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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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幕間4「ある伝承」

※注意※

第三十四話以降のネタバレが含まれています!!


ウィンガス暦330年1月上旬、イヴン――シュルギス教がこの暗い土地を拠点にし始めた頃。


イヴンの書斎に、パフィルが連行されてきた。彼女の両手にはネガロ石の手錠が嵌められており、不満そうにイヴンを睨み付けていた。


そんなイヴンは気にせず、椅子に座ったまま微笑んでいた。そして、机の右に備えられている棚から二つの黄ばんだ布に包まれた何かを取り出す。


「久しぶりの再会にしては手荒いわね……」


「こうでもしないと、暴れますよねぇ?」


「ええ、魔術で翼を生やす事が出来たら羽ばたきたい位には苛立ってるわ」


イヴンの言い方にパフィルは苛立ちながら唾を吐く。そんな態度を気にせず、イヴンは布に包まれたを一つずつ脱がしていく。

すると、二つの仮面が露になった。一つは白い仮面で、もう一つは黒い仮面だ。


「忘却の仮面に、黒いのが変化(へんげ)の仮面……だっけ。何んなの?舞踏会でも開く気なの?アンタなんかタイプじゃないわよ」


パフィルの嫌みったらしい言い方に、イヴンは特に苛立つ事は無かった。寧ろ友人の冗談として捉えていた様で、嬉しそうに微笑む。


「この二つの仮面は、父から引き継いだものですからねぇ。貴女には触らせたくないのですが――」


パフィルはイヴンの言葉で何かを察したのか、益々表情が不機嫌そうになる。イヴンは、それでも構わずに話を続けた。


「ワタシ達の儀式の為に、協力してくれませんかねぇ……?」


「しないわよ?ほぼ不死身だけど、下らない事の為に体を張りたくないの。じゃあね~……」


パフィルは身体を後ろに向かせるが、二人の団員が出口を塞いでいるのを見て渋々向きを直した。

イヴンは涼しげな表情をしながら、嫌みを言う。


「ほら、手錠して正解でしたねぇ~?」


「……クソッ」


パフィルはイヴンの対面に立つと、人差し指を下に向けながら言う。


「仕方ないわね……。でも、それなら椅子ぐらい用意しなさいよ……?」


「今回は短い話のつもりだったのでね」


パフィルはイヴンの気遣いの態度に苛立ちながら、もう一度だけ後ろを振り向く。団員二人が険しい顔をしながら、出口を塞いでいた。


「はぁ……、分かったわよ。で?私に何を聞かせたいわけ?」


すると、イヴンは嬉しそうに机の右側に備えられている棚から次々と本を取り出した。机の上が一気に本で埋め尽くされていった。

パフィルは思わずドン引きして、声を荒立てた。


「ちょ、ちょっと!?こんな大量の本を読ませる気ッ!?」


「まずは、ワタシ達――『シュルギス教』がどんな宗教かを知ってもらう為には四大精霊教の解説を……」


「勘弁してよッ……!」



※ここからは、イヴンによる宗教の解説が始まります。世界で主流になっている四大精霊教について語るそうです。

興味無い方は次の場面転換『*』まで飛ばして下さい。


シュルギス教を語る前に、四大精霊教について語りましょうねぇ――。


――この世界は、暗い繭から始まった。繭の外は()という概念すらもない空間で、繭の中は(みなもと)が詰まっていた。しかし、(みなもと)だけでは繭は成長しませんでした。

見るに見兼ねた白い神『レカ・ツァラ』は、(みなもと)からある精霊を作りました。


『火の精霊』です。


火の精霊は繭の中で暴れ回ると、繭を燃やし始めました。繭が完全に燃え尽きると、(みなもと)が四方八方に飛び散りました。(みなもと)が染めた場所は、この世界の空間という概念になりました。


レカ神は火の精霊に命令します。


『良くやった。だが、これでは(みなもと)しか無い空間になってしまう。何とかしなさい』


火の精霊は熱を使い、(みなもと)を対流させました。すると、流動から『風の精霊』が現れました。


火の精霊は、風の精霊に頼み事を言います。


『どうかお願いです。塵と(みなもと)を風で集めて何かを作って下さい』


風の精霊は、言われるがまま風で塵と源を集めます。そして、巨大な泥団子を作りました。


しかし、巨大な泥団子は大き過ぎたせいで真っ二つになりました。風の精霊は慌てもう一度泥団子を作りましたが、割れてしまいます。そして、仕方なく小さい泥団子を作ることにしました。


