第四十話「第一の試験:最期に見えた物は」
「はぁっ……はぁっ……!」
俺とトネリは先程の短い作戦会議通り二手に分かれる。トネリはこちらを不安そうに、尚且つ不満そうに見ながら右へ曲がる。
それは当然だと思う。作戦にしてはかなりお粗末な出来だからだ。しかも、宿で触り程度しか教えなかった魔術を実戦でやらせるのだから、俺が思っている以上にトネリは不安に違いない。
「――ッ!!」
「そうなるよね……、痛ッ!」
メテルは俺に目もくれずにトネリを追っかけ様とする。一か八かだった。アスルのくれた双剣で手を軽く斬り、少し大きめの石を掴む。そして、メテルに目掛けて投げつけた。
当たれ、当たれっ……!
念じながら、石の軌道を見つめた。そして――、
「――ッ!?――――……!」
メテルの嘴に命中した。トネリの言っていた通り、メテルは丈夫で痛みを感じてはいないみたいだ。何が当たったのか、と驚いているらしい。
石に付いていた血がメテルの開いた嘴の中に少し流れた。
『上手くいったのか分からない不安』と『この後の作戦に対する不安』が上手い具合に混ざり合っていた。
今、この瞬間だけ時の流れがゆっくりとしている。
しかし、メテルの反応が時の流れと心臓の音を早く加速させた。
「―――――――ッ!!!」
『やったぞ』なんて言いたかったけど、今は走る事に専念しよう――。
*
~数分前~
「はいいっ!?うわっ!!」
トネリは俺の作戦を聞いて、思わず声を荒立てながらメテルを避けた。
声を荒立てる理由は良く分かる。かなり無謀だからだ。
でも――
「よろしくお願いします……。トネリさんが枯れ木に魔術を次々に送って下さい。なるべく落ち葉が出る位に……」
「でもさ!そんな子ども騙しな作戦をしても、メテルは倒せないよ!?」
そう、この作戦は敵を欺く作戦だ。
もし、作戦が上手くいかなければ、俺達は無事で済まないかもしれない。でも、このまま大人しく死にたくはない……!
「それでも、やるしかないんですっ……」
*
「ウィンニス・イホルグ・トルティ・フロア(風よ、巻き込みながら、共に走れ)」
右手を翳しながら走ると、俺の右側に渦を巻きながら進む風が生成された。風は地面に落ちている落ち葉を巻き込んでいきながらも、メテルに気づかれない様に出来るだけ低く吹き続けさせた。
「はぁっ……!はぁっ……!これ、かなりキツイけどっ、やり続けないとっ……!」
魔術は本来、移動しながら行うのはかなり難しい。頭の中で、自分の移動する速さと魔術の生成する位置を常に考えなければならないからだ。
俺が右に曲がれば、風を右に回転させる様に計算する。
俺が左に曲がれば、風を左に回転させる――。
まるで、難しい数式を途中間違わない様に頭の中で解く位に脳が焼ける……。
脳も……、足も……、後もう少しで停止しそうだ。それでも、生きる為に、無我夢中に風と共に蛇行しながら走る――。
「――ッ!――――ッ」
メテルは俺が何をしてるのか気付く事なく、何度も襲いかかっているらしい。何度も後ろで枯れ木が物凄い音を鳴らして倒れる。
振り向きたいけど、一瞬でも風に目を離したら魔術は解けてしまう。つまり、作戦はおじゃんだ。
倒れる木の音や息が切れる事すらも無かった事にしながら、最終目的地へ向かう。
その最終目的地は、トネリが枯れ木を少し若返らせているゾーンだ。大量の落ち葉を巻き込み、アレを作れば完成になる。
しかし、事はそう簡単には行かなかった――。
*
「うわあーん……!!ニゲラくん!ゴメン!!」
走り続けた先に有ったのは、少し若返り過ぎた木ばかりだった。葉は少し茶色になりかけているけど、誰がどう見ても落ち葉にならないのは見て分かる。
トネリは今にも号泣しそうな顔をしながら、顔をこちらに向きながら木を必死に蹴っている。
一瞬にして、頭の中に「失敗」という二文字が頭を埋め尽くす。ああ、もう駄目なのか……。
本来なら、落ち葉を大量に集めて巨大なドラゴンを模した物を作ってメテルを怯えさせるつもりだった。
先程まで無かった事にしていた疲労が一気に襲う。走り続けなければならないのに――。
段々と見える物全てが、ゆっくりと遅くなっていく。
身体も遅くなっていく。
「――――――――」
メテルの甲高い鳴き声に振り向くと、そこにはメテルの嘴が目の前に待っていた。
「あ」
その瞬間、これが最期だと悟った。
*
*
*
ここは……?
辺り一面が――いや、四方八方が白黒の空間だった。白と黒が砂漠の砂嵐の様に乱れていた。
「……ッ」
声が出ない……?何なんだろうか?
先程までメテルから逃げて……、そして――。
……そ、そうだ。メテルの嘴が顔に刺さりそうになったんだ!
つまり……、ここは――。
あの世……?
すると、四方八方の不気味な空間が真っ暗になった。そして、次の瞬間――。
落下するような感覚に陥った。
「うわああっ!?」
先程まで出せなかった声をだしながら暗闇に落ち続ける。
落ちる途中、何かが聞こえて来た。
「……………………………………………………し………………せ…………最……………………の…………に…………」
それが声にしては不気味で、何を言っているのか分からない。でも、何故か懐かしく、そして怒りを感じた――。
『お前、いつも予定外な事をするよな?良い加減にしたらどうだ?』
白装束の男の声が聞こえた途端に視界は真っ白に変わった。




