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ポインセチア・ノート  作者: 紫音
一章:都忘れの花束を君に
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第十話「旅芸人と長い一週間~転:中編~」

アスルと名乗る女性は自分の名前だけ教えると、部屋の隅々を漁っていた。部屋の中でもアスルはフードを脱ぐ事は無かった。アスルについて分かる事とが有るとすれば、背が高く、恐らく細身……位だろうか。


「なるほどねぇ……、ふぅーん?」


アスルは独り言を呟きながら何かを弄っている。それを俺とヨークは只只(ただただ)見ている。何をしているか気にはなるけど、顔を見せない人に話を切り出す勇気は俺には無い。ヨークもまた同じようで、何度か手をアスルの肩に伸ばそうとするが一瞬で止めてしまう。


「……」


一方のフォンは、アスルを警戒しているのか懐疑的な表情を浮かべながら視ていた。俺とヨークの後ろに座ると、アスルに聞こえないように耳打ちを始める。


「……なぁ?アイツ怪しいよな?」


「そうですか?アスルさんは良さそうな人だと思うけど……」


俺が答えると、フォンはわざとらしくキザに「チッチッチッ」と言いながら人差し指を立てて左右に振った。


「良いかい?ニゲラ君。世の中には善人ぶってる美女に限ってカルトの信者だとか、性格が最悪な奴だったりするのだよ」


「まあ、それ全てフォンの体験談ですけどね!」


フォンが気取った知識人のような口調で俺を諭すが、ヨークの一言で雰囲気が台無しになった。フォンはうるせぇと言いながらヨークを軽くどつくと、俺の横に座って理由を述べ始めた。


「……(くさ)いんだよ。魔石の(にお)いがあの女からするんだ。一般人では有り得ない位に」


そんなに臭うだろうか?

ここからアスルから発しているであろう魔石の臭いを嗅いでみるけど、何も匂わない。外から微かに流れて来ている草の匂いと俺達三人の体臭しか感じない。


「フォンは鼻が利きますからね、頭はアレですが」


「ヨークうるせぇよ、俺は天才だ!……こほん、話を戻すけど、魔石って普通は軽く使うなら臭いは残らないんだよ。魔石を毎日大量に使ってる奴なら別だけどな」


「魔石を大量使うのってそんなに怪しいんですか?」


「魔石は少量ですら滅多に庶民が使う事はないんだよ。大量に使うのは政府の研究者、そして良からぬ事を企んでる奴位だ。アイツの見た目からして、研究者ではないからな。それに鎧――」


「あら、酷いわね~。私、悪い人じゃないわよ?……絡み酒してしまう位には悪いかもだけど」


フォンが言い終わる前にアスルは話を遮った。フォンは小声で話していたのに、アスルに聞こえていた事に怖じ気付いたのか俺の後ろへ急いで隠れた。

それを見たアスルは両手を横腹に当てて前屈みになりながら話を続ける。


「こらこら、そんな怖がる事無いじゃない?今ここを占領してる反神秘主義者達よりかは私の方がマシでしょ?」


「だ、だったら、顔を見せろよ……!(やま)しい理由有るからだろ!?」


アスルは一瞬だけ狼狽えるが、負けじと言い返す。


「ふ、フードが格好いいから被ってるだけよ!後、この鎧もそんな理由よ!」


「そんな理由で鎧を着る奴なんて居ねぇよ!」


フォンとアスルの何処か漫才のような言い合いを聞きながら、俺はある言葉について思い出そうとしていた。


反神秘主義者って何だろう?


多分、フレンチさんの新聞で見た事有る――気がするけど、どういった思想だか思い出せない。只、何となくこの言葉を聞くと嫌悪感が込み上げて来る気がする。昨日の彼らの行為のせいかもしれない。


「あの、反神秘主義者って何でしたっけ……?」


すると、騒がしかった小屋の中は一気に静寂になった。フォンとヨークの表情を見ると、「嘘だろ?」と言わんばかりに唖然としていた。


「反神秘主義者が分からないの?最近の子なら詳しいと思うけど……」


「田舎町に住んでいたんで……」


俺の言い訳にアスルは溜め息しながら、長い棒のような物を手に取った。棒を教鞭に取るような仕草をしながら、座っている俺の目の前に立つ。


「仕方ないわね~、私が直々に教えてあげるわね!」



さて、『反神秘主義者』とは何なのか?

ズバリ、彼らは魔術や最近絶滅危惧種とされてる魔獣はこの世界に要らない物、と考えてる思想を持つ人々の事!

