第二章プロローグ「独りぼっちのニゲラ」
何故、こんな事態になったのか?
いや、事の発端はフォン達と別れたからだろう。
もし、フォン達を無理に引き留めていたら……。
もし、フォン達の誰かに付いて行けば……。
もし――もう、止めよう。
只、虚しくなるだけだ。
*
1ヶ月前。
ブルディア村に着き、身分証明書を作った。それから、南東に進み小さな村の港に着いた。
ここまでは、良かった。
「ああ……、ごめんなさいね?もう、リュテリウス島には行けないのよ?ここで船乗りしていた人が密航で政府に捕まったの」
村人の言葉が、俺を絶望させた。それでも、望みがあるのではないか?そんな、浅はかな願いを込めて俺は質問をした。
「で、でも、後継ぎとか……。近くの――」
「ごめんなさい。この村に船乗りが出来る人もいないし、近くの村にも居ないの。諦めて?」
こうして、俺はリュテリウス島に行けなくなった。頼みの綱のフレンチさんは居たけど、何処に居るか分からない。
この時の俺は、まだこれから一人で一から生活すればなんとかなると思っていた。
一応、身分証明書が有るから何処かで住む事は出来る。但し、お金は8000ウェンしかなかったので、職に就いて生活しようとした。暫く、生活していれば再びリュテリウス島に帰る手立てが見つかると思ったからだ。
それで、ダイドウ地区ユエル市で一番安いアパートに住み、大家さんに無理を言って前家賃を払えるまで待って欲しいとお願いした。
しかし、無理だった。
職に就いても役に立てずクビになった。最後に就いたスパゲッティ専門店では、変な事してないのに味見した人が次々に腹を下した。そして、慰謝料は要らないから出ていけと言われてクビになった。
そして、今日。6月29日に俺はアパートからも追い出された。
現在の持っているお金は1219ウェン。
こんな状態で生きていけるワケがない――。
*
今にも雨が降りそうな雲の下をひたすら歩いていた。行く宛も無いのに……。
街中で、大道芸をしてる若い人達が警備隊から逃げているのが見えた。
その瞬間、逃げている大道芸人達の顔がフォン達の様に見えた。そして、聞こえる筈の無い懐かしい声が聞こえた。
『げぇ!?逃げるぞ!!』『フォン、椅子は邪魔だから捨てましょうよ!』『ヨーク君!私、本置いてきちゃった!』『レナ!後で取りに行こうぜ!な、ニゲラ!』
「うん!あ――」
俺は思わず返事をすると、幻聴と幻覚は消えていた。
大道芸人達は警備隊に捕まってしまった。そこにもう友人の顔ではない。
辺りの通行人は急に喋り出した俺を不信に見ながら通り過ぎる。
人が通り過ぎる度に、俺はどうしようもない感情が胸に溢れて来た。耐えきれずに人気の無い路地裏に駆け込む。
そして、俺は口からとうとう悲しみを吐き出した。
「生きていける訳無いんだよッ!!他人が苦手、世界が苦手だった俺なんかがッ……!!一人じゃなんも出来ないッ……、俺は弱い人間なのにッ……」
不思議と涙は出なかった。しかし、悲しい証拠に立つ気力が無くなり、ゆっくりと崩れる様に座り込んでしまった。
暫く、地面を見ていると前に見慣れた足が見えた。
顔を上げると、カルミアが――いや、いつもの幻覚が居た。
カルミアは不機嫌な表情を浮かべていた。何も言わず、西に指を指す。
「カルミア……?西に何かあるの……?」
カルミアは頷くとゆっくりと消えていった。
俺は西を見ながら立ち上がると、路地裏から抜け出した。
西に何が有るのか、俺には分からない。
でも、フォン達と過ごした日々みたいに――幸せな日々を送る事が出来るなら……。
前へ進もうと思った。
ポインセチア・ノート
第二章「慰めを求めた愚か者」




