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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第四十四話「ニゲラの過去:カルミアという女性」

【お知らせ】

前回、投稿したお話の中で第一話「冒険は始まらない」と少し違っているシーンが有りました。

凄く本編に悪影響を及ぼすわけでは有りませんが、改稿しました。


改稿後の第四十三話をどうぞよろしくお願いいたします(あまり変わったわけじゃないけど)


話は変わりますが、5月29日はニゲラ・クローバーの誕生日です。3日遅れですが、おめでとう。

「さて、ニゲラ。今日からこの部屋があな――貴様の部屋だ」


カルミアの宣言の後、大臣達の刺す様な視線を感じながらカルミアと共に寝室へ移動した。

カルミアの寝室の隣にある小さな部屋が僕の寝室だ。窓もあり、隅々まで掃除されていたり、服が何着も有る。


こんなに贅沢して良いんだろう?

昨日まで路地裏で寝るのが当たり前だった僕が、今や寝室で寝る様になる。

昨日の僕では想像出来ない事だ。


「身なりを整え、明日から我と稽古だ。そして、いつか学校にも通う様に勉学に励め」


「学校も良いの……?」


カルミアは得意気な笑みを浮かべると、僕の頭を雑に撫でた。だけど、何処か温かく心地の良かった――。

もしも、この世界に女神が居るなら、カルミアみたいな容姿をしている――そんな風に思ってました。


いや、カルミアに失礼かもしれない。勝手に女神みたいだと思うなんて……。



「はぁ……」


「うぅ……。ごめんなさい……」


初めての剣術の稽古は酷い物でした。僕が剣を振る度に室内の物を壊したり、壁や床を傷つけたりしてしまいました。

カルミアは頭を抱えながら、ゆっくりと地面に座る。その言動は女王というより、道端に居る若者――みたいな感じでした。

僕を渋そうな表情で見ると、お説教――話始めました。


「貴様――、なんでも『ごめんなさい』というのを止めぬか……」


「う……ごめん――分かりました」


すると、カルミアは立ち上がり僕の腕を掴むと、廊下に連れ出しました。随分前に、厳しい親は追い出したり、物置小屋に閉じ込める――そんな怖い話を聞いた事がありました。


もしかして、僕は……痛い事されるのだろうか……?

一気にカルミアが怖い神様に見えました。雷を険しい顔で振り下ろす――そんな感じに……。


ですが、連れてかれた場所は、予想とは全然違うものでした。



「す、凄い……」


俯きながら廊下を暫く歩いた先に有った扉を開くと、そこは。大量の本がある場所でした。ここは所謂――


「図書室だ。剣術はすぐには上達出来ないからな、ならば今日は勉学だ」


カルミアは自慢げに笑うと、本棚からあれやこれや本を取り出す。一秒で二冊取り出す位には早い。

カルミアは何処か嬉しそうにしている。


だけど、僕は――。


「ねぇ……、カルミア……」


「こらこら、『女王』か『師匠』と呼べ。で、なんだ……?」


「僕、今まで学んだ事無いから、字が分からないんだけど……」



「あ……、ああぁ――!?」


カルミアは全然気付いてなかったのか、驚きの声を上げて大量の本を地面に落としてしまった。本にちゅうもく


カルミアって、意外と抜けているのかもしれない……。



「――この世界は共通言語の『ゴニク語』というもので通じ合っている。だから、今日は児童書を共に読んだ。どうだ?」


ゴニク語は意外と分かりやすいものでした。まるで、昔から知っているかの様に、初歩的な文法や言葉は

覚えやすかった。


この時に読んだ本は『賢者ドクダミの冒険』、内容は主人公のドクダミが成長する冒険譚(ぼうけんだん)。面白いけど、なんか……好きじゃなかった――。


「うーん……、面白かったかな」


「いや……、感想を聞いてるわけでは……。まあ、良い、我の好きな話を好んでくれるのは嬉しいぞ」


カルミアは苦笑いしつつも、僕の頭を撫でてくれた。すると、カルミアは何かを思い付いたのか手を合わせて軽く叩いた。


「そうだ!ならば、今度お忍びで劇場へ行こうか!この作者が脚本した演劇が今度やるのだ!」


唐突な誘いに、僕は戸惑いました。演劇なんて見たこと無いし、見て分かるのだろうか……?

