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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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幕間3「君を待つ」

ウィンガス暦330年5月29日



ニゲラがブルディア村を目指してる頃、遥か北である森で二人が密かに会っていた。


一人は茶髪でボサボサ頭の中年だ。髪型はクセ毛なのか寝癖なのか分からない癖に、髭は生やしてはいるけど綺麗に整っている。服は山の中を歩いていたのか、泥が着いていた。


もう一人は、ニゲラ達と以前出会ったアスルという女だ。相変わらず、フードを被っていて顔が見えない。

アスルは古びた大きな円鏡を男に寄り掛からせると、得意気な笑みを男に覗かせて見せた。


「ふふん!どう?取り返したわよ!」


男はアスルに顔を向けると、苦笑いをして見せた。そして、池に釣糸を垂らすと、友人に冗談を言う様な軽い皮肉をアスルに送った。


「はは、団長殿。異名を持つぐらいには有名人の癖に時間掛かったな?亀でも助けてたのかい?」


「はいはい、カーネリアン副団長。貴方は釣りしかしてないんだから人の事言えないでしょ?」


「お?『カーネリアン副団長』か……。名前のミアで『ミア副団長』と呼ばれるより、響き良いな~」


ミアは陽気に魚が餌に食い付くのを待っていると、アスルは川に手を(かざ)した。ミアは片手に釣竿を握り締めながら、もう片方の手でアスルの手を握る。


「こらこら、釣りで魚を捕まえるから楽しいのであって、君の最高の魔術で捕まえても楽しくないんだよ」


「そう言って、釣れないと二日間も釣りをするでしょ?」


「あー、あの時のな……。悪かったよ。でも、団員全員の夕食がパンと豆だけだったのは……、ぷっ」


「笑い話じゃないわよ!ミアの馬鹿!」


ミアは笑っていたが、ふと思い出したかの様に真剣な表情に変わった。


「さて、笑い話は置いといて、()()()について報告しよう」


「――!聞かせてくれる?私達を嵌めている奴が誰なのかを……」


アスルはミアの横にくっつく様に座る。ミアはアスルに見える様に資料を渡した。


「イクブル市――自分達の拠点があるニーズク市の隣だな。そこで、若者の失踪が多発している。その若者全員が()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」


「うわぁ……、最悪ね。そりゃ私達を疑うワケね~……」


「しかも、その鏡の件も有るしな。自分達は今やカルト宗教『シュルギス教』に並ぶ怪しい団体さ」


アスルは円鏡を見ると、肩を落とした。ミアは立ち上がりアスルの肩に手を置いた。それは友人を慰める者ではなく、ある悪巧みを提供する者の様だ。


「提案なんだが、団員募集しないか?自分達が潔白である事を証明する為に……」


「……しないわよ。ミアは副団長だから分かるでしょ?私達は安易に入団させないの。縁を辿りに入団希望者を推薦して、試験と私直々の面接を受けさせるのよ」


アスルが断ると、ミアは含み笑いしながら少し大きめな声で訊く。


「ニーズク市のカーブス町とかでか?」


「ちょ、……何――」


その瞬間、ミアとアスルの後ろにある茂みが揺れる。二人とも咄嗟(とっさ)に振り向くが、誰も居ない。


「だ、誰!?」


「熊だろ。気にすんな、最近多いらしいしなー……」


「いやいや!それなら、気にしなければ駄目じゃない!」


ミアは緊張感の無く笑っていた。一方のアスルは茂みをずっと睨み付けている。


「緊張すんな、多分襲わないよ。それより、団長が言っていた縁だが……。最近、推薦したい奴居たか?」


アスルは目付きを緩めると、微笑みながら答えた。


「ええ、もちろん。ブルディア村で出会った子何だけどね?ニゲラという青年が気になったのよ~」


「ふーん、どうして?」



「何か、縁を感じたのよね。また、会える――そんな気がして!」




ニゲラが生まれる何十年前



アンモビウム王国の城下町から少し離れた森に佇む一軒家に二人の男女が居た。


男の名前はアイビー・マリーゴールド。

この時代でも、アイビーは整った緑の髪に眼鏡を掛けていた。アイビーは涼しげな顔をしながらも、時間を気にする様に懐中時計をひたすら見ている。側には良く分からない機械――魔導具を起動させていた。金属のチューブに黒い(うろこ)が入ったフラスコを繋げていた。


家の物置部屋から少女の声がした。


「お~い、アイビー?まーた、考え事か?」


アイビーはその声を聞くと、溜め息をしながらいつもの口調でいつもの予言者らしく答えた。


「ああ、そうだとも。なあ、君がいくら好きだからと言って、オカルト本を置くなよ?迷惑だからな?」


「げっ……!また、アイビーの完璧なる予言か……」


「完璧ではなく、完全な――」


アイビーは机に(ひじ)を付くと、物置を物色している少女に再び話し掛ける。


「そろそろ、友人が不本意ながら会いに来てくれるんだ。邪魔だから帰ってくれないか?」


「はぁ?私はアイビーの婚約者だぞ!私にも会わせろ」


アイビーは頭を抱えながら溜め息をする。すると、物置から少女が姿を現した。



背は小さく、薄いピンクの長い髪、狼の子どもの様な耳、白い肌、瞳は紫色。


そう、彼女の名前はカルミア・アイリス。

まだ、国王のワガママな愛娘だ。


「断る。君が居ると事態がおかしくなるんだ。草原でまじないごっこしてろ」


「むぅ……、私はちゃんと考えてまじないをしているのに!」


小さいカルミアは怒りながら家を飛び出した。アイビーは再び懐中時計に目をやる。


「さて、そろそろだ。君は楽しみにしてないだろうけど、オレは楽しみにしているんだ。楽しい一時を過ごそうじゃないか――なあ、ニゲラ?」


アイビーは、今まで見せた事の無い優しい微笑みを浮かべていた。

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