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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第五十八話「闇の者」

「何だ……?床が抜けてるぞ?」


洞窟の天井に開いた穴から、先程居た団員達が顔を覗かせていた。

俺は両腕と両足の痛みに耐えながら、咄嗟(とっさ)に天井から指す明かりから離れた。


「面倒だが、後でイヴン様に報告するか」

「あの人、短気だから――」


団員達の話声が遠ざかると、俺は天井を見上げた。

礼拝堂に、こんな巨大な空洞が有るなんて……。彼ら曰く、ここで何かの儀式をしてるらしい。

暗闇に慣れないせいか、周りに何が有るか見えない。俺はゆっくりと手探りしながら、前を進んだ。


暫くして、目が徐々に慣れてきた。

巨大な魔法陣が、地面を占めていた。

魔法陣――そんな非効率な物を本来は使わない。太古の昔には、魔術をどう扱うか分からない人類が使用していた。でも、それが必要の無いものだと判明してからは衰退した。ただ、例外として()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


嫌な感覚を覚え、今にもこの場から逃げたいと思っていた。そして、ある物を見た瞬間にそれが助長された――。


黒い棺が魔法陣の四方に置かれていた。

こんなの、まるで生け贄を必要とする儀式じゃないか……。


『四人』


ふと、ここに落ちる前の予感が現実味を増す様に頭を過る。

第二の試験、俺達受験者は五人だった。そして、今は俺しか居ない――。

まさか、それぞれの棺にトネリを含めて四人が入っているのではないかと……。


「ち、違うっ……、違うに、決まってる……」


そうだ……。

違うに決まってる。そうなんだ。皆何処かで生きてる……!

そうに違いない!そうなんだ……!

震える体を抑え付けて、棺から目を反らし――


『目を塞ぐな!馬鹿者!!』


久しぶりに幻聴(カルミア)が聞こえた。自然と体の震えが消えていた。

確認しないと――。棺に彼らが居なくても、イヴン達の正体や本性が分かるかもしれない……。


ゆっくり、ゆっくり、棺に近づく。歩く振動が心臓を揺らす様な気持ち悪さを抑えながら、棺に手を掛ける。


「開ける……、開けよう……、開けるんだ――」


自分棺の蓋をゆっくり動かすつもりだった。蓋は案外軽く、そして呆気なく開いてしまった。


その中身は、狂気に満ちていた――。



「ッ……!!」


俺は声にならない叫びを上げながら、その場で尻餅をついてしまった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


もう、見たくないッ……。


……でも、見なくちゃいけない。何が行われているのかを――。震えながら、ゆっくりと棺を覗いた。


そこに居たのはタモだった何かだ。

全身が腫れ上がり、水脹れは何故か黒く染まっていた。目も黒く染まっていて、目や口から黒い液体が流れている。そして、息はしていない。


何なんだ。これは――?

