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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第五十三話「ニゲラの過去:ニゲラの真実」

今回のお話の性質上。後半から過去のお話から引用された文章がいくつか出てきます。


そして、今日は一から書き直してから二年になります。二年で様々な事が変わりました。それでも、書きたいものは変わりません。目指せ、完結。どんどん描いていきます!


ウィンガス暦327年8月24日

リュテリウス島の西部にある海岸にて――。


「よう、生きてるか?」


「…………」


「――生きてるようだな。俺の名前はフレンチだ。お前の名前はなんて言うんだ?」


「……」


「だんまりか……。このまま居ても死ぬだけだぞ?」


「……」


「――まあ、良い。俺の家でスープを食べさせてやる。暑い時期だがな」


「……」



フレンチの家。


「俺はな?昔、女友達と旅していたんだ。その際にある東の国で『味噌』という発酵したものを貰ったんだ。これをスープにして飲むと心が暖まるんだ。今のお前に必要な食事だ」


「……いら……ない」


「お、喋れるな?でも、飲めよ?旨いから」


「なん……で……助けるの……?」


「倒れていたから。それだけさ。俺はこれから少し席を外す。その間、ゆっくり食べとけ」


フレンチという男は、そう言って僕一人にした。

僕は暫くスープに手をつけなかった。


フレンチという男は良さそうな人に見えるけど、パセリと同じで僕を騙してるかもしれない。


なら、毒か?

それはいい。僕を殺してくれよ。


僕は、やけくそでスープを飲んだ。


「う……あ……」


飲んだ途端に、涙が溢れてきた。不思議な味だけど、僕のボロボロな心の傷に染み渡りました。


もう、我慢しなくて良いと――。


「うわああぁん――」



ウィンガス暦328年3月13日


あれから、約半年経過した。

フレンチさんとは、程よい距離感で生活している。


「全く……。新聞配りに熱心になる必要無いだろ」


「あはは……一応、仕事なので」


フレンチさんは住人達には雑で。新聞と称した書き物を取り敢えず夜までに配れば良いと言ってる。

だけど、『俺』は流石にそれはどうなのかと疑問に感じていた。


「まあ、金さえ払えばそれで良いのさ。それより、ニゲラ」


「はい……?」


フレンチさんは急に神妙な顔をしながら『俺』を見つめました。そして、触れられたくない事を聞いてきました。



「いつから、一人称が俺になった――?」



俺は『僕』が嫌いになったんだ。

だって、アンモビウム王国の頃を思い出すから。

自分なんて、大っ嫌いなんだ。鏡を見るのも嫌いなんだ。


昔、『一人称が変わったら自分じゃなくなる』なんて怖かったけど。

もう良いじゃないか。

自分が自分じゃなくなれば。


他人を傷つける自分なんて、他人に傷つけられる自分なんて。


嫌いだ。


でも、「アンモビウム王国のニゲラ」ではなく「リュテリウス島のニゲラ」になってからは順調なんだ。

俺を傷つける人なんていないもの。

有るとすれば、悪夢とカルミアの幻覚ぐらい。


寝る度に、過去に戻ってしまう。熟思うよ。

このまま、本当に過去に戻れば良いのにって。そうすれば、間違った選択肢を無かった事出来るから。


でも、そんな夢物語が叶うわけないのを知ってる。だから、いつもいつも起きる度、憂鬱なんだ。起きる時間はいつも夜明け前。まるで、俺の人生を表してるみたいだ。俺に夜明けは来ない。

この地獄(人生)に夜明けなんて来ない。


『我の容態(ようだい)が気にならないのか?』


ほら、カルミアの幻覚。いつも、俺を憂鬱にさせるんだ。

本物のカルミアはきっと無事だよ。

俺なんかより強いんだから。


『最悪の結末が怖いから、都合良く考えたいだけであろう?』


うるさい!

きっと大丈夫なんだ!!


