表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
29/72

第二十五話「悪手」

あれから体感的に10分経った気がする。

早歩きで屋敷に向かって居る最中、通行人は俺達に変な視線を送っている。宿を出た時は気にしなかったけど、この全身黒い姿をこんなに見られると恥ずかしくなってくる……。


「あ、あのぉ……早く屋敷に向かいたいので、走りませんか……?恥ずかしくて……」


「駄目だ。変に走っていれば、警備隊が声をかけてくる。これぐらい我慢しろ」


俺はあの白い男みたいに両手で顔を隠しながら、ひたすら歩いた。



屋敷が見えて来ると、アウルスさんに連れられて迂回(うかい)した。屋敷の裏門へ回る間、屋敷の回りに小綺麗な馬車や見たことの無い蒸気車が見えた。如何にも金持ちが愛用していそうだ。


裏門が見える脇道に着くと、アウルスさんは屋敷を注視し始めた。


「……さて、見張りは二人。バルコニーは運良く誰も居ない」


「見張りが一人になったら侵入するんですか?」


「いや……、バルコニーに居る見張りが戻って来る……。やるなら今しかない――」


アウルスさんは覆面を被ると、ポケットから魔石を取り出した。黒い石で光の加減で金色の鉱物が見え隠れしていた。


アウルスさんは肩を回し、石を見張りに向かって投げつる。見張りの身体にぶつかった瞬間――!


「あぎぎぎいぃ!?」「あ"あああぁッ!!」


石から目映い放電が起きた。それと同時に聞いた事の無い叫び声を見張り達は発しながら体を小刻みに震えていた。放電が終わると、香ばしい煙を出しながら倒れた。

事の一部始終を見ていたアウルスさんは急に俺の腕を掴む。


「――良し!想定よりも見張りの声が(うるさ)過ぎた!!さっさと侵入するぞ!クソが!」


「うわっ!少し心の準――」


「屋敷に入るんだから、喚くな!」


裏門に駆け込むと、屋敷の両端から人影が見えた。幸いにもここの光源になるのは正面の食堂しかないからか、侵入者と気づいて居ないらしい。


「……一気にギャラリーに侵入するぞ」


アウルスさんが左側に見える薄暗い窓をゆっくり開けると、物音をあまり立てずに蛇の如く侵入した。俺も続いたが、当然の事ながらすんなりと入る事が出来ない。何とか入ると、アウルスさんはやれやれとぼやきながら先導した。


中は流石は貴族――じゃなかった令嬢の住む屋敷といったところか。中はカルミアの城みたいに小綺麗だ。しかし、至るところに金の装飾や金の家具が多い。金銭感覚が普通の俺にとっては趣味が悪いとしか感じない。


今通っているギャラリーに飾られている油絵は泣く少年や棺に入る姫、吊るされた騎士、処刑される姫……などなど、見てるだけで不愉快になる物ばかりだ。


アウルスさんはふと止まると、急に絵を触り始めた。その絵には老人が剣を暗雲に向かって掲げている様子が描かれていた。


「ここはな?抜け道が多いんだ。屋敷で非常事態が有った時に召し使いがすぐ現場に行ける様にする為だそうだ。まあ、それが仇となるんだがなっ――」


アウルスさんは額縁の左側を引っ張ると、額縁は扉の様に動いた。その先には狭い空間に梯子が佇んでいた。


「凄いですね……」


「これで凄いか。俺様の歴代ではまだまだ最下位だぜ」


そう言いながら、アウルスさんは梯子に向かう。俺も後に続くが、その前に――。


「扉閉めないと……」


そっと内側から閉めた。



梯子の先は書斎だった。

俺達は絨毯(じゅうたん)から現れると、ランタンを持ちながら警備をしている召し使いが真っ先に見えた。

アウルスさんは悩む事なく本棚に登った。俺は本を靴で汚すのは気が引けたけど、仕方なく続けて登る事にした。アウルスさんは俺が登り終えるのを見ると、本棚の上を屈みながら移動し始めた。

