第六十一話「雷鳥の騎士」
一瞬の出来事だった。
全員が天井を見上げると、ステンドグラスに人影が映った。そして、ステンドグラスが粉々になると同時に一人の女性が剣を構えながら舞い降りる。
破片は微かな光を反射する。それは、まるで満天の星みたいに。
そして、落下中の女性は顔がまだ見えないけど、何処か神々しい雰囲気が有った。
まるで、天から舞い降りる聖女のように――。
「なっ……!?」
女性が綺麗に着地をすると、ゆっくりと顔を上げる。俺とトネリからは女性の顔が見えないけど、イヴンはそれを見て表情が固まってしまった。そして、団員の誰かが思わず呟いた。
「レヴィン・アレクサンドライト……?」
その途端に、礼拝堂の中はざわつき始めた。そして、レヴィンは俺とトネリに微笑みながら態とらしく尋ねた。
「遅れちゃったけど、試験会場はここかしら?」
*
「貴方達、殺しなさいッ!」
「「ウラアアアアッ!!!」」
イヴンの怒号を合図に、一部の団員達は叫びながらレヴィンに向かって飛び掛かろうとした。その表情は険しく、目を見開いていた。
自暴自棄だったのかもしれない。なんとも単調な攻撃だ。
しかし、十数人対一人は流石に厳しいのでは……?
――そんな、俺の予想をレヴィンは外した。
「雷は、全てを貫くの。神の怒りみたいにね」
レヴィンが剣を空に翳す。
剣から青白い環状の淡い光が水面に広がる波紋の様に何度も生まれる。そして――
「雷よ、発散せよ――」
次の瞬間、飛びかかった団員達は青い光によりレヴィンの逆方向に吹き飛ばされる。そして、微かに放電しながら気絶してしまった。
イヴンは悔しそうにレヴィンを睨み付けていた。
「クッ……」
「解放してあげるね!」
レヴィンが此方に向いて、剣を俺とトネリに翳した。剣から放たれた青白い光線が闇の檻に当たる。そして、瞬く間に檻は砕け散った。
すると、トネリは先程まで怯えていた表情が一変した。目を輝かせながら、憧れの人を褒め上げる。
「レヴィンさん……!すっっごく格好いいです!流石は雷鳥の騎士!」
「あはは……」
レヴィンが恥ずかしそうにしていた――その時。
*
「――くっ!?」
後ろから飛んできた黒い槍を、レヴィンは反射的に剣で薙ぎ払った。黒い槍が床に落ちるや否や、粉々に消えていった。
レヴィンが一秒でも遅れていたら、串刺しになっていたに違いない。
レヴィンの目には、凄く険しい顔をしたパフィルが映っていた。
「マジ、不快だわ」
「……私、貴女に何かした?」
すると、パフィルは息を精一杯に吸う。そして、早口でレヴィンを罵倒し始めた。
「アンタなんか芋臭い世間知らずのバカ女の癖に!一丁前に人を集めて!猫かぶりめ!いらない才能を持っちゃって、都会に来て人気になりやがって!ウザイのよっ!!何が、雷鳥の騎士だっ!!バカじゃないのっ!?まるで、男装をする有名な舞台女優みたいな二つ名なんか持ってっ!!気に食わないのっ!!しかも、コイツらが悪評流すまでは、異性からの人気ぶりっ!!ふざけんなっ!!アンタみたいな田舎娘が出しゃばるなッ!!目障りなのよッ!!アンタみたいな女は、■■で■■■■に■■されちまえッ!!!もしくは、■■■■■に■■■で■■されて■■■に■■■■■しまえッ!!!または、■■されて■だけ■に■■■として■られて、■■は■■■■に■■されちまえッ!!!このクソア■がああぁ!!!!」
「う、うげぇ……」
パフィルの下品な罵倒に、トネリはまた吐きそうになっていた。赤の他人なのに、ここまで言えるパフィルの精神性に吐き気を催すのは無理も無い。
俺とトネリがドン引きしている最中、レヴィンは何も反応をしなかった。此方を向いていないから分からないけど、恐らく真顔でパフィルを見つめているのかもしれない。
そして、レヴィンは静かに口を開く、
「それで満足?」
「はぁ?満足な訳無いでしょ?クソア■!!アンタを絶対に殺すッ!!!」
パフィルは鋭く睨み付けながら罵倒する。そして、レヴィンに向かって手を翳す。
対する、レヴィンはパフィルに向かって剣を翳して呟いた。
「そいつは、良かったわね?」
――その刹那、二人の詠唱が礼拝堂の中を駆け巡った。
「雷よ、貫け――」「闇よ、貫けええぇ!!」
レヴィンから青白い光線、パフィルから漆黒の光線らしきものが放たれる。
二つの光線が雷の如く衝突すると、雷鳴が蜷局を巻く様な音を鳴り響かせた。
「クッ……!吹き飛ばしてやるッ……!」
パフィルが呟きながら、手を翳したまま放っている黒い光線をレヴィン側に押し進める。
しかし、レヴィンの光線は何故か押されていない。況してや削られていない。逆にパフィルの光線は、削られていた。パフィルはそれに気付かずに前に少しずつ進んでいく。
そして、レヴィンは俺達に軽く振り向き呟いた。
「大丈夫だから――」
*
「なっ……!?」
パフィルの足取りは急に空回りし始めた。何度進もうが、唯々黒い光線が削れていく。
そして、パフィルの足取りは意思に反して後退させられていく。
「なんなのよッ……!!クソッ……!!クソッ……!!クソッ!!!」
パフィルが焦る最中、レヴィンは剣を翳しながら前進する。その足取りは歴戦の騎士みたいに、力強く揺れる事は無い。レヴィンの光線が徐々に増えていくと、パフィルは微かに体勢を崩しそうになる。しかし、崩すまいと踏ん張り耐えていた。
「私のッ、私の魔力は劣って無いのにッ……!!!」
パフィルが今にも吹き飛ばされそうな位に切羽詰まった声を上げた。レヴィンは倒す相手にも関わらず、前進しながら答える。
「闇属性の魔術は、かなり珍しいわ。魔術の本にすら抹消されているのよね。六種類の属性に当てはまらず、予知能力や感知能力などの補助的な魔術にも当てはまらない。人を傷つける為の魔術――」
「ああッ……!!」
パフィルは悶えながら、益々後ろに押されていく。それと、同時に黒い光線が青白い光線により四割も削らていく。レヴィンはそれでも構わずに、前進をする。
「――闇属性の魔術は、その人の個性によって形を変える。貴女の場合は、ファンタジーのスライムみたいに補食する特性が有るみたいね?」
「クウゥッ……!!」
パフィルは険しい顔を浮かべながら、祭壇の手前まで押されていく。レヴィンは、少し間を空けてから一方的に話を再開する。
「――でも、そんな不思議な属性にも、弱点が一つ有るの」
次の瞬間、黒い光線が木っ端微塵になると、青白い光線はパフィルを貫いた。それとほぼ同時に爆発音がけたたましく鳴り響く。そして、パフィルは身体を仰け反りながら吹き飛ばされた。その身体は一瞬だけ雷を帯びていた。
「――あ"あ"ぁッ……!!」
雷鳴で聞こえなかったけど、パフィルは電撃の苦痛により悲鳴を上げていたようだ。吹き飛ばされていたパフィルの身体は祭壇を超えて壁に激突した。
壁に減り込んでいたパフィルが落下すると、レヴィンは呟く。
「そう、光属性。どんな闇でも照らしてみせるわ、……なんてね」




