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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第五十五話「暫しの休憩」

――目を開けると、暗い天井がそこに有った。

ここは何処だろう……?


「ぐがぁ……。すぴぃ……」


横から、聞き覚えのある(いびき)が聞こえていた。そして、微かな雷鳴も聞こえてくる。

微かな眠気を感じながらも、ゆっくりと起き上がった。


部屋の様子は、どうも暗い悪趣味な雰囲気だ。

最初に挑戦者達が待機していた宿とは違って、汚れや穴が有る訳じゃない。恐らく最近建ったばかりなんだろう。


――綺麗、なんだけど……。

何か不気味だ。この場から離れたいと思う位に暗く、今にも化け物が出てきそうだ。

唯一の癒しが有るとすれば、横でうつ伏せになって寝ているトネリか。


どうやら、俺とトネリはミランコから脱出したみたいだ。


『さようなら、ーーニゲラ。また、逢えたらいいね』

『時間が掛かりすぎだ、馬鹿者が』


ほ、本当に脱出したのだろうか……?

長い追憶などおかしな体験をしたせいで、ここが本当に現実なのか分からない。

俺が頬を自ら引っ張っていると、扉が急に開く。


「漸くお目覚めですねぇ……?ニゲラ君――でしたっけ?また、会えて嬉しいですよ」


イヴンは淡白な微笑みをしていた。心に無い言葉にしか聞こえなくて、不愉快だ……。

でも、変に態度で出すのはマズイから、深呼吸をして応えようとしたが――。


「おやおや、貴方はワタシが苦手ですねぇ?ハハ、これは参りましたねぇ……。貴方を守る為に昼間以外は寝室に鍵を閉めたり、枕元に牛乳を置いてたのですよ?それなりに善行をしていたのですがねぇ」


「な、なんで……?」


またか……。どうも、俺の周りでは思考を読まれるのが流行りらしい。

そう思いながら溜め息をしていると、イヴンは相変わらずの微笑みを浮かべながら答える。


「ワタシには、思考が微かに読む事が出来るのですよ。さて、ニゲラ君。少し話したいので来てくれませんか?ここでは話せないのでねぇ」


イヴンは手招きをし始める。

正直、行きたくない。だけど、断ったら何をされるか分からない恐怖を、何故か感じていた……。



「――第二の試験の合格者は、ニゲラ君とトネリ君。後、もう一人居たのですがねぇ?辞退してしまいました」


イヴンの話を聞きながら、廊下を黙々と歩いていた。窓からは、常に暗い風景しか見えない。この地区は本当に不気味だ……。


「――あまりにも駄々をこねてきましたので、レヴィンさんが送迎する事になりました。……まあ、ワタシ的には幸いですがねぇ……」


「……レヴィンさんなら安心ですね。その辞退した女の子は」


黙っているだけだと良くないから、少し相槌をした。イヴンはこちらを振り向くと、先ほどより表情豊かな笑みを浮かべていた。


「ええ、そうでしょうとも。レヴィンならね。さて……」


イヴンは真っ直ぐな廊下で立ち止まり、左側の扉を開ける。イヴンは扉を大きく開けたまま、部屋に入った。


入っても良いのだろうか?

俺はゆっくりと、部屋を覗き込む。

ここの書斎はフォンを拉致した金持ちの書斎よりかは小ぢんまりしている。程よい本の量、本棚の数。お洒落なアンティークの数々。

何故か右側の壁には地図が飾ってあり、ワティラス大陸が描かれていた。南東には『シェトリック島の位置』と『?』が手書きで書かれていた。


先程の寝室よりかは良い趣味をしている部屋だ。


――しかし、ここも寝室と同様に嫌な雰囲気が漂っている。この屋敷が全体的に禍々しいのかもしれない。


「さあ、ニゲラ君。入って下さいねぇ?」


「お邪――」


「少しの間だけ探し物をしますので、ニゲラ君は好きに部屋を見ていて下さいねぇ……」


イヴンは間髪入れずに言うと、右奥の本棚から探し始めた。

好きにしろ、と言われても……。

俺は渋々左側の本棚から物色した。


本棚にあるのは、魔術書ばかりだ。

しかも、正真正銘の。

トネリが持っていた本みたいに素人が書いた様な物ではなく、魔術に長けた者が書いた物ばかりだ。

中には理論的なのも有るけど、実用性のある話ばかりだ。

魔術書が世界政府に大半燃やされてしまった、と聞いていたけど……。


イヴンは何処から入手したんだろ………?



