第二十四話「白い男、襲来……!」
お待たせしました。
試験が終わって漸くいつも通り執筆出来る様になりました。投稿ペースを上げます!
目指せ!今年中に三章!
俺とアウルスさんの前に黒い辻馬車が止まった。
御者はこちらを振り向くと、一瞬だけ眉間に皺を寄せた。恐らく全身真っ黒だからだろう……。
「お、お二方、何処まで……?」
「ああ!ムナカさんの屋敷の北側辺りまでお願いするぜ。向かいの家に住む従姉妹の子どもに芸を見せようと思ってな!サプライズって奴だ」
「ああ、そういう……。」
御者は納得すると、丁寧に扉を開けた。外装が黒一色なのとは異なり、内装はダリアの花が綺麗に幾つも描かれていた。しかし、何年も整備していないのか、壁紙が少し剥がれかけている。
「ぼーっとすんな!」
アウルスさんに急かされながら馬車の中に入ると、アウルスさんが入った途端に扉が閉まった。御者は少し無愛想に呟いた。
「あんまり変な格好しないでおくれ。ここ最近警備隊が多いから職質されたくないんだ」
「あれ面倒だもんなー……。10分以上も話すはめになるんだもんな」
俺は二人の話を何となく聞きながら、窓からの景色を見た。街に来てから気づいて無かったけど、ガス灯……とは少し違う照明がかなり明るく照らしていた。
鞭の音がすると、景色はゆっくり動き出した。
「あの照明は……?」
「ああ、魔石灯だ。この街でのみ使われている照明で、後々西の都市で良く使われている電灯を設置する為に使っているそうだ」
「電灯……?」
「電気を使った照明だ。黒いコードみたいのがズラリと繋がっている奴だけど、知らないのか?」
「田舎出身なので……」
俺とアウルスさんの話を聞いていたのか御者が大きな独り言を嘆いた。
「見栄えだけ良くしようとする政府には感謝しかない。ふんっ……」
*
「ちっ……」
御者の舌打ちと同時に霧が濃くなってきた。
窓から見える風景は、目を凝らさないと見えない位になっていた。
「こりゃ、何処でも侵入しやす……じゃなくて!大丈夫か?」
「はぁ?大丈夫な訳ないだろ?こんなに濃いと進めな――んっ?」
御者は何かに気付いて言いかけた。前方の窓から見ると何か白い物が立っていた。近づいて行くに連れてそれが何かハッキリしてきた。
白いマントに白い獣の仮面――アイツだっ……!
「おいっ!お前邪――」
御者が白い男に怒鳴りかけた、その時――。
御者の首に赤い線が滲み出る。そこから、赤い何かが溢れると同時に首が消えた。
いや、何かが落ちた鈍い音がした。
――首が落ちた音だと理解するまで、俺は思考が止まってしまった。
「は――?」
アウルスさんは目の前で起きている事に理解出来ず、気が抜けた声しか出ない。
それはそうだ……。先ほどまで無愛想ながらも喋っていた人が首を何かで切断されたのだからっ――。
「に、逃げるぞっ!!」
「うわっ――!?」
白い男が馬車の前方にある窓に向かって飛び掛かろうとしているのを見て、俺達は漸く状況を理解出来た。
アウルスさんに首根っこ掴まれながら馬車を飛び出すと、白い男は馬車の上に佇んでいた。
男の仮面越しから見える蒼い瞳はアウルスさんを見ている。
狙いはアウルスさんだ――。
アウルスさんも察したのか、白い男を俺の後ろに隠れた。
あの時、口約束で守ると言ったけど……。
相手が悪過ぎる――!
「まさか……、ここまで……とはな?」
男は呆れる様に俺を見つめていた。俺は深呼吸をして、仮面の内側を見る様に男を見返す。
「貴方は何が目的なんですか……?」
「お前には関係無い。お前はひたすら思うがままに、川の流れに漂うゴミの様に身を任せていれば良い。その為に――」
男は手を翳すと、糸の様な風の魔術を作り出した。俺は専門家では無いから分からないけど、素人でも高密度な魔力が籠められているのが分かる。あれを食らったら御者の二の舞になる事も。
そして、狙う先も――。
「うわっ!?」
俺はアウルスさんを突飛ばすと、一か八かで双剣をクロスさせて構えた。足腰に力を入れて受け止める。
まるで、張った針金が剣に当たる様な感覚だ。そして、何より力が強い。足に力を入れていても、後ろへと押されてしまう。
間に合うか?間に合わないか?心臓に汗を掻く位に緊張しながら受けていると、徐々に風の糸は消えていった。
男は先ほどよりも、不機嫌そうに俺を睨み付けた。
「……お前。その双剣を何処で?まさか、レ――」
「貴方には関係無い。貴方は人を殺してまで何がしたいんだっ……!」
俺の力一杯の声に益々鋭い睨み付ける。すると、アウルスさんは話を割って入る様に男に尋ねた。
「と、とにかく、俺に恨み有るんだろ?何か文句あるなら言えよな!」
「……無い。ただ、目障りなだけだ。だから死ね」
「――ッ!!」
男は躊躇せずに第二波を出した。風の糸を何度も双剣で受け止めた。風の糸と剣がぶつかり合う音は、まるで剣同士が奏でる物騒な金属音だ。男は手加減しているのか、最初に会った時よりも魔術の威力が弱い。
しかし、剣を強く握っていなければ剣が弾け飛ぶ位には強い。
男は冷ややかな視線を俺に向けながら手を翳し続ける。
「邪魔だな。お前を殺すつもりは無い、だからどけ」
「嫌だッ……!!死なせるものかッ……!!」
風の糸が先ほどよりも早く俺に向かって何度も繰り出して来る。俺が剣で受け止めるのに限界を感じていると、男は痺れを切らした様だ。
「……気に食わない。まるで、アイツみたいでムカつくな、お前――」
男は手を翳すのを止めた途端に、姿が消えた。
逃げたのか……?それとも、見逃してくれたのか……?