彼らは魔術や魔獣を排除する事で世界が安泰すると信じてるの。


――と、そんな思想を持ってるだけなら良いんだけど、大半が過激派なのよね~……。今みたいに関係無い市民を捕まえて見込みある人を自分達の派閥に取り入れて、それ以外を殺す。また、人質を使って世界政府と交渉したりもするわね。

まあ、なんと言うか生きてる内に関わりたくない連中よね。今、関わっているけど……。


因みにその反対で『神秘肯定主義者』なんて有るけど、要は反神秘主義者が自分達の意見に対立してくる人に対してのレッテルだから忘れても良いわよ。


自分達の反対意見は悪――そう考えれば楽なんでしょうね。

その口と言葉は何の為にあるのやら……。



アスルの解説が終わると、俺は思わず拍手をした。

アスルは気取った一礼をすると、部屋のど真ん中に立つ。


「さて、皆様方。私を怪しいと思うのは仕方ないとして、脱出する手伝いをしてあげるから信用してくれない?」


急な提案にヨークとアスルを疑っているフォンは顔をを見合せて、懐疑的な表情をしていた。


「いや、脱出なんて出来る訳ないですよ……?壁や扉を壊しても見つかったら何されるか……」


俺が軽い文句を言うと、アスルは得意気な笑いをしながら人差し指を天井に向かって指した。


(かや)が薄い所有るでしょ?あそこから外に出るの。私が背負ってあげるから垂木(たるき)――つまり、あそことあそこら辺の柱を掴んでよじ登るの。柱を足場にしながら様子を伺って降りるの。この小屋から北西にある建物が有るんだけど、私の魔石を取り返して欲しいの。ネガロ石は強度が硬いけど、濃度の高い魔石でぶつけると簡単に割れるのよ。貴方達と私の枷を割って、私が反撃するわ。私、今こんな状態だけど結構強いのよ?ふふん♪」


「いやいや!いやいや!!危険過ぎるだろ!そんな潜入する兵士みたいな行為は反対だ!ここに居るのは戦場の経験がある人間じゃないんだぞ!」


フォンはアスルの提案に声を荒立てて猛反発をした。ヨークも賛同出来ないようで、フォンを(なだ)めずに只只見ていた。

アスルは嘆息(たんそく)を吐くと、俺を見て来た。


ふと、フードの中からアスルの緑色の瞳が一瞬見えた。

それを見た瞬間、何故か懐かしく感じた。目付きがカルミアにそっくりだったからだ。

何を馬鹿げた事を、と思う。

ただ、俺がアスルを信用する理由はそれだけで十分かもしれない。


「俺、行きます」


「「え!?」」


フォンとヨークは俺が行くとは思わず、驚きが隠せないようだった。アスルはうんうんと頷くと、俺をおんぶする準備をし始めた。


「ニゲラ……、危険だぞ?」


「大丈夫です。この中で背は低いですし、それに……アスルさんを信用するって決めたので」


俺の決意にフォンは呆れながらも、「生きて帰って来いよ!」と激励するように俺の肩を叩いた。すると、ヨークは急に立ち上がった。


「僕も、行きますよ……!二人で行けば、生存確率が上がりますよ!」


「おいおい……ヨークもかよ!てか、背高いからキツくないか!?」


ヨークはフォンの指摘によって、気持ちが挫けてしまった。俺はヨークとフォンのいつも通りの仲が良いやり取りを聞いて緊張を和らいだ。俺はしゃがんでいるアスルの背中に近づき、命懸けの脱出をする心身の準備を整えた。


「さあ、準備良い?」


「はい、お願いしまっ――!?」


俺はアスルが思いの外、急に立ち上がった為驚いた。見上げると垂木が目の前に有った。久しぶりに何かに捕まって登るので不安だったけど、柱を掴み俺の身体をなんとか引き上げた。明日、生きて居れば筋肉痛間違いないだろう。


どうにか垂木を足場にすると、茅を押し分けて外の様子を見た。何人かのテロリストが見回りをしているのが見える。

アスルの言ってた方角を見ると少し大き目の建物が有った。そこにはベランダから見張る人も居位には警備が厳重だ。


「気をつけてね!もし何かピンチになったら村から逃げてテスティス市で釣り人を探してね」


「ありがとうございます。気をつけて行ってきます……!」


俺は下から聞こえるアスルの言葉に応えて、意を決し屋根から降りた。

ここから俺達の脱出と反撃が始まる――!

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