読み漁っていると、ある本に目が留まった。

一際目立つ、黒い本が有った。

右には白い本が、左には藍色の本が隣り合わせているから目立つのかもしれない。


手に取ると、後ろからイヴンに声を掛けられた。


「ああ、そこに有りましたか……。それを探していたのですよねぇ」


俺は振り返り、思わず本を反射的に渡してしまう。

イヴンは微かに嬉しそうに本を開くと、聞いてもいないのに本の内容を話始めた。


「この本は『ボダイジュ』と言いまして、非人道的な実験を題材にした魔術書なんですよねぇ。あまりにも、エグいのでここでは話せませんがねぇ」


「はぁ……、そうですか」


「唯一話せるとすれば、魂の融合ですかねぇ……」


魂の融合――。

その言葉を聞いた途端に、吐き気に近い寒気を感じた。単語からして、明らかに人道的ではない事を察してしまうからだろう……。

心臓の音が明らかに早くなるのを感じていると、イヴンは続けて説明し始める。


「著者は、魂が魔力を生み出す源だと考えていたそうです。それを証明する為に、非人道的な実験を繰り返していた様ですよ?恐ろしい限りですねぇ……」


「……それを俺に聞かせる為に探していたんですか?」


俺がイヴンの偽善的な笑みに耐えきれずに居ると、イヴンは何故か楽しそうに本を読み始める。


「ええ、そうですよ?ところで、ニゲラ君は特殊な魔術的才能を知ってますか?」


「完全なる予言者とか……?」


「それはまた……。ははっ」


俺が答えると、イヴンは苦笑いをする。

何がおかしいのか?

俺が益々苛ついていると、イヴンは笑った理由を答える。


「完全なる予言者――。この大陸では100年も現れていませんよ?ニゲラ君は知識が足りない様ですねぇ?」


「それは、どうも……」


「まあ、予知能力や瞬間移動などですねぇ。実はワタシも特殊な才能を持って居るのです。『魂を見る、もしくは読み取る能力』ですがねぇ?」


魂を見る……?

そんな話聞いた事ない。でも、先程心を読まれた理由を考えると、その能力で読まれたと説明がつくかもしれない……。

イヴンは俺が考えた事を読み取ったのか、少し得意気に笑う。


「はは、察した様ですねぇ?そうですよ、魂を見たんです。君は分かりやすい魂みたいで、簡単に感情を読み取れます。ですがねぇ……?」


イヴンは急に神妙な顔つきで俺を見つめる。

何なんだ……?

イヴンの視線は先ほどよりも不気味で、イヴンの目は獲物を見つけた獣の様だった。

俺がたじろぐと、イヴンはとんでもない事を俺に聞く。


「単刀直入に聞きますねぇ……?

何故、()()()()()()()()()()()のですかねぇ?」


「……は?」


何を言ってるんだ……?

俺が呆然としていると、イヴンは俺の手を掴みながら嬉々として早口で話し続ける。


「ワタシは魂が融合した人間を何人か見た事が有るのですよねぇ?どれも、不純物が混じった水の様に汚いものでした。しかし、ニゲラ君。君は違いますねぇ……!君の魂は美しくシンクロしているのですよ。実に素晴らしい。しかも、ワタシでさえ分からないのですがねぇ?二つの魂の内、一つだけ何かと繋がっているみたいですねぇ……!素晴らしい、これを編み出した魔術者は誰なのですかねぇ!?」


「離しやがれッ!」


俺は、興奮していたイヴンが俺の手を振り払った。


え……?

俺が言ったのか……?

イヴンは予想外の出来事に固まっていた。

段々と申し訳なさが上回り、俺は急いで頭を下げて謝罪した。


「あ、その、すみませんッ……!!」


すると、イヴンは口に手を当てて考えていた。何を考えているのかは、分からない。只、何か嫌な感じがした。


「ふむ……、これは……。いや、すみませんねぇ。少し興奮し過ぎました」


イヴンも頭を下げた。しかし、視線は俺の内部を見る様に鋭い。居心地の悪さを感じていると、イヴンからお開きを提案された。


「さて、今日はここまでにしましょうか?最終試験は7月12日ですから、それまでの間はゆっくりして下さいねぇ……」


「分かりました。それじゃあ……」


俺は一礼すると、急いでその場から離れた。

試験が始まってから、不気味な事しか起きていない。寝室に辿り着くと、トネリは相変わらず呑気に寝ていた。


トネリの寝姿に癒しを感じたせいか、安全な場所に戻る事が出来た安堵からか、強い眠気を感じる。

もう、良い。寝よう……。


試験が始まってから、不気味な事ばかり。

早く終われば良いのに――。

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