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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
34/72

第三十話:第一章最終話「親友の進路に幸あれ」

漸く、第一章が終わりました。

ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。

また、ブックマークを外さないでくれてありがとうございます。


俺的には『第一章:30話』を書いたと言うより、『プロローグ:その30』を書いてるつもりでした。だから、はっきり言ってこの章は物足りない内容だったと思います。

その代わりに、様々な伏線を張っておきました。何処と何処が今後関わってくるのか――は内緒です。

さて、次回からは第二章。あらすじの『罪を知れ』の『つ』の字も触れてないので、ここから本編開始です。

ニゲラが今後どう成長していくか、『罪を知る』のかお楽しみに。



他人なくして、成長は無し。

5月27日


俺達は警備隊に追われていた。いや、正確にはフォンが追われている。

あれから、シースト地区ビラント市から北へ飛ぶように駆けていた。追跡を逃れる為に都市開発が進んでいない土地や町を転々とした。


だけど、警備隊は全てお見通しみたいで町に着く度に――


「あの金髪、何処に行った?」


「早く見つけろ!近衛隊第三班副長からの命令なんだぞ!」


「ああ、もう!分かってるさ!あの副長は人使いが荒いんだよな」


()()()警備隊から逃げ回っていた。



先ほど、近くの村に着いたばかりだったけど、警備隊がフォンを見つけてしまった。たまたま、フォンがフードを被っていなかったのが今回の原因だ。

俺達は林へ逃げて暫く身を潜めていると、フォンが苛立ちながら俺に聞こえる位の声量で愚痴を言い始める。


「昨日も!一昨日も!警備隊ばっか!モルデとか言う奴どんだけ俺を恨んでいるんだよ!」


「フォン君仕方ないよ。14日前のアイロン攻撃は痛そうだもん」


「フォンを恨んでいる――というより、アウルスとニゲラに関わりがあるフォンを捕まえて、情報を吐かせる為でしょうね。ついでに従姉妹と結婚させる」


「うわぁ……絶対やだぁ」


「とにかく、また北に進んで安全な場所に行こう。そうすれば、またのんびり大道芸が出来る――と思う……」


「「……」」


全員、ただ俯いていた。こんな事が何度も続いているのに、今後再び楽しく大道芸が出来る保証が無い。

この場に居る全員がそんな事を分かり切っていた。



13日前


朝、宿で朝食を食べていた。

レナとヨークは昨日の疲れが残っているのか眠そうにパンを食べていた。フォンがいつもみたいに楽しそうに話を始めようとした――その時。

宿の外から銃声や怒号が聞こえた。

俺が恐る恐る窓を覗くと、警備隊が宿の前で集まっていた。彼らの要求は、フォンの身を此方に渡す事。もし逆らえば逮捕する、と脅してきた。

俺達は荷物を最低限持って、フードを被りながら宿の裏口から逃げた。


その後の事は覚えていない。



警備隊が去るのを確認すると、林を抜けて暫く北西に歩いていた。すると、綺麗な川が見えて来た。方角からしてケントル川だろう。川を長々と下れば1ヶ月前にお世話になったブルディア村に辿り着くと思う。

河原の石は少し大きめで、非常に歩きにくい。フォン達はそんな足場でも、やはり慣れた歩みで川に近づいた。


「お、川綺麗じゃねーか!魚がうようよ居るぜ!」


「うようよは居ないでしょ」


「ニゲラ君、転ばないでねー」


「う……、うん……」


歪な石達に足ツボを不必要に押されながら、フォン達の元に辿り着いた。すると、フォンは畏まる様な咳払いをして話を始めた。


「皆、集まったな?今日で――今日はこの場所で野宿するぞ!」


「――!……そうですね。じゃあ、僕とレナは薪を探します」


「う、うん、分かった。行こう!」


ヨークは何かを察した様な表情を一瞬すると、レナと一緒に近くの森へ行ってしまった。フォンはヨークの表情から何かを感じたのか、目を閉じて深呼吸をする。


「フォン……?」


「――何でもない。さあ、俺達は魚を捕まえる仕事だぞ?頑張ろうぜ!てやっ!!」


「フォン!流石にいきなり川に飛び込むと魚が逃げますよ!?」


「男はな!気合いだ――なんか、アウルス(おっさん)みたいでやだな……。とにかく、気合いで食らいつくように!!」


フォンはいつもの様に元気な雰囲気で魚を捕まえようとしていたけど、何処かヤケクソに振る舞っている様に見えた。

俺はフォンの様子を気になりながらも川に入った。



30分後


「魔術の力ってすげーな。流石はニゲラだ」


「素手では無理だと分かったので……」


本来なら釣竿を手作りで作るのだろうけど、作り方も分からない。だから、力業で魔術を使って魚を打ち上げて河原に落とした。その結果、八匹のニジマスを捕まえる事が出来た。フォンは、いつの間にか用意していた細く硬い木の棒を取り出した。


