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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
二章:雷鳥の騎士
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第三十一話「何処かで会った女性」

正午も過ぎて午後二時ぐらい。

ダイドウ地区を抜けて、ワティラス連邦国の政治の中心地ミリヨデ地区を抜けた。


ミリヨデ地区は巨大な要塞が八割。残りの二割は水堀とそれを囲む様になっている環状の道だ。

城ではないとフォンは言っていたけど、ワティラスの中枢なのだから城扱いでも良いと思う……。

国の中枢だからか、歩く度に警備隊から職務質問を四回も受けた。フォンやアウルスさんが嫌がった理由が何となく分かる気がした。質問が良くねちっこい。


「君の様な年齢で旅してる人は珍しいよね?本当に旅なの?」、「君の服の汚れはダイドウ地区で付きそうに無いよね?」、「黒髪はここでは珍しいね?何かの宗教で染めてるの?それともデモ隊のシンボル?」――などなど。


俺的には職務質問というより尋問を受けている様に感じていた。ミリヨデ地区を出る時には精神的にかなり疲れていた。この地区には二度と行かない様にしよう。面倒くさいから……。



ミリヨデ地区を出てニーズク地区ニーズク市に辿り着いた。

ここはユエル市よりも都市開発がかなり進んでいた。

街の真ん中には年季の入った巨大な時計塔が(そび)え立っていた。

街中を歩いていると、馬車は少ない代わりに蒸気車が数多いのが見て分かる。以前聞いた事のある電灯というガス灯ではない照明が使われていた。何もかもが最先端の地区だ。


――正直、俺はこの街に付いていけない……。例えるなら、未来の世界に置き去りされて呆然としているのと同じ気分だ。

俺は街の様子に少し困惑しながら歩いていると、透き通った綺麗な声が聞こえ始めた――。



「私達は限りある魔石という資源を、未来の為に節約しないといけません!その証拠に生息していた魔獣達が過去30年で千三百八十万頭も絶滅しています。私達人間に無関係と思う方も多いと思いますが――」


声を頼りに進むと、少し大きな広場に着いた。

周りには演壇の上で力強く清らかに話す女性への人だかりで溢れていた。演壇の横には女性の仲間なのか、がたいが少し良い男性三人が立っている。恐らく三人は護衛なのだろう。三人の服には青い鳥が翼を広げている様な紋章が描かれていた。


女性は艶のある藍色の長い髪を(なび)かせていた。瞳は金――とまでは言わないけど輝いている様に見える位に綺麗な黄色だ。背は高く、顔の落ち着いた表情や青い鎧は女性の性格を表している様に見える。


――それにしても、この人の声何処かで聞いたような気がする……。顔も以前見た事があると思うけど、思い出せない。

俺が必死に思い出そうとしている中で、女性の演説は更に進んでいく。


「魔獣やオープマトゥの保護をする事は、過去から未来を繋げるのと同じです。私達が本来大切にしていた物を権力者によって奪われるのは不本意ですよね?自然や先祖が大切にしていた叡智を今からでも一人一人が大切に守っていけば、過去の人達が重ねてきた物を未来に届ける事が――」


「うるせぇなぁ!!!」


その時、人だかりから怒鳴り声が聞こえてきた。全員、一人の酔っ払いに視線を奪われた。昼間から顔を赤くして、演説をしている女性を睨み付けた。


「ひっく、てめぇ、さっきからうるせぇの!何なんだぁ?宗教臭い若造が偉そうに説教しやがってぇ!大きなお世話なんだぁよ!ついこの間も、孤児院で教育してたの見たけどしゃしゅる様に叱ってやがってぇ!」


酔っ払いの文句に、女性は怒る事無く見つめていた。しかし、三人の護衛は何かを察したのか、女性に少し距離を置く。


「説教してはいません。私は伝えたいから力強く言葉を発してるの。それより、子どもが悪い事をしたら叱ってはいけないの?」


「ひっく、ああぁ!悪いねぇ!!子どもは甘やかしてなんぼだぁ!」


酔っ払いは臆せずに、偉そうに地雷を踏んだ。その瞬間、雷鳴が落ちる様に女性の口から純粋な怒りが轟いた。


「大人は、子どもに悪い事は悪いとしっかり教育するのが役目でしょッ!!大人が子どもに示しを付けなければ、その子どもが次の世代に示しが付かないのッ!そんな事も分かんないのッ!?この大馬鹿者がッ!!!」


「ひいぃっ……!」


女性の凄い剣幕に、酔っ払いは酔いが冷めたのか一気に青ざめる。そして、女性から逃げる様に広場から去った。


「……ふぅ。――あ」


女性はスッキリした表情で辺りを見回すと、一気に表情が赤くなった。俺以外の周りの人達は女性の怒鳴り声に怯える様に引いていたからだろう。

女性はあたふたしながらも、出来るだけ演説していた時に近い表情で話を締めた。


「と、とにかく、未来の子ども達の為に、頑張りましょうね!ね?――い、以上です……」


周囲から乾いた拍手が鳴り響いた。女性は演壇から少しずつ降りていると、俺の方向を見てきた。目が合った途端に、先ほどの説教した人とは思えない可愛らしい小さな一礼をして微笑んだ。


ん?やっぱり、俺はあの人に会っ――。



「良いなぁ……、ボクも」


ふと、小さな声が俺の真後ろから聞こえた。先ほどまで、後ろには誰も居なかった筈……。俺は勇気を持って、恐る恐る振り向いた。


そこには、灰色の髪をしたおかっぱ頭の少年が俺にくっつきそうな位の距離で立っていた。瞳は茶色で、背が低い。

振り向いた俺は今にも悲鳴を上げそうだったけど、少年に先を越された。その悲鳴は俺以上に事件性のありそうな物だった。


「ぎゃあ"ああああぁ!!」


「うわああああぁ!?」


こうして、本日五回目の警備隊による職務質問を受けてしまった――。

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