第三十三話「トネリと散歩」
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします!
今年の目標は完結――すれば良いなー。
トネリに手を引っ張られながら、巡る様に最先端の街並みを見ていた。
街の建物は基本的に明るいレンガ造りか、お洒落な木造と漆喰の壁を掛け合わせた造りの二種類だ。
歩道には魔石を加工した棒状の物体が度々見かける。蒸気自動車が出した煙がその物体に吸い寄せられていた。一体どんな意味が有るかは分からない。
進んで行くに連れて、通行人の数も並みに戻った。小川の橋を渡ると、目の前から民家などが綺麗に壁の様に並んでいる場所に辿り着いた。
「ここが!雷鳥の会の宿舎が隠れてる場所ですよっ!」
「隠れている?」
「雷鳥の会は意外にも恨みを買う事が多いので、襲撃されない様にこの「ロ」の字に並んでいる建物の内部に宿舎があるらしいんです!」
トネリは再び俺の手を掴みながら一件の店に近付く。そこにはドアに小さい看板で『絵画展365日開催中♪買い取りも可能です』と掛けられていた。
「ここが怪しいんです!前回一人で行っても駄目だったんで、今回二人なら何か変わるかも!」
*
中は白く少し狭い部屋に様々な絵画が壁に飾られていた。天井にはシャンデリアとその上に幾つかの木像が飾られている。そして、受付には中年の女性がしかめっ面でトネリを見ていた。
「また、レヴィンとやらの話ですか?トネリ・シェルフさん困りますよ。私は知りません」
「いえ、絶対知ってますよ!この前、レヴィンさんがここに入ったの知ってますもん!」
「ストーカーですか……。怖っ……」
「ストーカーじゃないもん!ただのファンなんだもん!」
受付とトネリが言い争っている間、俺は絵画を堪能する事にした。
ここに飾られているのは独特な絵ばかりだ。
青い髪の女性がパンを持っている絵『青とクロワッサン』、雷の絵『軌跡』、釣り堀の真ん中に生えたひまわりの絵『ミア』、何かの島の絵『秘境』、青いドラゴンの絵『希望』、黒いドラゴンの絵『絶望』、魔石の絵『資源を大切に』。
これら七つの絵には何も書かれていない値札が付いている。
「そこの貴方。トネリ・シェルフさんと違って買ってくれるのかしら?」
「あ、い、いや、見てるだけなので……」
すると、受付の女性は先ほどまでの表情とは違う神妙な顔つきで尋ねてきた。
「――因みに、この中で四つ選ぶならどれが良いですか?」
「えっと……『青とクロワッサン』、『奇跡』、『ミア』、『秘境』ですかね」
急な問いかけに困惑しながら答えると、受付の女性は一瞬微笑んだ。受付の女性は直ぐに涼しげな表情に戻るとこのように告げた。
「センスは完璧ですね。後は幾らで買うのかです」
*
二人で絵画展から出ると、トネリは頬を膨らませながらぶつぶつと文句を言っていた。
「あ~あ、結局駄目だったな~」
「やっぱりここは関係無いのでは?それよりも、雷鳥の会のメンバーに話を聞くとかは――」
「活動場所も毎回違うし、滅多に会える事無いんだよ……」
トネリは顔を俯きながら橋まで歩くと、振り向いて建物の壁を見ながら呟く。
「いっそ、攀じ登ろうかなー……」
「流石にまずいと思うけど……」
「いや、木登った事あるし大丈夫じゃないかな……」
「いやいや!そういう事じゃなくて、警備隊に捕まりますよ!?」
トネリは「そんなもんかな」と言いながら欄干に肘を付いて溜め息をした。
俺は上手い慰め方が思い付かずに立ち尽くしていると、俺達が先ほど来た道から一人の中年がこちらに向かって来た。良く見たら、先ほどのレストランに居た男性だ。
あの時の盗み聞きしている様な雰囲気も有ってか、「俺達の跡をつけて来たのではないか?」と勘繰った。俺が警戒して一歩下がると、男は陽気な笑みを溢しながら場を和ませた。
「黒髪青年、警戒しないでくれよ?俺はしがない釣り人なんだ」
男は釣竿と魚籠を見せると、トネリの横に並び同じ様に肘を付く。トネリは俺と違って警戒する事無く接した。
「おじさんは雷鳥の会について何か知ってる?ボク達、団員になりたいんだ」
「いや、俺は少し違う――」
「自分は知らないな。でも……」
男は俺の言葉を無視して答えた。そして、少しの間を開けると、悪戯な笑みを少し浮かべながら怖がらせる様な口調で俺達に警告した。
「雷鳥の会の試験は危険らしいから止めとけ。噂じゃ、若者の行方不明が多発してるらしいからな。さぞや酷い団長なんだろうな!」
トネリは凄く不機嫌な表情を浮かべた。きっと反論をしようとするだろう。
しかし、トネリよりも先に俺が思わず反論をしてしまった。
「レヴィンさんはそんな事しないと思う、――あ」
「へぇ、そうかい。なるほどね」
俺は思わず驚いて口に手を当てると、男は苦笑いして頷く。トネリは良くぞ言ってくれた、と目を輝かせながら俺を見た。
男は部が悪いと思ったのか、それとも満足したのか俺達に背中を見せて離れる。離れながら、俺達に助言を残した。
「まあ、信んじるのは素晴らしい事だな~。でも、偽善者は信じるなよ~。また、会えたら話そう。~♪」
男の姿が見えなくなると、陽気な鼻歌が小さく、そして消えた。すると、トネリは大声で叫んだ。
「レヴィンさんの悪口言うな!!ばーか!!ばーか!!」
「……あの、もう聞こえてないと思うけど……」
「――だって、髭面って怖いじゃない……」
「はあ、そうですか……」
*
夕方。
俺達は来た道を戻っていた。他の街ではこの時間帯になると通行人の数が減るけど、この街は違う様だ。何なら先ほどよりも多いのでは?と思ってしまう程だ。
「そう言えば、ニゲラくんは何処か泊まってるの?」
「泊まってないけど……?」
「だったら、ボクが泊まってる宿に来ない?今泊まってる部屋二人部屋なんだけど、一人空いてるからタダだよ!」
唐突なトネリの提案に俺は乗ろうか考えてしまった。
普段――いや、以前の俺なら断っていたと思う。
しかし、一人では生きていけないのを知っている今の俺には断る勇気は無かった。
「じゃあ――」
俺が答え様とした、――その時。
何かが背中に当たった。
そして、後ろから誰かの両手が交差する様に俺の両腕を掴んだ。それが抱き締められたと分かるまで少し間が空いた。
トネリは俺を見ると、顔から湯気が出るくらいに赤くなっていた。
「れ、れ、れ――!」
「こんにちは♪可愛らしい青年達」
俺は恐る恐る振り向くと、先ほど広場で見たあの女性の顔がそこに有った。
「初めまして、私はレヴィンよ。良かったらお話しないかしら?ふふ」




