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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第六十五話「災厄、最悪」

「近衛隊、第三班だッ!!貴様ら、両手を上げろッ!!!」


「ひッ……!?」


俺は思わず声を漏らしてしまう。大量の隊員が流れ込むのも驚くが、何より二か月前に戦ったモルデ・バロックと再び出会う事になるとは……。

彼の顔面には、俺が付けた縦長の切り傷を縫った跡が残っていた。


あの時の俺は覆面だったとはいえ、何かの拍子でバレたら不味いっ……。

思わず片手で顔を隠したが――。


「なんで顔を隠してるの?ほら、両手を上げないと!」


真っ直ぐな精神は、時に邪魔になるっ……。

俺はレヴィンに両手を掴まれ、無理矢理上げられてしまった……。

どうか、バレないでくれっ……。


モルデ以外の第三班は、礼拝堂の内部の状況を見て呆然としていた。既に拘束されているカルトの団体に、中央で座り込んでいる怪しげな女性、そして疲弊している俺達――。


「副隊長……、これは?」


「考えんなよ?コイツらを確保しろよ?なぁ……おい」


「……ッ!、は、はっ!」「貴様らを連行するっ!」


「くっ……」「わ、私は洗脳されて――」「ああ、黒き神――」


モルデに震えながら隊員は、次々にその場に居るカルトの団員を外へ連れていく。俺とトネリは緊張の糸が切れて、座り込んだ。

俺にとってモルデが厄介だけど、パフィルよりかはマシか……。


一方のレヴィンは、気楽にモルデへ話をかけていた。


「ほら、モルデ君。やっぱり、私無実だったでしょ?」


レヴィンの幼なじみに話掛ける様な微笑みに対し、モルデは訝しげに睨み始めた。

ミアは何かを察したのか、苦笑いしながら我先に隊員に縄を掛けられた。


そして――、


「へ?」


一瞬にして何かが放出され、組み立てる音が響く。


ネガロ石の手錠だ。

今回のは盗品ではなく、正真正銘の政府の品だ。レヴィンは何が起きたか分からず、気が抜けた声を上げて固まる。

モルデは意地の悪い笑みを浮かべながら、ネガロ石の手錠を放った特性の銃を得意気に懐に仕舞う。


「君も容疑者だろ。話はじっくり本部で聞いてあげるよ。なあ、レヴィン?――いや、馬鹿な理由で辞めた最年少のエリートさん」


「……貴方。相変わらずね」


レヴィンが渋そうな顔をすると、モルデはパフィルの方へ歩く。そして、一気に表情は鋭く変貌した。先程の表情や以前対面した時とは違い、近衛隊の副隊長らしく、油断をしていない殺意を肌で感じた。


「君はパフィルか……。いや、様々な偽名を使ってたな?ロホ、ドロシア、マルヴェール、デュボネ――。本当の名前はさておき、君にも来てもらう。この場で誰よりも怪しいからね」


モルデが再び懐から銃を取り出そうとした、その時――。


「ふふ、あははっ……。まさか、大人しく捕まるとでも……?じゃあね、ニゲラ君♡後、クソ共」


パフィルは不気味な笑みを浮かべた途端に、身体を黒い液体に変わる。モルデが焦って銃を撃とうとする時には、もう遅かった。


「ま、待て――クッ!?」


パフィルが地下へ消えたと同時に、爆発音が鳴り響く。その音は、まるで寸胴鍋(ずんどうなべ)を使ってる時に起きる突沸(とっぷつ)の様に鈍い。


レヴィンとモルデ、ミア以外の全員が突然起きた現象に唖然としていると、モルデは早口で隊員達に指示を始めた。


()を使うとはッ……!隊員は、周囲を探せ!奴は遠くまでは行けないからな!」


「「はっ、――!」」


隊員達は返事をすると、忙しなく捜索を始める。俺は捜索している隊員達を見守っていたが、他の隊員達により辻馬車へ乗せられた。


そして、パフィルの捜索は失敗で終わったという結果を聞く事になったのは、翌日の夕方だった。



翌日


この国の中枢であるミリヨデ地区に俺達は連れていかれた。本来なら、役所に連行される筈だ。だけど、こんな大人数を取り調べるには、役所は狭すぎる。


その為、巨大要塞の正門から203メートル先に有る建物――即ち近衛隊第三班の本部に俺達は居た。内部は小綺麗だけど、壁が灰色一色で寒気しか感じない。いや、後ろめたい気持ちが有るから余計にそう感じるのかもしれない……。


