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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第五十七話「礼拝堂の地下へ」

第五十六話を修正しました。

教会→礼拝堂


「おや、ニゲラ君。ワタシにわざわざ会うとは……、何か用ですかねぇ……?」


書斎に着くと、イヴンは何かのボードゲームをしていた。見た所、駒を取り合うゲームの様だ。白対黒をイヴン一人で遊んでるのだろう。一人で遊んで楽しいのだろうか?

俺は今にでも離れたい気持ちを我慢して、外で見たものを訊ねた。


「トネリを礼拝堂に運んだのは何故ですか……?」


イヴンの手は一瞬止まると、王冠を被った背が高い駒が倒れた。しかし、慌てず。そして、此方を見ない。


「何の話ですかねぇ……?それに、トネリ君なら辞退をしましたよ?」


「そ、そんな筈は無い!トネリは態々(わざわざ)田舎町から来たんだ!憧れの団体に入る為に……!」


イヴンは此方を向くと、目だけが冷ややかに笑っていた。

何故、此処まで残忍な微笑みが出来るのか……?

何故、他人の夢を嘲笑出来るのか……?

自分達に憧れてくれてる、のに……。


イヴンは俺の感情を読むと、関係無い話を垂れ流し始めた。


「ワタシはねぇ、演劇が好きなんですよ」


「……は?」


「小さい頃、悪い悪い大道芸の方に会いましてねぇ、人形劇を見せてくれました。紐で吊るして、踊らされてる哀れな小動物。あれは実に楽しいものでしたねぇ……」


「……だから、何ですか?」


「さて、何ですかねぇ」


――話を聞くつもりが無い事だけ分かった。

怒りのあまりに、イヴンの盤を払い落とす。イヴンは何の反応もせず、何か楽しそうに俺を見つめていた。


俺がイヴンの部屋を出ると、後ろからイヴンの笑い声が聞こえてきた。


不愉快だ。



寝室の前には、いつもの怪しい食べ物が置かれていた。そんなものを食べてる暇は無い。

寝室から手持ちランプを取り出すと、エントランスへ向かった。二階に上がろうが、一階に下りようが、暗い雰囲気は変わらない。今にでも化け物が出そうだ。


固い扉を開けると、夏らしくない生暖かい風が出迎えた。ランプの火を灯し、夜なのか分からない暗い場所を進む。

魔獣に警戒しながら、ゆっくりゆっくりと歩いていた。風が枯れた草木を揺らす音を感じつつ、嫌な臭いを感じていた。

まるで、腐った生魚に香水を振り撒いたかの様な……。


目の前に礼拝堂が近くなってくる。

全体が脆く、くすんだ外観をしていた。窓は割れ、壁は何かによって汚れている。柱には(ひび)割れていた。とてもじゃないけど、ここで祈りをするのを想像出来ない。


入口には二人の団員が居た。先程見た団員と違い、黒い布を被っていない。

俺を見ると、入口を塞ぐように寄せ合った。


「何してるんだ?青年。ここは立ち入り禁止だ」

「そうそう。ここは第三の試験会場予定だったんだ。だけど、もう必要が無いから後片付けしてる」


「トネリが、此方の礼拝堂へ台車で運ばれてるのを見たので……。少しでも、見せてくれませんか……?」


「し、知らん!!」

「館に戻れ!」


「貴方達ッ……」


二人は分かりやすい表情をしながら、入口を露骨に両手で塞ぐ。明らかに何か隠してるのを見て、俺は

力ずくで通ろうとした――その時。

後ろから、聞き覚えのある声がした。


「やあ、兄弟。どうしたんだ?」


後ろを振り返ると、ニーズク市で会った中年の釣り人が居た。右手で髪を掻きながら、だらしない笑みを浮かべている。

釣り人は俺を優しく押し退けると、二人の肩を掴む。


「な、何だ……痛っ!?」

「痛たたッ!?何すんだ!?」


「おっと!すまないな、スキンシップのつもりだったが……、痛いか?」


「「ふざけんな!バカ!」」


二人は涙を浮かべる位に悶えていた。俺は釣り人が何をしようとしているのか分からないでいると、釣り人は急に大声を出した。


