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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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第五話「旅芸人と長い一週間~承~」

遅れて申し訳有りませんでした。


暫くは忙しくなる為、投稿期間を九日間以内にします。投稿遅くなりますが、その分楽しんで頂けるように頑張ります。今後とも宜しくお願い致します。

ヨークの後をただ追いかけて行く。

先ほど切符を買うために居た広場を抜けて行く。先ほどまでは気にしなかったが、少し大きめな「東口」と書かれた看板が何度も過る。

何故、看板は一つでも良さそうなのに幾つも置くのだろう?


そんな細やかな疑問について納得行くまで考える暇も無く、白と暗い木の壁と薄暗い照明の廊下を抜けて行った。


出口に出ると、今まで見た事が無い人だかりが見えた。黒っぽい役所の制服にワティラス連邦国のシンボルマークのペンが刺さっている世界地図、連邦警備隊だ。

リュテリウス島では事件は絶対に起きないから週に一回見かける位だ。しかし、他の場所ではそうは行かないらしく、何処歩いても見かける位には見廻りりをしている。


俺は特にその集団を見てもどうも思わないが、それを見るや否やフォンは渋い顔をしながら呟く。

「うわぁ……。警備隊居るのかよ……」

「そんなに気にすることですか?悪い事してるわけではないのに」

何気なく言った俺の言葉にフォンとヨークは互いに顔を見合せて、ばつが悪そうにした。

「いやぁ……、まあ……何だ。旅芸人って許可無いと芸すら出来ないんだよ。許可証が13000ウェン位もするから気軽には取れないしさ。職質なんてされたら俺達の違法がバレちゃうかもしれないからなー」

「許可必要なんですか?」

「君は100年前の人ですか……?当たり前ですよ」

俺に対するヨークの良く分からないツッコミを受けると、こちらに警備隊の一人が近づいてきた。

フォンとヨークはベタな素知らぬ表情をしながらただの一般人のように誤魔化そうとしていた。

そんなので誤魔化す事が出来ないだろう、とツッコミをしたい所だが、グッと堪えた。


「君達。ここから離れなさい。強盗犯がそこの石像で女性を人質を取っていて……こら、待ちなさい!」

警備隊の言葉に対して、二人は血の気が引いて警備隊が囲っている石像に向かう。俺は一瞬躊躇しながらも、二人に付いて行く。



「動くな!!警備隊共、辻馬車を用意しろ!この娘がどうなっても良いのか!」

鳥を抱き抱える少女の銅像の前に猫の耳のような角が付いてる覆面を被る男が怒鳴り散らす。その男の筋肉質な腕の中に呆然としている甘栗色をした女性が居た。

「えーとぉ……、わたしもしかしたら人質になってます……?」

「な、なってんだよ!!警備隊は早くしろよ!!」

女性の気が抜けた言葉に苛立つ強盗犯。そして、強盗犯を警戒する警備隊――と、状況は悪化し始めるように見えた。


そんな緊迫した状態の中でフォンは警備隊の壁を睨み付けるように見るしかなかった。

「畜生……、レナの奴が人質になるなんて……」

「僕達が出来る事は無いですよ……」

ヨークの強く握っている拳を俺はただ見ていた。仕方ない事なんだ。一般人に出来る事は無い。ましてや――


俺なんかが出来る事が有る訳がないんだ。

何時だって、そうなんだから。


「君、何をしているのかね?魔術を使わずに――」

なのに、何故なんだろう。勝手に体が動き始めていた。警備隊の声が薄れていく。


「ウィンニス・オルシ・ブラウス――(風よ、俺自身を吹き飛ばせ――)」

気がついた時には足を構えていた。地面に手を翳し、呪文を唱えると、手から暴風が吹く。


その瞬間、体が宙へと吹き飛ばされるように跳んだ。周囲に居た人は暴風のせいか、倒れている人や尻餅をつく人が見える。

体勢が崩れるのは俺も同じだ。


「うわあああ!?どうすれば!?」

勢い良く魔術をしたは良いけど、着地する体勢が分からずに居た。

刹那的にどうにか強盗犯の真上に落ちるように手で仰いでいた。そもそも、水中と同じように上手く行くかは分からないけど、ヤケクソになるしかなかった。


しかし、慌てる必要がなかったようだ。どうにか間一髪、強盗犯の真上に落ちる事が出来るようだ。強盗犯は呆然としていたが、俺の体と強盗犯の頭の距離がそこの銅像と同じ位の高さになった時に漸く口を開く。


