……。


「そ、そうです。人質に取るのは……どうなのかと思って……」

実際、あの時思ったのは何も出来ない自分の無力感も有った。それでも体が勝手に動いたのは今でも不思議だ。


すると、フェレスは徐々に気色ばんで口を開いた。


「気に食わねぇなぁ?アウルスの馬鹿を一人で倒した奴がどんな奴か見て見りゃ、ただの自殺志願者じゃねぇかよぉ!ああ!!マジでガッカリだわぁ……!げほっ……げほ」

「じ、自殺志願なんてしてないですっ!!」


フェレスの酷い言い様に思わず反論してしまった。

でも、本当にそうだ。俺は生きたいんだ。

すると、フェレスはわざとらしく小馬鹿にした表情で問いかける。


「じゃあ、聞くけどなぁ?『もし、あの時お前が返り討ちされていたら』どうしたんだよ?なぁ?」


何も言えない……。もしかしたら、死んでいたのかもしれない。

その可能性に思わず、(おのの)いてしまう。

そんな俺の様子を見てなのか、益々フェレスは眉間に皺を寄せながら早口で続けて話し始める。

「言えねぇよなぁ?本当に本気で生きたい奴なら答えることが出来るんだよ!テメェは命を無駄にしようとしたって事は、生きる事に対して真剣になった事がねぇんだろ?只なあなあで生きたフリをすることしかしてねぇで、命の扱い方を考えたことねぇんだろ?」


命の扱い方?何を言ってるんだろう?

そんなの――


「い、命の扱い方なんて大袈裟な……、ただ生きていれば良いのでは……?」


俺が答えた瞬間、フェレスは激怒した猫のように瞳孔を開き、怒鳴り始めた。

「はぁ~?テメェの言ってることは『本読む為に本を読む』のと同じだからなぁ!生きてる癖に中途半端な回答すんな!バア~カ!その回答と、そしてさっきから感じるテメェの胆力のねぇ感じからよ~く分かった!!あの人質の嬢ちゃんは何時か解放してやるけど、テメェだけは帰さねぇ!!テメェの腐った根性を叩きのめすまで帰さねぇからなぁ!!……げほっげほ」


そして、俺は再び牢獄に戻される――。


命の扱い方。

ただ生きるだけでは駄目なのだろうか……?


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