第五十四話「闇夜に輝く大星」
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
さて、漸く第二章の『転』が始まります。長かった。
読者の方々には一年待たせました。
本当にすみませんでした……。
今回のお話。
私はこの小説を書き始めてから、ずっっと書きたかったお話です。ここまで経っても書く事が出来たのは、数少ない読者の方々のお陰です。
本当にありがとうございました。
昨今、辛い事が増えたりします。
しかし、必ず希望というものは何処かに有るものです。
ずっと辛い事に耐えろって事ではありません。自分を取り巻く環境を変えたり、自分自身の考え方を変えたり。
自分の人生を変えるのは、いつだって自分である事を忘れないで下さい。そして、未来であなた自身が、過去の自分と同じ境遇の人に教える『光』で有って下さい。月を照らす太陽みたいにね。
あ、そうそう!
新成人の方々、遅くなりましたがご成人おめでとうございます。
イエーイ!!めっちゃホリデ(ry
「やめてくれッ……!!」
本当に隠していた感情を――閉ざしていた感情を目の辺りにするのが耐えきれず、俺は目と耳を塞ぐ。
それでも、目の前の光景が焼き付く様に見えてしまう。
「ほら?これが君の真実さ。見たくないものを蓋して無かった様に生きていく。明日が怖いから、いつだって過去を望む」
「うるさい、うるさい、うるさいッ……!貴方に何が分かるんだよッ!!」
俺の怒号にも、もう一人の俺は臆せずに涼しげな笑みを浮かべながら立ちはだかる。俺を試す様に、見た下す様に。
「君は俺なんだ。全て知ってる。君が雷鳥の会に入りたいのは、自分が甘える事が出来る場所が欲しいだけだろ?フォン達みたいに、自分を優しく認めてくれて傷を舐めてくれる居場所が欲しいだけ」
「やめてッ……」
「そうやって、自分を自分で否定する。否定すれば、いざ嫌われてもまた新しい自分になれば良いだけだからね。そんなの成長と言えないよね?」
「もう、やめて……」
「カルミアが好きって言うくせに、安否が確認出来ないカルミアを心配しないんだ。都合が良いね」
「嫌だッ……」
座り込む俺をもう一人の俺は何度も鋭い刃物で刺してくる。刺される度に俺の身体は力が出ず、目から溢れる物が止まらない。傷から血液が流れる様に、痛くて止まらない……。
「あーあ……、タイムアップみたいだね」
「……どういうーーえ……?」
もう一人の俺が俺の足元に指を差す。俺は恐る恐る見ると、足元から黒い液体が溢れ出していた。黒い液体が湧水の様に溢れ出し足に纏わり付く。必死に振り解こうと足を動かしても、離れないッ…….。
「なん、なんだ……これッ……!?離せッ……!」
「無駄だよ。ミランコが本当に侵食し始めたんだよ。情けない」
「離せッ……離ッ……!!」
あの謎の白い男よりも、カルミアが俺に失望した時よりも、もう一人の俺が俺に向けた視線は冷たい。踠く俺を只見つめていた。
ミランコが俺の首元まで浸水していくと、もう一人の俺は舞台の上で嘲笑う様に廻ると、溺れかけている俺に言った。
「残念だよ。でも、まあ、これも人生の一興だよね。さようなら、ーーニゲラ。また、逢えたらいいね」
「ーーッ!?ーーッ!!」
もう一人の俺を無視して、必死に踠き続けた。それでもミランコから逃れる事が出来ず。肺へ一気に流れこむ。
身体ではなく心が息苦しいまま、俺は夢の中でも溺れた。
そしてーー。
*
(ああ……)
目を、覚ますと、闇の中に居た。今まで見ていたのは、夢だったみたいだ。
そんな事は、どうでもいいっ……。
ミランコの池から早く抜け出さないとーー。
『何で?』
(え……?)
俺しか聞こえない声が谺した。耳からではなく、心から聞こえてくる。
『上がったところで良い事なんて無いよ。合格するとも限らないじゃないか』
(違う……!俺は、合格するんだ。そうすれば、また新しい人達と楽しく過ごす事が出来るーー)
『楽しく過ごす事が出来る保証なんてないじゃないか……』
(黙って……!俺は、俺は……!)
身体が段々と沈んでいく。必死に手足を動かしても、身体は勝手に下へ落ちていく。
俺は心から聞こえる声を無視してーーいる筈なのに、目から涙が止まらないっ……。
先程の俺が何なのかは知らない。でも、この声が何なのかを俺は知っている。
でも……!
でも、無視しないと……。
俺はーー!