「お、おい!!まじ――」

上手い具合に俺の膝が強盗犯の顔に直撃した。幸い、強盗犯の図体が大きいからか、人質の女性には当たらずに済んだ。男が倒れるまで時間が懸かったからか、時間が遅くなるように感じる。

強盗犯が倒れると周囲に居た警備隊は唖然としていた。


ただ、一番驚いていたのは俺自身だ。勝手に体が動いたのもそうだが、こんな図体の大きい男を倒す――そんな事になるなんて俺は思ってもいなかった。


俺は人質の女性と俺自身の命が無事だったことに安堵した。

強盗犯の体の上から立ち上がると、警備隊が釘付けになるように俺を見ている。


ああ、まずい。

魔術は一般人は使えるけど、喧嘩などで使うのは違法なんだっけ……。


「君、強盗犯を気絶させた事に感謝する……が、市民の過剰な――」

ああ、これはまずい……。懲役が16年だっけ……?罰金だと55万ウェン以内か。

逃げたいけど、警備隊がこんなに居ると逃げられないよな……。


「過剰防衛じゃねーよ、正常防衛だよなぁ!!な、ヨーク」

「正常防衛ではなく、正当防衛です。正確には魔術的正当――」

「君たちは黙りなさい!!」

ヨークとフォンのやりとりが聞こえてくる。擁護してくれるのは嬉しいが、法律の前だと無意味だろう。


俺は諦めて両手を差し出した。

「ふむ、潔いな。詳しい話は役所で聞くからな――」

手錠を片手に警備隊の一人が前に近づいて来る。不思議と、恐怖心は無かった。何せ死刑や流刑よりかはマシなのは確かだから。そして何より――


「あ、ありがとね?」

人質の女性が無事だったのだから。



「って、終わるで無いでヤンス!!」


その時、石炭の臭いと何かしらの機械音、そして車輪の音が後ろから迫る。

振り向いた瞬間、奇抜な蒸気自動車が銅像に衝突した。

銅像は前方に倒れ、気絶している強盗の頭に直撃する。


その場に居た全員が、時が止まったように唖然としていたと思う。

蒸気自動車の中から強盗犯と同じ覆面をした短足の男が現れた。短足の男は倒れた銅像の真上に乗り何かを取り出した。

壺のような何かを取り出すと短足の男は俺と人質の女性に問いかけ始めた。


「やいやい、黒のお前と栗みたいな女!名前は何て言うんでヤンス!?」

「ニゲラです……」

「レナでーす」

流石に名前聞かれたら答えないのは失礼か、と思い俺は答えた。人質の女性も答えると、短足の男は急に笑い出した。

「ハッハハ!!ニゲラ、レナ、アウルムの兄貴!パコデレゴードで戴きますでヤンス!」

短足の男が壺らしき物の口をこちらに向けた途端に、壺に吸い込もうとするような風が俺とレナを襲う。

吸い込まれないように踏ん張ろうとする時にはもう既に遅く、レナと俺の足は地面から離れていた。


「レナ、ニゲラ――!!」

壺の口から見える黒い円は一瞬にして大きく拡大された。そして、フォンの叫び声が途切れた――。



俺自身、起きているのか寝ているのか分からなかった。だが、遠くから聞こえる嫌な声が夢の中だと教えてくれた。


「ねぇ、カルミア~!」

何時の日か忘れたけど、カルミアが熱出した日だっけ。そうとは知らずに城の廊下を走っていた。

カルミアが見当たらずに、倉庫へ向かって居たんだ。あいつに遭遇するとは知らずに――。


「な、なんで、あなたが……」

「――ここに居るのかだろ?」

そこに居たのは涼しい顔をした緑髪で眼鏡をかけた長身の男が居た。アンモビウム王国では珍しく獣の耳は無く、人間と同じ耳をしている。


この男の名前はアイビー・マリーゴールド。

