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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第三十四話「16人目の挑戦者」

「うわっ!?」


俺は驚いてしまい、思わずレヴィンを突き放す様に振り払った。その瞬間、レヴィンは「おっと」と良いながら軽い足取りで下がる。髪が靡くと同時に、何処かで嗅いだことのある香水の匂いが香った。

レヴィンは冷たい対応されたにも(かか)わらず、おっとりとした微笑みを浮かべつつ謝ってきた。


「ごめんね?驚いたでしょう?私意外と悪戯好きなのでついつい♪」


「あ、いや、大丈夫ですけ――」

「レヴィンさんっ!!」


またしても、話の腰を折られた……。トネリは今まで見た事無いくらいに目を輝かせながら、紙とペンを取り出した。


「あら、サインが欲しいの?」


「は、はいっ!あ、インクもどうぞ」


「ふふ、大事にしてね~」


レヴィンは紙に綺麗で尚且つ達筆にサインを書いた。書き終わると、トネリはサインが書かれた紙を持ちながら嬉しそうに回った。その姿はまるで子犬みたいだ。この人、本当に年上なんだろうか……。



「ところでね?私達、団員を増やしたくて才能のある子をスカウトしているのだけれど、坊やた――」

「はい!是非!!」


レヴィンの話に食い気味で、トネリは返事した。レヴィンは一瞬驚きつつも、微笑みを浮かべながら腰の黒いポーチから紙を二枚取り出した。そこには



~団員募集:革命を目指す若者集まれ~

おめでとうございます。

こちらの案内は秘めた才能のある素晴らしい若人のみにしか紹介しない物です。雷鳥の団は近年人手不足の為、活動の質が低迷しています。

その為、レビン団長が直々にスカウトして、入団試験を紹介しています。入団すれば、貧困から抜け出せる不自由の無い幸せな生活や国民の平均的な年収を超える多額の給料を毎月貰えます。

さあ、この政府のせいで苦しんだ悲しき若人よ、私達を信じて明るい未来にいきましょう。


集合場所:フト地区カレミチ市の沼地入り口。

集合日時:7月5日

用意する物:武器や魔導具のみ。

注意事項:この試験の存在は他言無用で、一人で参加して下さい。破った者には罰則があります。



「え……?カレミチ市でやるの……?」


俺がまだ募集要項の紙を読んでる最中に、トネリが珍しく顔を曇らせながらレヴィンに尋ねた。レヴィンは笑みを浮かべながら、こちらを見ずに回って後ろ姿を見せる。


「そうよ?フト地区はご存知の通り、かなり治安が悪い。追われたならず者が行き着く地なんて呼ばれる事もあるわ。そして、意外と知られてないけど、未知の魔獣が潜む危険な場所でもある。でも、そういう過酷な場所で生き残れる人こそ私達の団に相応(ふさわ)しいの。生と死を垣間見れば、自分が何故生まれてきたか分かるのよ。そして、明るい未来が何なのか分かる!」


レヴィンはまるで酔しれている様に両手を広げながら熱弁していた。俺とトネリが固まっていると、レヴィンはこちらを向き優しく問い掛けてきた。


「自分が何故生きてるのか分からないなんて、つまらない――そう、思わない?」


何故生きているのか。

アウルスにも似た事を言われたっけ……。


未だに、俺は答えられない。

フォン達と居た時は『楽しい一時を続けたいから生きる』と答えられた。

しかし、今は――どうだろう。

瓶で詰めた綺麗な宝石が跡形も無くなったかの様に、空っぽだ。

この空っぽな感覚は、俺には辛すぎる。

もし、この誘いを受けたら、満たされるのだろうか。


俺は――


「参加した――」

「さ、参加したいですっ!」


またしても、トネリに話の腰を折られた。俺の心はそろそろギックリ腰になるかもしれない……。


「そう、なら。参加者には特別に良い宿を紹介するわね♪」



俺達はレヴィンに連れられて、ニーズク町の隣にあるカーブス町へ来た。ニーズク町と違い、まるで全てが路地裏の様に暗く狭い。そして、至る所に――その……『夜の店』が有る。


「はぐれないでね?ここも治安良くないから」


「あの、レヴィンさん……?宿舎に行かないんですか?」


俺が思っていた事をトネリが不安そうに尋ねた。レヴィンは振り返らずに歩きながら答えた。


「普段から宿舎は団員しか入れ無い様にしてるのよ?だから、代わりに私の行きつけの宿に行くの。参加者には試験日までそこで待機させるの」


なるほど、とトネリは頷きながら再び静かになった。俺はレヴィンに話掛ける事は無かった。レヴィンの後を何も考えずに、ひたすら歩く。


先ほどから通りすぎる通行人達は、如何(いか)にもならず者の様な姿をしていた。通りすぎる度にレヴィンをいやらしく見ていた。レヴィンは気にせず、たまに苦笑いを浮かべていた。

この場所より酷いフト地区は、どれくらいなのだろうか……。


「ほら、着いたわよ。ここが宿屋――まあ、酒場でもあるけどね。さて、7月5日まで――6日間だったかしら。暫く待機していてね?私達はそれまで試験の準備してるから。それまで、ライバル達と仲良くね、バイバイ♪」


「あの、宿代――えっ!?」


レヴィンに質問しようとした、――その時。レヴィンが跡形も無く消えた。一瞬だけ、俺の身体を何かが撫でる様に触った気がした。


「い、今、レヴィンさん消えたよね!?」


「う、うん……。瞬間移動……?」


「いや、ニゲラ君。魔術で二つ以上の属性は持てないよ。魔導具かなぁ――」


俺とトネリはその場で立ち尽くしていると、宿の扉が誘う様に開いた。


そこには、金髪の柄が悪い青年が居た。俺達を見るや否や、睨み付ける。


「なんだよっ!また、挑戦者かよ!これで、16人目だぞ、マジ無いわ!」


金髪の男の悪態にトネリは怯えて俺の後ろに隠れる。そして、俺を後ろから押して近づけさせる。

この人、試験中に「一緒にゴールしよう」と言いながら裏切るタイプだ……。試験中は離れようか……。


「タモ。まあ、良いじゃない。ライバルがいっぱいの方が燃えるでしょ?」

「お、挑戦者か。私と戦うと怪我しますぞ?フヒヒ」

「煩い奴らだな、挑戦者が増えただけで喚くなよ」

「……、くだらん」


宿の扉から次々と挑戦者達が顔を覗かせた。

金髪の男、タモは溜め息をしながら俺達に雑な挨拶を送った。


「15人目、16人目。よろしくな、無駄な努力でもして早めに諦めろよな。ケッ」


こうして、準備期間の幕が上がった――。

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