俺達は灰色の廊下で列に並んでいた。前のカルトの団員が右の扉に渋々入ってから、約8分経った。


「……っ、……っ」


俺の後ろには、トネリとレヴィンの二人が並んでいた。取り調べの締めはレヴィンなのだろう。

……それにしても、トネリは先程から様子がおかしい。やけに、辺りを何度も見回していた。まるで、誰かに見つかる事を警戒してるみたいに……。


「トネリ君、大丈夫よ。犯罪をしたことは無いんだから!」


「う、うん……」


レヴィンが元気付けさせても尚、トネリは挙動不審だった。何か有ると思ったけど、()()く思い出したらいつもの事だった。トネリは(詐偽だけど)試験の準備期間に、外が怖いからと駄々をこねた事が有った。

レヴィンの溜め息が微かに聞こえるや否や、右の扉が開かれた。


「ニゲラ、入りなよ」


モルデが面倒臭そうに手招きをしている。


来たか……。

俺は唾を飲み込み、ゆっくりと取り調べ室に入る――。


そこは狭く、無機質で、暗い空間。真ん中には、机と椅子が二つ。左奥には、恐らく調書を記録する隊員が魔導具を起動させていた。


「ま、明らかな被害者なオーラを丸出しにしてる君には意味がない時間かもね。私が簡単に質問するから答えなよ?」


モルデは取り調べをする側の椅子に座る。疲れなのか、或いはストレスか、何処か苛立っている。

あまり刺激をしないように、俺は素早く前の椅子に腰を掛けた。モルデは頬杖を付きながら、書類と俺の身分証明書を見て取り調べを開始した。


「ニゲラ――、苗字は無いんだね。身分が低いみたいだな。18歳、リュテリウス島出身。ふん、あんな絞りカスみたいな島から良く出れたね?ダイドウ地区ユエル市に住んでたが、追い出されたと、――しょうもない。今回、参加した理由は金か?」


「いや、違いま――」


「はいはい。ワティラスの法に触れる様な新興宗教には属してないよね?どうせ、金がなさそうだから違うだろ?その感じだと、貢ぎ物すら買えないもんな?」


「は、はい……」


モルデの一言一言が刺々しい。でも、これ位なら小さい頃に言われた事あるから大した事はない……。


俺が心をそう言い聞かせていると、モルデは小馬鹿にした態度で続けた。


「なら、レヴィンの団体に参加しようと騙されたのか?」


「はい……」


「あんな馬鹿の何が良いんだか……?私には理解出来ないね?正しさが無い世の中に己の正しさを示す――実に、下らない……!あんなの、田舎育ちの世間知らずだろ?いつか、痛い目を見るよ」


「アンタ!人を見下すから、顔に傷を付けられ……、はっ……!」


俺は思わず、両手で口を(ふさ)いでしまう。マズい……、なんで余計な事をっ……。

変な汗が滝のように流れている俺の表情は、きっと記録係と同じ様に青ざめているのかもしれない。


一方のモルデの顔は溶岩の様に赤い。今にも傷口が開くのでは無いか、と思う位に血管が浮き出ている。モルデは急に立ち上がる。震える両手の拳を握りしめ、空に翳す。そして……、


「あれは、たまたまなんだよッ!!あの、若い鼠が、まぐれでッ……!!」


モルデは何度も両拳(りょうけん)を机に叩きつけた。その異様な光景に、俺は固まってしまった。記録係も涙を浮かべながら小刻みに震えていた。


そんな様子にモルデが気付くと、渋い表情で頭を()(むし)った。そして、苛立ちが籠った溜め息をして再び座り込む。


「ま、街で、どんな噂をされてるか知らないけどな……?次は負けない。あの若い鼠に会う機会が有ったなら、絶対に殺してやる。私の初手殺しの異名は飾りじゃない……。誰にも馬鹿にされない、誰にも見下されない、相手がレヴィンだろうとッ……」


「え、えっと……、取り調べは――」


「……知るかよ。もう、終わりだ。君はどうせ被害者だろ。精々、私が剣を君に翳さないように善良な市民でいろ」


俺はモルデに恐る恐る会釈をし、覚束(おぼつか)ない足取りで取り調べ室を後にした。その際に、モルデの独り言が聞こえた気がした。


「……それにしても、何処かで聞いた声の気が……。いや、気のせいか――」


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