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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第四十六話「ニゲラの過去:おみまい」

瞼が重い……。真っ暗な視界を一点に見つめることしか出来ない。先ほど居たドラゴンの顔はいつの間にか消えていました。


ここは何処なんだろう……?目を開けようとしたけど、まるで蝸牛(かたつむり)の様に遅かったです。

開けようとしているのか?開けようとしてないのか?

よく分からない状況が段々と、僕自身の恐怖を増長させます。


もしかしたら、僕は死んでいるのでは……?

天国や地獄は存在せず、無の中に一人ぼっちになるのでは……?

そう思うと、段々と恐怖による心臓の鼓動が不気味なくらいに高まりました。


その時、聞きたかったあの人の声がしました。声が聞こえた途端に、僕の目は漸く開きました。


「ニゲラッ……!私だっ!私が分かるか……っ!?」


カルミアはいつもの口調を忘れて、起きようとしてる僕を呼びました。僕は応えようとしますが、なかなか声が出ません。

朧気(おぼろげ)な視界が徐々に鮮明になると、カルミアの今にも泣きそうな顔がそこに有りました。辺りは見覚えがある部屋――、僕の寝室に運ばれたみたいです。そして、僕は詰まっている様な声をどうにか捻り出しました。


「カ……ル……ミア」


カルミアは一瞬口元を緩ませましたが、いつも通り威厳のある表情に戻りました。そして、声を低くしながら怒鳴る準備を始めました。


「貴様、何故草原に行った……?あれほど、行くなと……」


「ごめんなさい……、でも、手紙を貰って……」


僕は酷い筋肉痛を我慢しながらゆっくりカルミアに手紙を渡しました。カルミアは手紙を読むと、一瞬にして顔色を変えました。まるで、手紙の差出した人が誰か分かるかのように。


「カルミア……どうしたの?」


カルミアは僕が尋ねても、暫く黙っていました。そして、ゆっくりと口を開きました。


「……分かった。しかし、今後は見知らぬ手紙は無視しろ。良いな……?」


僕は頷くと、カルミアは何かを考えながら部屋を出ました。そして、微かに独り言が聞こえました。


「まさか、あいつが……。いや、そんな――」



暫く天井を眺めていると、扉が開く音がしました。起き上がらない身体を、首だけでも動かそうとしました。すると、聞いた事の無い男性の声が聞こえてきました。


「無理しない方が良い。君は数分後に首を痛める事になる」


数時間後……?何を言ってるんだろう?

男の声は棒読みというより、感情が無い様な感じでした。誰なんだろう?

僕が首を傾げたいと思っていると、男は涼しげな顔を覗かせた。表情はまるで無いかの様にしていた。


「初めましてだ。オレの名前はアイビー・マリーゴールド。アイリス城の専属魔術師だ。完全なる予言者の一人だ。今の君には分からないだろう、馬鹿だからな?そして――」


アイビーと言う男の淡白な口調はイラッとしまし――


いや、ムカつく……!

何なんだろう……?初対面である僕を馬鹿だと言うだなんてっ……!なんて酷い人なんだっ!!


しかし、文句を思い浮かべる気力は有っても、言う気力が有りませんでした。

アイビーはイライラしている僕に止めを刺す様に耳元で言いました。


「カルミアの元()()()だ、今後とも宜しく」




はっ…………?



その瞬間、見えていた風景がモノクロームになったかの様に時が止まった。


いや……、その、なん……だ?


そ、そう、思考が真っ白に、変わった。


アイビーの言った婚約者(言葉)が理解出来なかった。


カルミアの、婚約者。

婚・約・者


へっ……?どういうことぉ……?