カルミアは僕がそう思っているとは知らずに、何処か浮かれていた。

僕は不安に思いながらも、当日までカルミアと勉学をして過ごした。



「さて、良いか?普段では『女王か師匠と呼べ』なんて言ってるが、今回はお忍びの為『師匠』一択だ。分かったな?」


「うん……!カルミア――痛っ!?」


癖でカルミアの名前を呼んだ途端に、拳骨(げんこつ)をマント越しに受けた。今の一撃で僕の頭は枕の様に凹んだのでは、と思う位に痛かった。

カルミアはマントを被りながらも、渋い顔を見せつけた。


「師匠な……?分かったな?私も楽しみにしているのだ――。本当に頼むぞ……」


「は、はいぃ……」


情けない声で答えると、カルミアは溜め息しながら歩く。その際に僕の手を優しくも強く握っていた。


なんだろう……?いつもそうだけど、カルミアが僕に手を触れさせていると、僕の鼓動が少しだけ早くなるんだ。


不思議に思いながらも、街中をカルミアと共に歩き続けた。街中の様子は路上で住んでいた時と比べて、穏やかだ。(さげすむ目線なんて全く存在しない。

僕の存在が許されてる様だった。


歩いている打ちに前方に大きな建物が見えてきた名前は――確か、あの単語は『あざみげきじょう(アザミ劇場)』と読めば良いんだっけ……?えんげきと読んだ気もするけど……。


カルミアは僕が正解を導く前に答えを出した。


「アザミ劇場だ。ここは、私の父が私の――我の為に建築させた劇場だ。この国で好きな場所の一つだ」


カルミアの表情はマントを被っていても、何処か寂しそうな表情が見えていた。カルミアは咳払いをすると、いつもの凛とした表情に戻った。


カルミアは他の客と同じく券を買うと、僕の手を繋いで劇場の中へ案内した。


劇場の中は金色と銀色の装飾された壁、真紅の絨毯(しゅうたん)、金色のシャンデリア、そして傷んでいない綺麗な舞台の床と真紅のカーテン。

豪華、この感想しか出ない位に凄いものでした。


「相変わらず、綺麗だ。木の香りも良い――うんうん」

カルミアは満足気に堪能していると、暫く経ってから再び僕の手を繋いで真ん中の席へ向かった。



ブザー音が鳴り響くと、劇が始まった。


内容は、『賢者ドクダミの冒険』の前日譚。賢者ドクダミが聖女ロータスに恋をする。しかし、ロータスはドクダミを裏切っていて大事な魔法の剣を奪ってしまう。ドクダミはロータスを追い駆けて、滝まで辿り着く。ロータスは涙をながしながら「あなたを裏切って、ごめんなさい。生まれ変わったら、私とまた恋をしてね」そう言って滝に身を投げてしまう。ドクダミはロータスを想いながら冒険をして――小説の本編に続く。


悲しいけど、本編の作品を知っていたからか何処かワクワクしてしまった。あまり好きではなかった筈なのに、どうしてだろう……?


演劇がクライマックスに差し掛かる時、ふと隣のカルミアを見た。その時に見えた表情は、不思議と()かれてしまった。

凛としているいつものカルミアとは違い、純真無垢で目を輝かせながら楽しんでいる元気な――姉というか、母というか……上手く言えない。だけど、はっきりしてる事が有る。

凛として、時として無垢なカルミアに心を奪われてしまった。

――そう、恋に落ちたんだと思う。


暫くの間、僕とカルミアは演劇の余韻に浸っていた。係員に声を掛けられて漸く劇場から出た。


「この演劇はなかなか悲しい物だな。主人公の恋が叶わずに最後はヒロインに……」


「カルミ――師匠!駄目だよ、街中でネタバレ言うのは!」


「むぅ……、硬いな我が弟子は。ふふ」


カルミアは一瞬不貞腐れた様に顔を膨らませたけど、直ぐにいつもの表情に戻る。

カルミアにとって今回の演劇が面白かったからか、機嫌が良かったのかもしれない。

いつもなら、不貞腐れると暫くは機嫌治らないから。


「僕も、いつの日か舞台で演劇したいなー、そしたら……」


ふと、『告白しよう』という言葉が頭に浮かんだせいで、無意識にとんでも無い事を言ってしまった。

僕が、演劇……!?

で、出来るだろうか……?


「ん?そしたら、何なのだ?」


カルミアは綺麗な紫瞳で、僕の顔を覗き込む。覗き込まれる時間が長くなると、僕の顔は徐々に熱くなり始めた。このままでは爆発しそう……!


「な、何でも無い……!」


「――まあ、良い。いつか格好いい姿を舞台で見せておくれ。そしたら、私の名前である花束を渡してあげよう」


カルミアは僕の頭を優しく撫でながら微笑んでくれた。花束をくれる――まるで、逆に告白してくれる様に感じた僕は、笑顔で答えた。


「うん、期待してて!」


こうして、僕はカルミアに心を開いたんだ。

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