アンモビウム王国の専属魔術師だ。魔術の中でも特殊な「予知能力」を使う事が出来る。しかも、只の予知能力者ではなく、絶対に外れない「完全なる予言者」の一人らしい。

そして、カルミアの元婚約者候補だ。


それだけなら、俺は嫌いにならない……多分。

ただ、はっきりしている問題が有るとすれば――


「カルミアが風邪だから、君の授業を担当するのさ。嫌でも仕方なくな」

この嫌味を言う性格だ。

まるで見下してるような態度を毎回してくるから、嫌いだ。カルミアに対しても、「君は獣臭くて嫌いなんだ」と言って振っているから嫌いだ。そして――いや、思い出したくない。とにかく、アイビーの事は世界で一番嫌いなんだ。


「なら、しなくていいです!僕はあなた居なくてもやって行けるので……!!」


当時の俺はアイビーから逃げるように廊下へ走った。

廊下を走っていると、目の前から近衛隊長が運悪く現れた。アイビーも嫌味ったらしいが、他の人も――。

「この先にアイビー様が居たよな?お前何かしたのか?」

「い、いや、何もしてないです!ただ……」

近衛隊長は冷淡な表情で当時の俺に言葉を吐き捨てた。

今でも、思い出したくない「あの言葉」が――。

「ふん、お前なんかアイビー様とカルミア王女が婚約していれば引き取る事は無かったんだ。黒髪の忌み子め」


そう、このアンモビウム王国にとって、俺は忌み子として扱われていた。全ての原因は昔ながらのとある予言からだ。詳細は知らないけど、黒髪の人間が地下に眠る魔物を使って、アンモビウム王国を滅ぼす――そんな予言らしい。

カルミアは大臣や隊長等に説得したが、彼らは聞く耳を持つふりしかしなかった。カルミアの前では綺麗で忠実な配下、俺の前では冷淡な大人として振る舞っていた。


当時の俺は近衛隊長の言葉に只黙って居た。カルミアに「大人というのは感情論に走らず冷静で居る者だ」と言う教えを忠実に守っていた。


「黙るのは感心だな。一生黙って居れば良い。そうすれば、世界も平和だもんな」

近衛隊長は痰を俺に向けて吐くと、そのまま何処かに行ってしまった。


当時の俺はフラフラと城の城下町を歩き、人気の少ない森に入った。


「うわぁああぁん――」

ずっと、この森で世界の不条理に泣いていた。

それから数日間、魔術の練習を続けて「古代語の詠唱」を習得した。


習得したその日は俺にとって人生の中で一番嬉しかったと思う。これで、アイビーを追い越せるだの、カルミアの役に立てるだの、夢を見てたんだっけ。

これから幸せが増えて行くって。


でも、人生は残酷だ。

それから五ヶ月後のある事件きっかけにどん底を味わうことになった。そして――


『――』

俺に見せた事の無いカルミアの表情を見ることになった。


ああ、ああ――



「ニゲラさーん」

目を覚ますと、薄暗い洞窟のような天井が見えた。あんな夢を見てしまったからか、体が凄く怠い。

顔だけ動かすと、横にレナが心配そうに見ていた。

「おはようー。凄く(うな)されてたけど大丈夫ですか?」

「おはようございます……。いつもの事ですから……」

周りを見渡すと、洞窟の中をそのまま部屋にしてるように床や天井は凸凹(でこぼこ)している。そして、若干土臭い。

照明は蝋燭二本の為か凄く暗く。今にも灯りが消えそうだ。


あれ?良く見ると鉄格子がある。これって……?


「強盗の方が言ってましたが、わたし達捕虜だそうですよ」


人質を救おうとして、捕虜になる。

俺は熟、ツイてない……。


~旅芸人との生活(?)一日目終了~

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