『もう、嘘つくのやめなよ?』
心から硝子が割れる様な音が鳴り響いた。
ア。
アア。
もう、ダメだ。
だって、この声。
本心ナンダカラ。
『あ、ああ………』
身体が沼の底へと、急降下スル。
ワカッてたんだよ。
モウ、心が折れてるって。
それを誤魔化シテタ。
ダケド、もうダメだ。
背中に底がユックリと当り、俺はモウ助からないと察した。
アハハ……、情けないナァ……。
*
一日目。
段々と身体にチカラが入らなくなっていく。でも、もう良いジャナイカ。
元々、生きるのがイヤダッタんだから。
リュテリウス島に居た時、毎日オモッタんだよ。
目がサメタラ過去に戻っていれば良いのにって。
もう一人の俺がユッタ通りナンダ。
未来ニナンテ期待シテナインダカラ。
もしも、アノ時に戻る事が出来たらって願ってた。
何年も、なんねんも、ナンネンモ。
『それじゃあな!また、縁が有ったら会おうぜー!』
ああ、でも、最近変わった。
結局、居なくなったけど。
フォン、レナ、ヨークーー。
……カレラハダレダッケ?
*
二日目。
モシ、カコに戻れたら。
ダレにも出会わない様にスル。
ダッテ、こんなにワカレがツラいんだから。
カレラに出会わなければ、コンナニ、コンナニーー。
『俺達がまた、いつか何処かで笑い合いながら会う為のさようならだ!』
こんなに、他人が愛おしいと思わなかったのに。
でも、モウカナワナイ。
アレ……?
ダレト、ヤクソクヲシタンダッケ……?
モウイイ、カンガエタクナイ。
俺ガカンガエテモ、ダレカニ迷惑カケルダケ。
『あ、ありがとね?』
『■■■■■■、綺麗な芸を見せてくれてありがとっ!』
『■■■君とはまた会える気がするから、運命が導けばまた会いましょう!』
『貰って下さい。■■■には僕達の大道芸や友達を助けてくれたのですから』
『ああ、■■■くん……!良かった~……目が覚めて……!!』
あれ……?
ダレの言葉か思い出せないけど、何故か心が熱くなる。
涙が目からーー。
アレ、俺ハナニヲオモイダシタンダ?
ナンデ、ナイテタンダッケ……?
マア、イイカ。
コノママナニモシナイデイヨウ。
一人ガ、ココチヨインダ。
*
七日目。
モウ、一週間ダ。
ダンダント、俺ノ身体ガ闇ニトケルキガシタ。
コノママ、無ニナルンダロウナ。
ソウナッタラ、ナニモツライコトナイ。
ナニモ。
『■■■だけは帰さねぇ!!■■■の腐った根性を叩きのめすまで帰さねぇからなぁ!!』
うわっ……!?
だ、誰かに叱られったんだっけ……?
怖かったナ。
デモ、オモイダセナイ。
ナンデ、シカラレタンダッケ……?
ドウセ、俺ガシカラレタッテ無駄ナンダ。
無意味ナンダカラ。
彼女二アイソウツカサレタミタイニ。
ナニモ、カンガエルノヲヤメヨウ。
コノママ、ム二ナロウ。
『カルミアを宜しく頼むよ』
『だからなぁ、アタシより早く死ぬんじゃねぇよ!生きて、生きて最後に年老いて生きて居て幸せだった事を叫んでから死ねよなぁ!』
『いつか格好いい姿を舞台で見せておくれ。そしたら、私の名前である花束を渡してあげよう』
ああ、そんな約束もしたっけ。
そう、ダッタ。
ソウダッタ?
ダメダ。
オモイダセナクナッテーー。
*
一ヶ月後。
モウ、ーーオモイウカバナイ。
この前ミタイニ、ナニカヲオモイダセナイ。
デモーー。
『いつか■■■■■を■■で見せておくれ。そしたら、■の■■である■■を渡してあげよう』
これだけ、消えない。
ダレダッケ。俺の……。
イヤ、オレハダレダッケ……?
オレガダレカワカラナイノニ、ココチヨイ……。
モウ、イイジャナイカ。
コノママ、ム二ナロウ。
クルシムヒツヨウナインダ。
*
ハン年後。
…………。
ホントウニ、ハントシモタッテルノダロウカ……。
クウフクモ、イタミモ、ネムケモ、ナニモナイ。
ワカラナイ。
モシカシタラ、ホントウハジカンガタッテイナイノカモシレナイ。
デモ、イイジャナイカ。
オレハム二ナルンダカラ。
『いつか■■■■■■■■■■■■■■■。そしたら、■■■■■■■■■を渡してあげよう』
『我が弟■■』
消えない声。
嫌なのに、消えない。
いや、本当は聞きーー。
ナンダッケ。
アア、コノコエヲオモイダスタビニ、ヘンナキモチニナル。
モウ、ワスレヨウ。
ワスレヨウ。
*
一年後。
「…………………………」
クライ。ナニモナイ。
「…………………………」
モウ、ネムクナッテキタ。
タブン、コレハ。
シカモシレナイ。
メヲトジテ、シヲウケイレタ。
…………………………。
『ーー』
…………………………。
『ーーーー』
ナンなんダロウ……?