「おい、後ろを見ろよ。何だあれは?」


「な――うわあっ!?」「ッ!?」


釣り人は二人の気を()らした隙に、突き飛ばした。何とも、単純なやり方だ。

そんな単純な二人は痛がりながら釣り人を睨み付けていると、釣り人の両手にはダガーが握られていた。

それを見た瞬間に、二人の表情には焦りの色が浮かんでいた。


「そ、それはッ!?」


「おー?雷鳥の会はこんなダガーを所持してるのか?いやはや、物騒だな――っと」


倒れていた片方の団員が飛び掛かったが、釣り人は軽い身のこなしで避ける。ダガーには微かに雷鳥の会を象徴しているエンブレムが描かれているのが見えた。釣り人は二人に、エンブレムを(わざ)とらしく(こす)って見せた。


「や、返せ!!」「おらッ!!」


「おいおい、俺はしがない釣り人なんだ。勘弁してくれよ?さらば~さらば~」


「ま、待ちやがれ!!」


釣り人は体重が無いかの様に、軽快な足並みで右へ走り出す。

二人は俺を無視して、釣り人を追いかけ出してしまった……。


な、何だったんだ……?

俺は思わず呆然としていたけど、少し間が空くとこれがチャンスだと気づいた。

今の内に礼拝堂に入れる、と。


しかし、中に何人の団員が居るのか分からない。()まみ出されない様に、静かに入る事にした。



(何だこれ……?)


中は良く言えば古びた神聖な場所だ。身廊の床は思いの外割れていない。チャーチベンチや柱も綺麗で、外の外観からは想像出来ない。

そして、真っ正面にあるステンドグラスは実に美しい。見た事の無い種族の女性が描かれていた。

惚れ惚れする位に。


でも、それでも、

ステンドグラスの手前、――祭壇から見える()()が神々しい空間を禍々しい物に変えていた。


()()だ。

魔力というのは、魔術で無い限りは見えない。肌で感じる事は有るけど、目に見えない物だ。魔石や魔導具を近距離で見ても見える物じゃない。

――なのに、見えている。しかも、見た事の無い色をして……。地下から、何かが湧いている……。

今にでも逃げ出したい――、そう思う位に不気味だ。


俺は嫌な魔力を感じながら、匍匐(ほふく)で手前の左にあるチャーチベンチから前へ進む事にした。

団員と思われる人達は真ん中を行ったり来たりしていた。俺が居るとは思わないだろうから、手薄なのだろう。

匍匐(ほふく)しながら前へ取り敢えず進んでいると、ある団員達の話声が聞こえてきた。


「イヴンさんとパフィルの儀式はどう行うんだろう?」


「さあな、パフィルとやらが地下で上手くやれるなら良いが。イヴン様曰く、アレの欲が強いからな。気まぐれを起こさなきゃ良いが……」


「気まぐれ……、儀式をサボって寝るとか……?痛っ!」


「お前、成人済みなら察しろよ」


パフィル……、誰なんだろう?

もしかして、トネリ以外にも連れて来られた人が居るのだろうか……?

それに、先程から儀式と言う不穏な言葉が聞こえてくる。


まさか……、イヴンはトネリやパフィルという人を生け贄にするのでは……?

嫌な予感を感じながらも、深呼吸をして静かに進もうとした矢先――。

何かが軋む音がした。


床は木で出来てる訳でも無いのに……?

そっと下を見ると、タイルに(ひび)が少しずつ入っていく。後を退こうと、後ろに下がろうとしたら(ひび)が大きくなっていった。そして――。


「そうそう、お前この礼拝堂の床は抜けやすいから気をつけろよ?儀式の部屋まで落ちるからな?」


「そんな、ドジなヤツ居ませんよ!」

「そりゃ、そうか。あはは!!」


「――ッ!?」


団員の笑い声と共に、床が抜けた。

俺は真っ逆さまになりながら礼拝堂の地下へ落下した。悲鳴を上げずに――いや、悲鳴を上げる暇もなく。暗い暗い空洞へ落ちていく。


……床が脆い事を早く言ってくれ……。

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