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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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第十六話「進路は」

この一ヶ月間、俺達は様々な町を転々とした。

行く先々で大道芸を披露をしたり、路上で無許可で大道芸しているのがバレて警備隊から逃げたり、大道芸をせずに観光を楽しんだりしていた。


そんな中で、俺は様々な人々と触れ合う内に他人への苦手意識が少し薄まってきた、……と思う。


現在、俺達はウィンディー地区から南に位置するシースト地区ビラント市に居る。ウィンディー地区とは打って変わって都市開発がかなり進んでいるようだ。

自然と言う物が無く、レンガの様な洒落た外装の家も無い。辺りは暗い灰色の建築物ばかりで何だか息苦しい。周辺に住んでいる人はリュテリウス島の住民みたいな無表情ではないけど、まるで毎日葬儀をしている様な暗い雰囲気を漂わしている。

そんな雰囲気が嫌で俺は早くこの町から出たいと思っている



そんな町に辿り着いた途端に雨が降り、三日間も降り続いている。そのせいで大道芸が出来ずに激安の古く脆い木造の宿に何もせず泊まっている。

早く別の場所に行きたい、と思いながら俺は灰色の空をガタが来てる窓で眺めていた。後ろでは、フォンがカビ臭いベッドに寝っ転がりながら大きな欠伸をしていると、急に話し掛けて来た。


「なんだよ、ニゲラ?空に浮かぶ巨大な島でも見つかったか?」


「退屈過ぎて何か面白い物無いかと思って……」


「まあ、そうなるよなー。金やコネが有る大道芸人なら施設内とか酒場で出来るんだけどな。本当に、金、コネ、有る奴は良いよなぁ」


フォンは普段は温厚(?)だけど、この数日間何も出来ない苛立ちのせいで恵まれている大道芸人達に怒りの矛先を向け始める。暫くの間、無言のまま貧乏揺すりをして脆そうな床を鳴らし続けた。

レナやヨークが買い物で居ない状況でこんな空気の悪い空間に俺は耐えられず、無謀にも此方側から話掛けてみた――。


「そ、そう言えば、以前レナから『自分自身の将来の目標が出来るまで旅を続ける』って聞いたけど、フォンは将来どうするんですか?」


すると、フォンは一瞬だけ渋そうな顔をしてから歯切れの悪そうな回答をする。


「……あー、まあ……その……決まって無いんだよなー……。ヨークは魔術の教師で、レナはパン屋。俺はどうにも思い付かなくてな。今日が5月3日で、後24日しかないのになー……」


「24日って……、別に目標なんていつ決めても――」


「駄目だっ!」


俺の意見を遮る様にフォンは声を荒立てながら否定した。俺は思わず息を呑んでしまった。フォンは俺の様子を見ると、声を荒立てた事を申し訳なさそうにしながら理由を語り始めた。


「……そうだな。俺達の旅の目標は『自分の将来をどうするか自分で決める』だ。しかし、大人――18歳になるまでには決めたいんだ。大人になる事を自覚してから大人になりたい。それに、全員が18歳になったら解散するって最初から決めていたんだ。」


俺はフォンの話を聞いて困惑した。


フォン達と旅するのが漸く楽しくなり、ずっとこの友達と旅をしていたい。そして、何なら永遠に旅をしていたいと思っていたからだ。

それなのに別れなければいけない時が来る――そんな事実を受け入れる勇気は無かった。

どうにかフォンの決断を変える事は出来ないか、と何か意見を言いたい。しかし、何も思い付かない。


時間切れを知らせるかの様に部屋のドアが開いた。


「フォン君、ニゲラ君、ただいまー。今日の昼御飯持って来たよー」


「今日のご飯はタルトとパイですよ。」


ヨークとレナが帰って来ると、食べ物を素早く一人一人に配った。フォン達は相変わらず元気そうに頬張るのに対し、俺は食欲無く少しずつ食べていた。



「マグロの漁船ってのが中々給料良いらしいぜ?」


「フォン、君はまた……そんな嘘臭い話を……」


「ヨーク君マグロって何?」


雨天の中、俺達は傘を持っているレナ以外ずぶ濡れになりながら雑談をしつつ、この町の役所へ目指した。役所の中で大道芸出来る様に交渉するつもりだそうだ。

本来なら大道芸するなら酒場とかが普通らしいけど、二十歳未満は入れないらしい。


何分位か歩いて居るけど、何処も似た建物ばかりで進んで居るのか怪しく感じて来た。ぐるぐると迷う様に暗い町を歩くのにうんざりしてしまい、思わずぼやいてしまった。


「この町、なんでこんな特徴の無い暗い建物ばっかなんですかね……。通行人も暗いですし……。歩いてるだけで何かイライラします」


「お、ニゲラにしては珍しいな!まあ、この町は政府がルベリス国に対抗して近未来的な建設を目指してるんだ。だけど、見ての通り美的センス無い。しかも、住民を置いてきぼりにしてるから口には出さないけど、不満が溜まってるらしいぜ?そりゃ町の雰囲気も暗くなるわな。……お、ここを右に進めば……」


突き当たりを右に進むと、何やら賑わっている建物が見えて来た。しかし、看板は無く、ここが役所の様には見えない。フォンは首を傾げながら建物を眺めた。


「ここだよな……?」


「本当にここですか……?なんか、違う気がしますけど……。もしかして、道を間違たのでは……?」


「いえ、フォンは記憶力だけは良いですから。間違えませんよ」


「いや、記憶力だけってなんだよ……!」


ヨークとフォンによる恒例のやり取りを見て、俺は少し安心した。ふと、先ほどから黙っているレナが気になり視線を向けると、レナは辺りの臭いを嗅いでいた。


「うーん、酒臭い。もしかして、此処酒場じゃないかな?」


「えー?地図では役所だった筈だけどなー……。少し聞いてみようぜ」


俺達はこの建物に入ると、やっぱりかと思ってしまった。少し古い酒樽、カウンターに座る客人、カウンターの奥で何かしている亭主、大道芸の方か演奏者が披露するであろうステージ――間違いない酒場だ。


「なんだい?君たち?」


亭主は渋そうな声を出しながらゆっくり此方に近づいてくる。フォンは臆する事なくべらべらと話す。


「地図では役所は此処だと描いて有ったんだけど、おっさん知らないか?」


「ああ、街中にある地図は古いからな。役所を目指すなら此処から西に800メートルだ」


20歳未満だからとっとと去ろう、と俺やヨークとレナは思っていた。しかし、フォンだけは違った。


「もし良かったらだけどさ、此処で大道芸披露して良いか?俺達は20歳だからさ!」


「「ちょっ!?」」


俺とヨークは思わず、驚いて声を上げてしまった。フォンは大丈夫だとジェスチャーをする。


亭主は幸いにもフォンの嘘に気づかずに返答をした。


「まあ、構わないさ。俺は払わんが、お代なら客から貰うんだな」


「だってさ!……痛たっ!?」


フォンの耳を引っ張りながら、ヨークは小声で文句を言う。


「フォンは馬鹿なんですか……!?年齢詐称バレたら警備隊呼ばれますよ!?」


「だ、大丈夫!何とかなるさ!ほら、準備開始だ!」


フォンは掛け声を出すと、皆渋々準備を始めた。

そして、いつも通り大道芸を行い。いつも通り成功して投げ銭を貰った。

年齢詐称の件はバレる事が無かった。

しかし、これが――


最後の大道芸になるとは、この時の俺は予想して居なかった。

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