『貴様は愚かだ』


うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい



ウィンガス暦330年3月13日


「お前……、他の島からの訪問者とか、他の国に興味を持たないのか?」


フレンチさんの急な問いに俺は困惑した。よく考えた事は無かったな。


だけど、深く悩む程の事では無い――


「――興味無いです。今ただ生きているだけで幸せですから」


『だって、傷つきたくないので。俺は他人が苦手なんですよ。フレンチさんならともかく、感情を持った他の人なんて傷つけてくるかもしれないじゃないですか?やめて下さいよ……。他人となんて仲良く出来ないに決まってる』



ウィンガス暦330年3月27日


フォンは俺の心情に気付いてか知らずか、ある提案をしてきた。


「二ヶ月もさ迷うのはキツイだろ?なら、いっそ俺達三人組と一緒に生活しないか?」


思いもよらぬ提案に俺は困惑した。


ヨークはそれを聞いて特に顔色を変えず、俺を諭すような口ぶりで話を切り出しす。


「本来なら、フォンの提案にツッコミをする僕ではありますが、二ヶ月間流浪させるのは目覚めが悪いですからね。僕達は旅芸人ではありますが、雑用とかやらすことはしませんが、どうします?」


『無理だよ。何で知らない人と二ヶ月旅しなきゃいけないの?俺は貴方みたいにコミュニケーション得意では無いんですよ……。俺に無いものばかり持ってる人達と俺なんて相性悪いに決まってる』



ウィンガス暦330年3月28日


フェレスは眉間に皺を寄せながら早口で続けて話し始める。


「言えねぇよなぁ?本当に本気で生きたい奴なら答えることが出来るんだよ!テメェは命を無駄にしようとしたって事は、生きる事に対して真剣になった事がねぇんだろ?只なあなあで生きたフリをすることしかしてねぇで、命の扱い方を考えたことねぇんだろ?」


『そうだよ。本気に生きたって良い事無いし。俺が真剣に何かをすると、空回りになるんだもの。島に居たみたいになあなあに生きていれば良かったと後悔してるよ』



ウィンガス暦330年3月31日


フェレスは声を張り上げる為に一気に空気を吸い込み、俺――いや、届かない若者に伝えた。


「だからなぁ、アタシより早く死ぬんじゃねぇよ!生きて、生きて最後に年老いて生きて居て幸せだった事を叫んでから死ねよなぁ!……まあ、こんな感じだ。また、会えたら会おうぜ。今度会う時は男らしく居ろよ、じゃあな!!」


『貴女は良いじゃないか。俺と違って力が有る。でも、俺なんか何も無い。何も無いんだ。こんな俺が幸せに死ぬ事出来るだろうか?出来ないよ。俺なんて。誰か、俺を助けてよ……』



ウィンガス暦330年3月31日


俺が謝罪をすると、ヨークとフォンは互いに顔を見合せた。


ヨークが「僕は特に言う事は無いです。フォンが言って下さい」と言うかのようにジェスチャーをすると、フォンは任せろ


と言わんばかりに得意げな笑みを浮かべた。


「まあ、何だ……。お前さんとレナが無事なら良いさ。な?」


『本心言えば良いのに。ふざけるなって。お前が余計な事しなければ、こんな目に会わなかったのにって。俺のせいなんだよ……?俺が強引にレナを助けなければ、こんなことに巻き込まれずにすんだよね?あはは、俺は結局余計な事しかしない疫病神なんだ』



ウィンガス暦330年4月1日


「なーにが、邪魔だよ。俺達は友達なんだから、もっと話そうぜ。なぁ、二人共!」


フォンの言葉にレナとヨークは頷いていた。


友達だと言ってくれるのは嬉しい……。でも――


「友達なんて、そんな簡単には……」


「簡単に出来るのが友なんだよ!と言うか、初めて会った日にお前さんが仲間に入るって決めたんだからその時点で友達だろ?それに良く言うだろ、同じ牢獄に入った仲ってな!」


『嘘だよ。俺は良く知ってるよ。パセリがそうだったんだから。でも、フォンは――皆良い人だ。こんな暖かい場所、俺なんかにはもったいないよ……』



ウィンガス暦330年5月27日


フォンの決意は、俺には揺らがせる事が出来ない。言葉の一つ一つが、火の様に強い。俺の心がどれだけ脆いのかを思い知らされた。俺なんかじゃ、そんな考え方思い付くわけがない……。


「ニゲラは俺達と一緒でなくても、上手くやっていけるさ。お前さん良い奴だしさ」


『俺なんか良い人じゃない。きっと過去の俺を知ったら幻滅するんだろうな。俺なんかが他の人と上手くいくわけないんだよ。ずっとそばに居てよッ……。フォン、レナ、ヨーク……』



『……これが、俺――ニゲラ・クローバーの真実です』


舞台の俺は無機質に一礼をして泡の様に消えていった……

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