本棚の上を移動しながら見る風景は新鮮だけど、こんな姿をカルミアに見せたからきっと激怒するだろうな……。


そうこうしている内に書斎の入り口近くに着いた。アウルスさんと共に降りると、隣の部屋から聞き慣れた呻き声が聞こえた。


『うおおぉ!!出しやがれ!!』


フォンの声だ!俺は急いで扉を開けようとすると、アウルスさんに手を掴まれた。


「待て、焦るな。廊下に召し使いが警備してるかもしれん。俺が様子を見る」


「すみません……」


アウルスさんは俺を後ろに立たせると、そっと扉を開けて確認した。確認し終えると、俺の手を掴み廊下に出る。


「良し……、運良いな!警備してる奴が珍しく居ない。とっとと用事済ませるぞ!」


隣の部屋の扉は直ぐ近くに有った。辺りはアウルスさんの言った通り、誰も居ない。遠くから足音も聞こえない――それぐらいに不自然な静けさだ。


アウルスさんが扉を開けると、フォンの声が鮮明に聞こえて来た。寝室の真ん中には鉄の檻が有り、中でフォンが此方を睨んでいた。フォンの両手にはネガロ石の手錠を掛けられていた。


「誰だ――って!お前!ユエルに居た強――!!」


「煩い!静かにしろ!お前を友人と一緒に助けに来たんだよっ!」


アウルスさんは控えめな声量でフォンを怒鳴ると、俺を前に出させる。俺は覆面を脱ぎフォンに顔を見せた。


「ニゲラ……!」


「フォン、助けに来ましたっ……!」


「こいつが涙ながらに俺様に懇願したからな~」


「いや、俺は泣いてないですけど……」


アウルスさんは茶化しながらも、フォンを入れてる鉄格子の鍵を針金みたいな物で解錠し始めた。

フォンは申し訳なさそうに俺を見ていた。


「すまないな。危ない目に会わせて……」


「大丈夫ですよ。こんな場所から早く帰ろう」


「まあ、俺様が一番危ない目に会ったけどな~」


フォンは横槍を入れたアウルスさんに苛立っているのか、アウルスさんを睨み付けた。俺はまあまあと言いながらフォンを(なだ)め続けた。


アウルスさんの解錠が終わると、フォンは直ぐ様に鉄格子から出て俺に力一杯抱き締めてきた。


「あ~!マジで有り難うな!また、お前さんに会えて嬉しいぜ」


「俺もだよ……」


すると、アウルスさんは手を叩いて注目させた。


「ラブラブなのは良いから、早く一階に戻るぞ!お前等の目的は達成したが、俺様の目的はまだだからな!」


「何だよ!お前さんの目的は盗みかよ!」


「そりゃ、俺様は義賊だからなー。ほら、ニゲラさっさと覆面被れ」


俺は仕方なく覆面を被ると、アウルスさんは俺の姿を見てうんうんと頷く。


「こう見ると、弟子を作ったみたいで気持ち良いな~。ハハ」


「ニゲラ、こいつ放置しとこうぜ……」


「駄目ですよ……、流石に助けてくれたのに放っては――」



その時、扉が勝手に開いた。

開いたのと同時に嫌な気配を感じて、俺達は一斉に部屋の出口を見た。


そこに、男が立っていた。

短い赤みがかった茶髪で、程々に高い身長。目付きは鋭く、瞳は燃えるように赤い。


ふと、アウルスさんを見ると、今までに見た事が無い位に青ざめていた。


「しょ、しょ――」


アウルスさんは震えていて上手く喋る事が出来ていない。

すると、茶髪の男は見下した様な視線を此方に向けながら口を開いた。


「代わりに自己紹介するよ。初手殺しのモルデだ。流石に鼠を放ってはおけないね?そう思うだろ?」


モルデは剣を抜くと、此方に見せつける様に(かざ)した。そして、得意気な笑みを浮かべて呟いた。


「悪手だったね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