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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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第十三話「旅芸人と長い一週間~結:中編~」

俺はアスルに貰った不思議なヒルト二本をポケットに仕舞い、宿に向かった。

宿に着くと、丁度女将が井戸から汲んだであろう水の入った桶を重そうに運んでいた。俺と目が合うと愛想良く挨拶して、台所に向かった。

俺は寝室へ向かう為に階段を上ろうとすると――。


「おーい、ニゲラこっちだ!一緒に食べようぜ!」


声のする方向へ振り向くと、フォンはにっこりと微笑みながら食堂の入り口で手招きをしていた。

この数日間、大した物を食べて無いから、お腹は空いている。だけど、こんな風に食事を誘われるのは初めてだったから少し躊躇した。


リュテリウス島では、フレンチさんと居ても別々で食事をしていた。フレンチさん曰く「食事中に喋るのは好きじゃない」との事で実質一人だ。

アンモビウム王国でも――一人だった。


「ぼーっとすんなよ!ほら!」


「えっ!ちょっ――」


フォンは少し強引に俺の腕を掴み、俺を食堂へ連れて行った。

食堂に入ると、レナとヨークが右側の席に座っていた。

二人が俺を見ると、レナは笑顔で手を振っていた。ヨークは涼しげな表情で軽く会釈した。


フォンに腕を掴まれながら席に座ると、宿の女将がタイミング良く料理を配膳しにこちらに来た。

俺とフォン達の目の前に焼き魚やスープが丁寧に尚且つ素早く置かれていく。この土地の郷土料理なのだろうか、今まで見た事の無いスープや焼き魚だ。


「女将さん、ありがとよ!――では」

「「いただきます!」」


フォンの合図に合わせて、俺以外は食べ始めた。


「盗賊の人優しかったんですよ~」


「優しいなら、拐うなよって思うけどなぁ」


「あ、フォン。また、人参残してますね。駄目ですよ!」


「うるせー。俺様は兎じゃねーから食いたくないの!」


和気あいあい、とフォン達は会話を楽しみながら食事をしていた。不思議と見ているだけで幸せになれるような気がした。

会話に参加したい――。


でも、俺が参加した所で場の空気を悪くするのではないか、と思ってしまう。

これまでの会話は流れで生まれた様な物であって、自ら話したわけではない。

だから、話す勇気は無かった。

そっとその場を離れようとした、その時――。


「おい、何処行くんだ?」


フォンに再び腕を掴まれてしまった。先ほどまで和気あいあいと話していた雰囲気は静寂な空気に包まれていた。ヨークとレナはじっとこちらに目線を送っていた。俺は一瞬だけ深呼吸をして、恐る恐る答えた。


「あんまし、邪魔にならない様にした方が良いかなって……」


すると、フォンは呆れるようにため息をした。此方を見ると、優しそうな目付きをしながら言った。


「なーにが、邪魔だよ。俺達は友達なんだから、もっと話そうぜ。なぁ、二人共!」


フォンの言葉にレナとヨークは頷いていた。

友達だと言ってくれるのは嬉しい……。でも――


「友達なんて、そんな簡単には……」


「簡単に出来るのが友なんだよ!と言うか、初めて会った日にお前さんが仲間に入るって決めたんだからその時点で友達だろ?それに良く言うだろ、同じ牢獄に入った仲ってな!」


