第四十一話「第一の試験:神の気まぐれ、そして……」
白い空間をひたすら落ちていく。
先程は怖かった筈なのに、どこか安心する……。
確信は無いけど、戻るべき場所に戻っている――そう、感じているからだ。
そして、落下する先を見つめると、
そこには――。
*
*
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そこには――、何だっけ……?
再び、視界は真っ暗に戻る。
そして、身体の前方が何か暖かいものに支えられている感覚を感じていた。
足は引きずられているような振動を感じる……。
「お~も~い~……」
トネリの歯を食い縛る様な声が聞こえると、寝起きの様な朧気な風景が鮮明に変わる。さっきのは夢だったのだろうか……?
ゆっくりと顔を見上げると、トネリは透かさず振り向いた。トネリの目は赤く潤んでいた。
「ああ、ニゲラくん……!良かった~……目が覚めて……!!」
「あの……、一体何が起きたんですか……?俺は……」
トネリは俺を無理して背負うのを止めると、目を鼻息を荒くしながら答えた。
「ニゲラくんが、メテルの嘴に刺さりそうになった瞬間に、白い剣みたいなのを出現させて退治したんですよ!それで、ニゲラくん気絶して……。それにしても、何なんですか!?あれ!!」
「いや、俺はそんな事――」
「大丈夫!大丈夫ですっ!そんな謙遜しなくても良いのに~」
「だから、違っ……」
トネリは俺の話に耳を傾ける事はなく、俺が倒したと決め付けた。
本当に俺は倒していない……。
恐らく倒したのは――、
『お前、いつも予定外な事をするよな?良い加減にしたらどうだ?』
白装束の男だろう。
あの男の目的は何なのだろうか……?
俺を気絶させてリュテリウス島から出し、フォンを助けに行く際に邪魔をし、
そして、今回は俺を助けた。
白装束の男は俺が予定外の事をするとは言っているけど、俺が知るわけない。
俺は只々生きてるだけなんだ。誰かを邪魔する訳ではないし、誰かに邪魔をされる理由も――多分無い。
あの男は本当に……何なのだろうか?
俺の前に毎回現れる、という事は俺を監視しているのだろうか?もしかしたら、今も……。
トネリのしつこいべた褒めが聞こえなくなる位に、あの男の不気味さを感じていた。
*
「それにしても、魔獣居ないね……。さっき地震みたいなのが有ったからかなー」
「また、地震が……。多いですね」
トネリと道なりに真っ直ぐ歩いていた。暫く歩いているのにも関わらず、挑戦者や魔獣などの気配が無い。何なら風や、俺達以外の音も無い。
トネリは、度々目的地の丘に目を凝らしていた。
「さっきからどうしたんですか?」
「いやー、メテルに襲われる前に見えていた丘の灯りが見えないんだよね。何か有ったのかな……」
「たまたまじゃないんですか?――ほら」
俺が丘を見た途端に、先程まで見えていた灯りが再び輝き始めた。すると、トネリは恥ずかしそうに黙ってしまった。
歩き続けて、十数分。
漸く、丘に辿り着くと俺達は疲れている事を忘れて走った。危険な第一の試験を今すぐに終わりたい事も有ったけど、何より試験を突破出来る喜びも感じていたからだ。
「はぁっ……はぁっ……、間もなくゴールですねっ!」
「はぁ……はぁ……、はいっ!」
息切れしながらも、俺達は丘の頂上へ目指す。きっとそこには、生き残った者達が明るく和気あいあいと集まっているに違いない。
――そう思っていた。
*
「あっ――」
俺達が見たのは、恐怖や悲しみに捕らわれた挑戦者達が数少なく集まっていた。
16人の挑戦者達は、俺達を含めてたったの5人しか生き残れなかった。
「まさか……、そんな……」
「ちょっと、聞いてみるよ……!」
「待っ――!」
トネリは無神経なのか、無垢なのか。
遠くを見つめながら座っていたタモに話しかけた。
タモは試験前みたいに乱暴な様子は無く、心が抜けた人形の様な表情をしていた。
「ねぇ……?他の挑戦者達を知らない?まさか、こんなに死――脱落するわけない、よねっ……?そうだよねっ……?」
トネリも分かっていたんだ。でも、この現実を受け入れられない。だから、誰かに否定して欲しかったんだろう。
でも、現実は残酷だ。
タモは唇を震えさせながら答えた。
「死んだんだ……、そう、死んだんだよっ!!俺の幼なじみのリエが獣におそわれてえっ!!!人間なのにっ!!!まるで、旨い食べ物みたいにガツガツとっ……、うああああぁ!!!」
タモが泣き叫ぶと、他の挑戦者も涙を流した。耳を塞ぎ「私は悪くない」を連呼している人も居た。
「あっ……、えっ……」
「少し、離れよう――」
俺は呆然としているトネリをタモから離そうとした、その時――。
「はいはい、皆様!第一の試験お疲れ様でしたねぇ」
全員が声の方向を向くと、そこには黒い服なのか鎧なのか良く分からない人達が居た。何かを討伐する様な兵団の様にしか見えない。本当に魔獣を保護している団体なのだろうか……?
その中に背が高い中年男性が司祭の様な黒いローブを着ていた。暗い赤髪をオールバックにしていて、メガネをかけていながら目つきは鋭い。頬は痩せていて、ローブでは分からないけど、恐らく全身肉付きは薄いかもしれない。
「ワタシの名前はイヴンと言います。レヴィン……さんの親友です。この地区で司祭をしています。レヴィンさんには色々お世話になりましてね?今回いつものお礼に第二の試験を担当させて欲しい、とワタシが無理を言ってお願いした訳です。皆様、よろしくお願いしますね」
イヴンは細目で柔らかな笑顔を浮かべていた。これが、別の場所だったら愛想の良い男性に見えたかもしれない。しかし、仲間の死を悲しんでいる場では、彼の笑顔は何とも不愉快にしか感じない。
すると、誰かが試験に対して文句を言った。
「こんなに危険な試験をこれ以上受けられないわ……。私、もう辞退したい」
「おやおや、困りましたねぇ……」
イヴンは何とも態とらしい困り顔を見せた。少し間を開けると、辞退を希望した人に対して残酷な事を言い出した。
「――構いませんが、ここから一人で帰るしか無いですねぇ……」
「な、なんでよ……!誰か遣いを寄越してよ!」
「残念ながら、それは出来ませんねぇ……。第二の試験は危険ではありませんが、人数が必要でしてねぇ。そこまで、手には回せないんですよねぇ……」
「……分かったわ……。第二の試験は本当に危険じゃないの……?」
辞退しようとしていた女性の質問に、イヴンは「ええ、勿論」と答えた。女性は納得したのか、それとも納得しようとしたのか黙ってしまった。
イヴンは手を二回叩くと、声を高らかに上げた。
「さあ!皆様、これから第二の試験会場に向かいますよ!頑張っていきましょうねぇ!」
俺達は弱々しく動きながら整列させられると、ゆっくりと丘を下り始めた。
丘の先には沼地が広がっていた――。




