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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第六十六話「再会のマリーゴールド」

「レヴィンさん、遅いね」


「……そうだね」


取り調べが終わり、俺は正門ではなく西側の門へ案内された。この事件の被害者である事が証明されたからか、部外者として門の外に出された。それから、俺は門の近くにある橋の右側で待っていた。すると、数分もしない内にトネリも合流した。


それから二時間レヴィンを待ち続けた。その間に話した事は、近衛隊がパフィルを取り逃した事やモルデから飴玉とクッキーを貰った事位だ。

そして、今に至る――。


「トネリは、早かったね?」


話す事がなく、俺は何となく取り調べにしいて訊いてみた。俺にとっては、大した事では無かった。だけど――、


「あ、え!?あ、そ、そ、そうだね!大して訊かれなかったよ!!」


トネリは何事も無かった訳ではない様に慌てていた。此方に来てから、何か……おかしい。でも、俺にも隠し事が有るのだから、訊くのは野暮だ……。俺は、トネリの嘘に乗っかる事にした。


「そうなんだ。羨ましい」


「……はは。そう、だね」


トネリは、橋から水堀を眺めながら溜め息をする。俺は再び何も話す事が無くなり、トネリと一緒に水堀を眺め様とした、その時。


レヴィンの元気な声が聞こえてきた。


「三――いや、二人ともお待たせ~」


俺とトネリが声のする方向へ向くと、そこにはレヴィンと不機嫌そうに腕を組んでいるモルデが居た。トネリは思わずレヴィンへ駆け寄る。俺もトネリに続く。


「レヴィンさん!漸く、無実だって証明されたんですね!」


「ええ、何とかね。世間話をしてたら、長くなっちゃって……。ね、モルデ君――」


「黙れ」


レヴィンの親しげな友人と話す様な微笑みを、モルデは突き放す。そして、片手でレヴィンの頬を挟んだ。


「ふぐぅ!?」


「そもそも、君が出娑張(でしゃば)らなければこんな事にはならないんだよ。いつか命取りになるぞ、身の程を弁えろ」


レヴィンはモルデにより雑に解放されると、小動物のように跪きながら両方の頬を両手で撫でる。モルデは鼻で笑いながら、その場を去った。


またトネリが後出しで文句を言うかと思いきや……、複雑な表情でモルデが去り行く姿を見つめていた。無理もない、近衛隊とそこら辺に歩いてる通行人とは怖さが違う。モルデが見えなくなると、トネリは安心したかの様に溜め息をした。


「……さてと、改めてニゲラ君とトネリ君。巻き込んでしまってごめんね?」


「い、いや、レヴィンさんは悪くないですよ!」


俺はトネリに同調して、レヴィンに頷いて見せた。すると、レヴィンは思いもしない提案をしてきた――。


「お詫びとして、君達に入団の面接を受ける資格を与えたいと思うの。どうかな?」


「「は、はい……?」」


「うん、ありがとう。取り敢えず、馬車を呼んでくるわね!」


レヴィンは俺達が返事したと勘違いしたまま、辻馬車を呼びに行く。


違う、と言いたいかったけど、声が出ない……。勿論、嬉しくない訳では無い。でも、唐突過ぎて混乱していた。


心の準備が無いまま、再び運命に身を任せる事になった――。



暫くして、俺達はレヴィンが呼んだ辻馬車に同車させられた。車内では、レヴィン以外は緊張で何も話す事が出来ずにいた。俺はレヴィンを見る事しか出来ず、トネリは下を俯く事しか出来なかった。

一方のレヴィンは軽く鼻歌を歌っていた。歌い終える合間、合間に俺達に視線を送っていた。俺達から話すのを待っているんだろう……。


でも、今の俺達にはハードルが高すぎる……。


入団試験が面談。

それは、レヴィンが俺達にどんな印象を持つかで決まる――かもしれない。だから、尚更緊張してしまう……。


じゃあ、試験を辞退するか?


