第三十六話「燃える夢を君は覚えていない」
遅れてしまいまして、申し訳有りませんでした。
今後の予定は、4月までは忙しく無いので投稿ペースを短期間ですが上げていきますのでよろしくお願いします
クラクラする……。
寝るトネリを見届けてから、俺はベッドで寝た筈……。
気付いたら眩暈の様な視界が広がっていた。
この現象に、俺は嫌と言う程に既視感がある。これは、俺が体験した過去を夢で見ている――という最悪な悪夢だ。
勘弁してくれ、明日は地獄が有るのに……。相変わらず、ニゲラは運が無い……。
それにしても……、広がっているこの風景は何処だろう?
アンモビウム王国では見た事無い街並みだ。でも、何処かで見た気がする。
辺りを見回すと、夕方と分かる位には暗かった。それにしても……、焦げ臭い。何処かで火事が会ったのだろうか……?
俺は取り敢えずゆっくりと前を歩く。
前を歩く度に、何故か心臓が締め付けられる様な不快感が増す。そして、焦げ臭いは益々濃くなっていく……。
こっちに来てはいけない、と本能が叫んでいる様だ。
すると、前に人集りが見えてきた。
柵を必死に壊そうとする人、それを止める人――、この集まりが只の野次馬では無い事は安易に分かる。
柵の先には――、あれ……。
首が、顔が、動かない……?
柵の先を本能が拒んでいる様に、目線を合わせる事が出来ない……。
目から大粒の水滴が溢れてくる。
そして、次の瞬間。
誰かが後ろから俺の腕を掴んで、強引に後ろへ振り向かせた。
『アン――の――いだッ!!!!』
誰かが悲痛な怒号を俺に浴びせた。顔はぼやけて見えなかったし、何を言ったのかは分からなかったけど、その感情が俺に向けて言っている事だけは分かる。
なんで、夢の中で見ず知らずの人に怒られなければならないんだ……。
それなのに、夢の中の俺は懺悔していた。
『ごめんっ……、救えなかったっ……。貴女の――」
*
7月5日
目を覚ますと、真っ暗な天井が広がっていた。恐らく、夜明け前……なのかな?
この町はいつも薄暗いから分からなくなる。思考が回らない頭で、昨日見た夢を思い出そうとした。
しかし、何故か思い出せない。
昔の夢だった――、気がする。
いつも、嫌と言う程に覚えているのに……。
まあ、いいか。どうせ、アンモビウム王国の頃に体験した夢だろう。
俺は午後にある試験に向けて、もう一寝入りしようと身体の向きを変え――。
「おはよう。ぼ――ニゲラくん?」
「うッ――!?」
横に向きを変えると、すぐ側でレヴィンが添い寝していた。俺は思わず叫びそうになると、レヴィンはニヤニヤ笑いながら俺の口元を手で防いだ。その姿はいつもの鎧ではなく、黒いネグリジェを着ていた。
「こらこら、皆起きちゃうでしょ?ふふ」
「ん~!?、ぷはっ……!」
レヴィンが側に寝ていた事やレヴィンの艶かしい仕草のせいで、荒れてしまった息を整える。レヴィンの手にも香水が付いていたのか、息を吸う度に植物の様な匂いが入り込んだ。
「ふぅ……。レヴィンさんは、どうしてここに……?」
「んー……。君が気になってね?少しお話しようかと」
レヴィンは寝ている俺の顔に身体を寄せる。流石にマズイと思い、俺も起き上がった。
何だろう……。
スピーチをしている時の姿はとても格好良く見えた。でも、今はどうだろう……?まるで、男を誑かす様な仕草が苦手だ。
「君はどうして、この団体に入りたいの?」
「……」
今一番聞かれたくない質問だ。何故なら、ちゃんとした理由が無いからだ。
『寂しいのが嫌だから、一人じゃ生きられないから』
そんな理由をレヴィンの前では言えない。……でも、何でだろう。レヴィンに見られていると、出来るだけ嘘をつきたくない――そんな衝動に駆られてしまう。出来るだけマシな理由を言おう……。
