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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
32/72

第二十八話「勝ち逃げはワインと共に:前編」

少し長くなるので、分割します!

次は翌日に投稿します!

「やったのか……?」


フォンに尋ねられて俺はモルデの呼吸を見る。モルデがゆっくりと動いているのを確認すると、フォンに向けてそっと親指を立てた。


「よっっしゃあぁ!!ニゲ――お前スゲーよ!流石は風の申し子!」


「このタイミングでそのあだ名は止めて!」


「あははっ!すまん、すまん!」


ツッコミを入れると同時に、フォンは嬉しそうに笑いながら背中を叩く。いつもなら痛がって文句を言うけど、今回は我慢した。

また、フォンと――いや、フォン達と旅を再開出来る……!また、楽しい日々を送る事が出来る。

そんな嬉しさが鎮痛剤になっていたからだ。


騒いでいると、アウルスさんの呻き声に似た欠伸が聞こえてきた。


「ううぅ……お前ら、煩いぞぉ……」


「アウルスさん!?大丈夫ですが!?」


「だから、声デカイって……、頭強打したからギンギンするんだよぉ……」


アウルスさんは頭を押さえながら、倒れているモルデをじっと見つめた。俺に視線を戻すと、頭の痛みに耐えながらぎこちない笑みを溢す。


「やるじゃねぇか、流石は俺様の部下だ」


「えっと……、部下じゃないんですけど……」


「そうだぞ!何、友達を悪の道に誘うなよ!!」


「別に良いだろ!フェレス組、時々フォン興業で!」


フォンとアウルスさんの言い合いしている内に気絶しているモルデからロングソードや銃らしき物を分捕(ぶんど)った。銃はマスケット銃より小型で色々金色の装飾が施されている。


「あ、政府が開発してるリボルバーじゃねーか!これ使われていたら少し危なかったかもな?」


「リボルバーって……?」


「まあ、軍用で小型の銃みたいなもんだ。一般市民の俺達には関係ないけどな」


そう言ってアウルスさんは俺が持っていたリボルバーを取り上げると、弾を出して懐に仕舞う。代わりに魔石を取り出してフォンに渡した。


「まーた、魔石使うのかよ……。臭いから嫌いなんだよなー……」


「嗅覚強いお前が悪い。とっととこの部屋から出るぞ」


フォンはネガロ石の手錠を魔石で壊すと、手に付いた魔石の粉をアウルスさんに擦り付ける。俺は苦笑いしながら二本のロングソードをフォンに渡した。


「モルデが後を追えない様に壊して下さい」


「御安い御用だ!物を生成するより変形するのは楽だからな!鋼よ――」


実際その通りだ。魔術では作る材料が無い場合は数秒で消える。しかし、材料が有ればその量がある限り好きに変形出来る。

風の魔術は特別で、空気が何処にでも有るから幾らでも風などを生成出来る。


フォンは二本のロングソードを丸めると、部屋の隅に投げた。


「こんなに強いなら、切り札を用意する必要無かったな」


「そんなの有るならあの時使えば良かっただろ?オッサン、年なんだから」


「バーカ、男のサシでの戦いは小細工無しで行くのが(おとこ)なんだよっ!てか、俺様はまだ36歳だっ!」


「オッサンだろ――」


アウルスさんとフォンのやり取りを聞きながら、強烈な眠気に抵抗していた。緊張感が一気に切れたのも有るけど、取り戻したい物を取り戻す事が出来た安心感を感じていたからだと思う。


アウルスさんが部屋を出た瞬間、ふと声がした。


『いつまで、夢を見てるんだい?ニゲラ(ロクデナシ)


今の声、アンモビウム王国最後の日に聞いた声と同じだった。でも、何処かで聞いた事がある気がする……。


思わず振り返ると、思いもしない光景が目に入った



モルデが起き上がっていた。血(まみ)れの嫌味ったらしい表情を浮かべながら、先ほど見た銃みたいなハンドサインをしていた。

指の先から鋭い岩を回転させながら生成していた。岩は微かな明かりに照らされながら表面の凹凸を浮き出している。

モルデが口パクで何かを言った瞬間、岩は俺に向かって直線に飛んで来た。


「ウィン――うぐっ……!?」


古語で風の魔術を出そうとしたら、右手が骨が(きし)む様に痛みだす。詠唱を失敗すると、岩は俺の二歩先まで来ていた。

マズイ……!このままでは――


「タングステンよ、現れよ!」


フォンの手が俺の横顔を通ると、フォンの透き通る声が聞こえた。次の瞬間、飛んで来た岩の目の前に金属が現れた。金属に当たった岩が砕ける音が聞こえるのと同時に、魔術で生成された岩と金属は時間切れで消えた。


「フォン……、ありがとう」


「まあ、良いってことよ!――にしても、マジでセコいな!」


フォンによって防がれたのをかなり良く思っていないようだ。モルデの殺気が俺にだけではなく、フォンにも向けている。モルデの顔は影になって見えにくいけど、瞳だけが(いびつ)に輝いてる様だ。部屋の微かな明かりを瞳が吸収して反射していた。


フォンはモルデに指を真っ直ぐ()していたけど、モルデの異様な雰囲気に一瞬だけたじろいだ。


「セコい、セコい、セコい――煩いな。悪を殺すならなんでも良いだろ?それより、君は従姉妹の花婿だ。犯罪者達の味方するなよ?いい加減にしないと、君も――殺すよ」


「俺は、花婿じゃねーよ!てか、拉致する花嫁なんて御免だぜ!」


アウルスさんは一旦ドアを閉めると、俺の前に出た。そして、モルデに指を()して怒鳴った。


「そうだぞ!拉致する奴の方がよっぽど悪だ!正々堂々できねー奴なんて盗賊未満だ!」


「スゥ――」


モルデは口を微かに開き、怒りを込めたような吐息を吐いた。

そして、モルデは何かの言葉を発した。


次の瞬間、先程の鋭利な岩が再び生成された。アウルスさんに向かって真っ直ぐ飛んで来た、しかもかなり早い速度で。


「アウルスさん――!」


俺はアウルスさんに当たらない様に服を掴むが、間に合わない!


この感覚、初めての筈なのに久しぶりの様に感じる。


――嫌だ、嫌だ。失いたくない。


もう、こんな事を味わいたくない。お願いだから――


――お願いだから、神様。

チャンスを下さい。



「狙うのは君だよ?強い駒を消すのは当たり前でしょ?」


気付いた時には、真っ直ぐ来た岩は不自然な動きをしてアウルスさんを避けていた。そして、横から俺に向かって来た。

本来、魔術は真っ直ぐ動かす事しか出来ない。自由自在に不規則な動きや触れずに変形させる様な複雑な動きをするにはかなりの練習が必要だ。


モルデは冥土の土産に教える様に勝ち誇った笑みで喋った。


「認めよう、君は強い。だから、死ねよ」


その瞬間、時間がゆっくりと動いていた。

アウルスさんとフォンがなんとかしようとしていた。しかし、岩は高速に向かっている。

フォンが先ほどの金属を出すのに時間が掛かっていた。アウルスさんはこちらを振り向くのが精一杯だ。


ああ、死ぬのか。


俺は恐怖を感じながら諦めて目を閉じた。

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