俺には、もう居場所が無い。友達が居ない。

もし、断ったら、また一人ぼっちになる……。

そんなの――。


「……試験は、明日で良いよね?君達は、入団したいが為にあの偽物達から生き延びたんだもの。実力はかなり有る、と私は直感してるわ。だから、面接官である私に熱意を、――情熱を見せてほしいわ」


レヴィンが放つ蒼く輝く視線に、俺は唾を飲む。これが、大人の眼差し……。

俺が只々固まっていると、トネリが震えながら声を上げた。


「は、はいっ!」


「そんな緊張しないで?好きなものを好きだって事を、熱く叫べば良いだけなんだから。でしょ?」


レヴィンが俺の方にウィンクした。俺は2、3秒遅れて頷いてみせた。レヴィンは俺達の様子に苦笑いすると、再び鼻歌を歌い始めた。


ありきたりなメロディーを聞きながら、俺は逆側の窓を眺めると、徐々に時計塔が見えてきた。


見慣れた街では無い筈だけど、帰るべき場所に帰って来れた――と、俺はゆっくりと目を閉じた。



『明日、トネリ君が毎日様子を伺っていた絵画展に9時集合ね!』『やっぱり、あそこだったんですね!』『うん、それじゃあ二人とも明日会いましょう!』


――時計塔に停車してから、流れる様に時が経った。唯々トネリとレヴィンの会話を上の空で聞いていると、いつの間にかトネリと再び二人っきりになっていた。


「――ニゲラ君は、どこ泊まる?良かったら、ボクと同じ宿で泊まらない……?」


「あ、え、えっと……。俺は……別の宿にするよ」


「わ……、分かった……」


決して、嫌という訳ではない。だけど、一人で気持ちを整理したかった。いや、そうしなければいけない――そんな気がした。トネリは落ち込む様に肩を落とすと、そのまま何処かに消えていく。俺は申し訳なく思いながら、トネリとは逆方向に歩き出した。


俺は、本当に、あの団体に入って良いのだろうか?


俺みたいな人間は、相応しくないのでは?


明日を、堂々と歩けない俺は――。


そんな事を思っていく内に、足取りが重くなる……。


街中を眺めると、相変わらず近未来的で賑々(にぎにぎ)しい。歩く度に人が通り過ぎるし、歩く度に蒸気自動車を見かける。それでいて穏やかだ。たまに何処からか喧嘩をする声が聞こえてくるけど、命の危険は感じない。


この前まで政府にほぼ見捨てられた土地でサバイバルをしたり、政府の中枢に行ったりしたから余計にそう感じるのかもしれない。


暫く歩いていく内に、時計塔に戻ってきてしまった。この街は道が細々していて、更に入り組んでいるからかもしれない。気持ちは相変わらず、整理が出来ていない……。


ふと、時計塔に目をやると時刻は「19時8分」になっていた。そして、――。



「なんだ、あれ……」


時計塔を黒い(もや)が囲んでいた。あの礼拝堂で見たものに酷似していた。――そして、俺以外は誰も気付いていない。寧ろ、俺が挙動不審になっているのを通行人達は不思議そうにしていた。


あそこに、何か有るのか……?


結局、礼拝堂の地下に有ったものが何なのか分からなかった。いつもなら、避ける筈だった。

だけど、時計塔へ歩み始めていた。


行かなくちゃ……。


そんな、俺を無視した使命感が高まろうとした――、その時。


「久し振りだな。ニゲラ」


後ろから、声を掛けられた。

数ヶ月ぶりの声。数年間、お世話になった人の声。

俺はゆっくりと振り向いた。


「フレンチさん……!」


そこには、フレンチさんが居た。相変わらず、服装は古くさい。しかし、一つ変わっていた事があった。


フレンチさんの表情は、今まで見た事が無い位に暗く沈んでいた。目も微かに赤い。何か有ったのだろうか?

そんな事を思っていると、フレンチさんはある提案をしてきた。


「ニゲラ。話をしようか。酒場でな」


「俺、まだ18歳ですよ……」


「どうでも良いだろ。どうせ、世界は滅ぶんだ」


フレンチさんの様子がおかしい。まるで、酔っ払いの様に自暴自棄だ。フレンチさんは、俺の肩を雑に掴みながら繁華街へ連れ出そうとした。


「ちょっと……」


「なら、酒を飲まなければ良い。秩序なんて、糞くらえ」


時計塔を一瞬だけ見ると、そこには黒い(もや)は跡形もなく消えていた。俺は不審に思いながらも、フレンチと共に酒場へ歩き出した。

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