「いやいや、それを言うなら同じ釜の飯を食う仲っですよ!」


「うるせー!ヨークは本当に細けーな!」


「ははっ――あ」


フォンとツッコミを入れたヨークのやり取りに思わず笑ってしまった。それを見たフォン達は何処か嬉しそうにしている。


「ニゲラ、それで良い。食事――いや、友と一緒なら楽しく無いとな!」


「フォンはさっきみたいな感じでトンチンカンなので、その時は笑って下さい」


「うるせーよ!お前の秘密をここで言ってやるからな!」


「あ!そんな事言うなら、あのナトリウム事件の話を――」


こうして、食事が終わるまでの間に自己紹介をしたり、互いのこの一週間で起きた出来事を詳しく話したりした。食べ終わるまでの間は楽しい一時だった。


楽しかったけど、自己紹介をする時だけは辛かった。リュテリウス島に着いた以前の話はしなかった。嘘をついているようで心苦しいけど、仕方ない。


島流しされた人間が好かれる筈が無いのだから――



食後。

宿の近くにある風呂屋から帰ると、真っ直ぐ寝室へ向かった。

ヨークとフォンが居るのは当たり前だが、別室のレナも何故か一緒に居た。

フォンは部屋の真ん中に俺達を並ばせた。俺達の前に座ると、畏まる様に咳払いをした。


「さて、そろそろこの村を出ようと思ってるんだけど、その前にやりたい事がある」


「いつものですね」


ヨークとレナはフォンが何を言うのか見当がついてるみたいだ。俺は静かにフォンの話を聞く事にした。


「どうせ、明後日にはこの村を出るんだ。ここで、大道芸しようぜ。せっかくの縁なんだからな。ニゲラもよろしく頼むぜ」


「え!?そんなの出来ないにきまってる!!」


俺はフォンの提案に思わず声を荒立ててしまった。それはそうだ。俺は大道芸なんてした事無いし、そういうのは長い打ち合わせが必要だと思うからだ。

フォンは俺の反発を得意げな笑みで受け取った。


「いやいや、出来るさ。お前さん、上級の魔術使えるじゃないか」


「上級――?」


「あれだよ、古代語の詠唱!ああいうのを出来る奴なんて100年前は沢山居たらしいけど、今じゃ滅多に居ないらしいからさ、期待してるんだぜ?」


そうなのだろうか?アンモビウム王国では国民の九割は習得してるから、珍しい物だとは思えない……。もしかしたら、国が違うからかもしれない。


「でも、何をすれば良いか……」


「それは、ヨークが提案してくれるさ。なあ、いつも考えてくれるもんな!」


「ええ、フォンはいつも僕の言う通りにしないですけど!」


友人同士特有なのか、ヨークが軽い嫌みを言うと、フォンは聞き馴染みのある「うるせー」と言いながら、ヨークを軽く小突く。――そんな流れをこの前にも見た気がする。喧嘩するほど仲が良いとはこの事か。


「とにかく、明日軽く練習して、明後日に御披露目しよう!」


「そんな短くて大丈夫なんですか……?」


「大丈夫、私達いつも行き当たりばったりですから!」


「言うなよー……」


レナの発言にフォンは、ヨークみたいに小突く事が出来ず渋い顔をするだけだった。フォンは軽く咳払いして、続けた。


「まあ、明後日楽しもうぜ」


そう言って、集会はお開きになった。解散して暫くしない内に、俺は眠りについた。



~六日目~


夜明け前に目が覚めた。いつもの事だ。

何か悪夢を見たと思うが、何も思い出せない。いや、思い出さなくても、良いかもしれない。どうせ、昔の嫌な思い出を追体験しただけだろうし。

気分が晴れないまま、フォンの(いびき)が鳴り響く部屋を出て廊下を物思いに更けながら歩いた。


ロビーに着くと、玄関の扉に封筒が挟まっていた。

封筒には「フレンチより」と書いていた。封筒の中から手紙を出して読む事にした――


『ニゲラへ

テロリストの件はすまなかったな。

流石に予言出来なかった。

俺の予言が正しければ、旅芸人として練習するんだろ?頑張れ。二ヶ月後にまた会おう。それまで、世界を楽しめ。』


二ヶ月後にフレンチさんと再会出来る。それまでの間はフォン達とずっと過ごす事は確実なのだろう。仲良く二ヶ月間過ごせるのだろうか?

不安で、フレンチさんの手紙を両手で握った。


暫くして手紙を仕舞い、フォン達と間に合わせの時間までロビーに居座った。



「お前さん、早すぎだろ……」


朝、待ち合わせの時間にフォンと会った開口一番がこれだ。俺が苦笑いしていると、レナとヨークが少し遅れて来た。


「おはよー、団長、ニゲラさん」


「ふぁあ……、フォンが寝坊しないなんて珍しいですね……」


「だろ!新メンバーと初の練習なんだからワクワクするからな!」


フォンの眩しい笑顔でなのか、二人の目が冴えていった。フォンは皆を連れて移動する。早朝の人気が少ない村を出ると、村から100メートル離れた草原で足を止めた。


「此処で良いかな?これから、練習するぞ!でも、その前に――」


フォンはヨークとレナを手招きした。ヨークは何かを察したのか、渋い顔をしていた。一方のレナは呑気に何も気づいていなかった。


「ニゲラに、俺達の大道芸見せようぜ!それから、打ち合わせだ!」


フォンの提案にヨークは少し声を荒立てて反発した。


「反対です!こんなのを見せたって何も意味がないですよ!」


「大丈夫!今度は成功するさ!という訳で、レナとヨーク!準備!」


ヨークはどうなっても知らないと言いたげな表情をしながら準備を始めた。レナはいつもの鼻歌で準備を始める。



「さあ、皆様。ようこそ、いらっしゃいました。俺達は旅芸人している、ヨークとレナ――そして、団長のフォンだ!これから、魔術でアートと言えるような芸を見せるぜ!」


ヨークは目を閉じ、空に手を(かざ)した。


「薔薇よ、舞え!」


ヨークの手から薄く赤い光が流れると、空中に薔薇の花が現れた。

次は、レナが両手で(かざ)す。


「水よ、鳩みたいに形作って!」


レナの手から、水が鳩の形をしながら空中に浮かぶ。まるで、薔薇の花畑に鳩が飛んでるように見える。凄く美しい――。


「最後は、俺様がこの風景を飾ってやるぜ!」


フォンは自信満々にヨークのように手を(かざ)した。ヨークとレナは何故かフォンから離れていた。


「金と銀と、銅で出来た額縁を作りやがれ!!」


あ、これは駄目な奴だ。

フォンの手から金色と銀色の光が現れるが、直ぐに灰色の光に変わった。そして――


「……って!またかよっ!?ぐはっ――」


フォンの手から額縁は現れず、やかんや盥がフォンの頭上に現れた。フォンは頭上に幾つもの金属の家具が落ちて埋もれてしまった。


植物や金属を0から生成する魔術は一分経てば消える。暫くして、フォンを埋めた物は消えた。

フォンはゆっくりと立ち上がると、何とも言えない表情で俺を見た。


「…………どうよ?」


俺なかんかが上手くいくか不安だったが、


別の不安が俺に遅いかかっていた。

この大道芸――本当に大丈夫だろうか……?

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