コエガする。
『ニーーーー!!』
何なんダロウ……?
キク度に、涙がトマラナイ。
真上カラ、シロい、白い、光ガ見えるんだ。
眩シイ、光が。
ダンダント光がはっきりした形に、声がはっきりとキコエてくるーー。
『ニゲラッ……!!!生きるのであろう!!?生きると、誓ったのであろうがッ!!!』
ああッ……、コノ人を知っている。
忘れたくない人ヲーー。
その女性は長い薄いピンクの髪を靡かせていた。カルミアの花弁みたいに綺麗で、他の獣人より長く立派な耳に白い肌、瞳は紫色の宝石みたいに。
まるで、女神みたいな光みたいにッーー!
カルミアッ……。
『思い出せッ!!貴様が会った人々をッ!まだ、果たせていない約束をッ!!!』
彼女の声が響くと、脳裏に忘れかけた人々が甦るーー。
『よう!ニゲラ。また、大道芸しようぜ!』
うんッ……、フォン。
今は悲しいけど、またみんなで会おう。
ありがとう、他人の暖かさを教えてくれてッ……。
『ニゲラくん!パンを食べに来てね!』
そうだね。絶対に、食べに行くよッ……。
レナの手料理は美味しかったから……。
『ニゲラ、僕に今度古代語について教えてくださいよ!』
ヨーク。俺は、教えるの下手かもしれないけど。
今度、教えるよッ……。異国でも元気で……。
『俺様はイケメンだろ?だ・か・ら、顔に危害を加えんなよ!?』
そ、それは、何なんだろう……?
いつも、勝手にアウルスさんが怪我してる気が……。
それは、ともかく……。
いつか、また、会ったら、あの時のお礼を言います……。
『そうでヤンス!兄貴は、イケメンでヤンス!』
アウルスさんは、イケメンだったよッ……。アスィミさんにも、お礼を言わなくちゃッ……。
『ニゲラッ!!ナヨナヨしてんじゃねぇ!!』
フェレス……さん。
フェレスさんに聞かれた質問をいつか答えたい。それが、フェレスさんが納得する答えじゃないかもしれないけど。
生きる理由を、この手で……。
『よう、ニゲラ。まあ、頑張れ』
フレンチさん……。
フレンチさんが居なかったら、俺は死んでた。
また、会った時にお礼を言わないと……。
『やあ、ニゲラ君。また、会いましょうね!絶対に縁で会えるから!』
ずっと、フードで顔が隠れてたけど、アスルが良い人なのは分かるよ。
また、会いましょう……。
『ニゲラくん!?リタイアしないで!!』
トネリ……。
そうだ、俺は、こんなにも暖かい人達に出会ってるんだ――。そうだった。
俺は、まだ、生きたい。
まだ、生きていたい。
すると、俺の手は勝手に動き出した。
空に翳し、カルミアへ手を伸ばし始める。
分かってるんだ。これはいつもの幻覚。
カルミアに手を伸ばしても、意味は無い。
だけど、カルミアという光が俺を照らしてくれる。カルミアという星が、俺を導いてくれる。
そんな光が、俺を正しくさせてくれるんだッ――。
こんな、絶望でも。
希望が有った事を思い出させてくれるんだッ……!
生きたいって事を、再会したいって事を!!
「あの夢で思ってたのは、本心だ。絶望したのも……。でも、今思ってる事だって本心なんだッ……。生きたい。皆に会いたい。本物のカルミアに、また、会いたいッ……!!」
すると、幻覚のカルミアは力強く俺の腕を掴んだ。
捕まれた瞬間、固まっていた俺の身体は小刻みに震える。身体中の神経に強い電流が流れる様に。
『生きろッ!!ニゲラ!!』
「うおおぉ――!!」
沈んだ重りの様に動かなかった身体は、一気に急上昇した。引っ張られる様に地上が近づいてきた。
そして、一気に身体は沼から空へ引っ張り上げられた。いや、そこまでの高さではないかもしれない。
でも、確かなのは。
今日の星空は、カルミアみたいに眩しかった。
そして、気を失う前にカルミアの幻聴が聞こえた。
『時間が掛かりすぎだ、馬鹿者が』
懐かしい、説教だった。