唖然としていると、タモの身体が黒く染まり始めた。黒に染まった身体は、徐々に液状へと変わり果てた。黒い液体は、まるでミランコの様に蠢いていた。


「まさか、このトネリも――」


嫌な想像が頭に過っていると、対角にある棺から激しく叩く音が鳴り響く。

それが何なのか分からなくても、俺は駆けるしかなかった。


僅かでも良い――、僅かな希望が欲しいと――。

棺を前に、震える手でゆっくりと蓋を押した。腑抜けた神経に力を加えると、徐々に棺の中が見える様になった。


そこに居たのは――。


「ぷはぁ!?空気不足で死ぬかと思ったッ――!!うわっ……?」


思わず、反射的に抱き締めた。トネリがどんな顔をするか、どうでも良い。

目の前に居た人が生きている、と実感したかったから。

良かった――、本当に――。


「あ、あのっ……、恥ずかしいんだけど……」


「あ――、あ、す、すみません……!」


暗い場所でも分かる位にトネリの照れくさそうな表情を見て、俺は我に帰った。急いでトネリから程良く離れて、俺はある事を訊いた。


「トネリ、訊きたい事が有るんだ。何故、団員達に運ばれたの?」


すると、トネリは朝日が沈む様に顔色を青くする。そして、離れた筈の距離を今度はトネリが縮めると、俺の両肩を激しく掴みながら揺らした。


「な、何っ!?」


「そ、そうなんですっ!早くっ!逃げないと!レヴィンさんはっ--」


「あら、何かしら?」



闇の中から、レヴィンが浮き出てきた。表情はまるで笑顔で塗装した様に気味が悪い。俺を見ながら舌を舐めずり、獣の様にゆっくりと近付く。

俺とトネリはレヴィンが歩く度に後ろに下がる。下がる度に、トネリが俺の腕を更に強く抱き締めてくる……。


「な、何が目的ですか……?」


「ん~?それはこっちの台詞よ?坊ちゃんは、何故此処に来たの~?此処は秘密の儀式を行う場所よ」


「皆を生け贄にしたんですかっ……?そんな事、あなたがする筈無いのに……」


失望してる俺をトネリは小声で何かを囁く。何を言ってるか分からないし、腕を執拗に揺らしてくる。

真剣に話をしているんだから、邪魔しないで欲しい……。


俺の問いにレヴィンは何故か笑い出した。


「あははっ!レヴィンに失望しちゃった?可愛いわねぇ~♪︎本当は儀式を終わらせてから坊ちゃんと遊ぶつもりだったけど、良いわ」


「グッ……!?」


気付いた時には、俺はレヴィンに押し倒されていた。遅れて腹部と背中に軋むような痛みが響き渡る。特に腹部は鳩尾(みぞおち)を殴られた様で、遅れて吐き気を催していた。


「ゔッ……」


「吐くの?吐いて良いわよ?あハハ」


レヴィンの目は黒く(よど)んでいた。まるで、ミランコの様に暗く底が見えない。

抵抗しようと動かしたけど、金縛りにあった様に固まっていた。


「影って、密着すれば操る事が出来ルノヨ?」


「あ、貴女は雷を操るんじゃッ……」


すると、レヴィンの目と口から黒い泥が溢れ出した。粘性が有るのか、ゆっくりと俺の顔に落ちようとしていた。


「セイカイ、ゴホウビを--」


「やあああっ!!」


トネリの雄叫びが聞こえた途端に、レヴィンの顔に何かが直撃した。すると、人間が鳴らしてはいけない音を鳴らして、首が180度回転した。

それは、人間なら死を表す事を意味する。


レヴィンが倒れると、俺の身体を蝕んでいた金縛りが消えていた。

震えた手でレヴィンを退かすと、トネリが錆びたシャベルを持っているのが見えた。

それが凶器だったのだろう。


「あ、あ、あ、に、逃げま、しょう」


「と、トネリ。大丈夫……?」


トネリは頷くが、明らかに大丈夫ではない様子だ。

無理もない……、命を奪ったのだから--。

俺以上に震えているトネリを安心させようと、頭を撫でた。その度にトネリは泣きそうになっていた。


「も、もう、撫でなくて良いよ……」


「わかった……」


俺が手を離すと、トネリは深呼吸をして落ち着かせる。そして、先程俺に言い掛けた事を話出した。


「さっき言おうとした事なんだけど……。ニゲラ君……、ボク達は騙されていたんだ」


「そうだね。まさかこんな儀式を--」


「違う」


トネリは先程みたいに俺の両肩を掴む。そして、とんでもない事を言い出した。


「この雷鳥の会は、()()()()なんだよっ……」


「え……?そんなまさか……」


「ボクは拐われる前、倉庫を探っていたんだ。こんな大きい別館だから、格好いい武器とかあると思ってたから。それで探ってたんだけど、そしたらダガーを見つけたんだ」


ダガー。

さっき、釣り人が団員から奪っていた……。エンブレムを擦ったら、団員が動揺していたけど--。


「雷鳥の会エンブレムが付いてたけど、擦ったら剥がれたんだ……。別のエンブレム。黒いマークだったけど、良く分からなかった」


「じゃ、じゃあ、この団体は……」


すると、後方からぎこちない音が突然聞こえてきた。乾いた足音が不規則に鳴り響いた。()()がおぼつかない足取りでこちらに近付く……。


「ひいぃッ……!!」


トネリは何を見たのか、尻餅を()き怯えていた。そして、甘ったるくしつこい香水の臭いが後ろから流れてくる……。


嫌な汗が全身を濡らし、鼓動がしつこく(うるさ)く全身に鳴り響く。

見たくない。


でも、見なかったら死ぬ……。


俺は……意を決して、振り向いた--。



「うわあああぁッ!?」


もし、生きて帰る事が出来るなら、この光景を何度も夢に見るかもしれない--。


「ヒィドイ"、ジャナ"イ"ィ?(酷いじゃない?)」


レヴィンは首を180度捻られたのにも関わらず、生きていた。顔を此方に向かせ、後ろ向きの足をゆっくりと揺らしながら歩いていた。

レヴィンは首のせいで気道が狭いのか、枯れた様な声をしていた。


「ワ"ダジ、ミ"ィダイ"ニ"ィ、ウ"ヅグシィオ"ンナ"ノ"--(私みたいに美しい女の)」


すると、レヴィンは両手で顔掴んだ。不気味な笑みを浮かべ--そして……。


「フン」


再び鳴らしてはいけない音を鳴らしながら、一気に首を回転させた。

レヴィンは無傷を強調するように、平然な振る舞いをした。そして、振り向いて笑顔を見せる。


あり得ない……。

こんなの、バケモノじゃないか……!


「おげえぇ……!」


トネリは久しぶりに嘔吐をする。

無理もない……。こんなの見たら、俺も魚以外の肉料理を暫く食べたくはないっ……。

レヴィンはトネリを睨み付けながら、先程言い掛けた事を再び言う。


「--美しい私の顔を傷つけるなんて、最低よ?トネリ(クソガキ)。あ、でも、この顔が美しいと言うのは、ウザいわね--」


再び、レヴィンは顔を両手で掴む。

すると、塗装が剥がれる様な音が鳴り響く。レヴィンの顔にいきなり顔面を完全に(おお)う仮面が現れた。


「アハ、アハハ、アハハハハハハハハ」


そして、()()()()()()()()()()は狂った様な笑い声を上げながら、ゆっくりと仮面を外す。髪はストレートヘアーからウルフカットに変形し、青から暗緑色へ変色していく--。


嗚呼、そうか。

甘ったるい香水に、俺を『坊ちゃん』と呼ぶ。


何故、気付かなかったんだ--。


()()()()()()()()()()……いや、違う。あの骨董品店(こっとうひんてん)で会った女性、ロホだ--。


「あ、そうそう。自己紹介はまだだったわ。久しぶりね、私の名前はパフィル。でも、前回教えた偽名で呼んでも良いわよ~♪ねぇ?私美しいわよねぇ?」


パフィルと名乗る女性は、漆黒の瞳で俺達を見つめていた。

トネリには殺気を--。

俺には獲物を見る獣の様な視線を--。

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