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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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第十二話「旅芸人と長い一週間~結:前編~」

お待たせしました。

仕事上の厄介な書類作成週間が漸く終わったので、(健康面に気をつけてつつ)少しペース上げて行きます。

今回は文字数少なめです。



関係無い告知ですが、「夏のホラー」に短編小説を投稿する予定です。夏らしいホラーを楽しんでいただけたら幸いです。

目を開くと、木造の天井が見えた。

目を擦りながら上半身を起き上がると、簡素な部屋の風景が見える。部屋は木の香りがして心地好(ここちよ)い。

部屋の香りを堪能すると、横に誰かが居るのを感じ振り向こうとすると――


「目覚めたか!!」


「い"っだっ……!?」


背中が平手打ちと同等の強い衝撃を受け、まだ残っている屋根から落ちた時の痛みと重なり合うように激痛を感じた。そして、濁った叫び声を漏らして横を見ると、フォンが目を潤ませながら笑顔で何度も俺の背中を叩く……。


「本当に!良かった!あの女のせいで!危険な目に合わせてな!無事で良かった……!」


「分かっ……!痛っ……!分か、分かったから……!叩くの止めてくださいっ……!めちゃくちゃ痛いですっ……!!」


俺の悲痛な叫びにフォンは手を引っ込めて、すまんすまんと良いながら苦笑いをした。俺は背中に残る痛みを抱えるようにベッドから降りる。

窓に目をやると、警備隊が見た事ある者達を連行しているのと町の人なのか安堵している様子が見えた。フォンは俺が見たのを知ってか知らずか説明を始めた。


「お前さんが気絶してる間に、アスルがテロリスト達を一人で気絶させて捕縛したんだ。そんで、暫くして誰かが警備隊を呼んだのを知った途端に血相を変えて去ったんだ。……やっぱり怪しい奴だ」


「きっと、何か理由が有ったんですよ……」


俺は目覚めてから間もないからか、良い宥め方を思い付かずにぎこちない言い方をしてしまった。フォンはどうだかな、と肩をすくめる。

俺が弱々しく苦笑いをしながらポケットに手を入れると、何か入っているのに気づいた。取り出すとあのヒルトが入っていた。


「あ、アスルさんに返すのを忘れてた……」


「良く分からない物だな~。それを返すにしても、アスルなんてもう遠くに行ったんじゃねーの?その辺に捨てるなり、売るなりすればいいだろ」


確かにフォンの言う通りこの近くには居ないかもしれない。だけど、これは明らかに大事な物だから村の入口付近で様子を伺って居るかもしれない。


「もしかしたら、戻って来てるかもしれないですし、近くを散歩がてら探してみます」


そう言うと、フォンは「貰ったまんまで良いのに、お人好しだな~」と呆れながら笑い俺が部屋を出るのを見送った。



村の中はあの事件の最中とは打って変わって、賑やかで尚且つ華やかな雰囲気で満ちていた。村の人は解放された余韻からか笑顔に溢れている。

通りを歩いていると、並んでいる露店の方々が愛想良く呼び込みをしてくる。その度に含羞(はにか)んでしまう。他人に対する苦手意識が和らいで行く違和感が、俺にとってむず痒いからだ。取り敢えず会釈して去り、村の入口まで出来るだけ早く歩く。


門が見えると、外からから見覚えのある長身のマントを被った人物が様子を伺って居るのが見えた。アスルさんだ。

アスルさんは俺が近付くと元気に手を振りアピールをした。


「あ!良かった!えっと、ニゲラだっけ?元気にしてた?」


「あ、はい。お陰様で……。それよりこれアスルさんのですよね……」


俺はポケットからヒルトを取り出すと、アスルさんは安堵の溜め息をした。


「良かったぁ~……。これ盗まれたまま警備隊に没収されてたのではないかって心配してたのよ~……」


「これ、一体何なんですか?振った瞬間に長いブレイドが現れたんですけど……」


「ああ、これね。所謂オープマトゥよ。ネガロ石を持っていても、持ち主の魔力に反応して剣になるやつ。便利でしょ?」


ヒルトの正体に思わず、息を飲んでしまった。


『オープマトゥ(OOPMATO)』――正式名称『Out of place magic tools』

時代や場所に合わず、また現代の魔術では再現出来ない魔術道具の事。ワティラス連邦国がそういう物を収集しては破壊している噂をカルミアから聞いた事がある。だから、カルミアはワティラスに国を渡す事を嫌って居た。


あれ……?なんで、この人がこんな代物を持って居たんだろう?まさか――


「――盗品ですか……?」


「違いますー!これは知り合いの考古学者に譲り受けたのよ!連邦国は都合の悪い文化財を破壊するのが好きだから、壊されるくらいなら私にくれてやる、と言われたから……あ」


アスルさんは声を荒立てるが、警備隊に警戒してるのか一瞬にして声を抑えた。アスルさんは咳払いをして小声で続けた。


「……とにかく、そんな感じよ。まあ、壊されるのが癪だから私に戻って来なくても持つべき持ち主に大事にして貰えばそれで良かったのよ――という事で……」


すると、アスルさんはあのポーチからもう1つのヒルトを取り出した。そして、俺の手に無理やり持たせた。


「え!?な、何ですか……?」


「という事で、君にあげるよ。旅しているなら武器のワンセット有った方が良いでしょ?」


アスルさんは表情は見えないけど、声のトーンから得意気に笑っているかもしれない。それに対して、俺は急にこの武器を譲り受ける事に動揺していた。


「い、いや、大丈夫ですよ!」


「いいえ、貰ってよ。君には危険な目に合わせちゃったし。それに君が持っていた方が良い――って直感が語ってるのよっ……!」


互いにヒルトを押し付け合っていると、アスルさんは少し軽く俺を突き飛ばした。俺が立ち上がる隙に、アスルさんは外で居た馬に素早く乗った。


「私、勘良く当たるのよ!そんな訳でその剣を大切にしてね!」


「あ、待っ……」


俺がアスルさんに駆け寄ろうとした時には遅く、アスルさんは馬に鞭を打つ。馬と共に走り去った。そして、姿が見えなくなる辺りで声が聞こえた。


「ニゲラ君とはまた会える気がするから、運命が導けばまた会いましょう!」


俺は、返事する事が出来ずに見送る事にした。なんという、強引な人なんだ。

だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。


二つのヒルトをしまい、アスルさんが向かった方向へ一礼した。

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