第三十八話「第一の試験:逃げ惑え若者よ(その1)」
諸事情により、間に合わないので少なめで投稿します。残りは翌日に投稿します。
道なりに、二人で横に並びながら歩く。トネリは右側を、俺は左側を警戒していた。
風で揺れる音が聞こえる度に、エンヒィの足音ではないか確認した。
「そう言えばぁ……、他の挑戦者達はどうしたんだろう?」
トネリの疑問に、俺はハッとした。今回の試験が他の挑戦者と同じなら、同じ様にエンヒィに襲われているかもしれない。
ふと、助けに行くのを考えた。しかし、そんな勇気は俺に無い。
「きっと大丈夫ですよ……」
トネリに答えたけど、この言葉は俺自身に言い聞かせてもいた。
余計な事を考えるな。考えるな……。
*
暫くして、誰かの馬車が道の真ん中で止まって居るのが見えた。馬車は変な風に傾いていて、車輪とその周辺には落ち葉が大量に集まっていた。特に馬車の真下は何故か落ち葉で埋まっていた。
「ねぇ!あれって、ボク等が乗ったのと同じだよね?」
「もしかしたら、挑戦者の誰かが乗っていたのかも――あ!ちょっと!」
トネリは無我夢中に馬車へ近寄る。エンヒィが近くに居る可能性が有るのに……、なんて無鉄砲な……!
俺も馬車へ駆け寄った。
「誰か居ませ――ひっ!?」
トネリが開けた瞬間、中から頭程の何かが落ちた。それが何なのかは、知りたくないっ……。馬車の中から血の様な臭いがするってことは……。
「うっ――おげえええぇっ!!!」
トネリは倒れる様に跪き、嘔吐してしまった。当然だ、逆の立場だったら同じ様になっていたか、もしくは気絶していたかもしれない……。
「ひっぐ……ニゲラくんっ……」
「うん、分かって、ます……。取り敢えず、今は離れよう……」
涙を溢すトネリに近づこうとした――その時。
強い眩暈が襲い、目柱が燃える様に熱い。
そして、思考が上書きされていく。
『駄目だっ!』『逃げろっ!』『これ以上ッ――』
「ニゲラくんっ!?」
俺はいつの間にか、トネリの手を握りながら強引に引っ張っていた。トネリは咄嗟の出来事に目を丸くしていた。俺もそうだ。トネリを馬車から離そうと、身体が勝手に動いていた。何故なのか、俺達は分からなかった。
しかし、その理由は直ぐに分かった。
*
馬車の下から落ち葉がまるで突風によって吹き出すと、エンヒィが飛び出す。
幸いにも飛び掛かった先には、トネリはもう居ない。
エンヒィは勢い余って枯れ木に当たると、強い衝撃音が鳴り響く。枯れ木とは言え、表面がエンヒィの頭が少しめり込む位に凹んでいた。
エンヒィは蹌踉めきながら、俺達を睨み付ける。
「に、逃げようっ!」
今度はトネリが俺の手を引き、その場から逃げ出した。トネリは嫌がりながらも、道から逸れる。
トネリも、本当なら道を真っ直ぐ進んで丘へ辿り着きたかった。しかし、今は命が最優先だ。エンヒィから逃げながら丘へ辿り着く為ならどんな道でも進むしかない。
森の中に入ると、道に居た時よりもかなり暗く先が見えなかった。枯れ木だけなのに暗いのは、暗雲のせいかもしれない。
こんな暗く怖い場所だから、トネリも本当なら今にでも泣き出したいのかもしれない。その証拠に右手の震えを左手で押さえていた。
俺みたいな人間は、トネリの不安を和らげる言葉を思い付く事が出来ない。
もし、カルミアならどう言ってくれるのだろう……。
そう思いながら、暗い森を歩いた。