「ニゲラも疲れたろ?俺が魚を串刺しするから座っていてくれよ!少し話したい事あるしさ……」


「じゃあ――」


俺は言葉に甘えようとしたけど、何か嫌な予感がした。ふと、フォンが先程言っていた言葉を思い出した。


『皆、集まったな?今日で――今日は……』


「今日で」は言い間違いだと思っていたけど、それを聞いたヨークの表情がいつもと違っていた。

今日は5月27日だけど……あ――。


『俺達の旅の目標は「自分の将来をどうするか自分で決める」だ。しかし、大人――18歳になるまでには決めたいんだ。大人になる事を自覚してから大人になりたい。それに、全員が18歳になったら解散するって最初から決めていたんだ。』


あ、あ――。


俺はやっとヨークの表情が意味する物を知ってしまった……。今日、大道芸人を辞めてしまう……。

そして、また、俺はっ――。


「――いや、座らない……。それよりも!もう少し魚を捕ろう!」


「ニゲラ……?」


「そうだ、な、何なら!猪とか、何かっ……!」


「ニゲラ……、もう良いよ」


フォンは俺の肩を掴む。今にも泣きたい。

でも、泣いたら駄目だと分かってる。涙を耐えるようにぎこちなく振り返ってフォンを見つめた。

見つめただけで、口から言葉が零れそうだった。


止めてよ、フォン。

こんなに心地いいんだッ……。生きていて、傷つきたくないし傷つけたくないから他人に積極的に関わる事をしなかった。だけど、フォン達と旅していく内に、大道芸で喜ぶ人達を見て変わったんだ。他人は怖くない。

そんな事を思う事が出来る今が幸せなんだと思えたんだ……。

それを失うのは……嫌だッ……。


――そんな、想いをフォンにぶつけても困るだけなのは分かっている。ここで泣いてもどうにもならないのは分かっている。

でも、でも……、フォン達と――。


「フォン達と離ればなれになりたくない……」


「……俺もだよ。でも、俺は誕生日のこの日に解散すると約束してるんだ。それに警備隊のお尋ね者だし、一緒だと皆を危険に晒してまう。丁度良いだろ?明日から皆別れてそれぞれ大人らしく生きるのさ」


「別れは……。二度と会えないって事なんです。こんな素晴らしい人達なのに、二度と会えないのは――辛い……」


フォンは優しい眼差しで俺の頭を雑に撫でる。それは決して心地の良い物じゃない。だけど、今――そして、明日以降の俺にとってはこの世で二番目に心地の良い物だろう。


「人生は出会いがあれば別れもあるさ。だけど、今生の別れじゃない。未来の為の『さようなら』なんだよ。俺は何時だって、挨拶する時は言葉の一句一句薄っぺらくするつもりはないぜ!俺達がまた、いつか何処かで笑い合いながら会う為の『さようなら』だ!」


「未来……?」


「そうだ、何年後か何十年後。出会って酒場で集まって思い出に浸る。互いに大人になり始めたばっかの時より立派になって酒を飲む――最高だろ?まあ、酒の味はまだ知らねーけどな。それに友達は、どんなに時が経っても変わらないのが友達だっ!だから、永遠に俺達は不滅だ!」


俺はフォンの言葉に、思わず目頭が熱くなった。泣かない様に顔を空に向ける。


友達――。

フォンの決意は、俺には揺らがせる事が出来ない。言葉の一つ一つが、火の様に強い。俺の心がどれだけ脆いのかを思い知らされた。俺なんかじゃ、そんな考え方思い付くわけがない……。