「みんな……、皆で活動する様な事をしたいというか……」
すると、レヴィンの顔は妖しく微笑みながら、俺の顔へ近づく。俺は思わず逃げようとしたけど、両肩を痛くない位に力強く掴まれてしまった。
「なっ……!?」
「君、嘘ついてるでしょう?本当は寂しいから、誰かの温もりが欲しいから来たのよね?」
「そ、それは……」
「別に良いのよ?人は一人では生きていけないの。だから、傷を互いに舐め合っても良いのよぉ?怖いものから逃げても良いの……。さぁ……」
レヴィンは俺を抱き締めた。その体温は暖かい様で冷たい。この温もりに身を任せたら何も考えなくても良いのでは、――そんな考えに至りそうだ。
でも、俺は思わず突き放してしまった。何故か分からない……。レヴィンは苦笑いしたけど、目は暗闇の様に静かだった。
「あらら……。ちょっとやりすぎちゃったかしら……」
「すみません……。つい……。でも、こんな事は止めて下さい」
レヴィンは何も言わず立ち上がり、廊下の扉まで歩く。そして、振り向いた。
「悪戯してごめんね?でも、君に少し一目惚れしちゃったから、勘弁してね?お休み、坊や♪」
「ひ、一目惚れって……?」
レヴィンは答えずに去った。残された俺は、先程まで聞こえなかったトネリの小さい鼾を聞きながら朝を迎えた。
それにしても、一目惚れか……。あの演説の時に見せた微笑みはそういう意味だったのか……。
俺の中で思い描いたレヴィンのイメージは、恋愛に現を抜かす人ではないと思っていた。しかし、実際は全く違った様だ。
少し、ショックだ……。
*
夕方……。
昼間にレヴィンの従者らしき人から挑戦者達は各自の寝室に待機する様に言われた。その為、他の挑戦者は知らないけど俺達は素直に待機していた。
寝室は、緊張感が漂っていた。先程からこの狭い部屋の中を涙目で行ったり来たりしていた。
「あぅ~……、緊張しちゃうよぉ~……」
「落ち着いてくだひゃ、下さいっ……」
落ち着いてとは言ったけど、かく言う俺も緊張していた。いつも噛まない筈なのに、噛んでしまった。
すると、トネリはその場に座り込んだ。やっと落ち着いた、と思いきや……。
「じゃ、じゃあ!本読もう!何か使えるものを見つけてぇ!!」
トネリはまるで試験前まで勉強しなかった学生の様に本を読み始めた。流石に付け焼き刃な知識を身に付けるのはどうなのか?とツッコミを入れようとした、その時。
「あらあら、賑やかで何よりだけど。これから試験会場に移動するわよ」
レヴィンが真っ暗なマントを身に付けながら入ってきた。トネリは、レヴィンの姿とレヴィンの発言により一気に固まってしまった。
レヴィンは一瞬だけ、俺に意味ありげな微笑みを浮かべた。思わず俺が目を反らすと、レヴィンは一瞬間を開けて話し始めた。
「これから、カレミチ市のクラミチ丘まで馬車で移動して貰うわ。第一の試験の試験内容は馬車の中で従者が説明するのでよろしくね。馬車に乗り遅れると失格になるから急いでね」
トネリは緊張したまま荷物を雑にカバンに詰め込むと、一階へそそくさと降りた。俺も一階へ向かおうと廊下に出ようとしたら、レヴィンに腕を掴まれてしまった。
「な、何ですか……?」
「もし、何か馬車で移動中にトラブルが起きたら、馬車の中にある紫色の箱を開けてね?」
「それって、どういう……?」
レヴィンは何も答えずに、そのまま別の寝室へ入ってしまった。俺はもう少しレヴィンに聞こうか悩んでいると、トネリの声が聞こえてきた。
「ニゲラくん!馬車来てるよ!」
「あ、はいっ!」
俺は急いで宿の外に向かった。
外に出ると、黒い馬車が停まっていた。御者は少し落ち着きが無く待っていた。
「お、お二人さん。クラミチ丘まで案内しますぜ……」
俺とトネリは唾を飲み込み、馬車の扉を開いた。
これから、第一の試験が始まる――。




