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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第四十一話「第一の試験:神の気まぐれ、そして……」

白い空間をひたすら落ちていく。

先程は怖かった筈なのに、どこか安心する……。

確信は無いけど、戻るべき場所に戻っている――そう、感じているからだ。


そして、落下する先を見つめると、


そこには――。





そこには――、何だっけ……?

再び、視界は真っ暗に戻る。

そして、身体の前方が何か暖かいものに支えられている感覚を感じていた。

足は引きずられているような振動を感じる……。


「お~も~い~……」


トネリの歯を食い縛る様な声が聞こえると、寝起きの様な朧気(おぼろげ)な風景が鮮明に変わる。さっきのは夢だったのだろうか……?

ゆっくりと顔を見上げると、トネリは透かさず振り向いた。トネリの目は赤く潤んでいた。


「ああ、ニゲラくん……!良かった~……目が覚めて……!!」

「あの……、一体何が起きたんですか……?俺は……」


トネリは俺を無理して背負うのを止めると、目を鼻息を荒くしながら答えた。


「ニゲラくんが、メテルの(くちばし)に刺さりそうになった瞬間に、白い剣みたいなのを出現させて退治したんですよ!それで、ニゲラくん気絶して……。それにしても、何なんですか!?あれ!!」


「いや、俺はそんな事――」


「大丈夫!大丈夫ですっ!そんな謙遜しなくても良いのに~」


「だから、違っ……」


トネリは俺の話に耳を傾ける事はなく、俺が倒したと決め付けた。

本当に俺は倒していない……。

恐らく倒したのは――、


『お前、いつも予定外な事をするよな?良い加減にしたらどうだ?』


白装束の男だろう。

あの男の目的は何なのだろうか……?

俺を気絶させてリュテリウス島から出し、フォンを助けに行く際に邪魔をし、


そして、今回は俺を助けた。

白装束の男は俺が予定外の事をするとは言っているけど、俺が知るわけない。

俺は只々生きてるだけなんだ。誰かを邪魔する訳ではないし、誰かに邪魔をされる理由も――多分無い。

あの男は本当に……何なのだろうか?

俺の前に毎回現れる、という事は俺を監視しているのだろうか?もしかしたら、今も……。


トネリのしつこいべた褒めが聞こえなくなる位に、あの男の不気味さを感じていた。



「それにしても、魔獣居ないね……。さっき地震みたいなのが有ったからかなー」


「また、地震が……。多いですね」


トネリと道なりに真っ直ぐ歩いていた。暫く歩いているのにも関わらず、挑戦者や魔獣などの気配が無い。何なら風や、俺達以外の音も無い。

トネリは、度々目的地の丘に目を凝らしていた。


「さっきからどうしたんですか?」


「いやー、メテルに襲われる前に見えていた丘の灯りが見えないんだよね。何か有ったのかな……」


「たまたまじゃないんですか?――ほら」


俺が丘を見た途端に、先程まで見えていた灯りが再び輝き始めた。すると、トネリは恥ずかしそうに黙ってしまった。


歩き続けて、十数分。

漸く、丘に辿り着くと俺達は疲れている事を忘れて走った。危険な第一の試験を今すぐに終わりたい事も有ったけど、何より試験を突破出来る喜びも感じていたからだ。


「はぁっ……はぁっ……、間もなくゴールですねっ!」


「はぁ……はぁ……、はいっ!」


息切れしながらも、俺達は丘の頂上へ目指す。きっとそこには、生き残った者達が明るく和気あいあいと集まっているに違いない。


――そう思っていた。



「あっ――」


俺達が見たのは、恐怖や悲しみに捕らわれた挑戦者達が()()()()集まっていた。


16人の挑戦者達は、俺達を含めてたったの5人しか生き残れなかった。


「まさか……、そんな……」


「ちょっと、聞いてみるよ……!」


「待っ――!」


トネリは無神経なのか、無垢なのか。

遠くを見つめながら座っていたタモに話しかけた。

タモは試験前みたいに乱暴な様子は無く、心が抜けた人形の様な表情をしていた。


「ねぇ……?他の挑戦者達を知らない?まさか、こんなに死――脱落するわけない、よねっ……?そうだよねっ……?」


トネリも分かっていたんだ。でも、この現実を受け入れられない。だから、誰かに否定して欲しかったんだろう。

でも、現実は残酷だ。

タモは唇を震えさせながら答えた。


「死んだんだ……、そう、死んだんだよっ!!俺の幼なじみのリエが獣におそわれてえっ!!!人間なのにっ!!!まるで、旨い食べ物みたいにガツガツとっ……、うああああぁ!!!」


タモが泣き叫ぶと、他の挑戦者も涙を流した。耳を塞ぎ「私は悪くない」を連呼している人も居た。


「あっ……、えっ……」

「少し、離れよう――」


俺は呆然としているトネリをタモから離そうとした、その時――。


「はいはい、皆様!第一の試験お疲れ様でしたねぇ」


全員が声の方向を向くと、そこには黒い服なのか鎧なのか良く分からない人達が居た。何かを討伐する様な兵団の様にしか見えない。本当に魔獣を保護している団体なのだろうか……?

その中に背が高い中年男性が司祭の様な黒いローブを着ていた。暗い赤髪をオールバックにしていて、メガネをかけていながら目つきは鋭い。頬は痩せていて、ローブでは分からないけど、恐らく全身肉付きは薄いかもしれない。


「ワタシの名前はイヴンと言います。レヴィン……さんの親友です。この地区で司祭をしています。レヴィンさんには色々お世話になりましてね?今回いつものお礼に第二の試験を担当させて欲しい、とワタシが無理を言ってお願いした訳です。皆様、よろしくお願いしますね」


イヴンは細目で柔らかな笑顔を浮かべていた。これが、別の場所だったら愛想の良い男性に見えたかもしれない。しかし、仲間の死を悲しんでいる場では、彼の笑顔は何とも不愉快にしか感じない。


すると、誰かが試験に対して文句を言った。


「こんなに危険な試験をこれ以上受けられないわ……。私、もう辞退したい」


「おやおや、困りましたねぇ……」


イヴンは何とも(わざ)とらしい困り顔を見せた。少し間を開けると、辞退を希望した人に対して残酷な事を言い出した。


「――構いませんが、ここから一人で帰るしか無いですねぇ……」


「な、なんでよ……!誰か遣いを寄越してよ!」


「残念ながら、それは出来ませんねぇ……。第二の試験は危険ではありませんが、人数が必要でしてねぇ。そこまで、手には回せないんですよねぇ……」


「……分かったわ……。第二の試験は本当に危険じゃないの……?」


辞退しようとしていた女性の質問に、イヴンは「ええ、勿論」と答えた。女性は納得したのか、それとも納得しようとしたのか黙ってしまった。


イヴンは手を二回叩くと、声を高らかに上げた。


「さあ!皆様、これから第二の試験会場に向かいますよ!頑張っていきましょうねぇ!」


俺達は弱々しく動きながら整列させられると、ゆっくりと丘を下り始めた。

丘の先には沼地が広がっていた――。

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