第十一話「旅芸人と長い一週間~転:後編~」
この度は体調不良だったり、熱中症だったりで投稿遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
仕事柄上、執筆が深夜になる事が多いのですが、やはり不規則な生活を送るとガタが来る事が今回で良く分かりました。
生活習慣を見直しつつ、投稿頻度を上げるように努力します。
皆さまも、暑い日続きますので、生活習慣気をつけて下さい。
俺が屋根から周囲の様子を伺っていると、テロリストの仲間がこちらに向かって戻って来るのが見えた。
見つからないように出来るだけ低く屈むと、男は緊張感の無い欠伸をしながら小屋の周りを巡回し始める。男が動くのと同時に、俺は頭を抱え始めた……。
――意気揚々と屋根に登ったは良いけど、降りるタイミングを完全に逃してしまった。どうしよう……。
周囲の様子をもう少し伺ってから降りようと思ったのが、仇となってしまった。
俺が降りてこの男から逃げるのを考えたが、ロングソードだけではなく、マスケット銃も装備していたから難しいだろう。ここの通路は遮蔽物が少ないから、銃で撃たれると俺では避けられない……かもしれない。
前方に屋根があるからどうにか跳んで渡れないかも考えた。しかし、前方の建物は幅が辻馬車二台分位離れている。跳び越えるには余程の運動神経無いと無理だ。
一旦小屋の中に戻ってアイデアをアスル達に貰おうと、狭い足場で身体の向きを変えようとした、その時――。
体がよろけて、屋根から身体を逆さまになるように滑り落ちた。叫ぶ事すら出来ずに一瞬で背中を地面に強打してしまう。
背中全体をまるで巨大な何かによって叩かれたような疼きを感じながら立ち上がると――
「なんだ、お前!?どうやって抜け出しやがった!?」
巡回している男の目の前に落ちたらしく、鉢合わせする形になってしまった。
一気に心臓が高まり、足が震え始めた。呼吸が俺の意思とは無関係に加速し、手も痺れ出す始末。
「お――、逃――運――」
男が何を言ったのか聞こえない。男は使い慣れていないのか、剣をまるで棍棒を持つかのようにぎこちない持ち方で振り翳そうとしている。俺は俺の頭上に落ちるであろう剣の先しか見えない、もう、死ぬ――
『ニゲラ!』
カルミアの幻聴が耳に流れた瞬間、身体の震えが消えた。気付いた時には、男が目の前で大袈裟に剣を頭上に挙げて振り翳そうとしていた。
「――てやあぁっ!!」
「ぐっ……はっ!?」
俺は無我夢中で男にタックルすると、男は突き飛ばされた衝撃に地面へ頭を叩きつけられた。男は一瞬苦痛な表情を浮かべてそのまま気を失った。
俺は座り込みたい気持ちを抑えて、緊張の余韻を感じながらロングソードを手に取った。あわよくば、護身用に持って居たい。
テロリストが持っていた剣を持ち上げようとすると、俺では扱うのは無理だって事を悟る位には重い。途中まで持ち上げた剣を地面に真っ直ぐ刺した。ふとポンメルを見ると、ワティラス連邦国のシンボルマークが描かれていた。どうやら、盗品のようだ。
ふと、小屋の施錠に目をやると剣のような物で壊そうとすることは出来そうな位には脆そうだ。帰る時に屋根を登るのも二つの意味で骨が折れそうなので、今の内に壊そうと剣を震えながら構えようとすると――。
「貴様!!何してやがる!」
「まずっ――!」
運悪くテロリストの仲間に見つかってしまった。俺は扱いにくい剣を放り投げ、一目散にテロリストから逃げ始めた――。
*
無我夢中に逃げ回り、狭い路地裏を出ては別の路地裏に入るを繰り返している内に、なんとか撒くことが出来た。一息つこうと、何処かの店で使われていたであろう木箱に座っていた。このまま暫く休んで居たいけど、追っ手の事を考えるとここにずっと居る訳にはいかないだろう。
とりあえず、今何処に居るかを確認しようと、路地裏の物陰から顔をそっと出す。
驚いた事に目的地の建物が目の前に見えていた。
テロリスト達に行き当たりばったりで逃げて行く内に、円を描くように移動していたみたいだ。
先ほど見つかった時はどうなるかと思っていたけど、どうやらツキが回って来たようだ。
通路の左右を確認し、胸を躍らしながら裏口に駆け寄る。
誰かが近くに来る前に扉から聞き耳を立てつつ、足音や話し声がしない事を確認してから開扉した。
静寂な廊下を足音を出来るだけ立てないように歩く。
ミルクガラスのランプシェード、白と茶色の壁、暗赤色のカーペット、インクの香り――と何処となく
芸術品のように洒落ていて心が和みそうな雰囲気なのに、緊張感が漂っていた。
その理由は暫く歩いた先で判明した。
「ブルディア村役場・案内図……?」
通りでこの建物が少し大きく、廊下がこうも独特なわけだ。
案内図を見ると、食堂にエントランス、会議室、倉庫……などが描かれている。
テロリストがアスルから没収した魔石を保管するなら何処だろう?俺だったら奪った物を破壊するけど……。
食堂か近くの倉庫、どちらから行くか悩んでいると――。
「――――」「――――。――」
廊下の奥から談話する二人組の声が聞こえてきた。一気に廊下の雰囲気も相まって、極限の緊張に陥ってしまう。鉢合わせにならないように、音を立てないように、咄嗟に近くの倉庫へ隠れた。
*
「なあ、この近くで物音しなかったか?」