「ニゲラは俺達と一緒でなくても、上手くやっていけるさ。お前さん良い奴だしさ」


「良い奴じゃないです……。それに多分、解散したら島に帰ると思う……」


「そっか!なら、島に戻っても俺達の事を忘れないでくれよな!絶対に遊びに行くからさ!」


日の様なフォンの笑顔に、俺は只只照らされるしかなかった。


この後、ヨークとレナが戻ってきた。

フォンは皆集まると、改めて解散を宣言した。

二人の反応は、至って普通だ。いつもみたいに、明るいままだ。夕飯の焼き魚を食べる際も、楽しく談話をし続けた。

話を振られたと思うけど、俺には話した内容を覚える程の気力がなかった。



5月28日


夜明けに目が覚めた。

今日で、最後。いつもと変わらない起床は本当に最後の朝なのか、と惑わせる。

寝惚けている頭を回転させようと目を見開いたら――。


「おはようさん」


悪戯な笑みを浮かべているフォンの顔が至近距離に有った。互いのどちらかが前に動けば、キスしてしまう位に近い。

俺は二、三回瞬きをして、叫んだ。


「うわあああッ!?」


「ハハッ!ドッキリ大成――ぐはっ!?」


「煩いッ!!」


ヨークの投げた石がフォンの後頭部を直撃すると、フォンはそのまま倒れてしまった。

起き上がった俺は周囲を見回した。

普段寝ている三人が珍しく起きていた。


「皆、もう起きたんですか……?」


「ええ、最後の一時(ひととき)ですから。朝になれば、皆別々になるので―――」


「朝まで話そうよ」


レナとヨークの提案に、俺は頷いた。すると、先程まで倒れていたフォンがよろよろと起き上がる。


「痛たた……、そうだ!ニゲラに渡す物が有るんだぜ――」


フォンは懐から札束を取り出すと、初めて出会った日みたいに無理矢理札束を俺の手に渡した。


「こ、これは……?」


ヨークとレナがフォンの隣に移動すると、照れくさそうにしていた。


「身分証明書代!一万五千ウェンとお小遣い、俺達からのプレゼントさ。八割は俺、残りはレナとヨークが出したぜ」


「こ、こんなの!悪いよ……!」


「貰って下さい。ニゲラには僕達の大道芸や友達を助けてくれたのですから」


「うんうん、本当ならもっとプレゼントらしい物をあげたかったんだけどね。私だとパンしかあげられないから」


「でも……」


「ニゲラ、初めて会った時に身分証明書無くて困ってただろ?また、四人揃って旅する時に必要だろ?」


今より歳をとった俺達が列車に乗りながら、何処かに向かう。言葉でしか想像出来ない。でも、そうなったら良いのにと思う。

俺はフォンに返そうとしたお金の束を引っ込める。


「……ありがとう。皆でまた旅しよう」


「ああ、絶対だ!」


「僕はこの国を出るので、どうなるか分から、――ッ!?」


余計な事を言うな、とフォンは珍しくヨークにキツいツッコミを入れた。少しの間が過ぎると、皆でまた笑い合う事が出来た。

そして、最後の楽しい一時を送った。



河原から西に少し離れると、三叉路(さんさろ)が見えて来た。

すると、分かれ道の始まりに三人がそれぞれ並んだ。


北には、フォン。警備隊から逃げる為に北へ向かう。


西には、レナ。以前、旅した時に素敵なパン屋を見つけたらしい。そこで、下積みを重ねるとのこと。


西南には、ヨーク。この国を出て魔術の教師になる為に、密航するらしい。


俺は、ただ佇んでいた。

俺は川を下ってブルディア村に行こうと考えている。そこで、身分証明書を作り東南の港へ目指す――そして、またいつもの日常に戻る。


今までみたいに、感情の少ない人だらけの町で傷つかない様に。フレンチさんと会話を少なくして、フレンチさんお手製の新聞を配る。それを永遠に続ける。


でも、それが正しいのだろうか?

俺自身が望んだのに、不思議と違和感を覚えた。

他人の笑顔、友人――そんな光に慣れてしまったからだと思う。俺の人生を――暗闇を照らしてくれた。


俺以外の全て、世界は案外良い物なのかもしれない。

そんな浅はかな希望をこの瞬間に感じている。


「ニゲラ、ぼんやりするなよ?最後は皆の目を見ようぜ?」


「……うん」


互いに目を合わせた。

いつもの笑顔で見たレナ、静かな表情だけど優しい目で合わせてくれたヨーク、得意気に笑うフォン。


俺は目頭を熱くしながら無理をせず微笑み返した。


「じゃあな!また、会おうぜッ……!」


「うん!またね」「元気で……」


「またっ……、会おう……」


フォンの掛け声に全員応えると、俺以外振り返らずに進む道を歩んだ。

俺は佇みながら、皆に向かい一礼をした。

友達のこれから始まる大人としての人生に幸がある事を祈って。

そして、俺は思い出を辿る様に来た道を戻った。



あれから、約一ヶ月経った。

今日の日付は6月29日。午前八時八分。

ワティラス連邦国ダイドウ地区ユエル市にあるアパートに俺は()()()()()



朝御飯を買いに戻ると、大家のおばさんが俺の部屋を空にしていた。(しか)めっ面をしながら扉を閉めると、『入居者募集:但し家賃を払える人のみ』と書かれている看板を扉にぶら下げた。大家のおばさんは俺と目が合っても表情は変えずに睨み付ける。


「あ、あの……これって……?」


「分からないのかい?アンタを追い出すんだよ。前家賃を払えないんだから仕方ないだろ?」


「は、払いますよ!!後、一週間――」


「それを、アンタは三回繰り返してんだよ!ただでさえ、税金増えてんのに金を払える見込みが無い奴を置いていけるワケないだろ!これで話終わり!帰んな!」


大家は怒りながら自分の部屋に戻ったけど、再びドアから顔を出して怒鳴り散らした。


「言っとくけど!勝手に部屋に入ったら警備隊を連れてくるからねっ!!」


大家によって扉が勢い良く閉まる音と同時に、俺は手で抱えていた少ない食料を落としてしまった。放心しかけている身体をどうにか動かして拾うと、アパートの玄関を後にした。


空を見上げると、暗雲が垂れ込めていた。

それは、空が今の俺を――いや、未来の俺を暗示している様に見えた。


雨はまだ降っていないのに、頬が濡れていた――。

~第二章『雷鳥の騎士』に続く~

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