数多の泥団子が出来上がると、一部の泥団子は火の精霊により恒星となりました。残りの泥団子は惑星になりました。

最後の惑星が出来上がると、新たな精霊が二人も現れました。『水の精霊』と『土の精霊』です。


四人の精霊が互いに手を繋ぐと、ゆっくりと回り始めました。円の真ん中から、魔力の(みなもと)が大量に()き上がりました。

こうして、この世界は均等に魔力で満たされるのでした。


四人の精霊は、満足そうな笑みを浮かべながらレカ神に今まで作った物について報告しました。

しかし、レカ神は満足していませんでした。

レカ神は言います。


『これでは秩序が無い。後に誕生する生命体が欲のままに魔力を使ってしまうぞ』


四人の精霊は、この世界に新たなルールを課しました。一つの生命は決められた魔術しか使う事が出来ないと――。

そして、魔術も約七種類で分ける様になりました。


その後、四人の精霊は幾多の惑星を選別し始めました。生命を住まわせる惑星を決める為です。

一つの惑星を決めると、四人の精霊は魔術を使い自然豊かにします。


そして、レカ神はその惑星に蔓延っていた欲の魔力を地下に沈めました。闇は地に落ちる様に、と――。


レカ神はその大地に花びらの様な光を(まぶ)すと、男女の人間を乗せました。

それが、人類史の始まりとなったのでした。



「長いわよ、バカ」


パフィルは腕を組ながら、イヴンを渋い顔で睨み付けていた。そんな反応をされても、イヴンはパフィルに薄ら笑いを浮かべました。


「まだ、2ページしか話してませんよぉ?」


「簡潔にまとめれば良いでしょ?要は、冷淡な神様が元から有った闇を迫害しただけじゃない――」


パフィルの不快そうな表情は、微かに悲しそうな表情だった。イヴンはその理由を分かっているのか、尋ねはしなかった。

そして、懐から地図を取り出す。

イヴンが地図を広げるのを、パフィルは横目で見ながら素っ気なく尋ねた。


「……何よそれ?」


「貴女が不快になるのは、分かりますよぉ……?レカ神は、試練を与えるだけで恩恵を与えてはくれません。だから、封印したものを復活させたいのですよぉ……」


イヴンは、地図に島を書き加え始めた。そして、ワティラス連邦国から遠い南東の海に『シェトリック島の位置』と『?』を書いた。

パフィルが地図を正面で興味深く見つめていると、イヴンが先程の質問に答え始めた。


(おおやけ)には公開されていませんが、十数年前に警備隊が古い大型の船を発見したそうです。船の中に干からびた遺体が有ったそうです。それは、それは、人間では無さそうな耳をしていた様ですよぉ?そして、その側には地図が有りました。ワタシが今書いたみたいな大きな島が書かれていましたが、今のところ確認は出来ていません。」


「ふーん」


パフィルは興味無さそうに振る舞ったが、沼の様な黒い瞳が微かに輝いていた。イヴンはパフィルの反応にほくそ笑みながら話を続けた。


「その地図に何ヵ所か古代語で書かれていました。それを解読した所、世界各地に黒い魔力の塊が眠っているそうです。そして、その名称は『望まれぬ神』と書かれていたそうですよぉ。四大精霊教の聖典通り、神は地下に何かを隠したのですよ」


「……なるほどね、その地下に眠る神をアンタ達が崇拝してるわけね」


「そうです!そして何よりも、黒い魔力の塊が近くにある礼拝堂の地下に眠っているのですよぉ……!」


飲み込みの早いパフィルにイヴンはさらに口角を上げた。しかし、パフィルは対照的に口角を下げていた。イヴンが自分に何をさせようとしているか察したからだ。


「私を起動装置かなんかと思ってるのかしら?」


「まさか、道具とは思ってませんよぉ?その船から出てきた書物にはこう書かれていました『望まれぬ神を復活させるには、闇の魔術師が正しく魔術を使って召喚せねばならぬ』と。恐らく、生け贄を使うのでしょう。大概の召喚の儀式は、人間を生け贄にしますからねぇ。だから、闇の魔術を使える貴女が必要なのですよ」