そんな、淡い期待は一瞬にして期待が打ち砕かれた。
「うわあぁっ!?」
アウルスさんの悲鳴に振り向くと、いつの間にか男がアウルスさんを馬乗りにしていた。男の手にはナイフが見えた。
「瞬間移動なんて反則だなぁ……!おい……!」
「お前ら人間にはそう見えるのだろうな……?」
男は両手でナイフを持つと、空に掲げた。今にもナイフをアウルスさんの首に振り下ろそうとしている。
「やめろッ……!!」
男はこちらを見ながら皮肉めいた口調で呟いた。
「俺はな、コメディが大っ嫌いなんだ――」
もう駄目か、と思っていた。
だけど、アウルスさんは何故か得意気な笑みを浮かべている。まるで、勝算があるかの様に。
「そうかい、コメディが嫌いか……。俺様は好きだぜ?悲しむ事もなく、死ななくても良いからなッ!」
アウルスさんは大声を上げた、その時――!
馬乗りにされてるアウルスさんの地面が急激に盛り上がった。男は叫ぶ事も出来ずに、アウルスさんから転げるように落ちた。盛り上がった土の上でアウルスさんは何か壺の様な物を取り出した。
あれは、俺とレナを閉じ込めた壺、パコデレゴードだ――!
「お前の仮面、『忘却の仮面』だろ?お前の卑しい面見せて見ろよ!!」
アウルスさんが壺の口を男に向かって翳すと、壺の口へと空気が渦を巻く様に吸い込まれていく。男は顔を見られたくないのか、必死に仮面を顔に押し付けている。
しかし、その抵抗も虚しく仮面が壺へ吸い込まれた。
「お、お前……?」
「――ッ!」
俺からは男の顔は見え無かったが、アウルスさんは見えた様だ。反応からして、アウルスさんの知っている人物なのだろうか……?
男は両手で顔を隠しながら壁に向かって走り出す。
「おい!待ち……えっ!?」
男が壁に向かってぶつかった、――そう見えた。しかし、ぶつかりそうになった瞬間に男の姿は消えてしまった。
アウルスさんは盛り上がった地面から降りると、男が消えた壁を調べた。俺はアウルスさんの元に駆け寄る。
「アウルスさん!大丈夫ですか!」
「ああ……!でも、あの野郎……、見たこと無い魔術で逃げやがった」
アウルスさんは壁から離れると、壺を徐に再び取り出した。壺を振ると、男のお面が跳び出た。
「アウルスさん、それは何ですか……?」
「これは忘却の仮面と言って、被ると相手に声だけを忘れさせる事が出来る代物だ。悪い大人達には有名なオープマトゥだ――ぞっと!」
アウルスさんは急に仮面を足で踏みつけて割った。
俺はアウルスさんの事だから大事に取っておく、と思い込んでいた。その為、驚いて声を荒立ててしまった。
「な、何してるんですかっ!?」
「盗んだままだと取り返しに来る可能性が有るんだよ!あんなヤバい奴を相手にしたくないから、壊しとくんだ!それにこんな代物なんて、怪しい店ですら売れないしな!」
アウルスさんは粉々になった仮面の残骸を蹴っ飛ばすと、清々しい表情で背伸びをした。俺は盗賊の社会が良く分からない為に取り敢えず納得する事にした。
「さて、このままここに居ると殺人容疑をかけられるから早歩きで屋敷に行くぞ……!」
「その前に、あの男の顔知っているんですか……?」
あの男が何者なのか、知りたかった。
何故、俺に付き纏うのか?そして、男の目的は何なのか?
アウルスさんの知人だったのなら、少し分かるかもしれないと思ったからだ。しかし……。
「あー……。一瞬知り合いに見えたけど、気のせいかもな!ははっ――」
アウルスは苦笑いしながらそそくさと歩く。俺は期待外れな回答にがっかりしながら、アウルスさんに付いて行った。
ふと、後ろを振り向くと、御者の遺体と馬車が見えていた。
フォンを救出したら、警備隊に連絡して御者の遺体を何とかしてもらう事にしよう――。




