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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第四十三話「ニゲラの過去:ニゲラ・クローバー」

誰かが僕の事を鼠と呼んだ。


「残飯を食いやがって、気色悪い奴だ」


誰かが僕の事を『耳無し』と呼んだ。


「この国の子では無いのに、何故街に居るのかしら?嫌ねー……」


僕は一体何時から、この街に居たのか……。

僕は知らない。只、名前が「にげら」だと言う事しか知らない。


「……酸っぱい。この食べ物は食べないでおこうかな……」


酒場の裏口に有る捨てられた残飯を食い漁る日々を過ごしていました。

他の皆と比べて、違うのは分かっていた。だけど、それが当たり前の僕にとっては普通の事だった。


「雨だ……」


路地裏の狭い空から降る雨を眺めた。別に何か思う訳でもない。

当たり前の光景、当たり前の日常。それが全て。


――でもね、強いて言うなら。

新しい日常が欲しかった。

明日でも、何年後でも良いから、ある日突然魔法の様に全て変われば良いのに。

そう、願っていた。


顔を濡れた地面に向け、何処かへ行こうとした――その時。


「彼の言う通りだな。可哀想に……」


僕は始めて他人に声をかけられて戸惑いながらその人の顔を見上げた。

その女性を一言であらわすなら、花の女神みたいな美しい女性だ。


「――なるほどな……いや、何でも無い。貴様の名前は何と言う?」

「僕はニゲラ……」


これがカルミアとの初めての出会いであり、新たな人生の始まりだった。



「あまり、喋るではないぞ?」


「……」


僕はカルミアが既に用意していたマントを被りながら、頷いた。城の入口に向かうと、大きな門と門番三人が居た。カルミアは挙動不審に辺りを見回しつつ、門番に話しかける。


「何か御用か?」


「私は『セイヨウ』だ」


「……!分かりました」


門番達は慌てると、一人は門の小さな窓から何かを伝えた。すると、何かが回る用なけたたましい音が鳴り響くと大きな門が開いた。


カルミアは僕の手を繋ぎながら城の中へ案内した。カルミアは警戒しつつも、独り言の様に伝えてきた。


「良いか?本来は、この国の者では無い者を城の中に入れてはいけない。ましてや、女王の養子には出来ない……」


「な……」


「なら、どうして?」と尋ねようとしたけど、先程喋るなと言われた事を思い出して止めた。カルミアは察したのか、微笑みながら答えた。


「私――我の大切な友人が、久方ぶりの手紙で知らせてくれたのだ。どうか、救ってくれ――とな」


それだけで……。

そう思ったけど、カルミアのその時の表情が妙に神妙だった。他に何か理由が有るのかもしれない、と納得する事にした。


城の中に入ると、行く先々で兵士やら召し使いやらが通り過ぎる。勿論、その度にカルミアに挨拶をしていた。


「挨拶も疲れるものだな……ははっ……。あ」


カルミアは一瞬にして固まった。

僕はどうしたんだろう、とカルミアの目線の先を見た。


そこには、路上に住んでいた僕ですら分かる人達が何人も居た。大臣だ。五人の大臣と兵士達が怖い表情をしながら、僕を睨み付ける。


カルミアは目を瞑ると、深い溜め息をして呟いた。


「アイビーめ……」



「女王様!なりませぬぞ!養子を作るなんて!!元婚約者のアイビー様との子ならともかく……!」

「黒髪なんて不吉ですし、スイレン国からの刺客の可能性が有りますよ!?しかも、アイビー様からの予言であまり良い結果にならない可能性が有ると手紙が先程来たのです!」

「女王様、もう少し国を総ている事を自覚して下さい」「アイビー様の予言は絶対なのです、だから養子を作らないで下さい!!」

「お考え直し下さい!」


大臣の非難の嵐を僕は王室の裏口から聞いていた。カルミアには、耳を塞いでここに居る様に、と言われていた。しかし、興味本位で聞いてしまった。


「いっそ、今死刑にしましょうか」

「死刑は法律で禁止になっているぞ。せめて、島流しでしょう。」

「そうだ!それがいい!!」

「生きるべきではない人間なんだからな」


僕が生きるべき人間ではない……。

心臓が締め付ける様に、僕の呼吸が早くなっていく。その理由は、大臣の発言だけではない。カルミアが先程から無言だったからだ。


もし、大臣達の言葉に納得したら……?

僕はこれから痛い目に合うかもしれない、そんな恐怖を感じていた――だけど。


「黙れッ!!貴様ら、相手は子どもなんだぞ!?まだ子どもなのに痛めつけようとする精神に恥じを知れ!!それに、アイビーの予言なんか知るかッ!!」


カルミアの突き抜ける用な怒鳴り声に、大臣達はざわめき始めた。


「しかしですな……。女王が養子を作るのは前例が有りませぬ」

「今は亡きアザミ国王が見たらなんと言うか……」

「アザミ国王の顔にだけではなく、棺にも泥を被せるつもりですか!?」


「そうか……」


カルミアは声を震わせながら、ゆっくりと息を吐いた。そして、力強く宣言をした。


「ならば、ニゲラを我が弟子とする!」


「弟子ですか……?」「何の……」


「過去にお爺様が国王専属の魔術師として弟子を作った事も有った。しかも、公にはしてないが、養子としてな。それなら、問題ないであろう?――なあ」


僕は裏口で聞いていると、裏口の扉が開いた。カルミアは僕の手を優しくも強く握ると、強引に玉座の前に連れてきた。


「ニゲラ。貴様に名字をやる。『クローバー』だ。ニゲラ・クローバー、もう一度言う。貴様を我が養子且つ弟子にしてやる。良いな?」


こうして、僕は『ニゲラ・クローバー』として生きる事となったんだ。

でも、この時の僕はカルミアに心を開く事が出来なかったんだ。

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