アイビーは溜め息をしてぽつりと呟きました。


「やれやれ、子どもだな」


うるさい。

アイビーは部屋から出るのを睨み付け様としますが、結局首が動かずに首を軽く痛めました。


何なんだろう、あの人ッ……。



翌日、僕の容体は(首の痛み以外は)大分良くなった。手、足をちゃんと動かす事が可能になった。

しかし……、


「どうしたというのだ……?」


「……何でも無い」


昨日のアイビーが言っていた事について、僕はモヤモヤしていた。好きな人に婚約者が居た……。

元であろうと、無かろうと、カルミアを奪われていた様な気持ちでいっぱいになっていた。

だからと言って、カルミアに直接聞くのは……嫌だ。


悩んでいると、カルミアが僕の顔を覗いた。いつもなら、僕は照れてしまう。だけど、今の僕には照れる余裕も無い。


「ふむ……、まるで顔色が死人の様だな?回復して来てるのに」


「…………、――え?」


カルミアは突然、僕をお姫様抱っこをした。最初、何されたか分からず放心していましたが、徐々に認識すると恥ずかしさが高まり始めました。


「か、カルミア……!?や、やめ……!」


「止めぬ!そんなに落ち込んでるなら、あそこに連れていってやる!」


カルミアの語気は強く、まるで怒っている様です。しかし、表情は何処か悪戯めいていました。


階段を降りて行く間、何度か通りすがりの兵士に遭遇しました。しかし、カルミアは普段とは違い人目を気にせずにどんどん先に進みます。


一階から地下に向かう階段は、薄暗く、何処か寒かったです。階段を下りきると、大きな白い扉がそこに有りました。


「ね、ねぇ……?」


「ここは我にとって特別の場所だ……。入ろう」


カルミアが扉をゆっくりと、開けました。そこには――。



「ひっ……。な、な、何……?この人達……」


そこは四方八方が真っ白な部屋で、それぞれの透明な棺に寝ている男達が12人居ました……。棺は奥から一列、二列共に五台並んでいます。手前には二台の棺が置かれています。男達は寝ている――にしては、固まったかの様に静止しています。これは……。


「先代の王達だ。勿論、安らかに眠っている――不思議であろう?」


カルミアは抱き抱えた僕をその場に座らせました。そして、カルミアはゆっくりと前方の左にある棺に近づき、その場に座ります。


「で、でも、死んだ人って……、こんな綺麗には……」


「アイリス家は代々肉体を腐らせない魔術を持っているからな。王であった者達を永遠に有り続ける為に、棺に魔術を籠めている」


「永遠……?」


「そう、永遠だ。しかし、物質的な物だけではなく精神的な物の象徴として。歴史、過去、想いを受け継がれていく象徴だ。」


カルミアは棺を撫で続ける。まるで、死者と交信しているかの様に。

それにしても、カルミアの話は今一良く分からない。

物質……?精神……?

何を言ってるのかサッパリ分からない。


カルミアはこちらを振り向くと、優しい表情で僕に言った。


「この様な神聖な場所だ。どうだ?元気になるであろう……?」


神聖……。

確かにそうかもしれない。だけど……。


「そ、その……僕カルミアみたいに王族じゃないから……何のこっちゃ分からないよ……」


「……あっ」


カルミアはハッとすると、瞬く間に顔を真っ赤にしながら呟く。


「そ、そ、そうだな……!わた、わ、我は良くここで元気を貰ってたからついついっ……」


カルミアは立ち上がり棺から離れると、僕に近づきました。そして、手際良く僕を再び抱き抱えました。

カルミアは恥ずかしそうにしながらも、威厳を保とうと話続けました。


「何が言いたかったか……、そ、そのだな……。永遠は存在す……る。しかし、軸は有れど不変は存在しない。悲しい気持ちや辛い気持ちは不変ではない。悲しい気持ちを糧にして未来を造る事も出来るし、悲しい気持ちを嬉しい気持ちで打ち消そうとする事も出来る。だから、我に話せずとも今は落ち込んでも良い。しかし、大人になりたければ糧にしろ。過去に囚われ続けるでないぞ?貴様は過去に生きているのではない。今を生きているのだ。忘れるなよ?」


「え、えっと……良く分からないけど……、う、うん」


僕は取り敢えず納得しようとした。しかし、理解してないのをカルミアは分かっていた様だ。苦笑いしながら、僕に言った。


「まあ、いつか理解するがよい……。ふふっ」


「う、うん……」


再び、カルミアは僕をお姫様抱っこをされた。そして、僕達は先代の王達に別れを告げた。


僕の寝室へ帰る際、カルミアは冗談めかして言いました。


「もしもだ。貴様が旅をしてこの地に帰った際には、棺に寝て驚かそうか♪」


「カルミアっ……、そんなことしないでよ」


「ははっ、冗談だ♪真に受けるなぞ、まだまだだな?精進せよ、若人よ」


「むぅ……」


こうして、この日は終えました。


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