「気のせいだろ、此処の村の連中は――というより、一般人は魔法を扱う事が出来ても体力が無いからな。抵抗なんて出来ねーよ。此処が今、世界政府と対立してるルベリス国じゃなければな。あはは」
倉庫の扉の前でテロリストの二人が談笑を始めてしまった。恐らく三十分は話していると思う。内容は雷鳥の会という慈善団体の団長レヴィン・アレクサンドライトという人に対する悪口、ピズリスという反神秘主義者のカリスマ的な人物に対する賛美――とあまり覚えた所で何の意味も無さそうだ。
此処を漁っている内に離れる事を祈ろう――。
倉庫の中は壁側『だけ』は綺麗だ。棚には整理整頓された書類や何か祭で使うのかよく分からない物が埃を被る事がなく置かれていた。ここの役員に綺麗好きな人が居るのだろう。
――問題は部屋の中央だ。
中央には雑に様々な物を放り投げられて山のようになっている。明らかに別の誰かが置いたに違いない。
闇雲に探せば崩れる事は明白だから、山の周囲から探し始めた。
魔法に関する本、魔石で照らすランプ、小さい魔石――と魔法に関係ある物ばかりが置かれている事が分かった。
どうにか早く見つからないかと探していると、一つだけ異質な物を見つけた。
藍色のポーチ。
何処と無くアスルの髪と鎧を彷彿とさせた。
山を崩さないように手を伸ばし掴み、ポーチの中身を取り出した。
中には色の濃い魔石が四つと、何故かブレイドが無い剣――つまりヒルトが二つ入っていた。
俺はお目当ての魔石を二つポケットに入れてポーチを置こうとしたが、何故か二つのヒルトが気になり、ヒルトを手にした。
ヒルトは水色一色で、石のような物で出来ているようだ。軽いが、石にしては頑丈のように感じた。
それにしても……、このヒルト――何処かで見た事が有る気がする……。
俺はヒルトを掴み、何となく扉に向かって振り翳した――その時!
*
「……ぎゃあああ!腕が……!俺の腕がああ!!」
俺は呆気に取られてしまった。ヒルトを振り下ろした瞬間、存在しなかったブレイドが伸びるように現れた。ブレイドが扉を貫き扉の前に居た男を突き刺してしまった。
恐らく腕がザックリ――うっ……、想像しただけでも吐き気が……。
ヒルトを振り上げようとすると、ブレイドが縮んで元のサイズに戻った。
その瞬間、扉がこちらに刺された片腕の欠けた男と共に倒れた。その場に居たもう一人の男は何が起きたか分からず放心していた。
もう一人の男を殺す勇気が無い俺は倉庫から飛び出すように元来た通路を駆けた。
無我夢中に裏口から出ると、見張りや巡回しているテロリストの仲間に鉢合わせする事が無かった。
ツキが回って来たのかもしれない。このままアスルの居る小屋まで走る。
先ほど、テロリストと鉢合わせした通路が見えて来たこのまま――。
「刺されえ!!」
後ろから濁ったような中年の男が聞こえた。俺は思わず振り向くと、小肥りの男が何か投げたようなポーズをしていた。
その瞬間、俺の顔の真横にロングソードが有り得ない速さで横切った。何が起きたのか分からなかったけれど、前方に深々と刺さっているロングソードを見て、漸く男がロングソードを俺に向かって投げ付けた事を理解した。
それと同時に男が構えるのが見えた。
嘘、嘘、嘘!!そんな使い方する奴が居るなんて有り得ないだろ!?
しかも、さっき確認した通り遮蔽物の無い通路!
このままじゃ、死ぬ!
俺はゴール間近の小屋へ死に物狂いで走る。再び、ロングソードが俺の真横を横切る。
「助けて!アスル――」
一か八か魔石を投げようとしたその時――。
男が投げたロングソードのヒルトが投げようとした魔石にぶつかり、あらぬ方向に飛んだ。小屋の方角なのは確かだけど屋根の穴に入った保証は無い――。
――こういう時は分かってる。
失敗してるんだ。きっと。
小説や演劇の中の主人公は奇跡に愛されている。
だから、悲劇の主人公じゃなければ幾らでも挽回が有る。
でも、現実は違う。
どんなに頑張ったって報われない、運が良くても結局失敗する。
これが俺の人生だ。
俺が膝を突いていると、後ろから下品な笑いをしながら近く男の声が聞こえる。
「ねえねえ、逃げないのかな~?何か企んで居たけど失敗しちゃったのかな~?」
男の挑発に乗る程の気力が俺にはもう無い……。ただ、振り向くだけだ……。
「ごめんねえ~?おじさん強いからさあ~?せめて、楽に殺してあげるよ~」
虫を虐めているような見下した目をしながら男はロングソードを振り上げる。
「ヒーローになれなくて残念でした~!!アヒャヒャヒャ!!」
俺は目を瞑ると、走馬灯が広がっていた。
良い思い出は無かったけど、走馬灯に映っていたのはカルミアの笑顔だけだ――。
*
――雷鳴が聞こえた。
瞼を開くと、中年の男が眩い光を浴びながら白目を剥いていた。小刻みに震え、暫くしたら焦げた臭いを放ちながら倒れた。
何が起きたのか、分からずに居ると、小屋のほうから足音が聞こえた。
振り向くと、アスルが小屋の外に居た。アスルの振り翳していた手には枷が付いては居なかった。
「ヒロインは遅れて来る物よ♪なんてね――」
一気に緊張の糸が切れて気絶したのか、俺はここまでしか覚えていない。
只、アスルに抱き抱えられた感覚は何となく覚えている。それはまるでカルミアにして貰った時と同じように感じた。