第三十二話「トネリ」
今年も大変お世話になりました。
来年も、「ポインセチア・ノート」を宜しくお願いします。
皆さん、良いお年をお迎え下さい。
来年の更新は1月4日以降です。
「色々すみませんっ!すみませんっ!」
警備隊の職務質問が終わると、少年は申し訳なさそうに涙目になりながら何度も謝られた。俺は大丈夫と言ったのにも関わらず、少年はキツツキが木を突つく様な早さで頭を何度も下げる。
「も、もう、気にしないで!」
「でも、でも、このままだと申し訳ないというか、とにかく、すみませんっ!」
通行人が俺達を横切る度に変な目で見ていた。傍から見れば、俺がこの少年を無理に謝らせている様に見えるのではないか……?誰かが再び警備隊を呼ぶ前になんとかしなければ……。
「な、なら、散歩しませんか?俺、この街に来たばかりなので……」
すると、少年の表情は一気に快晴の如く明るくなった。そして、少年はカバンから古びた地図を取り出して、笑みを見せた。
「君も、初めてなんだ!なら、そうしよう!ボク、お金沢山有るから幾らでも奢れるよ!」
「ちょっ……!?あまり、お金有る事を言うのはどうなのかと……!」
「え、そうなの……?ボクの村じゃ、平気なんだけどなぁ」
少年は首を傾げながら、胸元から取り出そうとした財布を仕舞う。少年は俺並みに世間知らずなのだろうか?
「とにかく、お金有るアピールすると悪い人が狙うのでダメです」
「なんか、君年上みたいな口調だねぇ」
「俺は一応18歳なので……」
18歳。大人だと思うけど、正直自信は無い。
昔はカルミアに良く大人になれと言われていたけど、今の俺はどうなのだろうか?
大人らしい在り方、大人らしい考え方、大人らしい生き方――俺には説明出来ない。
だけど、目の前に居る少年をしっかりと年上の俺が一緒に居ないと――
「そうだ!自己紹介まだだったよね。ボクはトネリ・シェルフ。22歳だよ」
「俺はニゲラで――、……え?その見た目で22!?」
*
トネリに連れられて街を歩いていると、途中にレストランが見えた。トネリはそこで一緒に食べようと提案した。しかし、俺は手持ちのお金があまりないからと断った。しかし、トネリは「奢るよ!」と言いながら、半ば強引に俺を店内へ入れさせた。
「うわぁ!ミートスパゲッティーぽい野菜が沢山入ってる奴だ~!」
「あの……、静かに食べましょうよ……」
トネリは、22歳とは思えない様にはしゃいでいた。店から出てくる料理を見る度に興奮している。一方の俺はトネリの言動に困惑しつつも、久しぶりに誰かと食事が出来る事を嬉しく思っていた。
トネリは口にパスタを頬張りながら俺に訊ねた。
「もぐっ……そう言えばさ、キミはレヴィンさんのファンなの?演説を見てたでしょ?」
「レヴィン……?」
「え……?まさか、レヴィンさんを知らないの!?」
「何処かで名前だけは聞いた事ある気がするけど……」
すると、トネリはパスタが乗った皿を床に置く。カバンから様々な新聞の切れ端を取り出した。フレンチさんのお手製新聞とは異なり、ちゃんとした印字で書かれていた。トネリはテーブルの上に切れ端を、まるで千切れた宝の地図を繋げる様にした。その様子はどう見ても心を踊らせる子どもにしか見えない。
「自称慈善団体、雷鳥の会。何の活動しているか明確に分かっていないんだけど、行く先々で魔獣やオープマトゥを保護している事だけは分かってるんだよ!その団体の団長がレヴィン・アレクサンドライトさん!青い鎧と綺麗な青い髪がトレンドマークなんだ。それで、得意な魔術が雷の魔術!雷を放つ青い鳥――別名『雷鳥の騎士』!」
「な、なるほど……」
俺がトネリの流暢な語りに思わず引いていても、トネリは目を輝かせながら語り続ける。
「副長のミア・カーネリアンさんはあんまり姿を現さないから分からないんだよね……。でも、噂では裏方で結構活躍している凄い人らしいんだ。後、発明家の――」
「も、もう大丈夫!分かったので!」
トネリが渋々新聞の切れ端を仕舞うと、溜め息しながら皿をテーブルに戻した。そして、肘をつきながら呟く。
「――ボクも団員になりたいなぁ……」
「なれば良いじゃないですか?」
すると、トネリは俺を凝視した。俺は思わず唾を飲むと、トネリは視線を下げて再び溜め息をした。
「雷鳥の会はね、入団するのが難しいんだよ……。試験を受けるにも団員の知り合いでなければならないんだ」
「そうなんだ……」
ふと、後ろを見るとボサボサした茶髪の中年男性がこちらの話を聞いているかの様に視ていた。髪は乱れているけど髭だけは綺麗に整えていた。
中年男性が俺と目が合うと、愛想笑いしながらビールを片手に空中で乾杯して見せた。俺は会釈してトネリに視線を戻した。
「ニゲラくん。これからどうする?ボク的にはせっかくの縁だし、もう少し何処か行きたいなーと思うけど」
「じゃあ――」
ふと、レヴィンの先ほどの表情が頭に浮かんだ。先ほどの既視感と共に。会った事無い筈なのに、何故顔を見た事があると感じるのか?
その謎が俺の中で気になって仕方なかった。この謎をこのままにしてはいけない――そんな気がした。
「雷鳥の会の方々に会いたい……かな」
「え!?会いに行くの!?でも……」
トネリは暫く考えると、立ち上がって荷物をまとめ出す。
「――じゃあ、行ってみよう!もしかしたら、団員試験受けれるかもしれないし!」
俺の手を引きながらレストランの出口へ向かっ――
「お客さん!!お会計!!」
「わわっ!忘れてた!ごめんなさい~!!」
「……大丈夫かな」