「生け贄ねぇ……」


パフィルはふと、考えた。

パフィル自身の体質は、闇の魔力。そして、生物を魔力の塊に変えて補食する。イヴンの予想が的外れであっても、自分が損する事無いのでは?――と。


パフィルはまだ見ぬ餌を一瞬思い思い浮かべると、舌を舐めずりをして笑った。


「ふふ……、私が生け贄になる訳じゃないならやるわよ?でも、光属性の奴を食うのは無しだから」


「はいはい、貴女のアレルギーはご存知ですよぉ……。でも、安心して下さいねぇ?貴女好みの若い人間を用意しますからぁ……」 


イヴンはパフィルにダガーを見せた。ダガーに描かれているエンブレムは、雷鳥の会のエンブレムだった。そして、ある計画を企てる――。


「雷鳥の会、彼らの団員になりたい若者はかなり居ますよねぇ。しかし、レヴィンという団長は簡単に入団させてはくれません。それを利用して、若者を生け贄にするのですよぉ?貴女が変化(へんげ)の仮面を用いて、レヴィンに()けて誘うのです。ほら、貴女とレヴィンは声も体型も似てますしねぇ」


「はぁ……!?私があんなイモ臭い女を演じろってんの……!?嫌よッ!!バカッ!!」


パフィルは険しい表情で、イヴンを怒鳴り付ける。イヴンは珍しく面倒臭そうにしかめっ面になる。


「どうせ、若い男を誘惑したら『レヴィンの方が好み』だの言われただけですよねぇ……?ワタシ的には嫉妬という感情を否定しませんが、計画の邪魔はしないでほしいですよねぇ」


「うぅっ……」


図星を突かれた様で、パフィルは悔しそうにその場で座り込む。イヴンは溜め息をしながら立ち上がり、パフィルに近づく。そして、(かが)みながらパフィルの肩に手を添えた。


「この計画は、何回も失敗するでしょう。しかし、その分雷鳥の会を支持する若者が減りますよねぇ。貴女が嫌いなレヴィンの評判を落とす良い機会とは思いませんかねぇ?」


「……そうね」


パフィルは(うつむ)きながら、立ち上がる。そして、机の上に置かれた変化(へんげ)の仮面を被る。

すると、短い緑色の短い髪が青く変色しながら伸びる。


パフィルだった顔は、レヴィンの顔へと変化した。


「……ふふ。私は、レヴィンよ。田舎臭いしょうもない団体のクソ団長です♡――どうかしら?」


イヴンはパフィルの滅茶苦茶な演技には触れず、唯拍手をした。


自分達の完全な計画が一歩前進した事を喜んで。だが――。



一ヶ月後。

イヴンは深夜血相を変えて礼拝堂の地下へ駆け下りる。そして、目の前に広がる光景は自分が望むものでは無かった。


四つの棺に囲まれた巨大な魔方陣の真ん中に、若い青年が息を絶えそうになっていた。青年の鎖骨より下が闇に侵食されていた。青年は小刻みに震えながら、消え入りそうな声でイヴンに助けを乞う。


「たす……、たすけ……、たすけ、て、レヴィ、ンさんに、――あ」


次の瞬間、青年は黒い液体に変わり果てる。

 

イヴンは今にも怒鳴りそうな険しい表情で、近くに居たレヴィンに(ふん)するパフィルを睨み付ける。

彼女は獣が狩りを終えたかの様に、悦楽の息切れをしていた。


「何をしてるのですかねぇ!?儀式の手順を守って下さいねぇ!!」


「あは、はは……♡だって、可愛かったし♡あぁ、楽しかったわぁ……」


パフィルはフラフラしながら、イヴンを無視して階段に向かう。イヴンはパフィルを殴りたい位には、激怒していた。

しかし、パフィルの能力は団体全員を殺すには十分だ。イヴンは計画を完全に潰される位ならと、渋々パフィルの暴走を我慢するしか無かった。


いつの間にか、イヴンの団体はパフィルに生け贄を与えるだけの組織になっていた。

しかし、それに気付いてるのはパフィルだけだった。


「……儀式の順番なんか知ったこっちゃないわよ。でも、気紛れに協力してやるわ。それに地下から流れてくる魔力が神になるなら、補食すれば()()()()()()()()()()()()()()?あははは♡」

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